ep.1 俺が絶対に世界一のアイドルユニットにしてみせる
八月のある朝。
キャラランドのスタジオのドアを開けた瞬間、
もわっとした熱気と、マスコットたちのレッスン音が耳にぶつかってきた。
「にゃー!」
「がおー!」
……動物園かよ。
俺――伊藤颯太。
今はキャラランドのアルバイトであり、ついこの前オーディションを勝ち抜いた新しいアイドルユニットの“サブマネージャー”を任されている。
……といっても、実態は「マネージャー見習い」。
コピー取りとか雑用ばっかだし、コピー機の紙詰まりと毎日バトルしてる。
でも、俺はもう決めている。
「俺が絶対に、世界一のアイドルユニットにしてみせる」
そう心の中で呟いた瞬間、横から声が飛んできた。
「颯太。」
「お前が決意するのはいい。けどな、マネージャーってのは夢を語るより、メンバーの靴紐を結んでやる存在だ」
師匠であり、このユニットのメインマネージャー・岡さんだ。
その口ぶりは相変わらず冷静だけど、ちょっと呆れ顔。
「靴紐……ですか」
「そうだ。派手なことより、足元を支えるのが仕事だ」
なるほど。刺さるな。
でも正直、靴紐結んでる姿ばっか浮かんで、なんか俺の未来が地味すぎる。
――けど、確かにその通りだ。
俺は翔太や新メンバーをステージに立たせたい。
でも、その前にやるべきことが山ほどある。
去年の誕生日。
偶然スタジオで聴いた佐藤翔太の歌。
あのとき「こいつはもっと大きな場所に立てる」って確信した。
そっから始まったオーディション。
翔太に加えて七人、合計八人の新しいユニットが生まれた。
まだ名前すら決まってない。
でも俺には見えてる。――絶対に、世界一になる未来が。
そのために、夏休み返上で岡さんに付きっきり。
スケジュールの組み方、レッスンの流れ、スタッフ連絡の段取り……。
ミスひとつで全体の流れが止まるから、コピーを取る手も震える。
(コピー機に緊張感持ちすぎる高校生、俺くらいだろ)
そんなとき、岡さんが急に言った。
「颯太。お前、メンバー全員の性格、把握してるよな?」
「え……えっと……」
「おい」
うっ...痛いとこ突かれた。
正直、翔太以外はまだ遠い。オーディションで顔を見ただけ。
でも、岡さんは続ける。
「マネージャーにとって一番大事なのは、数字でも段取りでもない。メンバーを誰よりも理解することだ」
――そうか。
好きな食べ物も。
癖も。
緊張したときの反応も。
俺はまだ何も知らない。
でも、だからこそ知りたいと思った。これから知ろう、全部。
翔太と七人、そして俺。
この出会いは偶然かもしれない。
けど、俺はこの偶然を運命に変える。
「絶対に、世界一のアイドルユニットにしてみせる」
俺は再びその言葉を心に刻み、まだ名前のないユニットの未来を見据えた。
CHARALAND RISE!(キャラランド・ライズ!)第一章はこちらからご覧ください。
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