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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
幼少期編
11/23

第11話 次兄エヴァン

 

「姉さん、今日も母様から叱られたよ。僕は優し過ぎるってさ。子供が優しく育って叱るなんて、流石は我らが母上様って感じだね」


「まぁ、アレは特殊だ。第二王妃としての権力を強めたら、いつの間にか王冠を被ってしまっていてもおかしくはないな」


「あはは、間違いないね。見習うべきなのかどうか迷っちゃうけどね」




 あれから六年の月日が経った。


 私たちは十歳になった。


 様々な出来事があったが、一番大きく変わったのはアルベールだ。文字通り血反吐を吐く過酷な訓練の末、当時からは考えられないほど成長した。


 魔力の扱いは最高。既に前世の第一騎士団の魔術専門の奴らに見劣りしない魔力制御だ。それに、私が教えた魔術をいくつか習得した。魔力の質も徐々に改善し、魔力量に関してはソロンに匹敵するだろう。


 五歳の頃に本格的にカストルム流近衛剣術の型を教えていった。近衛剣術は、戦う為の力であるがその目的は守ることにある。

 アストリア王国の精鋭騎士と模擬戦をさせてもらったが、決定打を貰うことはなかった。

 素晴らしい上達スピードだ。さすがは我が弟。


 同じ剣術でも目的が違えば手段も異なる。アルベールは良い守護者になるだろう。

 まぁアルベールは王族なのだから、本来は守られるべき存在かもしれないが。


 また、それに付随して体格も良くなった。成長期というのもあるだろうが、質のいい筋肉が育っている。


 母上に相談し、アルベールには交渉事や人の心理面の薫陶を受けさせた。私のできないこと、できなかったことはアルベールにもさせてあげたい。


 あと、姉さま呼びはやめさせた。我々は双子だ。

 私を敬う必要などない。




 一方、その私はというと……。




「エヴァン、つまり魔法とは神の奇跡の総称だ。我々の願いがそのまま現象として現れる原理が分からないのであれば、それは解明できていない力ということになる」


「げ、原理が分からないことなどこの世にいくつもあるでしょ? それを全て一々解明しながら利用することはむ、難しいと思うんだよ……」


「違うぞエヴァン。全ての原理を理解せよ、と言うつもりはない。分からないのなら、お前のように研究すればいい。だが、その研究が実を結ぶ事は、こと魔法に限っては難しいという話だ」


「そ、それは今後の研究次第で分かることがあるかもし、しれないだろ?」


「エヴァン、研究というのは何年も何十年もかけても分からないことが大半だ。その人が解明できなければその次の人間が、そやつも分からなければまたその次の人間が、何世代にも渡り深く探ることだ。成果を急いてはいけないぞ。長い目で見ることが研究だ。神の力と言われている魔法は、王族が没頭して研究するには時間がかかり過ぎる」


「うぐ……。で、でも」


「だからこそ魔術がある。アルベールもすでに『詠唱』に頼らない魔術を用いた戦闘訓練をしている。エヴァンにも協力願いたい」


 多くの人間から嫌煙されている次兄のエヴァンを説得していた。





 ソロンから聞き出したことだが、私の異質さを最初に報告したのは次兄のエヴァンだそうだ。

 魔法の根源に関して研究していたエヴァンは十歳の頃から研究室に篭もり続け、学園にもほとんど行ってなかった。


 学園など行かなければいいのでは?


 魔法や魔力について造詣が深いエヴァンは、メイドに沐浴を促され仕方なく浴場に向かったその時、私とすれ違っていたらしい。外の世界に興味のないエヴァンは私たち双子についてもよく知らなかっただろう。


 そこで、幼い子供が一人で廊下を歩いている様子を不思議に思い私を一瞬()()した。


 その時、身体が硬直した。背筋は凍り、額には冷や汗が垂れた。頭の上から血の気が引き、倒れそうになったが注目を集めたくないためどうにか踏ん張った。


 本来は魔法の根源を研究している優秀な研究員だ。あの黒い魔力の一部を感じ取ったのだろう。

 哀れなヤツだ。


 初めて感じた恐怖だっただろう。慌てて引き返したエヴァンは父である陛下に泣きついた。


 悪魔がいると。


 ユリウスは困惑しただろう。

 その場にソロンもいたため、ひとまず落ち着かせ話を聞いたそうだ。


 三歳の子供が大きな危険を孕んでいるとは思えないユリウスはあまり信じていない様子だったが、ソロンは違った。恐らくミネルヴァの所有している隠密から何かしら違和感のある報告を受けていたのだろう。

 変な子供と言うにはエヴァンの話は不気味過ぎる。ミネルヴァに報告し、監視の任を受けた、という話だ。



 私が優秀過ぎるから監視を受けたのだとばかり思っていた。なんとも……恥ずかしい勘違いだ。



 エヴァンは恐怖から逃れるように更に研究にのめり込むようになる。

 その研究が国益になるのであれば、民に還元できる立派な王族の務めとなる。私もそう思っていたが、魔法の研究は様々な方面から研究されているものの百年以上前から進捗がない。


 それを知ったのはつい昨日のことだ。

 私は居ても立ってもいられなかった。


 片手間ですらない僅かな時間で学園の様々な試験を好成績でパスしたその頭脳が、無駄な時間に注がれているのは国家の損失だ。実に惜しい。


「え、詠唱の無い魔法なんか、ふ、不敬だ!」


「不敬だと? アルベールは今も生き生きとしているし、お前の前に立っている私も何の問題もなく成長している。神の裁きなど存在しない。そんな事だからお前たちは魔法の研究が進まないんだ、大馬鹿者め」


「ば、馬鹿だと!?この僕を侮辱したな!」


 唾を撒き散らして怒り倒すエヴァン。

 こやつは……まず人間らしい生活をさせることから始めねばならないだろう。


「そうだぞ兄上。私はお前を馬鹿にした。幼い子供である私ですら理論を把握している魔術を、理解することもできない愚かなエヴァンだ」


「そんなもの、簡単過ぎて研究する気も起きないだけだ!」


「ならば証明してみせろ。お前の頭脳を、お前の才覚を。成果があれば、陛下もさぞ喜ぶことだろう」


 ハッタリで父の名を出したが……


「!! 父上が……」



 やはりそうか。怒りの顔から真剣な表情へ変わった。


 単純だ。

 エヴァンは父から認められたかったのだ。


 エヴァンが私のことを訴えた時、ユリウスはすぐに信じなかった。衝撃を受けたことだろう。

 エヴァンは研究に没頭していたが、自分では国のためになると信じていた。周りから疎まれようと蔑まれようと、魔法の可能性を追求した。


 (国王である父は分かってくれている)


 勝手な願いだったが、それが心の支えだっただろう。

 そして、崩れた。ユリウスはエヴァンの言を信じなかった。エヴァンの信仰は崩壊したのだ。

 より研究に没頭するようになったのは、その現実から逃げるためでもあった。


 つまり、魔法の研究は手段だったわけだ。

 エヴァンの目的は認められること。


 なら、魔術の研究でもした方が私のためになる。


 成果も生み出し、父上に報告できることも増えるだろう。

 エヴァンは私より八歳年上だが、その心は七年前から変わっていない。


「エヴァン、共に魔術を極めるぞ。お前の努力が花咲く時、父上はお前に首ったけだ」


 エヴァンよ、その才は私が使ってやる。


 その時の私は、それこそ悪魔のような表情だった。


 

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