ep.44 それぞれの舞台で、物語はまだ続いていく
会議室を出たとき、廊下の照明はもう夜用に切り替わっていた。
昼間の空気が嘘みたいに静かで、足音だけがやけに響く。
(……色、か)
ホワイトボードに並んでいた八つの色が、頭から離れなかった。
気づけば、ずっと奥にしまっていた記憶が浮かび上がってくる。
――BEN主催の、アイドルユニットオーディション。
(※ep.19:https://ncode.syosetu.com/n4020ky/19/)
LoHiオリジナル5の事務所が並び、
「ホームタウン制」について語られていた、あの記者会見。
眩しい照明。
記者たちのシャッター音。
あのとき、俺の意識はどこか遠くにあった。
(……どうして、あんなに引っかかってたんだろう)
原石たちが、キャラランドじゃない場所で輝くかもしれない。
それは、喜ぶべきことのはずだった。
でも、胸の奥には、確かに“寂しさ”が残っていた。
「……颯太くん、まだ残ってたんだ」
声をかけられて振り向くと、椿社長が廊下の奥に立っていた。
「はい。ちょっと、考え事を」
「そっか。考え事、してた顔だった」
苦笑しながら、社長は俺の隣に並ぶ。
「今日の会議、どうだった?」
「……色の話、やっとスタート地点に立てた気がします」
「うん。“決めた”っていうより、
やっとちゃんと向き合い始めた、って感じだよね」
少し、間が空く。
俺は、意を決して口を開いた。
「椿社長。BENのオーディションの件、覚えてますか」
「もちろん、覚えてるよ」
「……あのとき、『原石たちが輝くチャンスがあるなら、応援する』って、
迷いなく言ってましたよね」
「……うん。あのときはね、
そう思えたから、そう言った」
「正直、俺は、あのとき少し複雑でした」
椿社長は驚いた顔はしなかった。
ただ、静かに聞いている。
「嬉しいのに、どこか手放すみたいで……」
言葉にして、初めて自覚する。
「……寂しかったんだと思います」
椿社長は、ゆっくり頷いた。
「……寂しかった、か」
「それってさ……私は、悪いことだとは思わないな」
「え?」
「それだけ、ちゃんと向き合ってたってことだと思う。
守りたいって思えるくらい、一緒に時間を重ねてきたってことでしょ」
その一言で、胸の奥に引っかかっていたものが、少しほどけた。
そこへ、書類を抱えた猿田さんが通りかかる。
「おや、まだ残ってたのかい」
「あ、猿田さん。お疲れ様です」
「珍しいな。会議のあとに立ち話とは」
猿田さんは、俺の顔を見て、何か察したように目を細めた。
「……あのBENの件、思い出してたんだろ」
「分かりますか」
「長くやってりゃね」
猿田さんは、ゆっくりと言った。
「キャラランドはな、“囲い込む場所”じゃない」
その言葉に、俺は息をのむ。
「出ていくやつもいる。
別の場所で花開くやつもいる」
「……でも」
「それでいいんだ」
猿田さんは、はっきり言い切った。
「ここは、“出発点”なんだから」
その瞬間、俺が感じていたモヤモヤが、ようやく形を持った気がした。
(……そうか)
だから、送り出せる。
だから、誇れる。
そのとき、奥から猫太Pが顔を出した。
「お、まだいたニャ」
「猫太さん」
「色の話、頭から離れない顔ニャ」
図星だった。
「……今日、ララライズの色を並べてみて、
ふと思ったんです」
「ほう?」
「色を決めるって、縛ることじゃなくて……
“戻ってこれる場所”を示すことなのかなって」
猫太Pが、にやっと笑った。
「いいとこ突くニャ」
「椿社長、ギルド567も、同じだと俺思うんです」
言葉にした瞬間、自分でも驚いた。
「まだ名前も立場も定まってない。
でも、“ここから始まった”って言える場所があるだけで、
踏み出せる人はいる」
椿社長が、静かに言った。
「ギルド567は……
キャラランドの“未来の余白”なんじゃないかな、って」
「余白……」
「うん。今は何色でもない。
だから、どんな色にもなれる」
猿田さんが、うんうんと頷く。
「ララライズが“今の答え”なら、
ギルドは“これからの問い”だな」
その言葉が、胸に深く残った。
(……守る場所と、送り出す場所)
どちらも、キャラランドなんだ。
夜の窓に映る自分の顔は、
少しだけ前より落ち着いて見えた。
ララライズの八つの色。
そして、まだ色の名前もない原石たち。
その両方を見つめ続けることが、
今の俺の役目なんだと思えた。
(……ギルド567)
何者になるかも、どこへ行くかも、まだ決まっていない人たち。
でも――
「ここから始まった」と言える場所があるだけで、
人は案外、前に進めるものなのかもしれない。
静かな事務所で、ふと、あの記者会見の光景がよみがえった。
BEN主催の、アイドルユニットオーディション。
(……いつ、始まるんだろうな)
まだ告知は出ていない。
それでも、水面下では、
もう準備が進んでいる気がした。
誰かにとっては、それが最初の舞台になる。
……始まるなら、そのときは、ちゃんと見送ろう。
期待も、不安も、全部ひっくるめて。
ここで出会った人たちが、
それぞれの場所へ向かっていくなら――
俺は、その背中を応援する側でいたい。
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




