002. 始まりの街「アインツ」と、音のあれこれ
≪ここまでのあらすじ≫
話題のゲーム“ファンフリ”を始めて、初期キャラ設定を終えた「ジンジュ」くん。洋風の街並みに、雰囲気ぶち壊しの足軽が……え、まだ来てない?
……“BGMが気になって、転移キャンセルした”!? 何してんのキミ……??
そんなわけで、初期設定しとった謎の部屋。
白い光に全身すっぽり……から20秒ほどで、動きがあった。
目の前の天井に、ぽっかり穴が空いた。音とか光とか、何の前触れもなく急に。
直径1mちょいぐらいで、中は真っ暗……ってか、墨のように真っ黒。超真っ黒。
んで、中から……
「あら、バレましたかぁ……よっと」
て声がした。と思たら、白い服の人がストン、て降りてきた。
この声、さっきまでのガイドさんかな?
同し人でも、マイクのオン/オフで声変わるからな~……分からん!
あ、立ってや。いろじろびじん~! ……はええねん。
それより、銀髪に緑色の黒目……な~んか意味ありげやな~。
で、この真っ白な服と帽子は、修道服てやつ? よ~知らんけど。
あと、ギターか何か抱えとってや。太い弦4本……
「エレキ・ベースですか?」
「いえ、魔導ベースです。最近ハマってまして」
「あ~、そうなんすか~」
マナトリック・ベースか~。電気の代わりに、魔力ってとこ?
で、喋りながら1フレーズ弾いとってや……上手~ !!
え、今のウォーキング・ベースてやつ? しれっとやったらアカンやろ、そんなん……
※法的には問題ない技術です
……違う違う、そこやない。あのベースもこの人やったんか? 何者 ??
「おっと、申し遅れました。私、シトリーと申します。ジンジュさんですね?」
“シトリー”……? どっかで見たなm……いや待て神様やん! 取扱説明書で見た !!
ジンジュー! 土下座だーッ !! 頭が高いど俺ェ~ !?
「……へへぇ~ッ !! 」
「あぁ~いえいえ、あまり気にしないでくださいね」
そう言われて、思わず顔を上げた。“笑って許す”ていうよりは、何かワクワクしとってみたい。
んで、部屋の真ん中に歩いてって、丸いテーブルの横で一言。
「立ち話もなんですし……ここ座りませんか?」
「あ~、ありがとうございます~……ほな失礼します」
テーブルの下に、イスが3つ。
シトリーさm……
「あ、ここでは“シトリーさん”でお願いしますねぇ」
「人の心読まんといてください……」
神様、何でもありやな。
シトリーさんがイス出して、座るんを待ってから、俺は向かいのイスに座った。
で……失礼やけど、即、こっちから話しかけた。
「あの~、失礼な言い方ですんませんけど……僕ごときに、神様が何のご用で……?」
別に転移キャンセル、神様直々に出てこんでも……って感じやし。
「先程の件もお気になさらず。むしろこちらが始めたことですので」
「マジすか……何でまた?」
「そうですねぇ……一言でいうなら、“人外プレーヤーさんへのサポート”って所でしょうか」
「サポート、ですか……?」
「ええ」
シトリー様は即頷いた。
「こちらでは“プレーヤー”ではなく“異人”って言うんですが……私たちのほうからお招きした以上、異人の皆さんには是非楽しんでもらいたい! と考えています。が……」
あ、なんか寂しそうな顔しとってや……
「どうしても、途中で心折れて辞めちゃう方々(かたがた)がいらっしゃるんですよねぇ……。それ自体は仕方ないんですが、問題はそこからです。そもそも、人外種族って“あとで強くなる代わりに、最初は大変だよぉ?”ってコンセプトなんですが……」
ん? 俺に話振ってきた ??
……もしかして?
「……その“最初が大変”すぎて、辞めちゃう率高い、とかですか……?」
「そうです。しかも“分身作り直してやり直すぞー!”って方も少なくて。だから何かしらお手伝いできないかなぁ………? と思いまして」
なるほど。
「かといって、人外種を選んだ人全員にお声掛けする、というのも違うなぁ……と。“どーでもいいから、早く次行かせろ!”って言う人もいますからね。 ……結果こうなりました」
「いや、そうはならんやろ……?」
「なっちゃったので諦めてください。 ……という訳なんですが、質問とかあります?」
ん~、特には……いや待て
「何であの曲弾いとったんすか?」
「そこ掘り下げるんですね……」
「今しかないと思いまして」
「……単に、お好きなのかなぁ? と。“生き残れ~♪”とか口ずさんでおられましたし」
急に暴かれる黒歴史! ……マジか、自覚なかった…。顔あっつ…
「他には?」
「特にないっす……」
「わかりました。では、こちらをどうぞ」
ぴろーん! て能天気そうな音が鳴って、視界の真ん中にこんな文章が出てきた。
《条件が満たされたため、称号〈副神シトリーの祝福〉を授与されました》
《これにより、スキル〈幼鬼〉に、個体特性【福耳】が追加されます》
これが“通知”なんやて。
……ホンマや。耳が……でっかくなっちゃった(物理)。
「転移、再開しますか?」
「……はい、お願いします!」
危な、ボーッとしとったわ……
扉の向こうから、また光りだした。
「では、よい旅を」
「ありがとうございます」
こうして俺は、白い光に包まれた――
◇
光が消えたら、そこは噴水の前。
活気あふれる石造りの街、その熱気が……
―― い や 暑 い 、 暑 す ぎ る わ ッ !!
初期装備、初期装備と初期装備、ときどき上級者? て感じ。要するに、これは……
密 で す 。
……もうね、大混雑です。街の実況もクソもない。
いやほら、な~んも見えんし。今の俺、背ぇ低いミニゴブやからな!
ケッ、な~にが「光が消えたら、そこは噴水の前。活気あふれる石造りの街、その熱気が……」や。
活きのええ水の音と石畳だけで、そこまで分かるんか? 素晴らしいご見識でんな~……
んで……あぁ~、人波に流されるぅ~。身動き取れんやないですかヤダ~ !!
祭りか? なぁ、今日は祭りなんか ??
……いやそうか、祭りは祭りやな。上級者っぽい人らが「新人大歓迎!!」みたいな幕持っとるし。
お勤めご苦労さまでーす……
で……ときどき、人混みのあっちゃこっちゃが光って、初期装備の人が増える。ヤバいヤバい、圧がヤバいて!
昔1回だけ乗った、満員電車を思い出すわ~……
アカンアカン、とりあえず陣笠と簑をしまえ! よ~晴れとるし、周りの人の邪魔になるだけや。
たしか、腰の袋に入れろ、て……お~すげぇ、ほんまに消えた! で、収納に入っとる。
どういう理屈なんやろ……?
高度に発達した科学は、魔法と区別がつかn……いや何でもないです、はい。
……お、ここで何か通知が。
《チュートリアル・クエスト「入口を開放しよう」「冒険者登録をしよう」が開放されました。クエストを始めますか?》
無☆理! ……多分みんなそう思とる。
「「「出来るかぁッ !! 」」」
誰や叫んだヤツ、そんなホンマのこと言うたらアカンやろ!
あと近所迷惑やし……
◇
とか言うとる間も、順調に人波に流されて、なんか噴水の前に来た。
真っ白い、石造りの噴水や。えらい立派やな~。
で、そのど真ん中に、白い像が建っとる。石膏像てやつかな?
あの顔は……シトリー様やな、さっきの女神様。
拝んどこ。なむなむ……
で、“ID検索”で~……友達2人登録しといて。
《異人「ボーゼ」からの伝言があります。伝言を見ますか?》
うおぉ早ッ !? もう何か来た!
……アイツか、見とこ。
『広場の傍まで来た。今どこおる?』
「噴水の脇、教会? みたいな高い建物の前。動けん助けて」
ざっくり返信。
『了解、すぐ行くわ。何か目印ある?』
ん~……
「足軽装備に、特徴的な緑色……とか?」
『いや聞くなや』
とかやっとったら、斜め前から声がして……
「どけッ、どけーッ! オラ邪魔だッ !! 」
「ぶえッ !? 」
タバコの兄ちゃんがぶつかってきて、後ろに突き飛ばされた。
「ごはッ !? 」
噴水の吹き出し口か何かが、腰に当たる。そのまんま、ばちゃーん! て、頭から噴水池に突っ込んだ。
鼻と口から空気が抜けて、喉仏ら辺まで、冷たい水が入ってった。
「もべべべ……ごもっ、ごもっ」
息なんかできん。
んで、両手両足が、指先から冷えてくんが分かる。
やのに、頭と体は逆。熱なりよる。
ヤバい、溺れる! ……て所で、左腕を引っ張られた。
「【洗浄】! 大丈夫ですか !? 」
「ゲホゲホ……ありがとうございます、大丈夫です」
近くにおった、別の兄ちゃんに助けてもろた。手慣れとってやな、1陣の人か。
ええ人もおれば、ヤバいヤツもおるもんやな~……。
……とか思いながら周り見たら、
「【光の癒し】!」
「……ありがとうございます!」
「おい大丈夫か !? 」
…………………
……………
……
3人ぐらい同し目に遭うたらしい。うわぁ……
まあでも、皆さん助かったみたいやし、俺にできることはないな……。
ちなみに、タバコの兄ちゃんは、
「触るな、放sごはっ !!? 」
「うるせぇ! ウチの回復術師をよくも !! 」
「がッ、んぐッ !! 」
「そうそう。この借り、高くつくやで~?」
…………………
……………
……
周りの人らにボコられとる。恐ろしく早い私刑執行……待て、助けとる人より多いやん!
あと、おかしい関西弁。うわ怖~、距離取っとこ……
にしても、あれやな。“疎外感”て言うんやっけ? ……今めっちゃ感じる。
周りの人の発音――特に音の高さ――が、完全に標準語。学校の授業中みたいや。
「……NPCのおじさんがさぁ」
「……そんなの【光の矢(?)】で1発だったぜ !? 」
「……なんでやねん! ハハハハ……」
…………………
……………
……
おい誰や、今「バカ!」のアクセントで「なんでやねん」言うたヤツ? 「なんでやねん」やろ。
後ろから蹴り入れたろか ??
……とか気にしとるん、俺だけみたいやな。ここ、東京のゲーマーしかおれへんの? んなわけないよな~……。
関西弁聞きたいわ。いきなり、まさかのホームシックか~……
あ、また通知来た。
《Lv.2になりました》
《〈体力強化〉がLv.2になりました》
《アインツ公国の首都「アインツ市・中央広場」の入口が開放されました。行動不能時の復活地点となります》
《チュートリアル『入口を開放しよう』を達成しました。「アインツの清水」を獲得》
「……はい?」
マジで……? そんなんでレベル上がるん !? ええの ?? 偉いさん ???
……「お問い合わせ」しとこ~。
《抵抗に失敗しました》
《抵抗に成功しました》
……今度は何 !?
情報多すぎるわ、ツッコミ追いつかんやんけ !!
◇
……「お問い合わせ」メールしても、待ち人来ず。
暇潰しに、噴水の水とか石材とか【鑑定】しとこ。
で、な~んか嫌な予感するから、よそ様には極力向けんようにして……
「んなぁ」
……野良猫か。引っ掻かれたら嫌やな~。
水から【鑑定】しよ……
―――――
アインツの清水
アインツ市・中央広場の噴水で採れる湧き水。
同地にある副神シトリー像の効果により、飲める程度まで浄化されている。
―――――
???石
アインツ公国北部、およびその周辺で採れる岩石。
―――――
出ました、【鑑定】結果です。
ふ~ん……分からん。何も分から~ん。
まぁ、まだ来たばっかりやし、〈鑑定 Lv.1〉やし……そんなもんか~。
……な~んか周りがざわついとるな~。お、人混みに割れ目が入った。誰か来たな。
青白い顔の獣人「ボーゼ」と、淡い金髪の森人「えすとっきゅー」の2人組。友達や。
……えらい時間要ったのぉ?
「「まさかのミニゴブリン…… !! 」」
ほぉ~? けったいな挨拶やな~ ??
「……よ~お前ら、人間やめたんか?」
「「何ちゅうこと言うねん !? 」」
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
今日はこの辺で。
次回は週末、7日ごろに更新する予定です。ゆるゆるお待ちいただければ幸いです……
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/07/25)
――【おまけ】ジンジュくんの現状――
ジンジュ Lv.2
種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男
属性:土
職業:―
所持金:1,480マニ
SP:1
HP:100%
MP:100%
状態:正常
スキル:5
〈鈍器 Lv.1〉〈防御 Lv.1〉〈危機察知 Lv.1〉〈体力強化 Lv.2〉
〈鑑定 Lv.1〉
※「初期スキル」タブから、あと5個選べます
(控え:―)
(種族:2)
〈投石 Lv.1〉〈幼鬼〉
称号:1
〈副神シトリーの祝福〉
幸運のステータス値が微増する。
また、知力と精神の取得経験値が微増する。
装備:1
・胴~足:〈初めての足軽装備一式〉 ……耐久100%