ep.35 LoHi参入バトル参戦ユニット──「龍神」
コンセプト会議は、一日で終わるようなものじゃなかった。
長机を囲むスタッフ陣。
ホワイトボードには、消しては書き足された言葉の跡。
資料の束と、冷めかけたコーヒー。
椿社長、雨野さん、猫太さん、岡さん、猫沢さん。
そして、俺。
日を改め、重ねられる会議。
少しずつ、少しずつ形を探っていく。
「世界観は、どこまで言語化する?」
「“キャラランドらしさ”って、どこに置く?」
「他と並んだとき、何が残る?」
飛び交う言葉に、俺は何度も頷きながら、
それでも、胸の奥に引っかかっているものを出せずにいた。
――メンバーの“色”。
雪雄さんや、カノンたちが、自然に放っている、あの感覚。
言葉にすれば、たぶん伝わる。
でも、今この場で出していい言葉なのか、
まだ、自分でも分からなかった。
「颯太くんは、何かある?」
椿社長が、俺に意見を振る。
「……もう少し、考えます」
そう言って、俺は視線を落とした。
そのとき――
ふと、手元の端末に表示された通知が目に入った。
ポータルサイトのトップニュースだった。
LoHi参入バトル:江ノ島プロモーション
参戦ユニットは――「龍神」
ニュースに映る彼らは、
一目で“鍛えられている”と分かる身体をしていた。
無駄がなく、均整が取れている。
派手なポーズを取らなくても、立っているだけで様になる。
会議の最中だということは分かっていたが、
視線は自然と記事の文字を追っていた。
全員、高校水泳部出身。
インターハイ出場経験者が揃い、
リーダーの一木島 海に至ってはインターハイ優勝経験を持ち、
次のオリンピック、日本代表候補としても注目されているという。
それでも彼は、
水泳選手として江ノ島プロモーションに所属し続ける道ではなく、
アイドルとしてステージに立つことを選んだ。
(……覚悟、だよな)
競技を捨てる、という言葉は簡単だけれど、
そこに積み上げてきた時間や、期待や、未来を思うと、
その選択が軽いはずがない。
『龍神』というユニットが、
ただ“素材が強い集団”ではないことが、
短い記事からでも伝わってきた。
________________________________________
会議の途中ではあったが、
俺は江ノ島プロモーションの「龍神」のニュースを、その場にいるメンバー全員に共有した。
会議は一度、区切られる。
しばらく、誰も喋らなかった。
スクロールする指の音だけが、静かに響く。
雨野さんが、低く息を吐く。
「……水泳選手の集まったアイドルユニット。目の付け所が面白い。それもメンバーにオリンピック候補選手とは…」
「ええ」
岡さんが頷く。
猫太さんが画面を覗き込みながら言う。
「水泳部のアイドルユニット…
……ストイックに仕上げてきた身体つきだニャ」
「水の中で呼吸を整えて、
合図を待って、
一瞬で全部を出す……」
猫沢さんが、記事の写真を見ながら続ける。
「その時間を、何年もやってきた身体ですね」
誰かが言葉を探す間を置いて、
椿社長が静かに口を開いた。
「……アイドルとしては、未知数ですけど、表情や容姿がこれまでの努力を物語ってますね…」
全員が、同時に画面を見る。
「もう、自分を魅せる振る舞いを知っているっていうことか」
雨野さんが言う。
その言葉に、
俺は胸の奥で、同じ感覚をなぞっていた。
彼らは、「演出」として纏っているわけじゃない。
身体に染み込んで、抜けないもの。
一瞬の沈黙。
それから、椿社長が小さく頷く。
「ええ。
龍神は“泳ぐことで魅せるための表情と身体”を育ててきた。
キャラランド・La♪La・RISE!とは、まったく違う道」
「でも」
雨野さんが続ける。
「人前に立つ覚悟の重さは、同じだ」
俺は、ゆっくりネットニュースから目を離した。
個性的なアイドルユニット…。
それでも、
怖さや不安よりも、
「知れてよかった」という感覚だった。
「……LoHi参入戦…同じ舞台に立つんですね」
俺がそう言うと、
椿社長ははっきりと頷いた。
「大晦日の記者会見。楽しくなってきましたね!」
そのとき、La♪La・RISE!どんな“色”を出せるのか。
答えは、まだ見えない。
けれど――
この世界が、もう動き出していることだけは、
そこにいる全員が分かっていた。
雨野さんが、静かに資料に目を落とし会議が再開する。
「……次のテーマはだな…」
LoHi参入バトルは、もう始まっている。
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




