006. 特訓と、方向性(後編:えすとの魔法塾)
2時間目ぇ、魔法!
……てなわけで、先生役がボーゼからえすとっきゅーに代わった。
“脳筋魔法使い:えすとの魔法塾”てとこかな?
さっそく講義開始、ぱちぱちぱちぱち~。
「魔法の使い方は超簡単。使いたい技を意識すると、それで使う分、MPゲージが灰色になる。 ……ちょっと俺の頭の上見てみ?」
えすとの頭の上に、▽名前、レベル、2本の横棒が表示されとる。
上下にならぶ2本の下、水色の横棒の右端が、水色から灰色、そして黒に変わった。
「灰色んとこが無くなって、MPゲージの動きが止まったら準備完了。あとは、技名を言うたら発動する。たとえば……【風の破魔矢】・2射!」
えすとの目の前に、緑色に光る半透明の矢が、2本出てきた。
……あ、片っぽ消えた。
「ここで満足すると消えるんで注意。最後まで責任を持って動かそう。あと、動かすんにもMPが要ります」
彼が言い終わると同時に、残った矢が飛びだして、木人に命中した。お見事!
……以上、通販のお時間でした。これはツッコまんぞ~?
ちなみにボーゼは白目剥いとった。これが……ツッコミ不在の恐怖 !!
ほな実践編、の前に……
「攻撃魔法のオススメはこれ、【火の魔球】! 魔物が一番……は言い過ぎか。弱点属性の次に怖がるからな」
「それ、魚とかもビビるん……?」
「意外とビビる。ダメージは半分とかやけど」
「へぇ~……ほな虫は?」
「全然ビビらへん。けど弱点やし、めっちゃ効く。ダメージ4倍」
飛んで火に入るなんとやら……
「そ~なんや……ほな早速」
はい待て~、今MPめっちゃ減ったで~ ?? 灰色だけでゲージの半分あるやん!
しかも遅い、時間要るな~……!
「……19、20、21……準備終わるまでで22秒 !? 」
「「お、おう」」
実用性なさそうな数字やな~? でも使てレベル上げな、マシにはならんし……
ん~……難しい話は後や。
「【火の魔球】……うわ小っちゃ!」
半透明で赤い、ピンポン玉みたいなんが出た。
まっすぐ木人に飛ばしてみたら……超安全運転の自転車ぐらいの速さか~。
「遅~……」
「Oh……狼獣人より酷い……」
「あっちゃー、一番威力出る〈火魔法〉でこれかー……」
当たるだけマシやけど、ミニゴブリンの“魔法が苦手”、結構ヤバいな?
2人の反応にも納得しかない……。
「1回撃つんに30秒、MPはあと2割ちょい。いや~、きついわ~……」
「やろなー……」
これは使う所、ちゃんと考えとかなな~……。
「でも他も気になるやろ?」
「そらな~、魔法やで~?」
とりあえず、MPが足らん。前話のMP回復薬を、1本貰て~……
「……オ~、マズ~イ……モ~イッポ~ン!!」
「やから何でカタコトなん……?」
口の中いっぱいに広がる、酸味と塩分。鼻に抜ける香り。
……そんな昔ながらの梅干し風味で、MPが5割分回復した。変な物拵えたな~……?
「その反応やったら……」
ん? 通知でっか ??
《異人「えすとっきゅー」から、「中級(?)MP回復薬」28本が送られました》
合わせて31本……。
さすがに「ゴミやし無料でええでー」てわけにはいかんから、10マニ渡しといた。
これでも市販の半額以下らしい。たしか1本0.8マニやったか……
《所持金残高:470マニ》
お、そうそう。今の日本人でも梅干し味は「微妙……」て言われがち、なんやて。
まして、剣と魔法の世界の一般人には……ま~そら売れんわな……。
で、【火の魔球】以外も試してみた。〈火魔法〉の【篝火】と、〈生活魔法〉の【着火】とか【飲水】とか。
威力は知れとる。けどその分、気軽に使えそうやな。
あと、〈生活魔法〉は1回|使とくと、他の魔法を使うだけでもレベルが上がるんやて。
「せや、魔法言うたら……回復技てどんな感じなん?」
「なかなか深いで。属性ごとに効果がちょっと違たり、属性どうしで相性のええ悪いがあったりしてな。たとえば……【風の癒し】」
「あだだだだだッ !? 」
緑色の淡い光に包まれた……と思たら、すぐ背中に寒気を感じた。
次の瞬間、全身が痺れて、HPが減りだした。痛覚2割で、かろうじて立てる……てレベルやった。
「……こんな感じで、弱点属性は回復技でも危ない。気ぃつけてなー」
「“気ぃつけてなー”ちゃうねん、先言うてぇな……」
「すまんすまん……【光の癒し】! ……あとジンジュ、ちょっとその辺ぐるーっと走ってみて」
言われた通り、走ってみた。
「【風属性付与】、10秒間!」
「……んおぉ~っ !! 」
後ろにずっこけた。前に出した足を、引っ張られたかのように。
がちゃーん! て、えらい音したな……。
「……急に動き速なったぁ !? ……あぁ、今度は遅なったぁ~。何これぇ~……?」
「これがバフ。効果が切れたら、反動でデバフになる……てクセ強い仕様やけど」
……あ、戻った。
「……するとどうなる?」
ボーゼが割り込んできた。
「知らんのか? アホが “自分に10倍のバフを!” とかやって自滅する」
「ざまあ草。ラノベ主人公気取りか」
それお前が言うんか、ボーゼ……
「あとマジレスするとさー、バフは敵に、デバフは味方に掛けるようになる」
……うん?
「普通逆じゃね~ ?? 」
「せやな」
「そうそう。やから付与術師希望者は、“俺TUEEE出来ないクソゲー”てキレとるわー」
「お前の癖は知らんわ~……」
「「辛辣なコメント」」
渋い顔されました。
「で~、さっき俺は何されたん?」
「本来は“10秒間、敏捷値を5上げる”て物や。けど、“弱点4倍”で敏捷値が20ぐらい上がったみたいやなー」
「で、10秒経ったら反動で、“10秒間、敏捷値が20下がる”になった、てとこ」
「へぇ~……間ぁ悪かったらああなるんか、付与術師さん大変そう……」
「せやな。〈付与魔法〉まで取って、本格的にやっとぉ人ヤバいで。変態の領域」
そこまで言われるんか……。
「同感やなー。 ……あ、そうそう、さっきの逆もできる。【風属性付与】・マイナス・10秒間!」
「…あれぇ~? 声がぁ……遅れてぇ……聞こえて、くるよぉ ?? 」
「腹話術下手か」
「そもそもやってないわ……」
閑話休題。
◇
とかやっとったら、貸し出し期限の5分前やった。
そろそろ撤収やね。
「いや~、お疲れさんでした……【オレノマケダ!】」
「何でラップ調なん……?」
とりあえず降参。結果はいかに……?
《【決闘モード】終了。以下の条件が満たされています》
《Lv.2になりました》
《スキル〈受け流し〉〈体力強化〉が、それぞれLv.2になりました》
《称号〈果敢な挑戦者〉〈生還者〉を獲得しました》
《〈物理抵抗〉〈根性〉〈挑戦者〉以上3スキルが開放されました。それぞれSP:3と交換で取得できます》
おいおい多い多いおおい……ゲームでも通知爆撃とかあるんかい。
「おー? 通知爆撃か?」
「何で分かるん?」
「何回か見たからな、ボーゼが同し顔しとるん。あと、某SNSでスタンプ爆撃食ろたお前も」
「アレやったんお前やろ、他人事か~?」
「アッハハ、過去は振り返らん主義でさー」
「「5秒で矛盾すな」」
……とりあえず、ステータス画面を確認。
始めて数時間で、こんなに称号とか貰てもて、ええんかな……?
ま~、貰えるもんは貰とこ。あざ~っす。
で……アンポン○~ン、新しい称号よ!
―――――
〈果敢な挑戦者〉
レベル差が「10以上かつ倍以上」の、格上の相手に挑み、敗れた。
同条件を満たす相手と戦う際、全ステータス値が1%増加する。
また、人類NPC、および同族NPCからの信頼度が上がる。
〈生還者〉
格上の相手からの攻撃を、HP残り1、または1%未満で耐えた。
HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。
また、成功時に居合わせた味方NPCからの信頼度が微増する。
―――――
ちょっとだけ、用語の説明。
格上・格下はレベル差5以上。微増・微減は1%未満の増減なんやて。
「もしかして……この称号、あんま意味ない?」
「「せやな」」
「んえ~、ケチ! て言いたいとこやけど、俺負けたしな~……」
「それはそう、“勝ってから言え”感」
「あとこのゲーム、称号より“スキルが大事”てのが売りやからなー」
「おっと、そろそろ時間やな。出よか」
「「は~い」」
◇
受付で、鍵を返す。
「「「ありがとうございました~ !! 」」」
「どういたしまして。またのご利用、お待ちしております」
ではお待ちかね、狩りの時間! ……の前に、組合を出ましょう。
「「……うわぁ !? 」」
組合の正面玄関で、右からぬるっと2人が出てきた。前歩いとる同士、お互いにビックリした。
「「あ、ども」」
実話怪談? いえいえ、仕様です。
混雑防止の鯖ふりかけ……やない、サーバー振り分けやな。
……いや、ちゃうねん。そこまでビビりやない。
理屈は分かっとっても、実際に出くわしたら面食らう……て、よ~ある話やろ?
そんなわけで……帰ってったで、中央広場!
この時間になったら、さすがに人減ったな~。小柄な今の俺にも、街並みがよ~見えるわ。
んで……地味に多いな、猫と鳥。
……てなわけで、“始まりの街” アインツ。
欧州の旧市街にありがちな、石造りの街……て感じやな。
ドイツっぽい名前の割に、それらしき赤屋根は見当たらん。むしろ白っぽい街並みやから、イタリアとかギリシャっぽい……?
いやまあ……行ったことないから、地図帳とかの受け売りやけど。
「適当言うただけやのに、割と当たっとったんかい……」
「「何の話 ?? 」」
で、この中央広場は、噴水を中心に広がる円形広場や。
広場の周りには、8方向に延びる大通りと、役所、教会、冒険者組合などなど……街の主要施設が集まっとるらしい。
噴水のおさらい。真っ白で立派な、石造りの噴水や。
で、そのど真ん中に、シトリー様の石膏像。あのベーシスト女神様な。
また拝む……んはやり過ぎか。気をつけ~、礼! ありがとうございま~す !!
放射状に、8方向へと延びる大通りの先には、それぞれ城門が見える。小っちゃく、やけどな。
デカい街やな~。しかも城塞都市、ってか?
街の周りが高~い石壁で囲まれとるやつ。
「よし、ほなこっち行こか」
ボーゼは南側の大通りを指差した。
「「りょ~か~い」」
◇
大通りをまっすぐ南へ、小走りで約30分。“アインツの南大門”に、着いた~ッ !!
「うわ~、また並んどるな~……」
「ほんまやなー……」
そそりたつ城壁に、ぽっかり空いた四角い穴。
……そんな門の両脇に、おっちゃんが1人ずつ立っとる。門番さんやな。
顔だけ出した全身鎧に、両手用のデカい槍で、いかにも……て感じや。
で、左に見えるおっちゃんのほうに、列ができとる。
検問か~。てことは……
おっちゃんのさらに左に、城壁と一体化した建物がある。それが詰所、てとこかな?
「問題なし、通ってよし!」
威勢のええ声がしたけど、どっちのおっちゃんでもなかった。門の向こう側にもおってなんかな?
……あ、そうみたいや。商人さんご一行が門をくぐってきた。
「しばらくかかりそうやなー」
「せやな……ほなジンジュ、スキル埋めとけ」
「……ほえ?」
急に言われても困る……。
「オススメある~?」
「「ん~……」」
考え込むボーゼとえすと。
「〈顕示〉〈解体〉〈器用強化〉〈筋力強化〉〈挑戦者〉あたりか?」
「全部は無理~」
「やろな」
「俺からは〈従魔法〉と〈精神強化〉もオススメしとく。魔法が苦手? ほな得意なヤツにぶん投げろ! ……てのもアリかと」
「そんな都合のええ子、近場におるん……?」
「……まー、当分先の話やな」
ん~……ほなこの組み合わせで。
《〈従魔法〉〈解体〉〈筋力強化〉以上3スキルを取得しました》
《条件が満たされたため、〈鑑定〉の技【目利き】を取得しました》
《初期スキル10枠が確定したため、残りの初期スキルが取得不可となりました。なお、条件を満たして開放し、必要なSPを消費することで、それぞれ取得できます》
《種族スキル〈土魔法〉が開放されました。SP:2で取得できます》
《条件が満たされたため、〈刀剣〉〈水魔法〉〈顕示〉など7スキルが再び開放されました。それぞれSP:3で取得できます》
通知爆撃、再び。
……はい、ほな行きましょ~。
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
次回更新は8/1(木)頃、掲示板回の予定です。
※あくまで予定です、ご注意ください……
【追記】一部修正しました
(2025/06/27)
――【おまけ】ジンジュくんの現状――
ジンジュ Lv.2
種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男
属性:土
職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―
所持金:470マニ
SP:3
HP:100%
MP:100%
状態:正常
スキル:8
〈鈍器 Lv.1〉〈防御 Lv.1〉〈受け流し Lv.2〉〈火魔法 Lv.1〉
〈生活魔法 Lv.1〉〈従魔法 Lv.1〉〈解体 Lv.1〉〈鑑定 Lv.1〉
(控え:3)
〈危機察知 Lv.1〉〈体力強化 Lv.2〉〈筋力強化 Lv.1〉
(種族:2)
〈投石 Lv.1〉〈幼鬼〉
称号:4
〈駆けだしの冒険者〉
住民からの信頼度が微増する。
〈副神シトリーの祝福〉
幸運のステータス値が微増する。
また、知力と精神の取得経験値が微増する。
〈果敢な挑戦者〉
レベル差が「10以上かつ倍以上」の、格上の相手と戦う際、全ステータス値が1%増加する。
〈生還者〉
HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。