ep.36 その夜だけは、少し緩めて
その日の会議は、
いつもより少し早く終わった。
外はすっかり暗く、
キャラランドの窓越しに見える街は、年末前特有の、少しだけ浮き足立った光で満ちている。
「……今日は、ここまでにしましょうか」
椿社長のその一言で張りつめていた空気が、ふっと緩んだ。
資料をまとめる音。
椅子を引く音。
誰かが深く息を吐く。
さっきまで、
“La♪Ra・RISE!らしさ”“キャラランドらしさ”“ファンに伝えたいこと”
なんて言葉が当たり前に飛び交っていた会議室が、
少しずつ、現実の時間に戻っていく。
猫沢さんが、ふとカレンダーに目をやる。
「あ……もう、23日ですね」
「23日か」
岡さんが小さく頷く。
「街が、そわそわしてるわけだ」
雨野さんが言う。
猫太さんが、作業用テーブルの端に置かれていた箱を、
思い出したように見やった。
「……そういえば、これがあったニャ」
段ボールを引き寄せ、テープを一箇所だけ外す。
「クリスマス用じゃないけど、
年末に事務所で何かあったとき用に、一応まとめて置いてたやつニャ」
中から出てきたのは、個包装された焼き菓子と、
折り畳まれた小さな飾りだった。
「……なるほど」
岡さんが、納得したように頷く。
「ええ。こういうところ、猫太さんらしいわ」
椿社長が、やわらかくそう言った。
その言葉に、猫太さんは照れたように鼻を鳴らす。
「本番は、まだ先ニャ」
そのとき――
ドアの向こうから、やけに賑やかな声が聞こえた。
「もう年末よーーーっ!!」
勢いよくドアが開く。
今日のレッスンを終えたSaru先生とKaba先生だった。
「まだイブでも当日でもないけどさ!」
「でも、気分はクリスマス一色だしあと1週間ちょっとで今年も終わるでしょ!」
一気に、空気が変わる。
二人の後ろから、もも先生が穏やかに顔を出す。
「こんばんは。
ララライズのレッスン、ちょうど今、終わったところで」
今日は、Saru先生、Kaba先生、もも先生の合同のレッスンだった。
もも先生の言葉に続いて、ドアの向こうから、足音が重なった。
「……あ」
猫沢さんが、廊下の方を見る。
「失礼しまーす」
最初に顔を出したのは、千鶴だった。
「レッスン終わったんで、
先生たちと一緒に戻ってきました!」
その後ろから、
雪雄さん、カノン、真秀、那音、ダズ、辰煌、翔太――
ララライズのメンバーが、次々に姿を見せる。
「なんか……」
千鶴が、室内を見回して首を傾げる。
「今日、事務所の空気ちがう!」
「ちょっとだけ」
椿社長が笑った。
「会議が早く終わったんです!!」
テーブルの上に並んだ、個包装の焼き菓子と小さな飾りを見て、
辰煌が目を瞬かせる。
「え、なにこれ。
クリスマスっぽくない?」
雨野さんが言う。
「年末前の、息抜きだ」
「いいですね。年末ってだけで気持ちも身体もきつくなってきてたから」
那音くんが反応する。
「なんか……ちょうど今、甘いの欲しかった」
ダズが小さく笑う。
「ワタシも。」
猫太さんが、肩をすくめる。
「予定はしてなかったニャ。
でも、集まったなら――少しくらい、いいニャ」
誰からともなく、焼き菓子が手に取られ、紙カップに飲み物が注がれる。
完璧な準備なんて、どこにもない。
でも、不思議と足りない感じもしなかった。
雪雄さんが、柔らかく言う。
「こういう時間も、大事ですね」
「うん」
真秀が頷く。
翔太は、少し離れたところで、
カップを両手で包みながら周囲を見ていた。
「……なんか」
小さく呟く。
「年末だなって感じがする」
その言葉に、
カノンが短く笑った。
「まだ実感するには早いだろ」
「でも」
翔太は、少しだけ視線を上げる。
「こうして集まってると、今年が終わるんだなって」
誰も、否定しなかった。
壁際に立てかけられた小さな飾りが、照明の光を反射して、控えめにきらりと光る。
俺は、この輪を見渡した。
(……こういう夜があるから、またLa♪Ra・RISE!らしさが生まれるんだよな)
椿社長が、静かに言った。
「今日の仕事は、ここまで。
この夜だけは、少し緩めましょう」
誰も、異論を挟まなかった。
年末前の、ほんの短いクリスマス気分。
この夜が終われば、また、現実は続く。
それでも――
今は、この時間をちゃんと味わっていい。
そう思いながら、俺はカップを持ち直し、
輪の中へと一歩、戻った。
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




