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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
幼少期編
19/22

第19話 学園

 

 私の婚約者との邂逅から一年と少し経った頃。


 私とアルベールは学園の入学試験会場、つまり学園に来ていた。


「姉さん、なんだか緊張するね」


 十歳の頃よりも大きく、逞しくなった十二歳のアルベールだ。緊張など無縁だろう。つまりこれは麗しの姉上との会話をしたいというアピールだ。


「緊張なんてしてうっかり首席を逃してみろ。髪の毛を一本一本抜いて禿げた頭皮を父上に見せて謝らせてやる」


「……容赦ないなぁ」


 ははは。期待の裏返しだよ我が弟よ。

 まぁ実際余裕だろう。筆記試験なんて努力すれば必ずできることだ。

 歴史あるアストリア王立魔法学園に入学するにあたって努力できない者など文字通り門前払いだ。



「あ、あの!すみません!」


 ん?学生らしき女子が話しかけてきたな。若く、才のあるであろう愛いやつだ。私が対応してやろう。


「どうしたんだ?」


「お、お貴族様でしょうか……?」


 はて、学園生の平民がわざわざ貴族に話しかけて何の用だろう。

 まぁ私たちは貴族を通り越して王族なのだが。


「そうだが、何か用があるのか?」


「すみません、すみま゙ぜん゙、ずみ゙ま゙ぜん゙」


 何をこやつは謝っているんだ……?

 そう思った瞬間。




 パンッッ!!!!!!!



 

 そやつは爆発した。




「〜〜〜〜!!!!!!」


 女子の異変に気づいた瞬間、即座に私とアルベールがその女子を囲うように防壁術式を展開。

 ギリギリで間に合った魔術防壁の内側には、爆発した女子の血肉がこべり付き、腰から下の肉塊が床に伏していた。


 そこそこの威力の自爆だった。これに巻き込まれれば私も無事とは言えなかっただろう。一般貴族なら尚更だ。即死してもおかしくない。


 貴族を無差別に殺そうと……?だが、一体なぜ……。

 アルベールを見ると、青い顔をしながら呆然としていた。


 また悲惨な死体を見たな。運の無いやつだ。


 全く、何だったのか調べる必要があるな。


「キャーーーー!!!!」


 近くにいた学園服の女が悲鳴を上げた。爆発する肉塊を間近で見せられたんだ。悲鳴の一つもあげるだろう。


 何がどうなっているんだ。暗殺にしてももっとやり方があるだろうに。混乱が収まるまでに色々と考えておかねばならないな。


 そう、こんなものは暗殺ではない。


 …………周囲は受験生の人だかりだ。悲鳴をあげるはずだし、必ずバレる。

 無差別に貴族の子息を殺したとして、何が目的なんだ?




 必ずバレる策。




 悲鳴をあげる受験生。




 無差別な殺人





 『陽動』だ!

 注目をここに集め、違う目的で動いている奴がいる。




「アル!油断するな、まだ敵がいる!目的と数は分からん!」


「!! 探してみる!」


 アルベールが魔力探知術式を組み上げる。大きく動いてる奴は見た感じではいない。


「お前達!何をしているんだ!」


 離れた所に教師らしき男が現れた。

 邪魔をするなよ、今大事な所なんだ。


 アルベールよ、まだか?教師が近付いてくる。無視するには私たちは怪し過ぎる。王族だからと見逃されるわけではない。


 怪しい動きを見逃すな。必ず何か起こる、あるいは起きている。


 周囲をよく見渡す。逃げ惑う子供、とにかく離れる男子、近付いてくる男教師。


 最初に悲鳴をあげた学園服の女はもう逃げたようだ。



 ……学園服?

 ここには受験生の他には教師しかいない。

 学園服は学生しか着用しないハズだ。



 あいつが陽動か!



「姉さん、見つけた。学園内で迷いなく身体強化魔法を使って進んでる奴がいるよ。どうする?」


 そんなの決まってる。


「追いかけるぞ」


 私は笑顔だったらしい。



 ◇◇



 学園内の構造はよく知らないが、奴らの方向はアルベールが教えてくれる。

 学園の外から近付き、窓を突き破って侵入した。


「暫定侵入者はどこに向かってる?」


「いや、立ち止まってるよ。何か問題が起きたのかな?」


「分からんが、好都合だ」


 私たちの身体強化術式はエヴァンの活躍により大きく進化した。すでにアルベールと二人ならば魔王とも多少は肉弾戦ができる程だろう。


 その脚力に追いかけ回されるんだ。逃げられる者などいない。



「……おい、早くしろ」


「分かってる。声を出すな」


「やっぱ頑丈っすね〜この書庫の鍵扉」


 居た。行動しているのは六人。黒装束に足音もしていない。明らかに暗部の者達だろう。


 それに、奴らの会話だ。少し聞いておくか。

 アルベールには静かにしろと指示を出した。


「攻撃魔法で無理やり開けられないか?」


「不可能だ。特定の魔法操作でしか開かない」


「依頼主は何でそんなこと知ってんすかね」


「さあな。学園関係者なんじゃないか?俺たちにはどうでもいい事だ」


 奴らのいるのは学園の書庫の扉前らしい。

 会話から察するに、扉は特定の魔法じゃないと開かないと。確かにそれだと学園関係者が誘い出したように思える。


 だが、どうにもきな臭い。アストリア王国内で貴族を無差別に殺害しようとしたんだ。学園関係者は洗い出されるだろう。

 そんな事をすれば必ず暴かれる。それに、学園関係者なら共に書庫を案内しててもよさそうだ。


 開く方法を教えるなど、それこそ危うい。


「おい、まだ開かねえのか?」


「いや、先程からやっているが開かん。何かがおかしい」


「…………誰だ!」


 おっとバレたか。

 アルベールと視線を合わせ、物陰から急襲した。


「アル、左三人よろしく」


「りょーかい」


 久しぶりの対人戦闘。アルベールにとっては初の、だ。それでもいささかも緊張している様子は無い。


 それに、この侵入者たちのほとんどは身体強化術式で十分対応できるだろう。


「ガキだと!?殺せ!」


 そうはいかんぞ。

 お前らが相手にしているのは普通の子供じゃない。


 最速で侵入者の一人の膝を蹴り、破壊した。

 大男の悲鳴を聴きながらもう一人の顔面を裏拳で陥没させる。反応していたが、身体が追いついてなかったな。残念だ。


 だが、残る一人。リーダー格のこいつが少しだけ強そうだ。漂わせている魔力の質が高いな。


「おいおい、なんつーガキだよ。作戦失敗だな」


 余裕を保つあの顔、人殺しの匂いがする。

 思わず顔を顰めた。


 ヤツは苦笑いしながらもゆっくりと近付いてくる。いつの間にか握っていた剣に雷の魔法を纏わせていた。


 え、魔法の詠唱は?


「魔法……剣に纏わせるのか。詠唱もしないで?」


「はぁ?詠唱破棄だよ箱娘ちゃん」


 呆れたように両手をヒラヒラさせる人殺し。

 ほう、ほうほう!詠唱破棄とな?

 魔法に微塵も興味が湧かなかったから見逃していた新要素だ。詠唱破棄なんて事ができるのか。


 まぁ、だからどうしたという話だが。

 舐めるのも大概にしろよ。


「遊びは終わりだ」


 神聖な学び舎で犯罪に走る輩を捻り上げる事など容易い。


「ッ!!!」


 空気を切り裂く私の蹴りが相手の顔面に迫る。雷を纏う剣でズラされたが、顔には驚愕の感情を貼り付けていた。


「……ッ!まだ早くなるのかよ!」


「雑魚が。お前に勝機など一つも無い」


「ゴブッ!!」


 翻した私の拳がヤツの剣を破壊し、そのまま胸に吸い込まれた。

 馬鹿みたいに吹っ飛んでいったが、死にはしてないだろう。殺しては事情が聞けないからな。


「姉さん、こっちも終わったよ」


 涼しい顔でアルベールが戻ってきた。

 さすがは我が弟よ。手助けの必要すら無かったな。


「ご苦労だったな、アル。学園の関係者に報告するぞ」


 コイツらの目的と仕向けたヤツは判明させたい。


 あの自爆した少女、悪意を感じなかった。だからギリギリまで危険を感じ取れなかった。

 それどころか、謝りながら散っていったのだ。


 誰が、そんなことを……。


 冷静に心を落ち着けてはいたが、思わず拳に力が入った。



 ◇◇



 学園の理事長を名乗る老爺に奴らを引き渡した。

 えらく感謝されたが、同時に注意もされた。


「我が国唯一のお姫様が、このような荒事に進んで行くべきではありませぬ。ゆめゆめお忘れなきように。ユリウス様がご心配されますぞ」


 穏やかな笑顔で心配をしてくれた。

 確かに私は姫だったのか。自覚が無さ過ぎて忘れていた。


 まぁ許してくれよ。そなたが思っている以上の荒事に対応するべく鍛えているんだ。

 悪人を成敗することなんざ、石ころを蹴る程度の労力でしかない。



 学園の入学試験は翌日に変更された。

 死人と侵入者が出て王族が出張ったのだが、さすがは学園だ。些事と判断されたらしい。

 まぁ、さすがに教師の増員や守備体制などは強化されるだろう。


 そして、当然だが我々は憲兵に聞き込みをされた。色々と話した代わりに奴らの情報を寄越せと言ったら、憲兵の老兵は渋い顔をしながらも教えてくれた。


 すまんな。だが気になるんだ。


 あの侵入者たちが開けようとしていた書庫の魔法扉。特殊な解錠魔法が必要だったようだが、なんと侵入者たちは全く違うものを教えられていたらしい。


 それに私が最後に相手した雷を纏う剣を持った敵。裏の世界ではそこそこ有名な殺し屋だったらしい。


 う〜ん、弱い。


 あの程度、ソロンなら片手で足りるだろう。もちろん、私もだが。


 あの書庫には禁書と呼ばれる封印された書物が複数あるらしい。学園はそれらを守り、研究する施設でもあるみたいだ。


 そして、裏にいるのはルベリオ王国の可能性があると言っていた。断言していない以上、確実な証拠は無いようだが……。


 いよいよきな臭いな。母上の祖国だし、私の婚約者がいる国だ。悪く思いたくは無いが、ここまで虚仮(こけ)にされて黙っていられるほど弱い国でもない。


 ユリウスはこの件、黙っているつもりは無いだろう。


 エイルはこの件知っているのだろうか……。

 ……知るわけないか。あいつはバカだ。



 そして翌日、私たちは無事に筆記試験を終えた。


 

 




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