004. 冒険者組合と、依頼と、もろもろ
冒険者登録待ちの列に並びだして、そろそろ30分ぐらい経つ。
友達のボーゼとえすとに、俺“ジンジュ”の3人。目的の建物に入れた。
「やっと中入れたなー」
「な~、長かったな~……」
「俺らん時の倍以上、人おるしな」
ここは“冒険者組合 アインツ総支部”。教会ほど高さはないけど、広い建物や。
で、総支部てことは、よそに本部がある。ここのは南の海の向こう、“新大陸”にあるんやて。
「……なお、異人未踏の地」
「へぇ~。 ……人類に海は早すぎたんや」
「「黙れ人外レベル1……」」
はい。
で、違和感覚えとったことを1つ。
「……入る前と比べて、人の出入り少なない?」
「そら“鯖分割”の加減やな。多分ここ、外と違う鯖や。で、今なんか鯖1匹で追っつかんやろうから、他の鯖にも振り分けとんちゃう?」
ボーゼのありがた~い回答……
なお、サーバーの単位は考えないものとする。
そして神は仰った、
「ボケにはボケを重ねよ。さすれば笑いが生まれん」
と……
「てことは……“建物入ったら前の人消えたで !? ” とか、“出ようとしたら、いきなり目の前に人が出てきた~ !! ” みたいな怪談が……?」
「いきいきすな、趣味悪い。 ……まぁ、よぉある話やな。他ゲーも含めて」
あるあるやったか~。
「なるほど……ほなあの人は?」
えすとに言われて、後ろを振り返ると……
入口で出たり消えたりしとる人がおる。この建物の中から外へ向かって出てきて、中へ向かうと消える。
よそのサーバー入っとった人かな?
「嘘やろ~? 境目で遊んどぉヤツおる……」
「現在進行形で草」
あ、目ぇ合うた。どうも、こんちは~。
はい、ひょっ○りはん! からのオッ○ッピー! ……ネタが古い。古いしクセ強い。
あと兄ちゃん、その辺にしときや~? でないと……
「……なに割り込んでんだテメェ !? 」
「あうち!」
変な勘違いされて、後ろの姐さんに蹴飛ばされた。
あ~あ~、言わんこっちゃない……
「あれッ !? 消えた…… !! 」
そうなる向きやってんけど、姐さん見てなかったんか……。
◇
建物の中は木目調。海外映画に出てきそうな、古~い酒場風、てとこ?
……あんま見たことないから、知らんけどな。
俺みたいに冒険者登録しに来た人と、ボーゼ・えすとみたいな付き添いが、まだ前に10組ぐらい並んどる。
さらにその前で10組が、カウンター席に着いて面談中。
まだまだ先は長そうやね~……
んで、こんだけ人おったら当然、えすとみたいに声デカい異人もおる。
あと、受付の人も元気いっぱい。やからこうなる。
「……すいません、狂科学者になる方法をお聞きしたいんですが」
「でしたら、こちらでの登録が終わり次第、商工組合へ……」
「……俺、剣士に転職できますか?」
「すみません、まだ無理です……」
「ダメか~。ありがとうございます……」
……盗み聞きなんかしたないけどさ、聞こえるもんはしゃ~ないよなぁ~?
ま~、せめて聞こえんフリするんがマナーやろな……とは思うけど、全部は無理。
気になること多すぎるわ……。
「よそも行かなアカン、とかあるんやな~?」
「まあそらな……逆にここで神官とか鍛冶師になれるほうが変やと思わん?」
ボーゼに聞き返された。
「そらせやな。“それ冒険か~?” て言うたら、ちょっと違うやろし」
「そゆこっちゃ。まあでも、材料集めとか移動とかあるから。結局、冒険者登録もしとけ、て話やけど」
「……筋通っとぉからええけど、二度手間やんな?」
「せやな。正直たまに面倒くさい……」
「そうそう。どっちにも報告せなアカンのかー、みたいな時あるし」
「なるほど……生の声あざ~っす」
◇
3人で色々喋りまくって、やっと順番が来た。
「次の方、どうぞ~」
この受付のお姉さん、さっき狂科学者(?)の人と話しとってやったな。
んで、プロや……!
狼獣人、森人、幼鬼のクセ強い3人組に、眉一つ動かん……。
「すんません、僕の冒険者登録お願いします」
「かしこまりました。異人さんですね、少々お待ちください」
えっ? 声量下げとってや !? 話しやすいんはありがたいけど……なんか怖ぁ……
しかも、書類を集める手に迷いがない。頼もしさ、やば……こっちが緊張するやつや~ん!
で、最後に水晶玉を持ってきて……
「ではまず、両手を広げて、こちらに翳してください」
「はい」
言われた通りに手ぇ翳したら、水晶玉が黄色っぽい光を放った。
わ~う、ふぁんたじ~……これが噂の“魔水晶”か。綺麗やな~!
で、字かなんか浮かんどったみたいやけど、こっちからは読めんかった。
漢字の鏡文字までやったら読めるんやけどな~、そんな次元やなかったわ……。
「ありがとうございます。では次に、冒険者組合のしくみと決まりごとについてご説明します」
……てなわけで、説明と質問のお時間でした。細かいとこは置いといて、ポイントは次の通り。
―――――
・依頼の受注や成功報酬の受け取りは、原則組合の受付で。
・失敗すると処分もありうるので、推奨ランクはなるべく守るように。特に個人。
・冒険者組合員証は強力な身分証となる。なので万が一なくしたら、すぐに利用停止・再発行の手続きを。
※手数料あり
・魔物の異常発生など、異変に気づいたら、すぐ最寄りの組合施設に連絡を!
―――――
「では最後に、こちら誓約書です。よく目を通していただいた上で、よろしければ署名のほう、お願いいたします」
「はい、分かりました」
中身は今聞いた話のまとめと、“以上をふまえ、冒険者としての責務を果たすことを誓います”。
……まあ、ここで「だが断る」とは言えんわな。
「……お2人は付き添いですか?」
「はい。保証人とかは……」
「大丈夫です」
お姉さんはもちろん、ボーゼのこの“慣れてる”感も怖い。お互いに肝据わりすぎちゃうけ……?
「書けました、これお願いします」
「はい、確かに。では次に……」
口座作って、お金預けれるんやて。 ……“はい” 一択やな。また説明してもろて、書類書いて……
「書けました、お願いします」
「はい、確かに」
で、早速1000マニ預けました。
《所持金残高:480マニ》
「では、この後ですが……」
新人向けに、建物の裏で戦闘訓練と解体講習をやっとってらしい。
お時間あったら是非……とのこと。ま~また順番待ちやし……。
あと、新人向けの『継続依頼』を紹介してもろた。半永久的に続くから、期限なし。
失敗しても処分なし、オメーが勝手に死ぬだけだ……。
依頼の中身は、アインツ周辺におる、2種類の魔物――小兎と、茶狼――の、討伐やて。
倒したら、最低でも魔石が採れる。倒した頭数分、受付に見せたら、その分の報酬が貰える。
魔石、肉、皮など、要らんかったら買い取りもしてもらえるんやて。
……ほな受けとこ。
で、薬草採取もオススメされたけど……こっちはパスやな~。
学が足らんし、また今度。
「では、よい冒険を」
「はい、ありがとうございました~!」
お、早速通知や。
《チュートリアル『冒険者登録をしよう』をクリアしました。以下の条件が満たされています》
《職業“冒険者(闘士)”が【正業】に登録されました。【副業】の設定、および転職が可能です》
《称号〈駆けだしの冒険者〉を取得しました》
―――――
〈駆けだしの冒険者〉
冒険者登録を済ませた、期待の新人。
住民からの信頼度が微増する。
―――――
これはありがたいな~。俺らミニゴブ、信頼度下がりやすいらしいし。
「ほな、後どないしよ~?」
「戦闘訓練は当てがある。解体講習だけ受けてったら?」
「りょ~か~い、ほなそれで」
◇
建物の裏口から、中庭みたいなとこに出た。建物に囲まれた芝生広場、て感じ。
「これさー、周りの建物も組合の施設らしいで」
「まだ奥にも建物あるしな」
えすとの一言に、ボーゼが付け足す。
「マジか~、広っ……」
倉庫とか訓練場とか実験棟とか、色々あるらしい。
で、正面に見えとった建物と建物の間を抜けたら、また中庭が出てきた。
長机の上を水洗いしとる、髭のおっちゃんと、その周りに異人多数。ちょっと血なまぐさい匂いもしとる。
解体講習、ここでやっとってなんやな。
庭には2羽、鶏が……いやもう2羽おったわ。飼育籠の中に、合わせて4羽。
「よーし、そろそろ始めるぞー!」
おっちゃんが顔上げて叫んだ。んで、籠から鶏を1羽出した。
◇
……なむなむ。
解体講習の詳細は伏せて、流れだけ書いとく。
まず、髭のおっちゃんが鶏1羽捌きながら説明した。
その後、呼ばれた受講者が、手取り足取り教えてもらいながら、実演する……て感じやった。
で、最終的に3人呼ばれた、その2人目でした。いや~、刃ぁ通すって難しいな……
あと、50人ぐらいおった周りの反応が気になった。みんな青白い顔で、いちいち悲鳴と雑談でうるさいわ、10人ぐらい倒れるわ……。
いや、ゲーマーて基本大都会の人間なんは分かるで。
標準語しか聞こえんかったし。「なんでやねん」てちゃんと言える、俺らのほうが異常なんやろな~。
知らんけど。
けどさ、さすがに……
「嘘……鶏肉ってそのまま泳いでるんじゃないの……?」
て聞こえたんはビビった。教えはどうなってんだ教えは……!
◇
解体講習終わって、冒険者組合の建物に戻ってきた。出る前に依頼掲示板を見とこ、と思て。
“魔物の討伐”は当然として……“街道の草むしり”から“沼地の探索”、“人捜し”……だいぶ何でも屋なんやな~。
で、討ち取るべき魔物は……お、目安がある。
―――――
【新人~】小兎、茶狼
【初級~】森狼、茶猪、橙鹿、巨蜂etc……
【中級~】黒猪、小土人形、大蛇、巨鳥etc……
―――――
獣から虫、蛇、ゴーレム……色々おるんやな~。
とりあえず、小鬼はなさそうで一安心。
「これさ~、逆に“手ぇ出すな”て魔物おるん?」
「向こうから来ぇへんやつ全部」
「……具体的には?」
「まず天使。それから悪魔、妖精、スライム。あと鬼族、ゴブリンとかトロールとか、お前の同族やな」
「なるほど了解」
……なんか、“人類と話が通じる種族”だけやなさそうやな?
よ~知らんけど、食い物とか縄張りとかで、人間襲わんでもええ種族……てとこかな~?
あと、「上級者向けの依頼はカウンターまで」とのこと。
……当分関係ないな。
◇
さて……
腹減ったな~。けど肉! て気分やない。どないしよ……?
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
日本語って難しいですね……
次回更新は7/20(土)頃の予定です。本編か掲示板回か、それが問題だ(?)
……その前に、間に合うのか……?
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/27)