ep.33 大晦日会見へ──静かに始まる“準備段階”
朝のキャラランドは、雨の匂いがしていた。
先日の BEN の八手社長が来社したあと、
椿社長とマネージャー陣は遅くまで会議を続けていたらしい。
“LoHi参入バトル” の概要は、想像していた以上に重たい内容だった。
俺が出社すると、スタッフルームはしんと静まっていた。
雨野チーフが資料をめくり、低い声で言う。
「……記者会見の日程、正式に決まった。12月31日だ」
「大晦日……」
自然と声が漏れた。
岡マネージャーがコーヒーを置き、淡々と続ける。
「ただ、会見はお披露目の要素が大きいので“参入する意思と意気込み”の表明だけ。La♪Ra・RISE!(ララライズ)について詳細を発表しないといけない訳じゃない。コンセプトや方向性は、焦って決める必要はない。」
胸がほんの少し軽くなった。
椿社長は、机の前で手を組んだまま、静かに言葉を選んだ。
「La♪Ra・RISE!をどう見せるか、その核心──“ユニットのコンセプト”は、制作側で責任を持って決めていきましょう!急いで形にするより、正しい材料を揃えることが先」
猫太Pが頷きながらペンを回す。
「8人の方向性は、いい意味でバラバラだからニャ。本人たちの言葉を“まとめてひと言にする”のは、まず不可能。でも、“素材”としては必要なんだニャ」
(素材……か)
たしかに、思い浮かぶ姿はどれも違う。
雪雄さんの穏やかな強さ。
カノンくんの鋭い探究心。
真秀の静かに燃える視線。
千鶴の太陽みたいな明るさ。
那音くんの柔らかな誠実さ。
ダズの包み込むような安心感。
辰煌の一直線の情熱。
そして──翔太の、誠実すぎる努力。
(この8人を“ひとつの言葉”に閉じ込めるなんて……まだ想像できない)
雨野チーフは資料を閉じ、落ち着いた声で言った。
「年内は“素材集め”に徹する。密着で見える姿、レッスンの温度、何に心が動くのか。その全部を揃えて、年末のコンセプト会議につなげたい」
そこへ、猫沢さんがひょいと俺を見る。
「そういえば颯太くん。最近、メモ取りながらレッスン室よく覗いてない?」
「えっ……!」
岡マネージャーが苦笑する。
「真秀くんも言ってたよ。“なんか視線感じるんだよな”って」
雨野チーフまで真顔で続ける。
「辰煌くんは“謎の観察者”って騒いでたぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください……!あれは密着企画の準備で……!」
変な汗が止まらない。
すると椿社長が、ふっと笑った。
「昨日の説明、ありがとうございます!みんながどう受け止めていたか……ゆうさんから聞いました!あなたの言葉、すごく響いていたそうです!」
「……っ」
岡マネージャーも続ける。
「颯太の“密着視点”は、そのまま制作会議の材料になる。だから堂々と観察しろよ」
猫沢さんがわざとらしく目を細める。
「“観察者モード”、公認ってことだね」
「ちょ、ちょっと……!」
スタッフルームに笑いが広がった。
だが、雨野チーフはすぐに仕事の声に戻す。
「さて──本題はここからだ」
全員の表情が引き締まった。
「コンセプト作りは、制作側でまとめる。椿さん、猫太P、岡、私……そして颯太。このメンバーで年内に会議を一度開く」
椿社長が俺を見る。
「颯太君の密着は、“メンバーの心の動き”をつかむ重要な役割です!彼らの“素のまま”を知っている人間は、颯太くんしかいません!」
「お、俺が……?」
「ええ。無理にまとめ上げる必要はありません!ただ、“光る瞬間”を拾ってきてほしいんです!!La♪Ra・RISE!らしさを見つけるために」
(俺の視点が……ユニットの未来につながる?)
胸の奥で、小さく炎が灯る。
俺はゆっくりと頷いた。
「……やります。みんなの“らしさ”を見逃さないように、ちゃんと見ます」
椿社長は微笑む。
「ありがとうございます!大晦日から始まる来年のステージに向けて、一緒に最初の準備を進めましょう」
窓の外では、雨がすっかり上がっていた。
薄い陽が射し込み、静かな朝が少しだけ明るくなる。
(8人の輝きの中心にあるもの──必ず、見つけてみせる)
俺は資料をそっと握りしめた。
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




