005. 特訓と、方向性(前編:ボーゼ道場)
掲示板回だと思った? 残念、本編でした!
……違うんです、早く主人公に街並みと街の外を見せてあげたくて……!!
◆
えすとが俺に言う。
「……テメーなんか怖くねぇ!」
……でしょうね。
ほな、乗っかってみよ~。
「野郎! ぶっコロいたらぁ~ !! ……【決闘モード】!」
横から見とったボーゼは、ため息をついた。
「普通にやれ。お前らうるさいねん……」
「「サーセンした」」
てなわけで、三つ巴のバトル・ロワイヤルが成立しました。
……いや何事 ??
◇
少々、時を戻そう。
冒険者登録と解体講習を終えて、俺は友達と3人、冒険者組合の中庭に出た。
ベンチに座って、おやつ食うとこや。
その名も「携帯食料」。ブロック型の栄養食品みたいなやつ。丁度ええ、肉より糖分が欲しかった……。
ちなみに、異人の間では “不味い”って評判なんやて。
それをボーゼとえすとから、1袋ずつ分けてもろた。“プレーン”と“干し葡萄入り”や。
「はいこれ」
「どーぞー。釣りは要らんッ !! 」
「あざ~っす。 ……まだ何も払てないで?」
「それを言うなら“お代は要らん”やろ」
マジか、太っ腹やな……
「レーションを布教する、神官としての使命です」
「何布教しとんねんお前ェ? 教えはどうなってんだ教えは」
ボーゼからえすとに、ツッコミ入りました~……
「……待て、お前神官やったんか !? 聞いてないで ?? 」
「まーそら、言うてなかったし……」
「服装で気づけ、雰囲気あるやろ?」
「ボーゼお前、簡単に無茶言うた自覚ある~?」
閑話休題。ほな早速……
「いただきま~す」
“プレーン”のほうから1つ。
一口かじると……柑橘系の爽やかな香りに、ほのかな甘味。で、ちょっと遅れて苦味が来る。
……グレープフルーツ風味、てとこかな?
「な~んや、美味いやんけ」
「あー、お前はそうなるかー……」
「……ど~いうこと?」
“マズい”にも色々ある。
けどこの携帯食料の場合、単に「パサパサで固いのが嫌」てオチらしい。
……な~んや、ビックリした~。
◇
組合支部の裏口から、正面右側に見えとった建物に入る。ここが「訓練棟」らしい。
受付の人がおって、ボーゼが声かけた。
「すんません、予約してたボーゼです」
「少々お待ちください……どうぞ」
鍵と書類を手に入れた! ボーゼに抜かりなし。
……てなわけで、言われた通りに廊下を進んで、早速訓練室の中へ。
「「「お邪魔しま~す」」」
石造りの外観に反して、中は木目調。それも見覚えがあるやつ。
「でけ~……どこの武道場?」
「なー、あの外面との落差よ」
まあ、畳とか格子窓とかはないけど。
ほんで、えすとが俺に言う。
「誰がテメーなんか……テメーなんか怖くねえ!」
「野郎! ぶっコロいたらぁ~ !! ……【決闘モード】!! 」
せっかくやし、乗っかってみた。
……ら、後ろから大きなため息が。ボーゼや、睨まれた……。
「普通にやれ。お前らうるさいねん……」
「「サーセンした」」
……よ~考えたら、今の俺、レベルが20上の相手に喧嘩売るアホやな……。
「え~っと、ボーゼにも【決闘モード】送っといて~……」
「“決闘を受ける”で……俺からも送ってー……」
「……お、来た来た。両方、“決闘を受ける” にして、と」
……おやおや、通知ですか。
《異人「ジンジュ」「えすとっきゅー」「ボーゼ」の3名による【決闘】を開始します》
……てことで、三つ巴のバトル・ロワイヤル……形式の戦闘訓練や。
名付けて「ボーゼ道場」。2時間限定。
まずはボーゼから。
「タンクとか引き付け役の基本は、“相手の邪魔”や。て言うても、色々やり方があって、たとえば“回避盾”てのがある。 ……えすと、魔法よろしく」
「おっけー。【風の魔球】、【風の魔球】……」
走りだしたボーゼに向かって、えすとが緑色のボールを連射する。
5個全部よけた。速~、すげぇ~……。
「ありがと!」
「どーもー」
……戻ってきた。
「今みたいな、“相手に自分を狙わせて、その攻撃を全部よける”てやつ。これが“回避盾”や」
「なるほど……お前の得意技やな。 で、俺にそれをやれと?」
「「さすがにそれはない」」
「やんな~」
知ってた。初心者かつ運動音痴やし……。
「せやから、お前に頼みたいんは“ゴリッゴリの妨害”。理想は相手に “ジンジュ退いて、えすとコロせない!” とか言わせて、横から俺がグサリ、て感じ」
「なるほど了解」
で、大盾の構え方、攻撃の受け方を教わる。
つまり、ボーゼの攻撃を間近で……ちょッ!
……早……怖……死……。
凄さを再確認した。あと教えるんも上手いな~……
「……で、踏ん張って。そうそうそんな感じ。ほなそのまんまで……えすとー、ここ来て」
「はいはいー」
いよいよ実践編。
「風以外で……正面から、一番重たいやつを」
「ゑ」
「コロす気か~ !? 」
怖~……とりあえず気ぃつけとこ。
「ミニゴブやったら体力あるし、大丈夫やろ。大盾で【ガード】も使えるんやし」
「さよか……【ガード】」
〈防御〉スキルの技名を言うたら、盾が鈍く光った。あと、MPもちょっと減った。
言わんでも技使えるけど、言うたほうが確実に発動するんやて。
「【二重詠唱】、【魔法小壁】」
えすとが技名を2つ言うた。2つ目に盾が反応して、今度ははっきり光った。
「一番重いの、んー……スピードはパワー……」
「……“慣性の法則”~?」
「“質量保存”のほう違う?」
今どうでもええな。集中、集中……
「……これで行こ。【増幅】・4倍、【光の破魔槍】!」
「あ、やば」
えすとの前に、白っぽい光の棒が浮かび上がる。それがみるみる4倍の太さになった。こっち側の先端は尖って……うん、槍の形y
◇
「……ゲッホゲホ……痛ったぁ~ !! 」
気ぃついたら、大盾と後ろの壁でサンドイッチされとった。
なんか、煮物しとるみたいな“グツグツグツ……”て音と一緒に、視界が薄~く真っ赤っかになって。
“飛んで来る……!”て思た、次の瞬間やった。
記憶はないけど、まっすぐ後ろに10m以上、ぶっ飛ばされたみたいや。
……先生……全身、痛いです……
いや怖いわ! 「あ、やば」違うやろボーゼさ~ん?
「すまん大丈夫か !? ……HPギリギリで耐えとぉ!」
「ミニゴブすげぇー……あ、【洗浄】!」
「【光の癒し】」
「……あざ~っす」
体が2回、長めに光る。2回目のほうで、痛みがひいてきた。
で、焦るボーゼと、驚いたえすと。個人的には珍しい組み合わせやな……。
えすとが先に落ち着いた……と見せかけて、よ~考えたら無意味な【洗浄】が、俺を襲う。
実害ない、ヨシ! やけどさ。
ゲームやからか、血とか特に出てなさそうやし。
対して、焦っとるけど正解出すボーゼはすげえ。慣れって恐ろしいよね……。
あと後ろの壁、壊れるどころか、傷1つなさそうなんよな~……木やのに。“強化魔法”とかかかっとるんやろか……?
「ホンマすまん、壁のダメージが予想外で。あんな吹っ飛ぶんか……」
ちなみに、獣人は魔法苦手なんやそうで……
「あ、えすと代わって。魔力切れる」
「りょーかーい、【光の癒し】!」
交代した彼は、収納から小瓶を取り出した。
蓋取って~、一気飲み~! からの渋い顔 !! ど~したボーゼ……
「……何それ~?」
「100mlのMP回復薬。えすと印」
ボーゼと喋っとったら、回復終わったみたいで。
えすとが小瓶3本出して、俺に渡してきた。
「はいこれ、〈錬成〉スキルの失敗作」
「“はいこれ”ちゃうやろ~、お前何してん ?? 」
「MP回復薬って死ぬほどマズいからさ、色々試しとったら出来たんよ……梅干し味」
酢やない、ヨシ! ……いや待て。
「何腐らせとんじゃワレェ~?」
「そこは“醗酵”て言うたれや」
ボーゼのツッコミ入りやした~。
「おーおー誰が毒盛ったやて? 表出ろや」
「「そこまで言うてないわ」」
はい次。
「せやジンジュ、痛覚設定は?」
「知らんで~、何それ……?」
「ほな20%のまんまか」
「えぇ……あれで2割 !? 」
全身痛めたけど?
「やろな。生身のまんま100%やったら、痛すぎて喋れてない」
「……あ~、せやな。確かに」
……ここで、時計見とったえすとから一言。
「そろそろ次行かへん?」
「は~い」
「よっしゃ、ほな次は【受け流し】やな。ジンジュは構えて……」
「はいはい~」
壁のほう向いて立って、大盾を構える。
「よしよし、ほなそのまんま……えすと、さっきと同しの、もう1回」
「「鬼かお前ェ ?? 」」
◇
ところがこれが、ええ比較になった。
「【二重詠唱】、【魔法小壁】……このマッチポンプ感よー」
「毎度すまんな」
「まあええけど。ほな行くでー」
「「は~い」」
3回【受け流し】を試した、その1回目。
「【増幅】・4倍、【光の破魔槍】!」
「そこや!」
「【受け流し】! ……うおぉ~ !? 」
タイミング合わせて、大盾を右に動かした。
ちょっと引き摺られたけど、なんとか右斜め後ろに逸らせた。
ダメージはさっきの半分を切った。
……同し【光の破魔槍】やのにな?
「【光の癒し】……ここまで違うんかー」
「あざ~っす」
「器用、器用とは聞いとったけど……ミニゴブ舐めとったわ」
で、2回目。今度は左へ。
「……っとぉ~!」
ちょっと引っ張られたけど、さらにダメージが減った。
ほんで3回目……上手いこといった! ノーダメージ。
「……ラッキ~」
「おめでとー。 ……あ、【光の癒し】」
「お疲れ、大成功やな」
「ありがと~」
筋力上がるまでは、【ガード】より【受け流し】優先で行こか……。
「っしゃ、ほな次。ジンジュ、そのまま棍棒装備してみ?」
「え? 大盾と一緒には持てん……いや持てた !? え~何でや」
「阪○関係ないやろ?」
「「そら関係ないわ……」」
えすとの横槍はおいといて。
本来、両手用の武器――たとえば大盾――と一緒に持てる武器は、短刀・短剣・手裏剣・石くらいらしい。
“大盾セット”になっとった、あの辺やな。
それが“【正業】冒険者”の職業補正で、片手用の武器までは一緒に持てるようになるんやて。
もちろん片手用・両手用1個ずつやけど。
「ミニゴブも行けるんやな」
「なー、筋力的に不安やってんけど」
「へ、へぇ~、そうなんや……」
喜べん。いきなりやけど問題です……
「……盾が動かせんわ~」
「「あー……」」
“持てる”と“使える”は別、てことで。
これからの成長に、ご期待ください……
「で……俺、棍棒は分からんから。とりあえず盾で受けとく。どつけ」
「「雑い指示やな~……」」
……ま~、とっととやるか~。
「【ガード】、さっ来ぉい!」
「ほなこうか……【叩きつけ】、だぁ~ッ !! 」
ごあーっ! て音がした。
「よぉ分からんけど、ええ音やったでー」
「えすとが飽きとる……ジンジュ、あと何がまだやった?」
「あとは……〈投石〉と魔法やな~」
「OK。ほなこれを、あそこの木人狙て」
ボーゼは俺に石渡して、台座つきの丸太を指差した。 ……だいたい10mぐらいか。
「りょ~か~い、ほな……ヤ~ !! 」
ちょっと左上にズレたな~……“ぐにっ” ??
あ、当たった!
「今、不自然に曲がったんは……?」
「スキルによる補助やな。MPちょっと減ったやろ?」
「ホンマやな。へぇ~、ありがたい……」
さっきの【受け流し】成功なんかも、これのお蔭やろか……?
便利やな、あざ~っす。
「ほな次は~?」
「魔法やな。えすと、出番やぞ」
えすとのほうを見たら、咳払いして……
「フォッフォッフォ……では私から、魔法の真髄を教えて進ぜよう……」
「「どないした、急に ?? 」」
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
次回更新は来週末、7/26(金)頃の予定です。
……やべぇ、「後半に続く」やっちまった!
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/02)
――【おまけ】――
PT「お城と……横顔新○線や~」メンバー一覧
○リーダー
ボーゼ Lv.22 【決闘中】
ウルフ・ビースター(獣人族) 男
HP:100% MP:100%
○サブ・リーダー
えすとっきゅー Lv.21 【決闘中】
エルフ(森人族) 男
HP:100% MP:100%
○その他のメンバー
ジンジュ Lv.1 【決闘中】
ミニゴブリン(幼鬼/下位鬼族) 男
HP:100% MP:100%
以上:3名/定員7