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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
魔王編
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第36話 限界

 


 魔王誕生の報を受け、急ぎ行動した。

 ここからの行動は早くすればするほど被害が抑えられる。王国の連中と口喧嘩してる場合じゃない。


 魔王についての知識を教えると同時に、不愉快な宰相が小うるさい事を言い出したら顔を殴って黙らせろとアルベールには伝えておいた。


 アルベールの同居人であるベックマンはいつの間にか大きな戦力になっていたらしく、魔人の見張りをさせた。裏で地獄のしごきを受けたのだろうな。アルベールの言う事に全て従っていた。

 怖いアルベールさんが透けて見えるな。



 私は、クリスタに接触する事にした。この貴重な戦力を野放しにする訳にはいかん。


 教室へ向かい、クリスタと合流した後空き教室に忍び込み、密談をする。


「クリスタ、聞け」


「……どしたの?ベラちゃん」


 いつものような可愛らしい表情でこちらを見るクリスタ。日常ならばもはや一周回って癒される程にまで慣れたが、今はそんな事をしている場合じゃない。


「私の監視は現時点から不要だ。ヴォルコフ家としてのお前にしか頼めん正式な依頼がある。これを拒否する事は王家に翻意があると認識する。依頼の拒否は認めん」


「…………」


 見た事が無いほど目を細めるクリスタ。


 おぉ、仕事モードの顔か。


 はぁ、儚い友情だったな。

 だがまぁ、仕方ない。


「……返事はどうした!」


「はっ!」


 臣下の礼をとるクリスタ。

 そうだ。仕事モードなんだろう。お前は王家を守る盾、ヴォルコフ家の次期当主の妹だ。

 お前を放ったらかすなどありえん愚行だ。


 それに、初めてクリスタの前で王族だと明かす事になるが、当然の如く私が王家の人間だという姿勢を見せた。


「よろしい。クリスタ、お前は今からソロンの元へ行け。しばらくしたら我が父ユリウスか、我が兄ソロンからの勅令が発布されるだろう。手元の戦力としてお前を欲する筈だ。王宮で待機し、指示を待て」


「かしこまりました。現時点でソロン様からの依頼を破棄し、王家としての依頼を最優先といたします」


 …………。


 やはり、ソロンからの依頼だったのだな。オズワルドも言っていたが、直接本人から言われると心に刺さるものがある。


 だが、それでいい。

 ヴォルコフなのであれば、そうでなくてはならん。


「頼むクリスタ。今は何も言えんが、大事になる可能性がある。下らない兄妹喧嘩など、それこそしていられん事態だ。お前をヴォルコフ家として扱うことに躊躇いはあるが、そんな甘い事を言える状況じゃない。……我が友クリスタよ、お前に王族として命令してしまう惰弱を許せ」


「……いいえ」


 歯噛みするような表情だ。


 逆らえない命令を下した私に、クリスタは何を思うのだろうか。



 私はただ、お前を親友とした上での学園生活をしたいだけだったのだがな。


 この愚かな身には過ぎた望みだった訳か。


 くはっ。


 思わず笑いが込み上げた。



 元々平和な学園生活を送るつもりなど無かったな。私こそ平和ボケしてしまっていたようだ。




 ◇◇




 それから教師連中を巻き込み事態の説明を行った。


 現在魔人を確保していること、人類の脅威となる魔王が既に出現していること、私は討伐に向かうこと、アルベールは王宮に向かわせること。

 全てを話した。


 この学園は守られるだろう。


 私の言う事を、一人を除いて聞いてくれた。


 残りの一人は、学園に侵入者が来た時に唯一私を心配してくれた老爺、学園の理事だ。


「姫様、なりません。お一人で危険な場所へ向かわれるなどユリウス陛下が許されませんぞ」


「黙れ。我が父が許さんとしても人類が滅ぶぞ。そなたは学園を守ることを私に約束しろ」


「なりませぬ!国が滅んでも貴女様をお守りしなければなりませんぞ。貴女はこの国唯一のご息女なのです……」


 頑固なジイさんだ。

 まぁこやつの言う事に従う気は無い。


 それにしても、私を誰に守らせる気だ?役立たずはいらん。


「貴様の言う事を聞く義理は無い。私はもう行く。人類の危機に立ち上がる者を引き止めるなど愚行もいい所だ。頭を冷やせ」


「姫様!なりません!」


 背を向けた私に老爺は叫ぶことしかできない。



 ふと思った。

 クロエはあの時、魔人に襲われカストルム帝国が崩壊寸前となりクロエを背負って逃げ出した私を怒鳴りつけた時、あんな気持ちだったのだろうか。



『お前の今の姿は騎士の風上にも置けぬただの破落戸である!早く父上をお助けせよ!』



 私は姫様を守る為にその言葉を無視した。

 王の勅命を守り、姫様を遠くへ逃がす事が私の忠誠だった。


 だが、それでも。

 その命を投げ打ってでも帝国を共に守りたかったのではないだろうか。


 クロエはあの時の事について何も言わなかった。

 私の事情も分かっているし、怖くて逃げ出してしまっている私の気持ちも見透かされているからなのだろう。


 あぁ、なんとも心苦しい。

 すまんな、学園の理事よ。


 だが、今度こそ守らねばならん。


 また背を向けて逃げ出すなど、クロエが許さんだろう。


 私は僅かばかりの葛藤を捨て学園を去った。




 ◇◇




 さてと。


 学園を出たのはいいが、魔王の位置がまるで分からん。あの魔人は森を抜けて走ってきたと言うから、アストリア王国の北にある森だろう。


 五年前、城を抜け出してアルベールと共にウルネラ村へ忍び込んだ事があったが、その方向だろうか。


 一先ず探せる範囲で他の魔人の反応が無いかを探すことにする。学園に逃げてきた魔人は()()()で逃げたと言っていた。

 追加で何人か捕まえられるかもしれないし、そやつらの情報を元に行動するのもいいだろう。

 万が一何も見つけられなければルベリオの調査に私も向かう事にする。


 私は森の奥まで走り出した。



 だが、忘れていた事があったのを思い出した。


「ウルネラ村か……」


 あの死の毒については、未だに分かっていない。ソロンが派遣した調査チームも首を傾げる他無かったそうだ。

 もしかしたら私には秘密にしている事があるかもしれないが、ここまで知ってしまった私に意味の無い嘘をつくソロンでは無いだろう。



 『死』の毒。



 古書の文献にあった『大いなる魔』『惜別の死』『死の魔王』とは関係があるのだろうか。


 何も分からないが、魔王誕生がいつ頃からなのかが不明だ。古書に既に生まれた魔王についての文献があってもおかしくはない。



 そんな事を考えていると。



「……!!」



 魔人の気配がする。


 だが、また容易に感知させてくれるな。学園に逃げてきた魔人と同じように魔力波長が乱れている。

 相当焦りながら逃げ出したのだろう。


「とっ捕まえて話を聞いた方が早いな」


 反応は近くだ。目視で確認できるまで近づいておこう。それに、今は私一人だ。こちらから仕掛けても何の問題も無い。


 魔人の魔力反応がある近くまで行ってみると……。



「なんだ、これは……」



 森の奥地で魔人が二十人ほど隠蔽魔法で行軍している……!


 いやよく見たら()()ではない。全員ボロボロだ。足を引きずっている者もいるし、発汗が酷い者もいる。


 全員だ。ほとんど全員が満身創痍。


 あのやたら頑丈な魔人が揃いも揃って弱っているなど見た事が無い。一体何が起きているんだ?


「……おい。お前たちは魔人だな?」


 声をかけるとすぐさま戦闘態勢に移行する魔人ども。


「何者だ。なぜ我ら魔人について知っている!」


 息遣いが荒い。まともな戦闘はこなせないだろう。


「待て、話がしたいんだ。私の名はイザベラ。お前たちは魔王から逃げてきたのだな?私の所に一人の魔人が逃げ込んでいる。そやつは保護した。魔王について教えろ」


「!!」


 リーダー格の魔人が未だに敵意を向けているが、仲間が保護されていると聞いて驚いた表情を見せた。


「警戒するのは分かるが、満身創痍のお前たちを殺し尽くすなど容易い事だ。無意味な事はせずに魔王について話せ。」


「…………分かった。お前たち、後ろに下がって休んでいろ」


 了承してくれたようで助かった。こやつらを一人ずつぶちのめしてから力で脅して聞き出してもよかったが、時間がかかるだろう。


 それは本意では無い。



 ぞろぞろと引き連れていた魔人は少し下がり、座り込んだに寝っ転がってしまったりと各々で休んでいる。

 魔人が体を休めるのか……?いや、弱っているんだ。立つことがそもそも厳しいのだろう。


「おい、魔人よ。お前の名はなんと言う?」


 私達も切り株に座り込んだ。

 もちろん、丁度いい切り株があった訳じゃあ無い。私が即座に切り倒しただけだ。力を見せつける意図もある。抵抗しても無駄だと分かっただろう。


「……俺の名はマフアン。先日魔王様より生み出された『(ゾイレ)』の一人だ。……もはや見る影も無いがな」


「『(ゾイレ)』……お前が?」


 『(ゾイレ)』とは、魔人の中でも選ばれし精鋭達の総称だ。こやつらが複数人いるだけでも国が落とされる程の戦力だ。また、戦闘だけでなく謀略や搦手などに特化した奴もいる大変厄介な輩だ。


 マフアンと名乗るこやつは、恐らく戦闘に特化したタイプの(ゾイレ)だ。

 この燃えるような熱い魔力の質で分かる。だが、余りにも弱々しすぎる。

 戦闘特化の『(ゾイレ)』など、アルベールとソロンが二人で立ち向かっても互角に戦える程の戦力だ。


 ここまで弱っているのは何故だ……?


 魔王との戦闘だとは思うが……どこか違和感がある。



 だが、『(ゾイレ)』か……。



 カストルム帝国の落日、この『(ゾイレ)』と呼ばれる連中と我らが近衛騎士団の壮絶な殺し合いがあった。複数の強力な魔人に対し、抵抗する我ら近衛騎士団は余りにも無力だったんだ。



 私は、こやつらが憎い。



 我が王をその手にかけ、無惨に引き裂いたこの魔人たちを許す事ができん。

 我が名はアーサー・アルバス。カストルム帝国第一騎士団近衛騎士隊だ。たかが魔人など軽く捻ってやろう。



「イザベラと言ったか。(ゾイレ)の事まで知っているのか?」



 …………!!


 また、だ。

 ……私はイザベラだ。


 このままではまずい。こやつらを前にして負の感情が喚び起こされる。


 ……だが、会話を続けなければ。


「……あぁ。それは話せない。だが、魔王についても少しは知っている。今代の魔王についてお前の知る全てを話せ」


 マフアンはまたも驚いた表情でこちらを凝視する。


「今代だと!?今、今代と言ったな?以前の魔王様をご存知なのか?本当に何者なんだ?」


 話を聞けよ、馬鹿が。


 私は極小の闇棘を持ち、マフアンの足を地面と縫い付けてやった。


「ぐあっ」


「質問に答えろよ。お前を見ていると吐き気がする。お前達ごと世界を滅ぼしたっていいんだ。聞かれた事だけに答えろよ馬鹿が」



 あのな。



 私は限界なんだ。



 早くしてくれよ。



 

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