2 始めの道ができました!
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メロンとミノルが目的地に到着すると、そこには目的の人物がーー2人いた。
「あ、赤髪!!」
メロンは元々探していた人物を見て指を指した。あまり行儀がよろしくないのでメロンは慌てて指を下げて取り繕う。
「ごめんなさい。」
「?なんだ?」
「指差してごめんなさい。」
「ああ。そんな事か。気にもしてない。」
歳は30の後半か。オールバックの髪は燃えるような赤色で、瞳すら赤眼で、一見情熱人のようであるが、赤髪からは落ち着いた貫禄が見て取れる。メロンは背が高いなと赤髪を見上げた。約30センチ差が雄大に聳え立つ。
「……あいつ。もう伸びてる。」
一方、今追っていた黒髪の方は地面に寝そべって気を失っていた。ミノルは状況を鑑みて、赤髪が倒したことは明白だと思ったが、なぜ1ヶ月もこの状況を放置したのか分からず赤髪を睨んでしまう。
「……君達は?」
「国取りに来た!未来の総統メロンだ、よろしく!」
「その総統の右腕でミノルだ。で、赤髪さん、今の1ヶ月は何してた?こっちはろくに配給も無く喘いで抗議しにそちらさんに行ったら玉座にそいつが座ってるから、あんたてっきりそいつに倒されたのかと。」
「!!ああ。そいつは悪かった。ちっと用があって1ヶ月席を外してた。信頼した奴に任せたつもりだったが、そういえばあいつ腕っぷしはダメだったのを乗っ取られたって伝令を聞きつけてから気付いてな。今戻ったばかりだったから正確な被害状況を知らねーんだ。町はどんなだ?」
「いや、町に目立った被害はねーと思う。餓死者は数人いると思うから手を合わせに行ったほうがいいぜ。いくらあんたのせいじゃないにしろな。」
飢え死にが出たのをメロンは聞かされていなかった。驚愕の事実にメロンは、ミノルの真正面に回り、目を見て両頬を両手で包んで話す。
「そういう情報は話しとけ!!お腹空いてるんだな!?さっきの城に食料いっぱいあったから少しくすねて行こう!」
「いやメロン、その城の主人目の前で盗みの段取りって。」
そう言いつつ、ミノルはメロンの手から逃れる。流石にこれは嫌だったかとメロンは反省しようとしたが、顔を真っ赤にして総統の手が俺の頬になんて言っていたからあ、これ反省しなくていいわ、とメロンは開き直る。
その会話を知らない赤髪は沈痛の声で話し出す。
「いや、いい。それはきっと元々君達のだ。……本当に悪い事をした。許してくれで済む話じゃない事は分かっている、、墓は?遺族の方は何処にいる?」
その赤髪の本気の自省にミノルの赤面はすぐ素の顔に戻る。
「みんなオアシス近くで寄り添って過ごしてる。……なあ、そう気に病むな。あんたが居なかった昔は何もかもがぐちゃぐちゃだった。その、さっきは睨んで悪かった。」
「いや、いい。睨まれ足りないくらいだ。」
「っ、ふ、なんだそれ。なあ、食料を持って早く行こう。」
「ああ。」
2人の和解の後、3人は先程メロンが全力疾走した道を引き返す。赤髪はズルズルと黒髪を引き摺りながら歩くが、それでも歩幅が長い分、メロンとミノルの歩く速度と大差ない。
「そいつ、どうする気だ?」
ミノルが問う。
「ここじゃ不穏分子は処分が相場だ。迷惑かけた分は死体に役に立って貰おう。」
その言葉は、人によっては残酷に聞こえるのだろうか。でも、今の世界では、それが正解になるのだと、メロンはまた胸に闇を抱え込む。
「そいつはいい。餓死者もきっと報われる。」
ミノルは答える。その言葉を、赤髪は疑ってかかった。
「……報われると思うか?」
「「うん。」」
それはメロンがほぼほぼ初めてついた嘘だった。でも、必要な嘘だと思う。だって眼前の赤髪は一回り以上歳下を相手に、泣き出しそうな顔をしていたから。
「ありがとう。」
赤髪は泣きを堪えて、2人に笑顔を見せた。歳上らしからぬ緩々の笑みを見上げて、メロンとミノルも緩々と笑った。
城に到着すると先程メロンが倒した奴ら以外が居なくなっていた。
「しまった、取り逃した。」
心の中で舌打ちをするメロンに赤髪は尋ねる。
「敵さん、大人数だったのか?」
「ああ、30人くらい。」
そう赤髪に答えつつ、一言その場に留まるように脅していけばよかったかもしれないとメロンは反省する。
「それなら大丈夫。俺と一緒に遠征行ってた奴等が後から追いついてくるから、そいつらで対処させる。」
「ふうん。そいつらは強いのか?」
「ああ。これがボスだったんだろ?あいつらなら余裕だ。」
メロンの疑問に赤髪は言い切った。どうやらなんとかしてくれるらしい。ふぅん、ともう一度赤髪に応えを返した後、ミノル、とメロンは声を掛ける。
「なに?」
「ミノル、お前は赤髪とみんなの所に行くんだろ?私はここに残って赤髪の仲間を待つ。」
「なんで?」
「ミノル、私、赤髪を仲間にする。……不服か?」
「いや、メロンの判断に俺は服従する。それに、赤髪はいい奴だ。」
「だろ?でも赤髪はこの国のことがあるから自分から動く事はないだろう。だから、外堀から埋める。2人がそっちにいる間に、赤髪の仲間全員を納得させとく。」
「…無茶を平然と語る人だなぁ。」
「総統になる人間に無茶は無いんだよ。」
「おい、さっきから何の話だ?それは今じゃなきゃ駄目な話なのか?」
ひそひそと声のボリュームを落として会話していると、赤髪が声をかけてきた。
「悪い。長話だったか?」
「いや、…悪い。俺に時間を待つ余裕が今無いんだ。」
「ああ。それもその通りか。じゃ、ミノル行ってらっしゃい。」
「え、君は行かないのか?」
赤髪は不思議そうにした。ついてくる前提だったんだろう。食料が大袋1つと小袋2つで分かれている。悪い事をしたとメロンは思った。最も、今から企てている計画の方がよっぽど悪い事かもしれないが。
「悪い。私はこの国の人間じゃ無いんだ。ついさっき通りがかった位の関係で。こいつ、ミノルとは縁あって一緒にいることになったんだが。まあ、あいつらは私の獲物だ。お前の仲間とそっちを追わせてくれよ。」
「俺が小袋2つ持つから。行こうよ、赤髪。」
「あ、ああ。分かった。仲間にはそう伝えておく。」
ピュ、と赤髪が音を鳴らすと、小鳥が飛んでくる。成程とメロンは納得した。先程は聞き流したが、伝令なんてどうやってとメロンは疑問に思っていたのだ。伝書鳩を初めて見るメロンはミノルと一緒に怖いくらいに小鳥をじっと観察する。伝言を受け取った小鳥が焦って飛んで行くくらいにはギラギラとした目を向けていた。
「あーあ。取って食おうって訳じゃ無いのに。」
「やめてくれ頼む。あれは俺の相棒なんだ。」
本来は頼むことではないだろう。赤髪が相棒というくらいだから、お前ら手を出せばどうなるか分かってんだろうなと言われてもおかしくない筈の小鳥ちゃんなんだろう。だが、飢えて死んだ人間がいる手前、平身低頭の構えでいる赤髪は若干不憫で、きっとレアだ。
目に焼き付けておこうとメロンは少ない記憶メモリにその光景を残す。
「行ってらっしゃい〜。」
「うん。」「ああ。」
その後すぐ出て行った2人を見送り、メロン自身も1ヶ月ぶりの食べ物にありつく。食べれる時に食べておかないと本当に死んでしまう。空腹を体験し過ぎて脳が空腹を感じなくなったんだよなぁなんて、とんでもない事を何でもないように思いながらその場の食べ物を完食したメロンは、付近の外で人の足音を聞いた。一応警戒しておくが、扉が開き姿が見えた段階で警戒をやめた。赤髪の仲間達だった。
メロンはご馳走様でしたと手を合わせてから、これから残党狩りだと頭を戦闘モードに切り替える。
それはそうと赤髪の仲間達からは良い印象を持たれたいメロンは、笑顔を作って自ら話しかけた。
「こんにちは。ではでは国を乗っ取った黒髪の仲間を。」
「あ、それは済みました。」
…ソレハスミマシタ?え、と声が漏れそうになって口を意識的に閉じた。仕事が早い。思った以上にお仲間さんが優秀なことをメロンは知った。でもその方がいいとメロンはプラスに物事を考える。なんたって赤髪がいなくてもここを成り立たせて貰わなければならないのだから、乗っ取りなんて後生NGだ。
「すみません。それとは別に話があります。」
もう私に用事はないと赤髪の所へ行こうとしたのだろう仲間達を呼び止める。振り返った赤髪の仲間達を見ながら即興で台詞を考える。なんせさっきまでのメロンは、国を占領した奴らをメロンがほぼ全て捕らえ皆の心情を良くした所で、願いをきいて貰う予定だったのだ。この感じは想定外過ぎた。
「話とは。」
「……っああ、もう直球勝負だ!赤髪が仲間に欲しいから寄越せ!!」
「はあ!?」
結局、妙案を思いつかなかったメロンは要求をそのまま口に出す事にした。それに返ってきた答えの方は予想通りだ。もうこれは喧嘩か、喧嘩だな!とメロンは短絡的な思考になって準備体操を始める。
「いや、待て待て待て!聞く!ちゃんと話を聞くから!えっと、仲間?お嬢ちゃんは仲間を集めてるのかい?」
お、意外だ、そう思いながらメロンは相手の気が変わらない内に話を進めるため何度も首を縦に振る。
「えっと、何の仲間集めかな?」
「総統になるための仲間集めだ。」
「ソウトウ?ってなんだい?」
「総統は、国のトップを指す。もう死んだ言葉だが、私が生き返らせる!私はこの星にある全ての国を一つの国に纏め上げて、そこの総統になるんだ!!」
「……は?何だそれ?」
メロンの説明の後、暫く時間が空いた。まるで時が固まったかの様な時間だった。沈黙が続き、やっと出てきた声はあり得ない、理解が出来ないと言った正論の数々だった。
「お嬢ちゃん、本気かい?」
「ああ。」
「この星にいくつ国があると思ってる?」
「いっぱい。」
「どう考えても一生じゃ足りない。」
「それは、やってみないと分からない。」
誰かが、ごくりと唾を飲んだ。それだけ空気が乾いていた。赤髪の仲間達はメロンから目が離せなくなっていた。それが、メロンの創り出した場の緊張感で、高揚感だった。
メロンは思う。そんなの理屈じゃない。私は私の夢を叶えるために、この道を選んだんだ。私は進む。迷ってる時間が勿体無い。グダグダと出来ない理由を考えるより先に、身体が動いてしまったのだ。私はなる、必ずこの星を一つにする。私は、総統に成る。
「私は、総統になる。そのためには、仲間がいる。赤髪が欲しい。そしてお前達には、私の代わりにこの国を国じゃなくして、一つの地域として、守って欲しい。」
「……いやいやいや、お嬢ちゃん、確かにまだこの国は出来て数年とかだけど、それなりに歴史があるんだ。それをはいわかりましたとはならねーよ。」
「なら、最終手段でいくか。」
「最終手段?」
「そう、武力。」
交渉が決裂したので、メロンは再度体操を始めた。
「言っとくけど、ここの内政に口出しとかしねーから。トップは私になるけど、役割だけ。支配なんて以ての外だ。本当はこっちからも何か出せればいいんだろうけど、生憎身一つで旅してるんで。ここは先代の例に倣って力での解決を目指します。ほら、来なよ、何人でもいいよ。」
メロンは赤髪の仲間達に呼びかける。赤髪の仲間達は話し合い、なら、と1人が出てきた。
「あの人の次に強いのは俺だ。No.2でいい。俺を倒していければ、あの人を連れて行っていい。」
「おう。なら、よろしくな。」
メロンはちゃんと挨拶した。そのあと、一瞬で相手の背後に回り込み、背中を蹴って相手を床に倒すと、両手を片手で纏め上げる。
「!!!」
一連の動作が早過ぎて反応出来なかったNo.2は、そこから拘束を解こうと身体を動かす。解けるはずだと、No.2も他の赤髪仲間達も思っていた。なんせ体格が違う。相手は標準体重もない女児だ。対してNo.2は赤髪と同じくらいのガッシリとした動き易い筋肉のついた大人で男。本来なら勝負になんてならないのだ。
だが。
「うそ、だろ。動けない……。」
「「「!!!!」」」
No.2のもらした声に、その場の全員が顔色を変えた。
「っ、伝令では、確かに強いとは書いてあった。でも、それは腕力ではなくて、速さ、だろうって。」
「へー。あの伸びてる奴ら見て、秒で片付けた事すら判るのか。でも、その観察眼裏目に出たかな?」
「っ!あ、いたい。」
「早く降参してくれ。腕を折るとかはしたくない。それとも、私みたいなガキにやられるのが屈辱ってか?」
「……それは、まあ。」
負けは認められないのに、そこは素直に白状するNo.2にメロンは微笑む。
「大丈夫、なにも恥ずかしい事なんてねーよ。なんたって私は、未来の総統なんだから!!私が勝つのは当たり前。な!」
ニコニコと同意を求めたメロンに、No.2は抵抗をやめた。
「降参だ。あんたの言う通り、ここを一つの地域として守ろう。あいつのことは持っていけ。」
よし、ミッションコンプリートだとメロンは小さくガッツポーズをしながらNo.2の上から退き、立たせるために手を貸した。
「ありがとう。ちなみに、あんた赤髪と仲良いのか?」
手を取り立ち上がったNo.2は、自分よりも頭一つ分以上下の相手を見て、俺、こいつに負けたのかと苦笑いだ。
「ああ。小鳥を見たか?そいつと同じくらい仲良しだ。」
「それは仲良いな。」
「ああ。だから知ってるんだ。あいつがここ治める程度で足りるタマじゃないことも。上に立つよりは支える誰かを欲してることも。」
「え、そうなのか?」
メロンは驚いた。てっきり赤髪は自分と同じで先導したい側の人間だと思っていたのだ。
メロンの問いにNo.2は頷いた。
「驚くよな。でも言ってたぜ。自分よりも強くないと支えようと思えないだけで、本当はトップ張るの柄じゃないって。」
「ふーん。それは朗報だ。」
「だが、あいつはここを置いて出て行きはしないだろうなぁ。」
「え!?困る!どうしたらいい?」
「任せろ。いい案がある。」
そうして、赤髪の仲間達とメロンは、赤髪引き抜きの作戦をみんなで共有するのであった。
それから3分も経たずに、今。
「メロン、帰ったよ!」
「お前達、連絡がなかったが、ここにいるのか?」
元気なミノルの声と共に、赤髪のテノール声が部屋に響く。
と、そこにはNo.2にピストルを突きつけるメロンの姿があった。
「!え、メロン!」
「はっはっは!よく聞け、赤髪!ここは占拠した!こいつの怪我が見たくなければ、お前は私について来い!!」
「たすけて、赤髪〜捕まっちまった!」
「え!メロン、これはどういう?」
ピストルで人を脅すメロンの姿に、ミノルは胡乱な目を向けた。当惑のミノルを落ち着けたのは、隣にいる赤髪だった。
「はあ、、ミノル。大丈夫だ。盛大な茶番だ。」
「え、バレた!?」
「バレるわ!!」
お、赤髪ノリツッコミできるんだ、とメロンはズレた感想を抱く。赤髪はまたはあ、と溜息を吐いた後、No.2に話を振る。
「お前、負けたのか。」
「ああ。ボロ負けだった。」
「……俺も、負けると思うか?」
「ああ。お前より、心体の強い人間っているんだな。驚いたよ。」
「……そうか。それはそれは、支え甲斐がありそうだ。
おい!要求を呑むよ。この国は君のものだ。」
友とは別れの会話が済んだらしい。だが、若干の違和感があるその返答にメロンは頭を傾げる。
「え、なあ、ミノルとのヒソヒソ会話を聞いてたんじゃないのか?」
「は?何の話だ?こっちは出会い頭で国取りに来たって言われたんだぞ。それで君がここに残るっていうからそのまま国取りさせてなるものかって俺は仲間を呼んだんだ。」
「あー、なんか色々ズレてるけど、要求呑んだって言ったって事は言い訳なしだ!おい!ミノル、車手に入れたぞ!こいつらからの選別だ!運転できるか?」
どうやら話の食い違いが起こっていたようだが、それは後から順序立てて説明しよう。赤髪の気が変わる前に攫ってしまえとメロンは極めて合理的に物事を進める。
「ごめんメロン、出来ない!」
「まあ、同い年ならそうなるよなぁ。っよし!赤髪!……そういえば名前は?」
「名乗ってなかったか。俺はリュウ。」
「よし、リュウ、車運転できるか?」
「え、できるけど、どこか行くのか?」
「おう!私について来い!そして私を導け!」
「???」
取り敢えずリュウは何も分からないままメロンの指示に従うのであった。
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今日もまた一つ国が消えた。だが、不思議なことに新たな国は誕生しないらしい。そこは一つの地域になるそうだ。
物語の一歩目が始まった。それは途方も無い道だろう、苦しく険しい道だろう。でも今はただ、新たな地域の誕生を、みんなでみんなで喜び讃えようではないか。
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