ep.53 那音とクライム、いつか組むかもしれない
午後の空気は、花の匂いが混ざると少し柔らかくなる。
俺は、事務所から少し歩いた商店街の角で立ち止まった。
ガラス越しに見える青紺の後ろ姿。
(……やっぱり似合うな)
那音くんはエプロン姿で、花束を整えている。
隣には——
「悪ないな。客足も安定しとる」
腕を組んだ、ピンクの豚。
どうしてこうなったかというと、
「地域密着型店舗の実地確認や。机上の数字だけで判断したらあかん」
と、クライムが言い出したからだ。
クライムは、キャラランド所属のマスコットだ。
だが、ぬいぐるみの顔をしていても、中身は完全にビジネスマン。
企業案件、タイアップ、広告導線。
数字と市場の話になると、目の色が変わる。
「かわいい? そんなん後回しや。売れるかどうかやろ」
所属はしているが、依存はしない。
独立も選択肢のひとつ——そう公言している。
だから今日も、マーケティングをしている。
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店内は静かだった。
壁際には季節の花。
中央に小さなテーブル。
那音くんは、しゃがみ込んで一本ずつ茎を整えている。
「それな、なんでそこ置いとるん?」
クライムが聞く。
那音くんは顔を上げた。
「売れる花はありますけど、その日いちばん元気な花を前に出してます」
「売れるからちゃうんか?」
「今日いちばん綺麗に見えるので」
クライムは少し目を細めた。
「……情緒優先かいな」
間を置く。
「嫌いやないで。せやけど再現性は低いわ」
那音くんは穏やかに笑う。
「毎日見てると、わかりますよ」
黄色のガーベラを一輪、前に置く。
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その日の夕方。
会議室。
クライムが前に立つ。
「ほな、次の案件や」
スクリーンに映る文字。
《地域金融機関タイアップ案
クライム起用プロモーション》
那音くんは今日は付き添いだ。
「現場の空気を知っとくんは大事や」
クライムが淡々と説明する。
「金融はな、“信用の商売”や」
「押し売りしたらあかん。営業色が強すぎたら逆効果や」
少し間を置いて、続ける。
「ワシみたいに、金の話しても胡散臭くならん立ち位置がある」
「かわいさだけやない。“堅い話をしても嫌われへん顔”や」
データが並ぶ。
年齢層、ブランド印象、信頼度。
「せやから“売る”んやない。“置く”んや」
「そこに居るだけで安心して選ばれる位置に置く」
そのとき。
スクリーンが暗くなる。
「なんやねん、このタイミング」
クライムが機材を確認する。
会議室の空気が止まる。
クライムが前に出直す。
「資料なくても話はできる。要はな——」
少し言葉を探す。
そのとき。
那音くんが、静かに横から言う。
「信用って、派手さより安心感ですよね」
一言だけ。
クライムがちらっと見る。
那音くんは続けない。
出しゃばらない。
クライムが口元を少し上げる。
「……せやな」
「飾りすぎたら逆に怪しい」
空気が戻る。
(……同じだ)
花屋での並べ方。
売れるかどうかじゃない。
ちゃんと立っているものを前に出す。
那音くんは今も変わらない。
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会議が終わったあと。
クライムが腕を組む。
「君な、自覚ないやろ」
那音くんは首を傾げる。
「何のですか?」
「安定しとる。揺れへん」
少し間。
「今は触らん、そのままでええ」
視線を横に流して、
「せやけどな……将来、ワシと組んだら絶対おもろいで」
那音くんは少し困ったように笑う。
「そうですか?」
「わりと本気や」
クライムは、それ以上何も言わなかった。
その目だけが、先を見ていた。
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




