ep.61 何も起きないのが、一番うまくいってる
キャラランドのレッスンスタジオは、朝から少しだけ慌ただしかった。
今日はLa♪Ra・RISE!(ララライズ)の撮影日。
密着企画の一部を使った、ショート動画の収録が予定されている。
機材が運び込まれて、スタッフが位置を確認して、メンバーもそれぞれ準備に入っている。
一見すると順調だ。予定通りに進んでいるように見える。
——でも。
(……ちょっとだけ、ズレてる)
俺はスタジオの隅に立ったまま、全体を見渡した。
誰かが大きくミスをしているわけじゃない。
むしろ、全員ちゃんと動いている。
ただ、ほんの少しだけ。
立ち位置が甘い。
導線がかぶっている。
準備の順番が噛み合っていない。
このままでも撮影はできる。
でも、このままだと、どこかで引っかかる。
(……今のうちだな)
誰かに言われたわけじゃない。
でも、自然と体が動いていた。
「真秀、先にそっち入っていいか?」
声をかけると、真秀は少しだけ首を傾げる。
「今? まだカメラ来てないけど」
「うん、でも今の立ち位置だと次のカットで動線かぶると思う」
「あー……なるほどね」
軽く納得したように位置を変える。
「カノンくん、音チェックもう一回だけいい?」
「さっきやったが」
「うん、でもさっきのだと環境音ちょっと入ってた」
「……ああ、確かに。今なら静かだな」
言いながら、すぐに機材の方へ向かっていく。
「ダズ、今の並びのままだと後ろ詰まるから、半歩だけ後ろいい?」
「OK、ワタシ後ろネ」
軽く笑って、自然に位置を調整する。
全部、大したことじゃない。
指示ってほどでもない。
修正ってほどでもない。
ただ、少しだけ整える。
それだけ。
数分後。
「じゃあ、本番いきまーす!」
スタッフの声がスタジオに響く。
カメラが回る。
音が乗る。
メンバーが動く。
——引っかからない。
流れるように進む。
誰も止まらない。
変にやり直す必要もない。
(……いいな)
小さく、息を吐く。
これだ。
撮影は、そのまま一発で終わった。
「……早くない?」
猫沢さんが、少し驚いたように言う。
「いつももうちょい詰まるのに」
「今日、やけにスムーズだったな」
岡さんの声も、ぽつぽつと聞こえてくる。
「……あれ、さ」
那音くんが小さくつぶやく。
「さっきの位置調整とか、伊藤くんがやってましたよね?」
一瞬、視線が集まる。
「え?」
思わず声が出る。
「いや、別に……」
大したことじゃない。
そう思っているのは本当だ。
「いやー、あれなかったら詰まってたよ」
真秀が軽く笑いながら言う。
「俺、あのままだと確実にかぶってたし」
「音もあのタイミングでやって正解だったな」
カノンくんも、淡々と言う。
「Good adjustmentネ」
ダズが親指を立てる。
少しだけ、言葉に困る。
「……いや、普通に気になっただけで」
そう言うと、真秀が肩をすくめた。
「それができるのがすごいんだろ」
その言葉に、少しだけ間が空く。
でも、変に照れる感じでもなかった。
ただ、静かに納得する。
(……ああ)
やっぱり、これだ。
ちゃんと回るようにする。
スタジオの端で、スマホを取り出す。
次のスケジュールを確認して、少しだけ調整を入れる。
今日と同じように、明日も、ちゃんと回るように。
(世界一にするって——)
(こういうこと、積み重ねていくってことだよな)
誰も止まらない。
誰も困らない。
その状態を、当たり前にする。
それが、俺の仕事だ。
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




