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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
魔王編
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第40話 殲滅赫鬼

 


殲滅赫鬼(フェニヒトトイフェル)


 嵐のような魔力爆発の後、出現したサイは私の知る魔王よりも強いだろうと確信させる暴を身に纏っていた。

 その赫耀(かくよう)たる鬼神の姿は、先程の魔力の奔流が嘘かのように静けさを保っている。


 持っていた原始的な鉈はいつの間にか大きく変化しており、今や凶悪な魔力が染み込まれてしまった魔剣だ。


 あれは……前世で見た事がある。


 呪いの武器だ。


 その武器を持った本人に何らかのマイナスな影響を及ぼす代わりに、非常に強大な力を与える呪いの武器。

 だが、覚醒したサイにはどんな影響もほぼ無意味なものになっているだろう。



 これは……マズい。



「いくぞ」



 サイの強さは本物だ。先程までの腑抜けた力とは違う。

 油断すると簡単に死ぬだろう。


 研ぎ澄ませ。あの時を思い出すんだ。


 闘気を滾らせろ。



「"魔神域"」


 "神域"では足りない。

 より深く、より暗い力を求めなければサイの力に圧倒される。



 初手サイの超速度の突き。脇腹の薄皮を犠牲に最小限の動きで躱し、勢いのまま右手で闇棘を突き刺すが、これは見抜かれ柄の部分で弾かれた。

 だが、私の本命はそっちじゃない。


「"薄黒葉"」


 私の超高速の刃がサイの首に迫る。


 しかし。


「おいおい……」


 セラフィエルに通用すると思われた神速の刃は、サイの左手によって掴まれた。


「見えているぞ」


 なぜ見えるんだ。


 闇棘を八本生み出し、サイを狙う。

 さすがに危機を感じたのか私の剣を手放し、巧みな動きで避け続ける。


「"闇死棘"」


 闇棘より大幅に強化されたクリフォトの巨大な枝だ。一当てするだけで地形が変わる。


「……凄まじい力だな」


 さすがのサイも、これに込められた力の大きさに慄いている。

 まだまだだぞ。もっと遊ぼう。


 地面を蹴り上げ、闇死棘を持ったまま近づく。そして、それをそのまま許してくれるサイではない。

 ただ力強く、ただただ全力で振り下ろされる呪いの鉈の薙ぎ払い。それだけで空気が切り裂かれ、大気が揺れる。

 込められた迸る魔力が、紫に煌めいている。


 その力は、防御不可能な殲滅技。


 まさに魔王に大きなダメージを与えられる闇棘と直接ぶつかり合える程強力な力だが、それと同じと思われては困るな。


 私とて、その剛腕と張り合える程身体強化を極めたんだ。

 舐めるなよ鬼の子よ。



 闇死棘を地面に突き刺した。



「ッ!!」


 それだけで森の地盤が激しく陥没し、足元が揺らぐ。



「"闇棘薄葉"」



 極大の力が込められた闇死棘で、薄黒葉を放つ。


 その破壊力たるや、一撃振るう毎に嵐が起こる程の凶悪な暴力だ。

 咄嗟に防御を取った赫き鬼を吹き飛ばした。



「ぬぅ……。鮮烈だ」



 ……耐えたのか。

 強過ぎるだろう。


「サイ、お前は強過ぎる。先程の言葉は撤回しよう。確かにお前は私に匹敵する異分子だ」 


 たかが一突きで空気が圧縮され、音を切り裂く振動が発せられたんだ。

 そして、私の刃を掴む動体視力と軌道予測は常軌を逸している。


 こやつの力は、普通じゃない。

 旧世代の破壊者、厄災の魔王ヴァルハザールと比べても遜色の無い力だ。いや、もはや上回っている。


 大体、ヴァルハザールに膝をつかせた闇棘を、武器を使ってとは言え片手で弾くとはどういう事だ。



「あぁ。オレは普通じゃない。それはお前もだ、イザベラ。このオレと互角に殺り合う人間など、大陸中を探しても見つからんだろう」


 だろうな。こんな秘術を用意してるなんて誰が思うんだ。



 だがな、互角かどうかはまだ分からんぞ。



「ならば私の剣を受けてみよ。お前程度に通じなければ私の道は閉ざされたも同然。こんな所で躓くなどあってはならんのだ。サイよ、純粋な武で相手する事が叶わずにすまなんだ」


 サイは片手で顔を覆い、高らかに笑った。


「……クハハハハハ!!!!」


 ふふ。私も笑ってしまった。


 あぁ、なんてことは無い。ただ楽しい。それだけだ。

 こやつも全力を出せる相手ができて嬉しいのだろう。鍛え上げた力と武を見せる瞬間ができて嬉しいだろう?


「ならばオレも見せてやろう。これこそがオレの業、オレの生きた証。全てを薙ぎ払い、殺し尽くした赫鬼の奥義よ」



 あぁ、最高だ。



 この時間が惜しいが、さすがに私も立てなくなりそうなんだ。


 決着だろう。



 さあ、いくぞ。





「"闇棘神斬"」





「"赫気滅腕(フエゴディアブロ)"」





 極大のエネルギーのぶつかり合いが起こる。激しくぶつかる凄まじい威力の技はその実、力いっぱい魔力を込めて腕を振っているだけなのだ。

 そして、そのシンプルさ故に極意となる。


 極まった力はそれだけで破壊の限りを尽くす。このぶつかり合いの余波だけでも王城を軽く吹き飛ばしてしまうであろう事は確実だ。



 魔神の力を放ってから初めて抵抗感があった。



 私はもう立つだけで精一杯だが。


 さて、どうだ。





「グォオオ……」





 生きてるな。さすがの耐久力だ。


 だが、見えた姿ではもうまともに戦えはしないだろう。

 両腕は折れ曲がり、身体の至る所から出血がある。よく見なくても深い傷だという事が分かるな。



「サイよ、良く耐えたな。やはり、お前の力は常軌を逸している。私が今まで戦った中で二番目に強い存在であることは間違いない。何かが違えば、立っていたのはお前だっただろう」


 これは本当だ。夜伏の過剰使用により私の身体はそもそも本調子ではなかった。

 神斬で勝負が着かなかった場合、その後は素の身体能力の差で私が負けていた。


 だが。


「だが、立っているのは私だ」


 あちこち出血し、魔力反応が弱まりつつあるサイ。天を見上げてるが、満足そうに私の言葉に応えた。


「クハハ!イザベラよ、お前は強過ぎる。オレと対等に技を振るい、その豪鬼のような身体の強さ、神のような魔力操作。オレが勝てないのも納得の強さだ。お前はオレとは比べ物にならない異分子だったようだな」


 異分子、ね。


 コイツは、強さを求めていたのだろう。ひたすらに研鑽と実戦を重ね、経験を積み、魔物として頂点に立った。


 そして、成長できなくなった。


 周りにいる生物が弱過ぎて、相手にすらならなかったのだ。だから最初は手を抜いて、せめて楽しもうとした。

 つまらない勝ち方を、しなくなった。


「サイよ」


「あぁ、何用だ?今、いい気分なんだ」


 胡乱な顔でこちらを見てくる。


 サイよ、お前はまだ強くなれる。

 成長限界はそこじゃない。


 まだ見ぬ強敵がいるぞ。



「私の一番の相手、知りたくないか?」



「……是非」



 私が二番目だとサイに言った時、こやつは驚きで瞬きを忘れていた。


 興味があるだろう。

 教えてやる。



「私が相手取っているのは、セラフィエルだ」


「……ぬぅ?」


 おや、知らないのか?魔物なら知らなくてもおかしな話ではないが。


「冗談を言っているのではあるまいな?」


 あぁ、知っているのか。

 怪訝な顔をされているが、本当だ。


「当然だ。嘘をつく理由がない。私の討伐目標はセラフィエルだ。ヤツを殺す為だけに力をつけている」


「…………」


 愕然としたサイ。鋭い目つきを忘れて、丸くなってしまった眼をこちらに向けている。


「そうか、お前の力は一点を向いていたのだな。寄り道をせず、ただ一人を見つめて研鑽を重ねたものだ。オレのようにフラフラとしていた訳ではなかった。負けるのも道理だ」


 納得したように頷くサイ。 


「サイよ。聞きたい事がいくつかある。答えてはくれまいか」


 そう。聞きたい事があるんだ。


「あぁ。それは勝者の特権だ。自由に聞け」




「お前、魔王か?」




「……」




 そう。コイツは強過ぎる。

 (ゾイレ)だとか、旧世代の魔人だとか、そんなヤワな存在じゃない。

 サイの力は、正真正銘世界を滅ぼせる力だ。魔人と共に襲いかかってくるヴァルハザールを、正面から打ち滅ぼせる程の凶悪で破滅的な力。


 だが。



「オレは魔王じゃあない」



 予想が外れた。

 ならば、こやつは何なんだ。



「オレは……失敗作だ」



 は?

 失敗作?


「どういう事だ」



「魔王の失敗作。我が母セラフィエルによって創造された魔王、その唯一の失敗作だ。オレは魔王としては認められなかった」



 おいおい。


 やはりセラフィエルとは繋がりがあった。



 どれほど罪深い存在なのだ、セラフィエル。 

 

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