ep.45 レッスンのぞき見④ 声は、嘘をつかない
ダンススタジオとは、空気が違った。
床に響く足音も、カウントの声もない。
あるのは、マイクスタンドと、譜面台と――静かな緊張。
(……余計な音がない分、声そのものが、そのまま伝わる)
俺は、カメラを構えながら、唾を飲んだ。
今日は歌のレッスン。
講師は、もも先生だ。
「じゃあ、始めましょうか」
そう言って前に立った彼女は、相変わらず落ち着いていた。
大きな声を出すわけでも、気合を入れるわけでもない。
ただ、まっすぐ。
「今日は、“上手に歌う”ことは考えなくていいです」
その一言で、空気が少しだけ動いた。
「音程も、声量も、後回しで大丈夫。
今は――その声が、誰かに届くかどうか。それだけ意識してください」
短い言葉。
でも、不思議と背筋が伸びる。
(……ああ)
あの“稲妻みたいな歌声”の持ち主と同じ人とは思えないくらい、静かな指導だった。
最初に歌ったのは、翔太だった。
マイクの前に立つと、少し肩が上がる。
いつもより慎重で、丁寧で――正解を探すような歌い方。
歌い終わると、もも先生は少しだけ考えてから言った。
「佐藤さん」
「はい……!」
「とても、きれいな声です。ちゃんと、優しい」
翔太がほっと息をつく。
でも、そのあと。
「でも……隠してますね」
一瞬、翔太の指が、ぎゅっと握られた。
「その声、本当は、もう少し前に出られる。
“ちゃんと歌おう”としすぎて、自分を守ってる気がします」
翔太は、うなずくだけで、何も言わなかった。
次は、カノンくん。
安定した音程。
ブレのない発声。
理屈通りの、綺麗な歌。
終わったあと、もも先生は言う。
「根古島さんは……正しいです」
カノンが、わずかに眉を動かす。
「でも今日は、“正解”じゃなくていい。
間違えてもいいから、気持ちを先に出してみて」
「……なるほど」
短く返す声は、いつも通り冷静だったけど――
どこか、考え込んでいるようにも見えた。
辰煌は、逆だった。
声に感情が乗りすぎて、前に出すぎる。
勢いはあるけど、少し荒い。
「赤河さん」
「はいっ!」
「出しすぎです」
即答だった。
「声が先に走ってます。気持ちは、その一歩後ろでいい」
辰煌は一瞬きょとんとしてから、照れたように笑った。
「……難しいですね、歌」
「うん。でも、それでいいです」
他のメンバーも、それぞれ一言ずつ。
雪雄さんは安定感を評価され、
真秀は「よく聴いて歌ってる」と言われ、
那音くんは「音に触れるみたいな歌い方」と表現され、
ダズは「土台がしっかりしてる」と静かに褒められた。
レッスンが一段落すると、スタジオには、さっきまでとは違う静けさが残っていた。
誰も、すぐには喋らない。
歌ったあとの余韻と、自分の声がまだ、胸の奥に残っているみたいだった。
もも先生が、全員を見渡してから、ゆっくりと言う。
「今日の歌、完成度は決して高くありません」
淡々とした言い方だった。
「でも、今はそれを気にする必要はないです。基礎を積み上げている途中なので」
「歌は、正直です。無理をすると、すぐにわかるし、隠そうとしても、ちゃんと滲みます」
言い切るでもなく、諭すでもなく。
ただ、事実を置くみたいな口調だった。
「だから、焦らなくていいです。
今日みたいに、自分の声と向き合っていれば、ちゃんと前に進みます」
それだけ言って、もも先生は軽く頷いた。
レッスン終了の合図。
マイクスタンドが片付けられ、譜面台が端に寄せられていく。
まだ未完成だ。
声も、想いも、表現もばらばらだ。
それでも――。
俺は、カメラを下ろしながら思った。
今はまだ、完成形じゃない。
でも、誤魔化していない声だけが、ここにあった。
歌は、嘘をつかない。だからきっと、この先も――ちゃんと積み重なっていく。
***
▼ 颯太のメモ(歌レッスン後)
・翔太:優しい声。守りに入ると見えなくなる。本当は、もっと前に出られる。
・カノン:正確。でも今日は、正確さが壁になってた。
・辰煌:感情が先行しすぎ。抑えたとき、きっと化ける。
・雪雄:安心感がある声。支える歌。
・真秀:よく聴いている。歌い方が賢い。
・那音:繊細。音に触れるような歌。
・ダズ:土台が強い。声がぶれない。
*La♪Ra・RISE!キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




