ep.43 コンセプト会議・続編──それぞれの“色”を、言葉にするまで
――数日後。
冬の冷たい空気が残る夕方、キャラランド本社の会議室。
テーブルの上には、新しく刷り直された資料と、
俺がまとめてきたメモが並んでいた。
(……次は、“色”をどう伝えるか、だったよな)
前回の会議を終えてから、レッスンの合間や、廊下ですれ違う一瞬、ステージに立つ背中——
俺は、意識して彼らを見てきた。
“色”。
便利な言葉だけど、同時に、曖昧で、少し危うい言葉でもある。
(……言うのは簡単だけど)
本当に難しいのは、それを“伝わる形”に落とし込むことだ。
椿社長が、椅子に深く腰をかけたまま、
静かに口を開いた。
「じゃあ、改めて始めましょうか!」
一拍置いて、俺を見る。
「颯太くん。前に話してくれた“色”の話、
今日はもう少し深く聞かせて!」
「はい」
「“色”って、性格? 役割? それともステージ上の見え方?」
問いは穏やかだったけれど、核心を突いていた。
俺は一瞬、言葉を探す。
「……たぶん、全部、です」
沈黙。
でも、逃げずに続ける。
「性格も、得意な表現も、ファンに見せたい顔も。
それが重なったときに、自然とにじみ出るもの……というか」
「なるほど」と雨野チーフがメモを取りながら頷いた。
「つまり、無理に役割を当てはめるのではなく、
“すでにあるもの”を拾い上げる作業ですね」
「そうです」
猫太Pが、にやりと笑った。
「それ、キャラランドらしいニャ。最初から完成形を決めない。
育っていく“過程”ごと、物語にするニャ」
岡さんが、少し現実的な視点を添える。
「ただ、そのためには共通言語が必要ですね。
スタッフ間でも、ファンに向けても」
「共通言語……」
「ええ。“La♪Ra・RISE!(ララライズ)は、こういうグループです”って、一言で言える何か」
その言葉に、胸が少しだけ締めつけられた。
(……それが、いちばん難しい)
そのとき、猫沢さんが静かに口を開いた。
「でも、今は無理に決めなくてもいい気がします」
全員の視線が集まる。
「La♪Ra・RISE!(ララライズ)って、
“決まっていく過程”を一緒に見てきた人が多いじゃないですか。
だったら、その迷いも、試行錯誤も、ちゃんと物語として出していけばいい」
「……たしかに」と雨野チーフ。
「“完成したアイドル”より、“なろうとしている途中”のほうが、
今のLa♪Ra・RISE!(ララライズ)には合っているかもしれませんね!」
椿社長が、満足そうに小さく笑った。
「じゃあ、こうしましょう」
その一言で、空気が引き締まる。
「“色”は、今は仮置き。
メンバーそれぞれに、自分でも気づいていない部分を含めて、私たちが言葉を探し続ける」
「固定しない、ということですね」
「ええ。縛らない。でも、ちゃんと見つめる」
社長は、はっきりとした声で続けた。
「La♪Ra・RISE!(ララライズ)は、“定義されるアイドル”じゃない。“定義されていくアイドル”にする」
そのとき、猫太Pが腕を組んだまま、少し前に身を乗り出した。
「“色”の話、ひとつ付け足したいニャ」
全員の視線が、猫太Pに集まる。
「内面や物語は、変わっていっていい。むしろ、変わっていくから面白いニャ」
一拍置いて、はっきりと言う。
「でも、ステージの上だけは別ニャ」
「ステージ、ですか?」と雨野チーフ。
「そうニャ。お客さんが一目で“誰か”分かる場所。
衣装、ハンカチーフ、アクセントカラー、髪のメッシュ——そういう“視覚の色”は、ちゃんと持たせたいニャ」
俺は思わず、頷いていた。
(たしかに……)
遠くから見ても一瞬で認識できる存在。
それは“アイドル”として、とても大事なことだ。
岡さんが整理するように言う。
「つまり——内側の“色”は育て続ける。
でも、ステージ上の“色”は、一度決めたら軸として使い続ける、ということですね」
「その通りニャ」と猫太P。
椿社長が、ゆっくりと頷く。
「いいバランスね」
猫太Pが立ち上がった。
「じゃあ、今の話を“見える形”にしてみるニャ」
そう言って、壁際のホワイトボードの前に立つ。
マーカーを手に取る音が、やけに大きく響いた。
「これは——あくまで仮。今日決めきる話じゃないニャ」
前置きをしてから猫太Pは一人ずつ、名前を書いていく。
「英賀田は、白、ホワイトニャ。
社会人になってもヒーローになりたいと信じ続けた誠実な色
これまで演じてきた悪役の「黒」の真逆の色だニャ」
雨野チーフが頷く。
「ステージ上では、立ち姿や所作がいちばん映えますね」
「カノンは紫、パープル。理知的で、高貴で、他のメンバーとも少し違う存在の色、でも目を引く」
「納得です」と岡さん。
「音楽性とも相性がいい」
「真秀は黄色、イエロー。真秀はこの色以外考えられない。視線を集める色だニャ」
(……確かに、真秀の色だ)
俺は心の中でそう思った。
「那音は、青紺、ネイビーブルー。落ち着きがあって、全体を支える色」
「どの色とも調和する色いないと困る色、存在ですね」と猫沢さん。
「千鶴くんは橙色、オレンジ。動きがあって、場を明るくする、ステージの温度を上げる色だニャ」
「真っ先に目に入る色ですね」
「ダズは赤、レッド。リズム、情熱、存在感」
猫太Pが少し笑う。
「黙ってても、ステージに“鼓動”が生まれるニャ」
「辰煌くんは桃色、ピンク。感情がそのまま表に出る色」
「強さと脆さ、どっちも含められる色ですね」と雨野チーフ。
最後に、猫太Pがペンを止めた。
「翔太くんは緑色、グリーン。成長、調和、安らぎの色」
ホワイトボードを見渡す。
8つの名前。
8つの色。
まだ、整ってはいない。
でも——
(……並んだだけで、もう“グループ”に見える)
岡さんが、静かに確認する。
「これは、あくまで初期案ですね?」
「そうニャ」と猫太P。
「変えていいし、足してもいい。
でも、ステージ上では“分かる”入口を作りたいニャ」
椿社長が、はっきりと言った。
「色は“役割”じゃない。“目印”よ」
雨野チーフが補足する。
「衣装、アクセサリー、照明や演出で使いながら、ファンと一緒に育てていくイメージですね」
俺は、ホワイトボードから目を離さず、ゆっくり頷いた。
猫太Pがマーカーを置いた。
「じゃあ、次は——」
ホワイトボードを囲んだまま、衣装の話、立ち位置の話、
色の重なりや、遠目での見え方——
断片的な意見が、途切れ途切れに続いていく。
どれくらい時間が経ったのか、ふと壁の時計に目をやる。
(……あ)
気がつけば、針は大きく進み、窓の外はすっかり夜になっていた。
椿社長が、静かに口を開く。
「今日はここまで。続きは、また次のミーティングで」
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




