026. 月夜の街と、北の森
リアル4日目です
???「肝試しでっせェ~!!」
朝9時過ぎ。俺は「ファンフリ」に飛び込む――
……いや、9時48分やったわ。10時前やんけ。
「き゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ゛!」
いっつも通り、「アインツ・中央広場」に来たら、けたたましい叫び声の中やった。
朝一から元気やな~、耳痛いわ……
《従者「とがの」の〈採取〉がLv.4になりました》
《従者「はっさく」の〈調合〉がLv.3になりました》
で、平和そうな通知が来t……
「すいませんでした許して」
「せからしか、斬る!」
……いやうるっさいな! 何なんさっきから?
て思て見たら、忍者風の人を、剣士風の人が追い回しとる。
忍びやない、忍者や。目立ちすぎ。
んで、剣士さんのほうは喋りが特徴的。薩摩隼人てやつ? いやでも洋服やしな……
てかえらいキレとってやな ?? 何があってん ???
……まあええわ、放っとこ。噴水の向こうやし、何もでけへん。
それより、昨日のギターの人。今日もおってや。
けどアンプはないし、弾いとるギターも、曲も違う。
「Don't go away」
間奏か後奏か知らんけど、歌い終わった所っぽい。
微妙な歌声……いやギター上手いなこの人! 一音一音丁寧で、めっちゃ音きれいやん。
これ昨日の轟音ギターと同し人 ?? マジで ???
「うるっせぇな !! 夜中だぞ !!? 」
急に後ろから怒鳴られて、思わず振り返る。
南の大通りに面した、ある店の2階から、毛むくじゃらのおっちゃんがこっち睨んどる。
いかにも気難しい職人さん、て感じ。
怖っ……
「「「『サーセンした!』」」」
思わず頭下げてもた……仲間が! 仲゛間゛か゛い゛る゛よ゛!!
違う違う、そこはどうでもええ。夜7時の繁華街みたいなノリで、夜中やったんかい~ !!
騒ぎすぎやろ、巻き添えで怒鳴られる身にもなれ!
んで、振り返ったついでに、ボーゼ見っけ。
南の大通りを歩いてきよる。今日ももう来とったらしい。
声聞こえる距離やないから、お互いに「よぉ!」て手ぇ挙げといた。
……あれ~、妙やな? えすとは別か。
ほなどこおるん~……?
キョロキョロその辺見回しとったら、えすと発見。教会“アインツ大聖堂”のほうから走ってくる。
てかここ、教会は夜中も開いとんねや。へぇ~……
「よぉー、元気しとったか?」
「おはよ~……おい昨日の今日やぞ」
「せやな。ボーゼは?」
「あっち」
指差しながら振り返ったら、思とったより近くにおった。
せや、狼獣人やから速う動けるんやったわ。
「よぉ、これで揃たな」
「よぉー、また朝一で狩りか」
「お疲れ~」
「早い早い。 ……で、レティとかスライムらは?」
ボーゼの質問に、えすとが応える。
「それがあの子ら、もう北の森におるみたいでさー」
「マジか、早っ」
「え~、そんな都合のええことが?」
「あるんやなー、俺もビックリ……」
「ほなもう行くコ?」
「「はーい」」
てなわけで、まずは北の大通りへ。
◇
大通りの、最初の交差点――左曲がったら図書館、て所――をまっすぐ進む。
今まで気ぃ付かんかってんけど、この辺から緩~い上り坂みたいや。
意外。平地やと思とった。
で、両側に店が並んどるんやけど……なんか他所より一軒一軒が大きい。
しかも他所と逆に、広場から離れるほど店が小綺麗になっとる。
ほんで、月明かりに照らされる“宝石商”と“宮務庁御用達”て文字列。
……なんか、えらいお高そうな街やね?
「……え? この先、芦○市 ??? 」
「あるかそんなもん、ゲームやぞ?」
きっちりボーゼにツッコまれた。まあせやろな、てか一昨日教会から見とったわ。
たしか、庭付きのデカい建物が並んどったはず。いかにも金持ちが住んでそ~……て感じの。
で、ここは「アインツ公国」。名前的に貴族おってや、たぶんな。
……いやその辺おったな、それっぽい恰好の人。
「○屋か思ちょったら、○塚やったでござる~」
「日本語めちゃくちゃやなー……」
とか何とか、駄弁りながら歩く。
そのうち坂を上りきって、邸宅街て感じの所に出た。突き当たりに城壁が見える。
……いや、よぉ見たらデカい門や。閉まっとるけど。横の小っちゃい出入口使とってみたいやな。
あ~、また検問か~……
坂の上と門の、ちょうど真ん中らへんで、左に大通りが出てきた、急にな。
先を見たら、豪華な宮殿が見える。“公邸”てやつか? 庭広~い……
まあ後や。とっとと街出よか。
なんかここ、歩いとるだけで背筋伸びるな~……。
◇
“アインツ・中央広場”を出て40分ぐらい。検問終わって、「北大門」横の通用口を潜る。
草原に出ました。
「へすへす!」
「きゅわ~」
色とりどりの小兎と、プチスライムが共存しとる。
「わ~う、ファンタジー……でもないか」
「「せやな……」」
平和な世界……と思わせといて、よぉ見たらあっちゃこっちゃで揉めとる。
「ぶす、ぶす !! 」
「ん゛き゛ゅ゛あ゛!? 」
雄の小兎がプチスラを威嚇して、縄張りを主張しとる。
んで、退かへんプチスラに噛みついたり、蹴り入れたりしとる。
「き゛ゅ゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 」
「ぶすぅ~ !? 」
で、大体反撃されて、吹っ飛ばされる……てオチ。一昨日も見たけど、近くで見たらこんな感じなんやな。
や~しっかし、元気やな~。こっちは夜中やで?
……ところでここ、他所より草原狭いんよな。すぐ森や。
「アオ~~……」
いかにも……て感じの、狼の遠吠えも聞こえてくる。隣の狼獣人やない、あの森からや。
その名も、「灰狼の森」。
そんな所やのに、よりにもよって宮殿が近い。やから北大門も豪華……て感じやない。
他所より一回り小ぶりで、厳ついデザインや。特に外側。
門番の人も多いし、無言の圧を感じる。“魔物にご用心!”てな。
「で~、街道通るん?」
「せやな、しばらくは」
「兎らとも合流できそうやしなー」
中央広場から門を越えて、なお北へ伸びるこの道を、そのまま行くんやて。
ほんで、向こうから来るウチの兎・スライムらと合流してから、森の西側へ入る……て段取りや。
「へす~」
「きゅわきゅわ」
◇
街道沿い、けっこう平和。十数分歩いたら、あっさり森に入った。
歩いとるだけで小兎が飛び掛かってきた、あの日々が嘘みたいや……
まあでも、本番はこっから。とりあえず、〈初めての大盾〉を用意。
50mぐらい進んだ所で、後ろから灰狼が2頭出てきた。
ご丁寧に森の端、街道の両側からな。
「まーた送り狼やー」
「真面目やね~、俺ら襲ても何も出えへんで~?」
「大丈夫大丈夫、あそこまで歩いてきゃ何とかなる。等速直線運動、リベンジや」
声を潜めて、言うこと言うとく。
正面、ボーゼが指差すほうを見たら、なんか人集がある。街道のど真ん中やのに……?
いや待て、デカい影が見える。女神像とおぼしき2体分。
右は東の街の人、左は教会で見た女神像の、一番右――すんません知らん人らや――っぽい立ち姿やな。
てことは、その辺安全地帯か。
……ん !? そういやえらい明るいな、夜中の森やのに。
いや、月明かりはええねん。街道沿いの木はナンボか伐ってあって、俺らの真上は夜空が見える。
で、左斜め後ろから、月の光が射しとる。そら明るいわ。
通行人の持っとる照明とか、〈光魔法〉で明るいんも分かる。
問題はそれ以外。
誰もおれへんはずの木々の向こうまで、妙に薄明かるい。何ですかこれは?
……右から小っちゃく何か聞こえる。何が来る?
「……ァンキャンキャン、キャイン!」
「ぴすぴす!」
「ヴ~~」
「きゅきゅ、きゅ!」
「「きゅえ~い」」
狼と、それを追うとるらしい兎・スライムの声がする。なんか聞き覚えあるな?
で、後ろの送り狼が反応した。
「「バウバウ!」」
俺らの後ろから、右手の茂みへ突っ込んだ。ガサガサ掻き分ける音が、だんだん遠ざかる。
「ヴぁ~~」
……待て、今度は左から近づいとるぞ? 仲間多いな !?
んで、早くも短剣構えとるボーゼ、優秀。
「ハッ、ほな一丁やるコ」
「おっけー、俺向こう見とくわ。 ……ジンジュ、背中は任せたー」
「りょ~か~い」
左手に大盾、右手に石。準備ヨシ!
……とか言うとるうちに、兎らの声が止んだ。
両側から近づく茂みの音。ヤバい、挟まれたか……!?
「ふす! ふんす !! 」
先に出てきたんは、薄い牛柄の小兎。俺が【テイム】した「とがの」て子や。
おとなしそうなフリして、異人も狼も噛み○すヤバい子……なんやわ。
とりあえず、生態系に革命起こすんやめてもろて……
い や お 前 か い 。
狼か思たわ……紛らわし !!
んでそこに、ピローン! て能天気な通知音が。
《従者「とがの」「はっさく」が「アッシュウルフ(♀)」1頭を討伐しました》
《「とがの」の〈筋力強化〉〈敏捷強化〉両スキルのレベルが上がりました》
《「はっさく」の〈火魔法〉がLv.5になりました。技【火の癒し】を取得》
とがのに続いて、ウチの兎とスライムらがぞろぞろ出てきた。無事合流。
で、反対側の茂みからは音が遠ざかりよる。灰狼が引き上げよるみたいや。
「チッ……野犬の分際で、賢明な判断しよる」
「「お前がそれ言うな~」」
この狼獣人に、犬の心とかない。
繰り返す。この狼獣人に、犬の心とかない。
閑話休題。ほな進もか~。
◇
周りが静かになったら、気になることがまた1つ。
音楽が聞こえる。みょんみょんしたバンド・サウンドや。
うるさいけどきれいな2本のギター。力強いドラム。控えめなベースが、それらを引き立てる。
「ア~~」
「ララララ~」
声もきれい。低いけど。
結論、上手い(語彙力)
……て、ま~た歌い終わりかい。相っ変わらず間ぁ悪いな~、俺……
「いやいや、飛行機雲もくそもあるか」
「「知っているのかボーゼ?」」
洋楽を漁るボーゼ、意外とクラシック好きなえすと、邦楽で手一杯な俺。
そのボーゼがすぐ分かって、俺らは知らん曲。てことは、たぶん米国か英国のロックバンドや。
要らんことも言うとくと、えすとはワーグナーが好きらしい。壮大な曲書きまくった人な。
とか言うとるうちに、もうすぐ安全地帯やけど…………いや後奏長いなこの曲! まだあるんや……
無法者違うで、後奏な。海外は長いん多いらしい。
……あ、今終わったわ。呼ぶより謗れ。
「Bravo!」
「ヒューヒュー」
演奏しとった4人組の、周りに十数人。拍手とか指笛とかで、えらい盛り上がっとる。
てか4人組、初日に会うた人らやな。ほんでドラムの人、女性やったんや……!
『どーもー、“しす☆たーず!”でーす! 聴いてくれてありがとねぇー』
「どこで名前切っとんねん……」
向こうに聞こえへんのをええことに、悪態をつくボーゼ。当たり強っ……
ほんで会釈――軽く一礼――だけして、とっとと歩いていく。俺らもついてく。
街道から逸れて、斜め左前の獣道に突っ込む。
目的の地下墓地は、まだまだ先らしい。
◇
“アインツ・中央広場”から歩くこと、約1時間。だいぶ空が明るなった。
そろそろ日の出か? てこのタイミングで、茂みの向こうが開けてきた。
そのど真ん中に、石造りの建物が見える。で、俺らから見て左手に、ぱっくりと入り口が開いとる。南向きか。
入り口の手前には、石段が3段。奥は暗いからよぉ見えん。
あれが目当ての地下墓地、その入り口っぽい。
ほんで、その入り口から、ぎこちない動きの男女1組が出てきた。
服ボロいし、肌の色も変。何で灰色…………とか思う前に、それは来た。
腐敗臭。
焼き魚に生卵混ぜて腐らせました……みたいな、エグい臭いが漂うとる。
「う゛ぷ」
「ぴすぴす…… !? 」
ボーゼが口元を押さえ、兎3羽も苦しみだした。
「ふす、ふす゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」
「きゅい !? 」
「とがの! 大丈夫か !? 」
とがのが草吐いた。いや笑てない、それどころやない!
例のごとく声潜めたまんま、とがのに声かける。そこに通知が来た。
《抵抗に成功しました》
《従者「はっさく」が抵抗に成功しました》
《従者「とがの」が抵抗に失敗しました。状態異常【恐怖】【脱水】が付与されます》
思わず見た、例の男女の頭上には「▽レッサーレベナント Lv.20」て文字列。
“ファンフリ”やと、ゾンビ系の魔物や。
肝試しは、もう始まっとる――――
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
次回更新は3/10(月)頃の予定です。地下墓地に突っ込むぞ! 捕まれッ!!
怪談といえば夏! ……ではなく、実は冬なんだそうです。
ちと遅くなりましたが、ゆるゆるご期待ください……
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/07/02)