3 間道はなしだ!王道を行け!
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赤の国を旅立ったメロン、ミノル、リュウは、次の国を目指して砂漠の中を車で暴走していた。
道中でメロンは説明を入れる。
「ソウトウ、ってなんだ?」
「ああ、総統っていうのはな、もう死んだ言葉なんだが。兎に角国のトップを指す言葉らしい。」
「そうか。メロン君には赤の国は小さ過ぎたな。で、どこの国のトップになりたいんだ?もしかして1番上界か?」
「上界?よく分からないが、私はこの星の全てを一つの国にしてそこの総統になるんだ。」
「……マジか。思ったよりクレイジーな奴について来てしまった。」
やっと自分が何の仲間に選ばれたかを知り、無謀だろうと貶す理性が半分、光栄だと思ってしまう本能が半分。リュウは35歳にもなって、15の少女の言葉に胸が躍っていた。
「でも、あれだな。俺は道半ばでの脱落になるだろうな。」
「?何でだ?私がしたいのは総統タイムアタックだぞ?」
総統タイムアタック。誰も聞いた事のないパワーワードを当然ご存知だよなという様にメロンは言った。リュウはそれに引いた。
「誰も成し遂げた事のないものをしかもRTAするつもりか?思考から化け物染みてるな。」
「ダメか?」
「でも、それならあれか?抜け道とか使うのか?」
「……抜け道?上界といい、本当に何の話だ?」
メロンは知らないワードが頻発することに少し剥れた。相手が一回り歳上なので教えを乞うことの方が多いのは承知していたつもりだが、それにしてもこれはない、とメロンは自分の無知を棚に上げて両頬を膨らませる。
「教える。教えるからそう不機嫌にならんでくれメロン君。」
リュウは、メロンのことをメロン君と呼ぶことに決めたらしい。初めて出会った時から、リュウはメロンを君と呼んでいたし、ある地方では君主、という言葉もあると伝えると、メロンは仲間同士での敬語はとブツクサ言った後に、ならメロン君で、と自分の呼び名を決めていて、リュウは大人しくそれに従って今がある。
メロン君、と2回呼ばれたので確定だとメロンは気を良くして短く口笛を吹いた。
「えーと、紙とペンあるか。」
「これ使って。あと、俺にも説明して。」
ミノルがリュウの要望通り紙とペンを渡すと、リュウは器用にも運転しながら絵を描く。
描いたのはこの星だろう、まん丸の円に何故か横に二つの線が入っている。
「んじゃ説明な。この星は上界、中界、下界の3界層に分かれてる。上界はこの星の支配層達がいる世界だ。こいつらの一言で世の中が右往左往する。」
そう言いながら、リュウは三分割した1番上を塗り潰す。
「次に中界、上界に献金なんかを行う代わりに平穏を得ている界だ。」
そう言ってリュウは次は真ん中を塗り潰す。
「最後に下界、俺も詳しく知らないが最近は専ら戦争ばっからしい。」
そう言って1番下を塗り潰され、メロンは疑問を口にした。
「ここは?」
そう、今私達のいる場所はそれの何処に当たるのか。それが分からずに質問すると、リュウは首を横に振った。
「ない、ことになっている。」
「……ない?」
「ああ、ここは下界の更に下、存在を知るものは忘却界と呼ぶ。世界の闇に葬りたい事柄は全てここに持って来られる。俺がそうだったように。」
「へぇ。それって聞いていいの?」
「未来の総統様に隠し事はなし、それがミノルとの男の約束だ。」
「おい、その男の約束とやらを知らねーんだけど!?」
メロンはリュウの隣で助手席に座るミノルを見る。ミノルは車を運転出来ずにメロンの命令を聞けなかったことが嫌で、もうこの場で車の運転を覚えるつもりでリュウに色々教わっていた。メモ帳は既に文字で埋まっている。
「聞いてくれてたら答えたよ。」
「くっそ、次からは何があったか逐一聞いてやる!覚えてろよ!」
「うん!」
ミノルはメロンに笑顔を返した。まるでこれで俺も構って貰えるみたいな顔をしており、あれ、もしかしなくても私策略にハマったか?とメロンは心で独りごちる。
「で、昔話はお前らの倍の年齢生きてる分ちと長くなるぞ。RTAを目指してるなら、他に聞いといた方がいい事が山程ある。」
「……お前がどの層から来たのかだけ話せ。」
「中界だ。…なら、話を進めるぞ。」
リュウは、本当に色々な事を知っていた。
忘却界は上界のものですら中がどうなっているのか知れないこと。
忘却界には法律がないこと。でも、他の3界も法律なんて最早ガワだけなこと。
忘却界から下界に行きたければ、最強の門番と恐れられる2人を倒して行かなければならないこと。
「で、さっき言ってた抜け道ってなんだ?」
「簡単だ。上界の人間と結婚でもして繋がって、」
「却下。」
「まあ、そうだろうな。俺も、そんな総統様は嫌だ。でも、今の説明を聞いて分かるだろう?メロン君はまだしも、俺の年齢じゃあな。」
「リュウ、大丈夫だ。50歳まで生きろ。お前はもう私の左腕だ。お前が生きている間に、タイムアタック終わらせる。」
メロンは自らリミットを設定した。そんなに上手くいくはずないだろうに、メロンを前にするとそういう否定の言葉こそ寧ろ戯言にされてしまいそうだとリュウは思う。
「頼もしいなぁ。」
リュウは、心中で過去を振り返る。貴族に擦り寄る事を辞めない国の中の、何の権力もない家に生まれて散々だった日々を思い出す。子供の頃はまだ暴力に屈していたし、俺の知らない何かがあると思っていた。でも違った。理由はなかった。
何で自分よりも力のない奴相手に頭を下げる必要がある、何を根拠にあいつらはふんぞり返ってる、謂れのない暴力が何故罷り通る。
その全てが分からずにヤンチャして貴族共を黙らせたが、それが上界の人間に伝わったらしく、圧死が出る量の人海戦術をされた。仲間がまた1人1人と死んでいって、メロン達がNo.2と呼んでいたあいつが死にかけたところで俺はやっと頭を下げた。
生きさせてくれと頭を下げた。
それで30歳の時、残った仲間と共にこの忘却界に落とされたのだ。
今なら思う、子供の頃暴力に屈していた時点で俺は器ではなかったのだと。でも、だからといって俺より強い奴がいたかどうかと言われると不明だ。
ふと、そういえばとリュウは気付く。自分が50歳という事は、メロンは15年を見越してる。メロンの年に15を足すと、丁度30歳、リュウがここに落とされた歳と同じになる。
俺が1番下に落ちたその年齢で、君は1番上にいるんだな、とリュウは思った。
本来は嫉妬でもするのが正しいのだろうか、でもメロンが総統となり国を纏め上げる姿は何故か簡単に想像出来て、嫉妬も起きない。
その想像の中のメロンが言った。早く来てよ私の左腕、と。
「ああ。」
「?どうした?」
「いや、何でもない。えっと、忘却界の国の数だっけ?」
少しトリップしていたリュウを見てメロンは奇妙だと思ったが、それ以上突っ込みはしなかった。
「ああ。いくつある?」
「そうだな。あと2つ、そこさえ治めたら忘却界は攻略だろう。」
「え、そんなに少ないの?」
「細かな国ならいくつもあるが、そのどれもが国と名乗らずにどちらかの旗を掲げているから、大丈夫だ。」
「旗?」
「……まさか、国旗も知らないのか?」
そう言われて、メロンはごめんと呟いた。すかさず、ミノルがフォローに入る。
「いや、知らない事あんのは当たり前。今のはリュウが悪い。メロンに謝れ。」
「ごめん、メロン君。」
「ん、いいよ。」
リュウが素直に謝ると、メロンはその謝罪を受け入れた。メロン自身、リュウの言い方について特に気になるところは無かったが、ミノルがフォローしてくれたという事実が嬉しかったのでそうなった。リュウのかわいい"ごめん"を聞けたのも私得である。
「で、国旗はミノルも知ってるの?」
「うん。って言っても俺も赤の国の国旗しか見た事ない。しかも、ただの赤一色だし。」
「考えるのが面倒でな。メロン君、国旗っていうのは、文字通り国の旗だ。私達はこの国だと他の人が見て分かるように分かりやすい所に旗を掲げるんだ。」
「ふぅん。なら、アイデア出しといて。」
「うん。」
「いやいやいや、ちょっと待て、ミノルも簡単にうんって言うんじゃない!俺は適当でも良かったが、メロン君は総統になるんだぞ?この星の全ての人が君の国旗を掲げるんだ!デザインとかはちゃんとした方がいい!」
リュウは珍しく声を上げた。それを聞いて、メロンとミノルは、リュウがメロン総統をちゃんと現実的に考えていることを知る。
「そっか。ミノル、今のナシ。」
「うん。」
「でも、そうだなぁ。デザインかぁ。誰かいい人いない?」
「……次の国にもしかしたらいるかも知れない。絵画の天才が。」
「!すごい。そんなことまで知ってるの?」
「もしかしたら、だ。期待はするな。」
期待はするなと言いつつ、1番期待しているのはリュウの様に見える。メロンはそんなリュウを見て、根拠があるんだろうなぁと考えた。
「で、実際のところ期待値どれくらいなんだ?」
ミノルもリュウを見て同じ事を思ったらしく、再度の確認を行う。
「…半信半疑。」
「まさかその表現で50%って言いたいなら言葉変えた方がいいよ?」
何で色々表現ある中でそれを選択した?とメロンは勢いでツッコミを入れてしまった。ただ、そうメロンにツッコまれた後でさえ、リュウは表現に悩んでいる。
「……情報の出所が分からないから、ただの噂だ。中界と上界の人間達の間で、一時期、ある画家が話題になった。俺も一度絵を見た事があるが、あれは努力だけでは辿り着けないレベルだと素人ながらに思った。その画家だが、どうやら他に夢があったらしく、絵はもう描かないと言ったそうだ。中界の連中はまだしも、上界の連中から催促されても、その画家は絵を描くことをしなかったらしい。」
「……もしかしてそれで?」
ミノルの問いにリュウは頷く。最低だ、とミノルは呟いた。
「噂じゃ上界の人間に消されたって話だけど、俺みたいにこの忘却界に落とされている可能性は大いにある。こっちに落とされてから、初めは右も左も分からずに仲間と散会して情報を持ち寄ったが、青い髪が綺麗な女なんてそうそういるもんじゃねえ。」
「へぇ、女の子なんだ。」
メロンにとって画家のイメージは男だった。メロンは絵に興味なんてないが、同性が描く絵は少し気になる。
「あ、運転変わって。イメトレ完璧だから!」
「おいおい、有難いがまだやめとけよ。せめてメロン君が乗ってない時に2人で。」
ミノルが会話に一旦の区切りを入れた。どうやら初運転を試みるようだ。メロンはミノルのやる気を買う事にする。
「リュウ、いい。ミノルに変われ。」
「…了解。」
メロンは指示出し位の感覚で言葉を発する。だが、ミノルやリュウはどう考えてもそれを命令として捉えている。メロンはその事に気づかない。やけにあっさり私の言う事聞いてくれるんだなぁ、とメロンは思った。
「ミノル、いざの時は私が助けてやるから、スピードちゃんと出せよ!」
「うん!」
「いや、待て!頼む!初めてでスピードは出すなぁ〜〜!!!!」
その後、400キロの爽快感が忘れられず強請るメロンに、2人は勘弁して下さいと許しを乞うのだった。
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以下、400キロ回想。
「ねえ、ミノル、今何キロ?」
「80キロ。なあ、リュウ、俺運転出来てるだろ?」
「まあ、ここは何もないからな。本当ならさっき説明した標識やらがあったり、細い道があったりするんだからな?」
「うーい。で、メロンは乗り心地どうだ?」
「うん。いい。でも、スピードでないの?リュウはもっと速かったよ?」
「じゃあ、……どう?120キロ。」
「えー、もっともっと。」
「ん〜、今180。」
「まだまだ。」
「……あー220?」
「もっとって言ってるじゃん!」
「っ、ごめ、……どう?300。」
「足りないよ〜。」
「おい、これ以上はやめとけ!」
「でも、だって、メロンが。」
「ミノル、どんなことがあっても私が助けるって誓うよ。一旦、ペダルを全部踏んでみて。」
「う、うん。」
「おい、事故りたいのか!?」
「ちゃんとリュウのことも助けるよ。」
「スッゲェ自信だな!っう、お!」
「キャアーー!すごいすごい!!ねえ、ミノル、今何キロ!?」
「よ、400キロ…!」
「ずっとそのままいて!」
「スピード落とせ!!!!」
「ごめん、メロン!!」
「あーあ、終わっちゃった。リュウが落とせなんて言うから。」
「絶対に俺は間違ってない!おい、ミノル、いくらメロン君の言った事でももうあれはやめろ!」
「う、、メロン、怒ってる?」
「え、何で?ミノル、ありがとう!運転上手だね!」
「!う、嬉しい!」
「ねえ、もう一回さっきのして!」
「え゛」
「おいメロン君。流石にあれはもうない。諦めろ。」
「えー、リュウはあれ出来ないんだ。」
「悪いが煽られてもしないものはしない!ミノルもしないからな!」
「んー、分かった。なら運転変わって。」
「!!た、頼む、やめてくれ!!!」
「メロン、総統は運転なんてしないよ!」
「なんで?運転なんて難しそうだからやる気にならなかったけど、そのペダル踏めばいいんでしょう?私にも出来るよ!」
「出来る出来ないの問題じゃなくて、メロンの役割かどうかの話だよ!」
「いや、待てミノルも論点ズレてる!!メロン君、君ペダルベタ踏みするつもりだろう!?」
「うん。でも大丈夫。万が一なにかあっても、2人には怪我一つさせないから。」
「!メロンカッコいい!うん、それなら。」
「待て、ミノル。本当にいいのか!?」
「え、なんで。」
「ミノル、折角運転覚えたのに、メロン君に褒めて貰えなくなるぞ!」
「でも、メロンがしたいんだったら。」
「メロン君が運転するとあの400キロを毎日体感する事になるぞ。身は持つか?」
「……、無理です。」
「だろう!?」
「あの、メロン。俺からもお願い。あれはもういや。」
「……ミノルはなにも悪くない、、、調子乗ってすみませんでした!!」