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私は、この星の総統になるんだ!!  作者: メメロン
第一章 忘却界編
5/7

5 人が、道を作るのは。



ーーーーーー



次の国は大分遠いらしいが、それでも移動手段がないので仕方ない。車はリュウから駄目だと言われているし、バイクも乗れないとなるとメロンに残った選択肢は自転車しかなかった。


「ふつー車乗ってくか?私を置いて??ほっんとあり得ない!!!!」


砂漠を自転車で駆けるという暴挙を取ったメロンだが、脚力が脚力の為平然と出来てしまう。メロンは怒りのまま自転車を走らせた。


「青髪の魅力か!青髪の魅力に負けて車を出したな!!クソが!!」


そう悪態を吐きながら、でも青髪の魅力なら仕方ないのかとか、やっぱり私についてくる奴なんてとか、ぐるぐると考えてしまう。メロンは1人が苦手であった。


「…え?あ、いた!」


そんなネガティブ思考を打ち消すように、メロンの目に止まっている車が見えてきた。こんな砂漠に車なんて他にある訳がない。間違いなく自分達の乗ってきた車だと、メロンは安心と共に怒りのボルテージをあげる。もっと近づけば給油中だと分かった。早い段階で燃料切れになってくれて助かった。


「おい!!お前ら!!!!」


自転車を乗り捨てて3人のいるところに怒鳴って近づく。その怒鳴り声に3人は揃えて肩をびくつかせた。


「そこに正座しろ。」


自分でも思ったより低い声が出たな、とメロン思う。怒鳴り声の後に絶対零度の声を浴びせられた3人は黙ってその場に正座した。


「状況を説明しろ。」

「メロン、あの、ごめんなさい。怒らないで、お願い、い、色々あって、でももう誤解が解けたというか。」

「メロン君、すまなかった。頼むからその声色はやめてくれ。ゆ、ゆるしてくれないか。」

「ま、待って下さい。全て私が悪いので、説明は私がいたします!」


ご立腹のメロンにたじたじの3人がそれぞれ言い分を述べる。とりあえず意図して置いて行かれた訳では無さそうだったので、メロンは心中で安堵した。


「分かった。青髪、お前から説明を聞く。…えっと、そういえば名前は?私はメロン。」

「ウミ、と申します。あの、先程は大変な失礼をいたしました。お許し下さい。」


ウミ、と名乗った女性はメロンとの初対面を覚えていたようだ。メロンはもう過ぎたことなのでそこを咎める気はなかった。


「ん、ウミ、私の仲間になるか?」

「はい。メロン様が総統になるお手伝いを、私でよろしければ是非に。」


そう言って深く頭を下げるウミにメロンは満足した。ちゃんと目的を達成したミノルとリュウにもう怒っていないよというアピールで笑顔を振り撒く。

そこでやっとミノルとリュウはほっと安堵の息をついた。


「よし。ウミ、仲間相手に敬語はなしだ。私のことは…メーちゃんって呼んでよ!」

「わかりま、分かったわ。メーちゃん!」


メロンはウミに先ほどまでの怒気を感じさせないように、自分のことを態と茶化して紹介する。断られること前提の提案だったが、ウミにはあっさりと受け入れられた。ウミにメーちゃんと呼ばれて案外しっくりきたメロンは、このままいこうとウミの呼び掛けに頷く。


「よし、時間短縮だ。給油したらこのまま次の国に、、あれ?車なんか変わった??」


こうなった事情は移動中にでも聞こう、なんせ次の国遠いらしいし、と思って車に乗ろうとしてメロンは初めて車が大分装いを変えたことに気づく。


「すご、え、何?家?庭?」


まずデカさからして違った。初めの車の3倍はある。運転席と助手席は変わらないが、後部座席はなくなっており、代わりにそこから広々とした床があり、更には庭までついている。


「マジでちょっと見てない間に何があった?」

「えっと、車はリフォームしました。この方が長旅にいいと思って。あ、ちゃんとコンパクトにもなりますから、中界でも使えます。」


ウミがそう言ってボタンを押すと、確かに通常の車サイズまで形が戻る。メロンは自分の頭では到底理解できない細工に唸る。


「う、うぅん。や、理解を放棄する。とりあえずウミ、改造ありがとう。」

「いや、メーちゃんは総統になる人なんだから、乗る車もこれくらいでないと。あ、でも申し訳ないけれど、一度国に戻って父親に話を。」

「あ、悪い。もう貰ってくるって言ってある。」

「!!え、父は、なんて?あ、あと国はどうなって?」


ウミの疑問にメロンは先程まであった自身の事を伝える。ウミはそれらを聞いて涙を流した。国が平和に戻る事に涙し、また迷惑ばかりかけてきたから、父に愛されているなんて思っていなかったとウミはわんわんと泣き声をあげる。明らかな嬉し泣きは、メロンの心を温かくした。だが、何時迄も泣かせてもいられないとメロンは心を鬼にする。


「って事で、悪いけどこれはRTA。戻るつもりはない。次の国にいくぞ。」


非情なメロンの言葉に、それでもウミは不満なく頷くた。


「分かった。なら、一つだけ条件がある。」

「条件?言ってみろ。」

「10年じゃなく、7年よ!」


条件とは何を言われるのか、もしかしたらかぐや姫の如く無理難題を言われるのではと思ったメロンだったが、予想外の条件を言われた。しかも数字が微妙だ。


「えっと、なんで7年?」

「なんでって、それ以上は婚期を逃すじゃない!!」


どうやらウミ姫は強く結婚をご所望らしい。


「えっと、ウミ、いくつ?」

「今、25。7つ歳食ったら32よ。でも、私なら32でもきっと大丈夫。」


そう言ってウミは上品な笑顔を見せた。メロンはそれを見てウミなら幾つになっても貰い手つくだろと思ったが、まあ、本人の希望なので条件を呑むことにした。


「7年ね。了解。リュウ、給油終わった?」

「終わったが、、メロン君、7年でいけると思ってるのか?」

「うん。お前達もいるし大丈夫だ。ミノルも7年でいいよな?」

「うん。メロンの言う通りに。」

「ん、あとはリュウだけだよ。」

「分かった。7年でメロン君が総統になる様に尽力するよ。」


全員が納得した所で、メロンは先を急き、3人を車に乗せる。3人で予め決めていたのか、ウミはすぐに運転席に行ってエンジンを入れた。


「では、出発。」

「おー!」


ウミの出発の合図にメロンが掛け声を入れる。次の国を目指してまたRTAが始まった。




ーーーーーー




砂漠の中を大型車が勢いよく走る。ミノルがリュウに稽古をつけてもらっている音が後ろから響く中、メロンはウミから自分を置いて国を出ていた先程の事情を聞いていた。


「えっと、私が武器を作っていたのは知ってるよね?」

「うん。勿論。」

「それでその武器の備品を私は隣の国から買っていたの。でも、最近は国外に出れないとかで商品を売りに来てくれなくて。だから、隣の国に行けるだけの足が必要で。でも車なんて持ってないし。国の人のもの盗んだらすぐにバレちゃうだろうし。」

「あー、それで私達の車に目をつけたんだ。」

「そうなの。でも発進する段階でリュウとミノルに見つかって、でも車盗ったのを怒りに来たんじゃなくて私を仲間にしようとしてるって話して分かって、だから自分の首に刃物を突きつけて脅したの。車出してくれなきゃ、自殺するって。」

「それは強烈だね。で?」

「うん。それで車は出して貰えたんだけど、もっと色々話を聞けば、もうあの忌々しい王冠男は自分達が倒したなんて言うんだもん。初めは信じられなかったけど、私の作った武器を見せられて、それで本当に倒してくれたんだって知って。なら、私も隣の国にもう用ないなって、なんで隣の国目指してたかとか洗いざらい話して、そしたら相手も今どんな旅してるのか話してくれて、メーちゃんが総統になるための仲間になるって了承して、、丁度そこでガス欠して、給油したら戻ろうってなって、その時、どうせ止まってるんだから今の間にって、車をリフォームさせて、し終わった時にメーちゃんが来た。」

「それが全容か。」

「ごめんなさい。あの時は早くあれより強い武器を作らなきゃ私の所為なんだからって、そればかりが頭にあって。私が初めからもっと話を聞いていれば。」

「いいよ。結果的にはオールオッケー。あと、武器は結局どう使うかだよ。作った人が悪いなんて考えない!ウミは悪くないよ。そんなに思い詰めないで。」


メロンは3人の先程までの行動を把握し、一緒に居たかったなと少し悔しがる。絶対車のリフォームなんて楽しそうな会話だったろうに寄れなかったなと。でも、行動を分けたのは他でもない自分自身だ。そう、自分に言い聞かせつつ、メロンはウミに励ましの言葉をかける。

ウミはそのメロンの言葉に、目をうるうるとさせた。今にも泣き出しそうなウミを見てメロンは、今まで我慢したのだなとウミの心境を悟る。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫。メーちゃんが、大丈夫にしてくれたの。ありがとう。メーちゃんが旅をしてくれてなかったら、今頃、こんな穏やかな気持ちでいられてなかっただろうから。」


ウミはメロンを見て、涙腺をそのままに微笑んだ。メロンはその表情に、心臓を掴まれた感覚に陥る。女神って実現したんだと、メロンは奇妙な感想を抱いた。


「私、これを最後と決めて描くよ、メロン総統の国旗!でも、本人の意見を聞かなきゃね。何か案ある?」


あ、そうだった。すっかり武器職人を仲間にした気でいたけど、初めの目的は国旗を描いて貰うことだったっけ、とメロンは今更になって国旗の存在を思い出した。


「ちなみに、3人でいる時はどんな案が出たの?」

「んー、この星を丸ごと描くとか?でもほら、中心がどうのこうので揉める気がして。」

「あーそうだね。」

「結局、いい案出せなかったの。メーちゃん何かある?」

「…道標って、描ける?」


メロンが少し言いづらそうに話したその案にウミは驚いた。道標を国旗に描こうなんて今日日聞いたことがなかったからだ。


「それは、あの、道案内とかの?」

「うん。それ。デザインは任せるから。」

「……ん。分かった。」



道標、そう言われてウミはパッと描くものが頭に浮かんだ。先の見えない道をそれでも大丈夫だよと語りかけるように、道標はそっと自分を助け寄り添ってくれる。今の私でいう、メロンのように。ウミは一瞬、何考えてるんだろうと冷静になる。相手は10歳も年下の子供で、それなのに、メロンの方が道を示してくれるなんて、と。だが、ウミの想像の中のメロンは止まらない。ついてきてと。道標を携えて、こっちだよと言ってくる。その光景を鮮明にイメージできてしまったウミは、この時、初めて絵描きでよかったと思った。きっと、国旗というよりは絵画のようになるだろう。でも、それでいいのだとウミは思う。この旅には既存の道なんてないのだから。でも大丈夫。道標はちゃんとある。


「久しぶりだ。絵画を描きたい。」

「ん。なら、ミノルかリュウに運転変わって貰おうね。」


ウミの表情変化を真隣で見守ったメロンは、国旗の完成を待たずして口笛を吹いた。



ーーーーーー



「あれが次の国か!確か名前はカール国?」

「ああ。あれが忘却界最後の国だ。」

「オッケー。あそこで一段落ね。」


つい先日ウミが描きあげたあまりにも美しい国旗を掲げ、メロンはカール国を双眼鏡で眺める。この双眼鏡もウミが作った物らしく、使ってみると本当に遠くの物が近づいてクリアに見えた。メロンは神様は不平等だよなと改めて思う。ウミは天から2物も3物も与えられた存在だと、メロンはウミを少し羨んだ。


「忘却界を束ねて一段落か。メロン君の底は知れないな。」


先程メロンの質問に応答したリュウは、一段落と言われてツッコミを入れそうになった。忘却界を一つになんて、それそこ本来なら人生をかけなければいけないことを、こんなあっさりと、と思ってから、いやまだこれからだ左腕が気を抜くなと、リュウは緊褌一番に思い直す。


「ミノルは?」

「今ウミと一緒に寝てる。」

「へえ。」


ウミが国旗を不眠不休で描きあげたこと、ミノルもずっとハードトレーニングをしていたことを知っているメロンは、2人が眠っているのを確認して、もう少し寝かせてやるかと思う。


「リュウは寝たのか?」

「大丈夫だ。」


メロンはリュウのその返答には怪訝な表情を返した。メロンもつい先程まで寝ていて、起きて今だが、その間ずっとリュウは車を運転してくれていた。寝れている筈がない。


「車一旦停めよう。」

「メロン君、俺は元々そんなに寝れない体質なんだ。大丈夫だから。」


休息を勧めるメロンだが、リュウは首を横に振る。


「んー、なら、強引な手段を取るね。」

「え。」


そう言ってメロンは、リュウが何かを言う前にリュウの首にトンと手刀を入れた。


「さて、歩くか。」


強引に気絶させたリュウと、未だぐっすりのミノルとウミを、ウミが作ってくれた荷車に乗せてメロンは歩く。前回の反省を活かして、メロン的には丁度この辺りで車は降りる予定だったのだ。3人が並んでかわいい寝顔を見せるので、メロンはずっと眺めていたい欲求に駆られたが、なんとか前を向き歩く。

そしてメロンの予想通り、3人が起きた頃にはメロン達は国に到着していた。




ーーーーーー



「メロン!起こしてくれればよかったのに!そんな、総統に荷車引かせるなんて!」

「いい、いい。移動中は私ばかり暇してるからな。それより、ちゃんと強くなれてるかミノル?」

「う、うん多分。」



3人の中では初めに起きたミノルが、メロンが荷車を引いていた状況を見て畏れ多いと慌てふためく。メロンはそんなミノルを見て、精神的には変わらないなと笑う。だが、出会った頃からそんなに経っていないのに、身体は明らかに逞しくなった。


「ならいい。もっと強くなれ、ミノル。」

「うん!」


メロンの命令に、ミノルは頷く。メロンは小さく口笛を吹いた。


「で、確か国外に出れないとかなんとか。」

「うん。なんか、病気が蔓延してるとかで。」

「え゛。もしかして私危険行動取ってた?」


空気感染するウイルスなら無闇に近づかない方がよかった。国外出禁止理由を先に聞いておくべきだった、どうしようと焦るメロンをどうどうとミノルは落ち着ける。


「食中毒、って言ってたから。ここでご飯食べなければ大丈夫だよ。」

「そうか、よかった。」


仲間を危険に晒したわけではなかったと安心する一方で、総統としては迂闊な歩みをしたことを反省する。旅をする度反省ばかりだ、メロンはミノルにバレないように落ち込んだ。


「えっと、どこにこの国の主がいるんだろ?それらしい建物ないね。」


気を取り直して、メロンは国の本拠地を探す。だが、前の国のように分かりやすい建物は一切ない。


「うん。リュウもウミも国王知らないってさ。だから、ウミが探してた人を見つけてみない?」


場所も王様も分からないとなると八方塞がりだ。ミノルの提案にメロンは乗ることにした。


「ああ。機械部品売ってた人だよね?ウミが起きたらその人の特徴を。」

「おはよう。久しぶりによく寝たわ。」

「っ、あれ、俺運転して、、ここは?」

「お、2人ともおはよう!同時だね。もう次の国についたよ。」


丁度いい時に2人が起きたと、メロンはウミに商人の人相を聞く。リュウが睨んできた気がするが、無視だ無視。ちなみに、事情を知らないミノルは、総統を睨むとは何事だとリュウを叱っていた。


「本名は知らないの。私は普通にカールの武器商人さんって呼んでたわ。歳は50くらいかしら、男の人には珍しく花のピアスを。」

「ああ、そいつなら死んだよ。」


ウミの説明途中に、村人が割り込んできた。突然の訃報にウミは固まる。

メロンは情報通らしい村人をそのまま会話で捕まえる。


「死亡原因は食中毒か?」

「ああ。俺も、そろそろやばいよ。」

「……、この国の奴等全員食べたのか?」

「ああ。国では皆同じ物食べるからね。俺みたいな老人やあとは子供か、免疫力のない奴からくたばっていっている。あ、う、ぅ。」


すると、今の今迄喋っていた村人が苦しみ出した。腹を抑えて悶えている。


「お、お医者様は!?この国お医者様はどこにいるの!?」


ウミが村人に駆け寄り、身体を支えて医者の居所を聞く。だが、村人は首を振った。


「医者も、よく分からない、新種の、食中…毒、今、薬、作っ、でも、実験、たい、ない…しせつは、あそこ………………」

「…え、うそ、待って、ねえ、ねえ!!」



村人は説明の途中で事切れた。そのことが理解しきれずに、ウミはもう力が抜けてぐでんとした村人を何度も何度も必死に揺らす。


「ウミ、よせ。そいつは頑張った。もうそれ以上無体を働くな。」



メロンはそう言ってウミを遺体から引き剥がす。ウミは未だに目の前で死んだ人間がいることを頭が処理できないでいた。


「ミノル、リュウ、即席でいい、墓建ててやれるか?」


一方、メロンは冷静だった。また死人が出た

と、胸の中で黒いモヤが大きくなるが、忘却界での死人は日常だ。ウミはこの様子を見るに人を看取るのは初めてだったのだなと冷静沈着な分析を入れる程、メロンは平然としていた。

ミノルとリュウもそうだ。死人は何人も見てきたのだろう。墓を迷いなく建てて、手を合わせる。


「さて、話では実験体が足りないんだっけ?場所は教えて貰ったから、行ってくる。」

「メ、メーちゃん、行ってどうするの?」


ウミはなんとかショックから立ち直ったらしく、メロンに疑問をぶつける。その質問に、メロンは笑った。


「ちょっくら、実験体になってくる!」

「……な!」

「メロン、何を!」

「メロン君、なに言って!?」


その返答にはウミだけでなく、ミノルとリュウも驚きの声をあげた。だが、メロンは止まらない。


「3人は食中毒のない安全な食べ物、村の人達分集めといて。もうこれ以上、誰も死なせないから。」

「メロン、やめてくれ!っわかった実験体俺がするから!」


メロンが発言を撤回しないと解るとミノルはすぐさま代替案を提示した。メロンに実験体なんてさせられない、ミノルの心はその思いで一杯であった。だが、メロンはミノルの提案を即却下する。


「聞こえなかった?安全な食料確保をしろ。」


いつもは指示出し位の感覚でいるメロンだが、この時ばかりは命令のつもりで言う。ミノルにもそれが伝わったらしい。ミノルはもう一度開こうとした口を閉じた。


「返事が聞こえない。」

「…うん。わかった。」

「ミノルだけか?リュウとウミは?」

「…ああ。従うよ。」

「……了解、メーちゃん。」



ミノルだけでなくリュウとウミもメロンに返事を急かされてやっと了承を返した。本当に渋々だ。

それを見たメロンは自分を心配してくれる3人を愛おしく思った。


「大丈夫。私はヤワじゃないから実験体なんかで死なないよ。」


メロンは3人の心配顔を少しでも和らげようと微笑んでみせる。その顔を3人がどう捉えたのかまでは知らないが、引き留める声が出なかったので、メロンは先に進むことにした。


「じゃ、行ってくる。私の為に、食料ちゃんとよろしくね。」

「!!っうん!分かった!」



ミノルはメロンが最後に言い残していった言葉に反応して、キレのいい返事をよこす。その後、メロンのためだ絶対安全の食材を見つけるぞ、とリュウとウミを小さな身体を使って連れ出していた。

そのミノルの声を聞いていたメロンは、私の言葉は鶴の一声、ミノルの意見を180度反転させてしまう力あるらしい、ああ自分の力が恐ろしい、などとまた自意識過剰100%の思い込みをして口笛を吹く。しかし何時迄もいい気分には浸れない。

早々についてしまった医療施設にメロンは一度深呼吸を入れてから入った。




「……!誰だ!?」


外観から想像出来た通りの大きくも小さくもない一教室分位の部屋には、忘却界にあるはずもない医療器具がひしめき合っていた。そしてその部屋一体を化学薬品の異臭が覆う。狭いし暗いし匂うしで病みそうになるその部屋の奥からは男の声がする。

ノックもせずに入ったのだ。反応は概ね予想通り。だが、予想とは違い、白衣を着た者は誰も居らず、しかも人数も1人だけだった。というか、白衣を腰に巻いてるよ、この人。

絶対違う白衣の使い方をしている男にメロンは呆れる。


「あれ?食中毒医療の最先端はここじゃない?えっとお邪魔しました。」


あまり迷子になったことのないメロンだが、どうやら今回は間違えたらしいと、メロンはすっとぼけた様子を見せて早々にその場を離脱しようとする。その動きを止めたのは中にいた男だ。


「合ってる!合ってるが。まだ薬が出来てないんだ。死ぬな、耐えろよ嬢ちゃん。」


どうやらここを立ち去るイコールで命を諦めたと男に思われたらしい。そういうつもりではなかったのだと言い訳をする為、メロンはこの時初めてしっかりと男の方を見た。


緑の髪をした、中性よりの顔立ちの男だ。身長はウミよりは少し高い位か、男性で言えば平均身長だろう。薄っぺらな体格のせいもあって、声さえ聞かなければワンチャンモデル体型の女だと勘違いされそうな見た目をしている。寝れていないのか隈が酷く、目のハイライトがない。体調が芳しくないであろう相手だと歳が幾つか推測出来ないとメロンは困った。


「えっと、私は実験体になる為に来たんだ。お前が医者なら存分に私を使え。」


いきなりそんなことをいうメロンに、緑髪は困惑した。だが、時間がない中で長尺な駆け引きはしていられない。


「いいから!私は普通の人間じゃないから!どう扱ったって寿命までは死なないモンスターみたいなもんだ!皆を助けたいんだろう!?私だってこれ以上人が死ぬのを見たくないんだ!私で薬を試せ!これは命令だ!!!」



捲し立ててみて、それでも何もしない緑髪に焦れたメロンは近くにあったメスで自分の腹を掻っ捌いた。


「!!!!??????」

「毒なら食べてきた!医療はよく分かんないけど、身体の反応が見たいならこのまま実験したっていい!麻酔なんていらねーから!」

「分かった!分かったから!血は逆に邪魔だ、ちゃんと拭け!あとはそこに横になっとけ!容赦しない!」


やっと動き始めた緑髪に、メロンはよしよしと微笑んだ。


「ねえ、他の医者は?」

「俺以外は年寄りばっかでね、皆先に逝っちまった。薬の候補は出来たんだが、人間に打つと何故か死んじまう。そのせいで皆ここに寄り付かなくなっちまった。潜伏期間を余生として過ごすらしい。」

「マウス実験とかするんだっけ?」

「実験用マウスが忘却界にいるとでも?」

「へー、あなたここの生まれじゃないんだ。」

「いや、ここの生まれだ。私に医術を教え込んだ年寄り共が中界出身なだけで。」

「ふうん。ならこの医療器具もその人達が?」

「まあ、隣の国の機械技師の腕あってのものだがな。設計は年寄り共だ。」

「両親は。」

「いない。力の強いやつに逆らって俺の物心がつく前に殺されたよ。」

「その力強い奴らは?」

「国の食べ物に1番先に手をつけるのはあいつらだ。摂取量も多かったからだと思うけど、今は全員漏れなく死んでるよ。」

「なら、この国を地域にする為には生き残りを全員集めて説き伏せる必要があるな。」

「?なんの話だ?」

「んー、あとで話す。」


緑髪は話している間もテキパキと作業を続けている。メロンは自分には理解出来ない作業だと早くも観察を諦めていた。


「そっか。お前、親代わりのおじいさん達失って村人の協力もなしに、それでも1人で頑張って薬作ってたのか。偉いな。」


メロンは状況の全てが分かって自分なりの感想を述べた。それが労いのつもりもなかった。

だが、メロンの言葉に緑髪はポロポロと涙を流し出した。ああ、限界だったんだなと、メロンはその涙で察する。


「痩けてるな、隈も酷い。睡眠は?食事は?ちゃんとしてるのか?」

「……なにも。なにも出来てない。年寄り共死んだ日から寝れなくて、食事でこれ以上毒取れば俺もさっさとお陀仏出来るかもって思っても、まだ国に生き残りがいるなら、せめて救ってから死にたいって。」

「お前、死にたいのか。薬は自分用を兼ねてないのか?」

「ああ。俺はもういい。」

「ダメだ。」

「!な、んで初対面のやつにそんなこと決められなきゃいけないんだ。」

「もう、仲間にするって決めたから。」

「な、仲間?」

「説明はあとでしようと思ってたんだけど、この後死ぬつもりなら話は別だ。いいか、私はこの星の総統を目指している。総統の道には仲間が必要だ。お前、私の仲間になれ!」

「???えっと、あの、俺達今毒に侵されてること知って言ってんのか?」

「それはお前の薬が間に合うから大丈夫。」

「お前、それなんの根拠があって!」


緑髪はメロンに怒鳴りかかった。話を聞いてくれたと思ったら、死ぬ事は否定され、おまけに訳の分からないことを言われたので血管がブチギレた。

だが、そんな緑髪に対してメロンは当たり前のように言った。


「お前が根拠だ。ここで孤独に耐えて薬を作り続けた、お前が根拠だ。」

「……っつ!!」


医療を何も知らない癖に、現実はお前の思ってるよりきっと残酷で、薬が間に合わずに死んだ人が実際に何人も、そんなの根拠でもなんでもない!…と緑髪はその思いの丈を全てぶつけようとして、言えなかった。メロンの目を見て震えて口を閉じた。

あまりにも澄んだ美しい薄茶が、光に照らされて黄にも緑にも変わる。その目は自分よりも現実を見てきた者の目で、その目が自分を信じて疑っていなかったから。緑髪は震えた、武者震いだった。


「……次の薬に移る。」

「ん、よろしくね、ドクター。」


薬はそこから1日もかからずに作られ、残った国民全員に行き渡り、結果国を救う事となった。


ーーーーーー



「つまり、一概に食中毒と言っても原因はウイルスであったり寄生虫であったりと様々な訳で、でもその大体の潜伏期間は長くても10日がいいとこだ。だが、今回のケースはウイルス自体が進化を遂げて……聞いてるか?」

「いや、全く。」


緑髪の長尺な説明の途中で挟まれた理解確認をメロンはあっさり切り捨てる。元々難解な話は苦手なメロンだが、いつもは一応聞こうと努力をする。しかし、今回はそんな気も起きない位には疲労していた。そして、疲労しているのはメロンだけではない。丸テーブルに等間隔に座るミノル、リュウ、ウミもメロン同様ぐったりしている。そんな中、ホワイトボードの前に立ち今回の原因菌の話をする緑髪は怪訝そうに言った。


「なんでお前ら俺よりふらふらなんだ?」

「いやお前がおかしいんだろか!!!」


メロンは渾身を振り絞ってツッコミをしながら、頭の中でここ数日を回想した。

薬が出来た時はそれはそれは喜んだ。緑髪が言うには毒耐性を持つ自分の身体が大いに役立ったらしく凄く礼を言われた。仲間にも製薬成功を喜ばれて、、そこまでは良かった。問題はそれからだ。薬が出来た事を報せても一向にこちらに来ない患者達を、メロンは仕方無しに自分から出向いてまず1人薬を打って治してやった。そうなったらもう国中でメロンの取り合いになった。両腕を逆方向に引っ張られ、折角借りた白衣も両側から引き裂かれて、メロンの体も含めて場がひっちゃかめっちゃか。メロンも相手が敵なら張り倒すが村人相手にはそういう訳にもいかず、順番にと何度も声をあげるが、命がかかっている状況で順番待ちなどできる筈もない。

最終的には仲間の助けもあってなんとか列を作って貰うことには成功したが、その時にはもう動くのが億劫になっていた。それなのに、注射が怖いと泣く子を諌めて、治った途端に院内を走り回る子を抑えて、老人の歩行の手助けをして、ついでだと他の病気も診てもらおうとする奴を一旦突き返し、腹の子に影響はないか泣きながら確認する者には拙いながらも実験成功の説明を入れ、大丈夫だとなんとか納得して貰い、、いつもの苦労とはまた違う辛苦を嘗めたメロンは、薬が行き渡るなりぶっ倒れた。

その為薬を配っていたここ数日、仲間達が何をしていたのかすらメロンは知らない。目の前のことで頭が一杯一杯だったのだ。でも今の様子を見るに皆も似た様な仕事をしていたんだろうなぁとメロンは思った。


この会議室の様な一室に皆を集めたのはメロンではなく、緑髪だ。メロンは頭を軽く叩かれて起こされたと思ったら、お礼がしたい、その前にまず今回の騒動の原因になった菌の説明を聞いてくれ、と有無を言わさずここに連れて来られた。そこで同じ様に連れられてきたのだろう仲間の3人の顔を見て、メロンは少しだけSAN値が回復した。しかし、その後から始まる怒涛の専門用語の羅列にせめてもっと分かりやすくとミノルが言って、用語解説が始まって……もう数時間経つ。緑髪だって3時間も寝ていない筈なのにこの元気はどっから湧いてくるんだろうとメロンは疑問を通り越して呆れていた。


「お前、疲れてないのか?」

「ああ。久しぶりのノンレム睡眠で快調だ。」

「ああ、そう。」


どうやら医療関係者にとってあのドタバタは日常らしい。メロンは医療に従事しているすべての人に感謝し、尊敬の念を抱いた。


「俺は聞いてるから説明続けてくれ、緑髪。」


ミノルはそう言ってぐったりしながらもメモを取っている。何にでも熱心なミノルとは対照的にメロンはもういいと冷めていた。ミノルの頑張りに口笛を吹く元気も残っていない。


「緑髪とは心外な。俺には年寄り共に貰ったコスモっていう名前がある。」

「あれ?名付けもじいさん達なの?」

「ああ。両親が考えてきた名前が酷すぎたから候補の中で1番マシなのを選んだって言ってた。」


物心つく前に亡くなったとはいえ、名付けは親だろうと思っていたメロンの考えは否定された。緑髪の全てはじいさん達だったのだなとメロンは改めて思い、その全てを失っても今ここに生きていてくれることをメロンは嬉しく思った。さて、コスモでマシとは他候補が気になるところだが、そんな雑談よりメロンはやらなければいけないことがある。勧誘だ。


「コスモ、私の仲間になれ。」

「ん、いいよ。ただし、俺は医者だ。その知識使って毒作れとかいう命令なんかはお断りだぜ。」

「そんなこと億が一にもねーよ。よし、皆この国も一つの地域にしてさっさと先行くぞ!!」


あっさり得た了承を聞いて、メロンの疲労はどこ吹く風で飛んでいった。勧誘は済んだ、次は統一、早いに越した事はないとメロンは勢いよく立ち上がり、まだぐったりしたままのリュウに尋ねる。


「この国の人達説得するいい案をくれ、リュウ。」

「…ああ、それなら大丈夫。もう済んだ。」

「?もう済んだ?」


予想外の言葉にメロンはそのまま聞き返す。リュウは不思議そうにするメロンを見て、メロン自身が自分の功績に気づいていないのだと知る。


「治らないと思われていた病気の薬を持って来た時点でメロン君は救世主扱いだったよ。あとメロン君が倒れた後に俺達で村人に配給をしたんだが、それが食中毒以来のまともな食事だったらしくいたく感動された。で、その時に恩に着せるようにここを地域にって約束させた。」

「恩に着せるって、リュウそれは。」

「誓って無理矢理ではないよ。疑うならミノルやウミにも聞いてくれ。」


疑っている訳ではないが、そう思いながらもメロンはウミにチラリと視線をやる。ウミはメロンを見て天使のように微笑んだ。メロンは美人の笑みに気を遣りそうになって慌てて目を逸らす。


「あれ?ならもう忘却界は終了?」

「まあ、最後の門番が残っているが。」


メロンの言葉にそう肯定を返したリュウ。それを聞いたメロンは安心した。


「門番くらい、私が1人で相手してやるよ。任せとけ。よし、皆行くぞ!」



優秀な仲間に恵まれた。自分が呑気にも気を失っている内にもうこの国は地域になったらしい。メロンはその様子を自身の目で見れなかったことを少し悔やんだが、自分達がしているのはRTA。早いに越したことはないのだ。まだメモに齧り付くミノルを服の襟掴んで立たせ、新たに仲間になったコスモにメロンは手を伸ばす。



「ほら、折角だ。じいさん達の故郷も見に行こう!」



メロンに言われた言葉に、コスモは固まった。コスモは中界の話をしていた年寄り共を思い出す。上界のせいでおかしくなったが、いい国だったんだとあまり見ない笑顔で話す今は亡き年寄り共を思い出し、コスモはまた涙しそうになった。

一方、メロンは直立不動のコスモを見て、もしかしてマズイことを言ったのかと不安になった。


「コスモ、私が何かしたなら言ってくれ。私が総統になるのはそうだが、仲間としては対等だ。」

「いや、、もう一度あの故郷に戻りたいっつてた年寄り共を思い出した。俺、年寄り共のいた国に行けるのか……うん、これからよろしくな、メーロン、皆!」


メロンはその時、自分の呼ばれ方を疑問に思ったが、まあいいかと流した。この地域唯一の医者を連れて行くことについてはウミの地域から医者の派遣があるらしい。そんな事すらもう決まってるなんておんぶに抱っこだ。未来の総統が不甲斐ない。メロンは皆に謝ると、皆は揃って首を横に振った。



「見てよ、メロン。あれがこの地域の総意だよ!」


旅立ちの前、ミノルにそう言われたメロンは塞ぎ込んで下を向いていた顔を前に向ける。すると、村人達が左右に分かれ、メロン達の通る道を作って待ってくれていた。


「ありがとうーーーーーー!!」

「あんたはこの国、いや地域の恩人だー!」

「遠いところから俺達のこと救いに来てくれた救世主様に幸運をー!」

「楽しみにしてるぞ、メーロン総統ー!」


メロンは思う、ああ、なんて幸せな道なんだろうと。

亡くなった者がいることを知っている、そうでなくても、地獄の様な思いをしただろう村人達は、それでもメロン達を応援してくれている。


「おう!任せろ!」


メロンは村人達に力強く宣言し、手を振り挨拶を返した。ありがとう、と小さく漏らした感謝を、仲間達は聞き逃さなかった。




ーーーーーー



祝福の道を知っているだろうか。それは人で出来た道だ。皆の協力なしでは出来ないその道は、明日への希望で満ちている。


また、一つ地域が出来た。終わりを迎える前に希望を見出せた地域だ。


その人々の声援は止まない。



ーーーーーー






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