悪役令嬢カテリーナでございます。
書きたかった悪役令嬢です。
貴族社会の話は好きですが、圧倒的知識不足です。
おかしな所があるでしょうが、優しく細目で見て下さると嬉しいです。
私はカテリーナ・フランシラルド。
真っ赤なドレスにピンクベージュのコサージュを付けた私はパチクリと瞬きをした。
なぜか。それは頭から掛けられたワインが髪やヘアアクセサリー、ドレスを伝って床にポタポタと垂れているから。
床に滴るワインは美しく磨かれた床を汚し、他人事のように「あぁ……勿体ない美味しいワインだったのに……片付けも大変だわ……」と考えていた。
私は王城の舞踏会に招かれ、新調したドレスを身にまとい婚約者の腕に軽く腕をかけてエスコートされていた所だった。
楽しそうな話し声や笑い声、紳士達の穏やかな話に鳴り響く流行りの曲。
それに合わせて踊る人達は幸福そうだ。
それなのに、私はワインを頭から被っている。
なんの前振りもなく唐突に、目の前にいる男性に掛けられたのだ。
「…………………………は」
「カテリーナ!!…… 君、どういうつもりだい? 」
濡れたカテリーナの顔を婚約者のディノバルドが慌てて拭いた後、いつもより数段低い声で相手に話しかけた。
綺麗な銀色の髪に赤い瞳のディノバルドに合わせて赤いドレスに、シルバーのアクセサリーを用意したのにドレスは紫に染まってしまった。
それを無表情で見たあと顔を上げる。
「お前がマリアンに対してしていた事はわかっているんだぞ!! そんな奴が公爵家に名を連ねて良い訳がない!!」
そう言う男性の後ろには、ふっくらとした抱き心地の良さそうな女性が眉を下げて私を見ていた。
地肌が黒いので黒豚に見え…………失礼。
麗しい女性がうるうると瞳を潤ませ媚びていて実に気持ちが悪…………いいえ、女性らしいですね。
私はどちらかというと骨と皮で出来ていて抱き心地もあまり良くないから羨ましい限りです。
たまに勢い余って体当りをしてディノバルドに骨が刺さりウッ……と呻いているのを知っています。申し訳ない。
そんな私ですが、目の前の黒豚……マリアン様とは親しくしていない。
だから、正直した事と言われても見当もつかないのです。
そう、男性が言うには、どうやら学園生活の時のお話のようです。
「カテリーナ、入学おめでとう」
「ありがとう、ディー」
高等部に上がり初めての登校日。
私は真新しい制服に身を包んで校門前で止めた馬車から降りた。
傍らには婚約者のディノバルド・ティカラ公爵がいる。
彼は私の2つ上なのだが、中等部の時に不慮の事故によってお父様は帰らぬ人となった。
その為、ディノバルドが若き公爵となったのだ。
まだまだ幼い当時、父の弟が後ろ盾となり家を共に守ってくれていた。
父の弟のアルベールは未婚のダンディな人で、父に似てとても穏やかな人だった。
未婚のアルベールは元々ディノバルドの父を手助けするべく王城へと働きに出ながらもディノバルドの実家で共に過していた為、全幅の信頼をよせている。
幼い頃からの婚約者である私にも、とても良くしてくれるおじ様だ。
そんなアルベールおじ様に支えられ、今では立派な公爵としての仕事をしながら学生生活を謳歌している。
仕事は現在、アルベールおじ様に支えられながら行い、母のマリアベルにも助けられ公爵家は存続していた。
私の生家であるフランシラルドも公爵家で、カティラ家を支援し支えている。
そんな私達はとても仲が良く、ディノバルドは勿論、何故かアルベールおじ様にも溺愛という愛情を向けられている。
女は愛されて光る。
古くからの言葉で結婚する時、女は如何に愛されているかを見せつける言葉だ。
政略結婚の多いこの国で、幸せな夫婦を築ける為の先人達の言葉。
それに憧れる女性は多く、形式通りの対応しかしない婚約者にさめざめと泣く女性も多いのだ。
「…………うん、カテリーナとても綺麗。制服とっても似合っているよ」
「本当かしら? ありがとう」
「入学祝いにこれ、受け取ってくれるかい? 」
差し出されたのはシルバーのネックレスに、ストロベリークォーツの涙型のペンダントトップ。
ゴテゴテしく飾り立てた物ではなく、シンプルだが、宝石の輝きを際立たせるデザインだ。
「まぁ……とても素敵。貰っていいのかしら? 」
「勿論。私の色よりは薄いけど、優しい顔をしている君にはこれくらいの色が似合うんじゃないかな」
「ディー……ありがとう、嬉しいわ! 」
バッ! と抱きつき感謝を伝えると、ディノバルドからぐっ……と苦痛の籠った声が聞こえる。
「あら……………ごめんなさいディー……わたしの頑丈すぎる骨が……」
「君の骨まで愛しているから気にしなくていいよ」
「それは気にしないなんて無理じゃないかしら……骨……」
毎回全てを愛してる、骨も大好きと周囲を気にせず言うディノバルドは麗しい顔に笑みを浮かべるが、それもどうなのと私はいつも困惑する。
もう少し太れば良いのだけど、体質からか太れないのだ。
「カテリーナの新しい学園生活が楽しく過ごせますように……さぁ、行こうか」
額に甘やかな口付けを落としたディノバルドがカテリーナの手を引いて歩き出した。
赤らめた頬のまま額を抑えて睨むように見るが、ディノバルドは笑顔で私を見るだけ。
「ディー、ここは外で、更にはこれから通う学園の校門だわ」
「そうだね」
「だから! 見られてますの! 」
「見せたんだよ? 君に変な虫が付かないようにね」
「なんってはた迷惑な婚約者なのかしら!! 」
「でも、そんな私が好きだろう? 」
「その余裕ぶった笑顔が腹立たしいわ!! いつかカテリーナ様参りましたと言わせてみせるんだから!」
「ふふ、私はいつもカテリーナには負けているよ? 」
「まぁ! どの口がそんな事をいうのかしら! 減らず口だわ! 」
「じゃあ、塞いでみる? 君の可愛らしい唇で……」
「は……破廉恥ですわよ!! こんな……皆様がいる前で!! 」
「いなければいいのかな? 」
「ディー!! いい加減になさいませ!! 」
「ふふ……うん、ごめんね」
「そんな満面の笑みで言われても信用なんかしませんのよ! 聞いているのかしら! ディー!! 」
そんな賑やかに話をする2人を遠巻きに見る在校生達。
公爵であり、子息や令嬢よりもしっかりとした地位を持つディノバルドに敬意と畏怖が向けられる。
何かあった場合、公爵であるディノバルドはすぐさま手を打つ事が出来る。
数少ない高位貴族である公爵を敵に回す事は自殺行為だとわかっているからだ。
仲の良い人以外はどうしてもよそよそしくなる。
今が同じ学園の生徒だとしても。
こうして穏やかな学園生活が開始しました。
私としましては、特別変わらず楽しい生活をしてきたと思います。
友人にも恵まれて、婚約者のディノバルドとも関係は良好。
別段突っかかれる事案は無かったと思います。
「………………まあ、私、悪役令嬢だわ……」
ポツリと呟いた私の声は、誰にも聞かれる事無く消えていった。
ワインで汚された私は、今の衝撃で所謂前世というものを思い出したのだ。
呆然としたのもほんの数分で、今まさにいがみ合っているディノバルドと見知らぬ男性を止めるために手を伸ばした。
「ディー、ねぇ? 」
「カテリーナ、大丈夫。俺がちゃんと守るから」
「ええありがとう。嬉しいわ……嬉しいついでに着替えていいかしら。流石にワインに濡れてしまって困るわ。私まだ未成年だもの」
「……うん、カテリーナ。今心配するのはそこじゃないかな」
「あらまぁ」
首を傾げてから頷く。
スカートを広げると斑にワインが付いていて思わず笑った。
「ディー見て。地図みたいね」
「…………うん、そうだね」
うふふ、と笑った私がすぐ隣にいたボーイから同じワインをもらう。
そして、男性を見上げた。
「あなたも地図になってみます? ねぇ、こんな場所で女の子に恥をかかせるのだもの、嬉しい嬉しいと咽び泣いて受けますわよね? 」
ひくっ……と顔を引き攣らせる男性に私はにこやかに笑顔を浮かべた。
まさか、拒否するおつもりですか? と首を傾げると、この売女が!! と手を振りあげられる。
流石に体を硬直させて震えると、ディノバルドがすぐに助けてくれる。素敵な婚約者。
「…………まったく、とんだパーティーじゃないか」
「まったくですわね」
骨が目立つ体は入学から変わらず、3年たっても抱き締められたら強打させる威力を誇る。
だが、ディノバルドは癖になるよね! と変な性癖を開花させ、やっぱりカテリーナが1番だよ! と笑顔を浮かべていました。変態かしら。
そんな彼だから、私を離すことなく3年間大切に慈しみ関係を深めていった。
勿論、紳士淑女として羽目を外した関係を深める訳ではなく、節度を持って。
私に手を出そうとしたら、頑強な骨アタックが来る為ディノバルドは吹き飛ばされる事件が数回起きているのです。
骨最高と親指を立てるディノバルド。やっぱり変態かしら……と頬に手を当てて首を傾げた。
そんな波乱と穏やかさを含んだ甘い学生生活はとても楽しいものだった。
カテリーナ・フランシラルド。
それは今の私の名前であり『花咲く丘で貴方を愛する』というゲームに出てくる悪役令嬢の事。
艶やかな銀髪をグリグリと巻き、緑のパッチリとした目にぽってりとした唇。そして当たると痛い痩せた体。
それが悪役令嬢カテリーナだ。
そして、対照的に抱き心地の良さそうなふくよかな体を持つマリアン・ライセンスがヒロイン。
5人の攻略対象と1人の隠しキャラがいるゲームで、自らの豊満な体が癒し効果があり、家族や貴族世界等で疲れきった攻略対象を文字通りに体で癒す、もう意味がわからないゲームである。
何故か熱狂的なファンがいて、3作まで続いていた。
毎回ふくよかなヒロインと痩せすぎた悪役令嬢が出る。 それ、楽しいの??
マリアン、まるで黒豚よ……? いいの?
そして、痩せている悪役令嬢からは癒し効果どころか痛みしか貰えないと、ディノバルドルートでは婚約破棄をされるのだ。まさしく今、この瞬間に。
それをカテリーナである私は知っている。
なぜなら、私も以前はこのゲームをしていたから。
40歳未婚、仕事とゲームを生きがいにしてきた喪女の私が、今や公爵令嬢。ただし、悪役。
色々見たわ、婚約破棄される場面を。
でも……でも、私まったく関係ない人に婚約破棄を促されていませんか?
え、だれ? 関係者??
「…………婚約破棄ってことでしょうか? 」
「はぁ?! 何言ってるの?! 」
「今でも公爵家にあぐらをかいているだろう!!除名して平民になればいい!! 」
私の言葉を拾ったディノバルドは怒り、見知らぬ男性は平民になれとわめく。
だから、貴方だれ?
「あ……あの! カテリーナ様!! 私、謝っていただいたら許しますから! 貴族籍剥奪なんて……それはあまりにもカテリーナ様が可哀想です……」
「マリアン……なんて君は優しいんだ……」
手を取り見つめ合う2人をカテリーナは黙って見つめてからポツリと呟いた。
「………………なんだか2人の世界に入りましたね。一生出てこなくて構わないのでは? 」
「ぶふっ……カテリーナ大好き」
「あら、ありがとうございます……ところでいつ着替えていいのでしょうか」
「もういいんじゃない? 」
周りから注目され、普通の公爵令嬢だったら恥ずかしさに逃げ出したくなるかもしれない。
だが、常日頃から骨アタックを繰り出しディノバルドを牽制しつつイチャイチャし続けたカテリーナは、心臓に毛が生えているのではないか? という程に堂々としている。
ディノバルドと一緒に、すでに他の公爵家の当主と会話をしたり、お茶会に招かれているカテリーナは度胸だけはあった。
前世、婚活アドバイザーをし続けた経歴を持つカテリーナは奥様やお嬢様に大人気だし、年上の男性との会話もなんのそのである。
人となりを知られているカテリーナを、今会場内にいる人達が悪意を持って見る人はいない。
「カテリーナ! どうしたんだいその格好は……」
「まあ、おじ様! お久しぶりですわ」
美しいカーテシーをするカテリーナ。
ただし、ワイン濡れである。
ポタポタと床にワインが零れるのを見て、あ……と呟く。
「…………ところで私、いつ着替えたらいいですか? 」
ポワンとディノバルドの叔父であるアルベールを見ていたマリアンに聞くと、きゃっ! と悲鳴を上げた。
「怒らないで……こわい……」
「…………まあ、耳まで悪いのかしら……いい耳鼻科を紹介しますわね……」
「やめてカテリーナ……僕笑っちゃう……」
虐められヒロイン全開で頑張っているのだろうが、40歳まで生きた喪女を舐めてもらっては困ります。
しかも今は素敵な未来の夫がいるラブラブな私なのだ。
意味のわからない婚約破棄なんて丸めてポイです。
「あの!! 私カテリーナ様に意地悪されていて! いきなりぶつかられて転ばされたり!」
「まぁ……骨アタックしてましたか? 怪我してません? ディーですら打ち身になるの。女の子なら骨折りそうだわ……他人様の骨折るくらい丈夫なのかしら、私の骨」
「ぶふっ……カ……カテリーナ……」
「あ! あと、教科書燃やされたり!! 」
「……どこでかしら……教科書……あ!! これみよがしに教卓に端だけ焦げてる教科書があったあれですわね?! 意地悪なら消し炭にするのではなくて……? 」
ぐふっ……と違う場所から笑い声が漏れてきた。
「あ、あと!! 野犬に襲われましたわ!! 」
「まあ! それは危ないですわね!! この間チワワが野生化したと聞きましたわよ!! それかしら? 」
「……カテリーナ……それくらいに……」
「おじ様まで何笑っていますの? 」
わざとらしく首を傾げる。
そんな私にマリアンは泣き出し、男性が抱きしめると、ふくよかな体を抱き締める効果か、ポワンと顔をだらしなくさせる。
「……まあ、不細工……」
「ぶっ……カテリーナ! もうっ!! 」
「相変わらず笑い上戸ねぇ」
笑いが止まらないディノバルドの背中を優しく撫でた。私優しいわね。
「…………で、もういいかしら。そろそろ着替えを……」
「君はマリアンに謝らないか!! 」
「……はぁ、ごめんなさーい……もうよろしいかしら」
首を傾げて聞く。
どうでもいいから、もう着替えたい。
とにかく着替えたい。
「なんって……失礼なヤツなんだ……」
「まあ、ありがとうございます。もういいです?」
「このっ……」
「いいよカテリーナ、着替えてきて。後は俺と叔父上に任せて」
「ええ、ディー頼むわ。おじ様少し失礼致します」
「まかせておいで、可愛いカテリーナ」
頭を下げて微笑んでから会場を出ようとした時、数人の令嬢や夫人が自ら付き添いに来てくれた。
必死に吹き出しそうなのを煌めかしい扇子で顔を隠しているので、抜け出したい気持ちも強かったのだろう。
マリアンとしては、1番狙いたい隠しキャラであるアルベールを落としたかったのだが、出現条件を満たせず会えなかった。
ならばディノバルドを狙い親戚のアルベールに会う計画を立てたが、悪役令嬢で仲が悪い筈のカテリーナにベタ惚れで計画が尽く潰された。
その頃には他の攻略対象との絆も上げられず、何故か1番好感度が高いのがサポートキャラという意味がわからない状態になった。
悪役令嬢であるカテリーナからのイジメもなく、ならばイジメられてます私! を演出。
しかし、気にしてくれるのは最初だけだった。
野犬に襲われ、ゲームでは大怪我をしたはずの後半の山場では、チワワがキャンキャン虚勢を張ってるだけで、ぶるんッ! とお肉を揺らしたマリアンが、可愛いかよ!! と叫んで終わったのだった。なんで……なんでよ……と頭を抱えても誰も答えてはくれない。
そんな残念すぎる現状で、マリアンの希望通りにいくわけなどなく。
「公爵令嬢に除籍を促すとか、良いね君。とても面白いよ。あの子は次期公爵夫人だけど、それをわかっての発言だろう? 」
「うっ……も、もちろ……」
「くぉおらぁぁぁぁぁぁぁ!! お前なにをしてるんだぁぁぁぁあ」
強面のダンディが走ってきた。
綺麗に盛装をしているのに重戦車に見えるのは気のせいではないだろう。
このサポートキャラである伯爵令息の父親にして、騎士団の団長様だ。
凄まじい勢いで両頬を往復ビンタした父親、加減をしらない。
ぶっ飛ばされないのは胸ぐらを掴まれているからで、逃げられないサポートキャラな伯爵令息はぷっくりと頬を腫らせて意識を飛ばした。
「愚息の無礼をどうかお許しください!! コイツは責任を持って教育し直します!! まずは前線に……」
ダァン!! と額を床に打ち付けて謝罪する父親の姿にマリアンドン引き。
マリアンの両親もこの場にいて、ガクブルと震えながらマリアンの頭を掴んで頭を下げさせた。
「も……申し訳ありませ……」
すでに王すら来ているのに場はどんどんと混沌としていく。
誰も関わりたくなさそうな中、不運にも帰ってきてしまったカテリーナがガクリと肩を落とした。
「………………これ、どんな状況なんですの? 」
ちょうど着替えて戻ってきたら、また訳分からない状態。もう色々お腹いっぱいよ?
深く深くため息を吐いたけれども、だれも私を責めるなんてありませんよね? ね?
これは、残念すぎるヒロイン、マリアンがやらかした結果のラストだ。
カテリーナは相変わらず飛びついてくるディノバルドに骨アタックを繰り出しながらも、幸せな結婚生活を送るし、他の攻略対象も決められた婚約者と恙無く結婚をして家の為に切磋琢磨している。
こちらは全てハッピーエンドだ。
ゲームではサポートキャラに徹していた筈の伯爵令息は、父親の怒りに触れてからヒョロヒョロの体は鍛え抜かれ脳筋に成長。
数年後には期待の新人として騎士団に所属する。
そして、マリアンはというと。
「やだやだやだやだやだやだ! やーだぁぁぁぁ!! 」
「おぼっちゃま! お待ちくださ……ぶはぁぁぁ!! 」
「マリアンきらい!! 」
マリアンは、公爵家令嬢を陥れようとはしたが実際の害はなく、寧ろ公衆の面前で恥をさらす事になった。
だが、場所は王城で更に王家主催のパーティー。すべてを台無しにしたのだ。
このままお咎めなしとは勿論いかない。
その為、マリアンは雪深い辺境の地で辺境伯の子供の世話をする事となった。
夫人は既に他界していて、仕事に忙しく殆ど帰る事のない辺境伯の屋敷で我儘な幼子に振り回されている。
全てにおいて決定権は勿論無く、沢山いるメイドと同じ仕事をこなす日々。
綺麗に着飾り手入れされた髪や手は日に日に荒れていき、 素敵な攻略対象との夢のある結婚も勿論出来ず。
「…………私の人生どうなっちゃうの……」
誰にも見向きもされない、ただ身を粉にして働くマリアンは自らの不幸に咽び泣いた。
後に、マリアンより20歳歳上の子爵家に嫁入りし、やっと落ち着いた生活をする事になるが、それも10年以上後の落ち着いたマリアンへの縁談でようやくこの罰が終わるのだった。
「カテリーナ」
「はい」
「好きだよ」
「なんですか? 急に」
「君の全てが愛おしいなって」
「このゴツゴツとした骨も? 」
「チャームポイントじゃないか! 」
「……本当に変な人ね、貴方は」
「骨まで愛してるからね」
そう言って、自らの子を私から預かり抱き締める。
泣く幼子は、ディノバルドによってユラユラと揺らされ直ぐに眠りに陥った。
「…………やっぱり赤子に骨のベッドは痛いのね。私じゃ泣き止まないわ、本当に申し訳ないことよ」
「骨の……ベッド……」
ぶっふ! と笑うディノバルド。相変わらず笑いのツボが浅いわ……とディノバルドに言うと、涙を溜めた眼差しが私に向かう。
フルフルと腕が揺れるが、温かな小さな幼子は起きる事はない。
相変わらずカテリーナの細く骨ばった体を愛しているディノバルドと共に、今後も幸せな生活が続くのだろうと、私は娘を抱く夫を見て笑った。