023. 水色の街と、水玉たちと、轟音と
リアル3日目です
「きゅきゅ、きゅ~」
「きゅいきゅい」
「きゅう、きゅうきゅう」
「きゅえ? きゅえーい」
…………………
……………
……
街中を這いまわり跳ね回る、水色の半透明たち――マンガみたいな光景が、目の前にある。
イースで見た「スライム」より、甲高い鳴き声が響いとる。
少々うるさいけど、微笑ましいな~。
「いや~、ファンタジーやな~」
「いや語彙力」
「“ファンタジー”で片付けんなー」
ドーモ、ジンジュです。皆様いかがお過ごしでしょうか?
こちらは平和なスライムたちに囲まれております……
◆
少々、時を戻そう。
『スライムの大群が「アインツ市」に到達しました』
《従者「とがの」の〈採取〉がLv.3になりました》
ログインして早々、通知が来ました。
けど中身が平和や。ありがたいな~。
……あ、ドーモ、皆=サン。ジンジュです。足軽風の小鬼です。
下ノ畑……やない。例のごとく、アインツ市の中央広場におります……友達より先に来たん、初めて。
周りは十数人の街の人らに、その倍ぐらいの異人、さらにその倍ぐらいの水色のゼリー玉で、混み合うとる。
まあ初日よりは、だいぶマシやけど……
で、この異人の恰好が、ちょっと面白い。
8割方初心者ってとこに、ちょこちょこ強そうな人らが混ざっとるわけやけど、これがまあ、ファンタジーとかゲームとかって感じなんよな~。
がっつり全身鎧着込んどる人もおれば、魔法使いっぽいローブの人もおる。身軽そうなへそ出しの人に、半裸の覆面も…… 半 裸 の 覆 面 ?
……いや大丈夫か、ボテッと腹出とるし。鳥のお面でもない。権利ヨシ!
いやいや、そこはどうでもええわ。その人、古式ゆかしい強盗みたいな目出し帽に、何でか海パンでな。
しかも出っ腹に、福笑いの顔描いとってやねん。
何しに来たったん……?
あとあれ、よそ様の持ち物もすごいのある。
街中で武装てどうよ? て俺は思うから、大盾とか金棒なんかは収納の中。
やけど、よそ様も全員そう、てわけやない。むしろ普通に持ち歩いとる人がほとんどや。
剣ていうより鉄塔? て感じの大剣とか、力士ひっくり返して持ち上げたみたいな大槌とか。
広○苑みたいな分厚い本も見える。魔導書てやつ?
で、1人だけ気になるんが、噴水の向こう側で魔導ギター抱えとる人。ギターはええねん、隣の箱が問題や。
それ魔導アンプ違うん? 街中で使てええん ??
「……オホオホンっ!」
咳払い……?
あ、ヤバい。始まる。耳塞いどこ……
「ギュワーンジャーンジャジャカジャンジャーンジャ……」
歪んだ電気ギター……違う違う、魔導ギターの轟音が、辺りに響き渡る。
知らん曲やけど、体を上下に揺らしたなる。格好ええ弾き語りになりそうやな~。
……とか言うとぉ場合ちゃうねん! 何で耳塞いどんのに轟音やねん !?
音デカ過ぎじゃボケ !!
街中の雀とか鳩とか烏とか、一斉に飛び立って逃げ出したで~?
「ツッデーイワズ痛ててててごめんなさいごめんなさい許して……」
「きゅえー! 【叩きつけ】!! 」
「【突進】ぃぃぃぃぃ !!! 」
「きゅ! 【水の魔球】~ !! 」
案の定、歌い出してすぐ、周りのスライムにどつかれとる。
渾身の体当たりとか、伸びてきた触手とか、【水の魔球】なんかで。
あと、お行儀の悪い異人さんらが、石とか短剣とか紫色の液体とか、色々放っとる。
危ないなぁ……特に紫色の。
何か知らんけど、ヤバそうな液やな~。何やそれ……飛びついたスライムおる !?
あ、舐めた。しかも3匹も。大丈夫かな…… 全 身 を 浸 す な 。
汚い水浴びやのぉ……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛BANされたあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 」
「カバーなんか他所でやれよ! 配信の邪魔だ !! 」
「うるせぇぞバカヤロー !! 」
「そうだそうだ~! 路上でアンプ使えんのは川○駅前だけだぞ !! 」
「いや○崎でもダメだろ !!! 」
お行儀の悪い異人さんらが、罵詈雑言も放りよってや。
……ん !?
「フ●ッキンライヴ版で草」
「魔物がかわいそう……」
「人間の心配もしてやれよ。近所迷惑だろ」
だぁ~、もう! ツッコミ追っつかん !!
……とか思とったら、急に後ろから話しかけられた。
「申し、そこのお方」
「はい?」
嗄れた高い声に振り向いたら、腰の曲がったお婆さんがおってや。
日焼けのせいか肌が浅黒いし、皺が目立つ顔しとってや。髪の毛は白い頭巾に隠れて見えん。
で、赤紫色のワンピースの上に、黄色い打ち掛けを羽織っとる……?
「逓信局はどこか、知りませんか?」
「いや~すいません、分かんないです。僕も来たばっかりなんで~……」
「あ、そうですか。ありがとうございます……」
お互いに頭を下げた後、お婆さんは黒い杖つきながら歩いてった。
見た目の割に、しっかりした足取りなんが引っ掛かるけど……気にしすぎか?
てか“逓信局”て、郵便局の古い言い方やんな?
このゲーム、郵便局まであるんや……
◇
とか何とかやっとったら、路上の音楽家さんも野次馬の皆さんも、どっか行ったったらしい。
いや待て、アンプ置きっぱやぞ? どないすんねん……
まあ、そんなんど~でもええわ。
何か忘せとんな……て思たら、女神像拝んでなかった。
今やっとこ。なむなむ……
ほな、そろそろ周りを跳ね回る、スライムの話しよか。
……て言うても、7割ぐらいは幼体の「プチスライム」らしい。
たしかに、東の街で見た「スライム」より、一回り小っちゃいんが多い。
小っちゃいのに、饅頭型の下のほうが重力に負けとって、少々引きずってもうとる。
そのまんま地べた這いずっとったら、時間かかりそう。やからか、ぴょこぴょこ飛び跳ねて移動するみたい。
あ、そうそう。某魔王様とかと違て、まぶたはない。目ぇ“閉じる”て言うよりは“引っ込める”って感じやな。
引っ込めたとこで、黒っぽい目玉が透けて見えとる。体が半透明やからかな~?
で、今日来てからずっと、噴水で遊んどるプチスライムの一団がおる。さっきの轟音騒ぎもお構いなしや。
「きゅ、きゅきゅ」
「きゅい~?」
「きゅうきゅう、きゅう」
「……きゅお」
「「きゅえーい」」
6匹おるんやけど、よぉ見たら微妙な個体差がある。体の大きさと、あと色味。遠目には半透明の水色やったけど、違う。
透明な水色の体のど真ん中に、青黒い塊がある。あれ魔石らしい。
あと、体のあちこちに、緑色の斑模様がある。
1匹だけ、やたら器用そうな子以外は。
その子だけ、緑色の部分が魔石の周りに固まっとる。やから表面がきれいで、一際輝いて見える。
でもリーダーやない。普通に一番大きい子がリーダーみたいやね……
◇
おっ、10mぐらい離れたとこが光って~……友達1人来たわ。
「ぅおー、こら思とったよりすげぇわ……」
色白、耳長、高身長。でもガタイの良さを感じさせる金髪男子。森人のえすとっきゅー、略して“えすと”さんや。
その目は、スライムまみれの噴水に向いとる。多分ウッキウキな顔しとる俺と違て、彼の顔は引きつっとる。
えすと、ゼリー苦手なんやて。パッと見似とるスライムにも、ちょっと抵抗あるんやろな~……
「よぉ~、おっ先~」
「よぉー、早いな今日。ボーゼは?」
「まだや。まぁそのうち来るやろ~」
「……お? “呼ぶより謗れ”やな」
振り返れば奴がいる。青白い毛並みの狼獣人、ボーゼが。
「よぉお前ら、元気しとぉか?」
「見て分からん? 昨日の今日やぞ~ ?? 」
「せやせや、察せボケー」
「辛辣ぅ……」
はい。お遊びはここからや~。
ボーゼがえすとに一言。
「で、天然のゼリーはどない?」
「んー……寒天やったら平気やねんけどなー。あと葛餅とか」
「「知らんがなお前……」」
……とりあえず兎3羽を呼びます、えすとが。
「【召喚】・ダイス!」
いっつも通りの黒、小っちゃい橙色、小っちゃい牛柄。
「ぴすぴす!」
「……ぷう」
「ふんす」
……あれ、噴水のスライムらのほうへ飛んでったな?
で、ダイスくんがお手しとる。小兎やのにお手しとる。器用やね、どこで勉強したん?
んでそこに、さっきのピカピカスライムくんの触手が伸びて~……
「知リ合イー」
「「1段下げ !! 」」
えすとお前、そこは“ドモダチ~”やろ。
やれやれ……名作映画も、俺らの手にかかればこんなもんや。
……アホ! んな話ど~でもええねん。
「きゅいきゅい~」
「……ぷう」
種族を超えた友情か、それとも狡猾な生存戦略か……どのみち、草原で知り合うて、仲良うなったみたいやな。
いつの間にか知らんけど。まぁ、そんなこともあるやろ~。
……お、連れてくんの? 「仲間にしますか?」てやつ ??
「ふす、ふんす」
「きゅいきゅい~」
「きゅえーい」
俺の前に、牛柄の小兎とスライム2匹。ピカピカくんともう1匹やな。
「ぴすぴす!」
「きゅきゅ、きゅ!」
「きゅえーい」
ボーゼの前に、虎柄の黒兎とスライム4匹。リーダーくんはあっちか。
ほんでえすとの前には、橙色の小兎。
「……ぷう」
「ずるいぞお前ら! 何で俺ばっかりぃー !! 」
「「そういうとこやぞ」」
動物は“鬱陶しいヤツ”を嫌がる、らしい。愛の重さゆえに、うるさくてベタベタするえすともそっち側や。
ちなみに俺は普通。
ボーゼはモテモテ。ちょっと怖いぐらいモテモテ。さすがイケメン。
さらに要らんこと言うとくと、リアルではえすとにだけ、彼女がいます。 ……ど~でもええな?
動物園とかでも、いっつもこんな感じや。
◇
さて参った。スライム2匹も面倒見れん。どないしよ……?
「難儀やな。スライム4匹も面倒見れんど?」
「ボーゼ、お前もか……」
「……俺の時代来たー!」
「「懲りろお前ェ……」」
……とか言いつつ。彼が3匹、ボーゼが2匹、俺が1匹、それぞれ見ることになった。
……え? 行けるんか、やて……?
「……きゅえー?」
「きゅえー?」
「「……きゅえーい!」」
「……きゅきゅ」
ノリの軽い2匹と、リーダーくんが名乗り出たわ。ありがとうねぇ。
ほな【テイム】……の前に、や。
「ちょ~っと失礼しまして。【鑑定】」
―――――
プチスライム(♂) Lv.8
(分類)魔物/??型
まだ幼い、自然界の掃除屋。雑食。
水と光を好み、明るい森林に棲む。ただし、小さな体に無限の可能性を秘めている。その気になれば、どこへでも行けるだろう。
HP:100% MP:100%
―――――
えらい意味深な説明やな~。
……いやいや、細かいとこは後でじっくり。
「ありがとうねぇ~。ほなお待たせしました、【テイム】」
「きゅい!」
《「プチスライム」1体の【テイム】に成功しました。名付けやステータス画面の閲覧ができます》
「名前か~……“はっさく”とかどう?」
「きゅい~」
大丈夫みたいやn……いや俺がアカン !!
《名付けに成功しました。以下の条件が満たされています》
《〈生活魔法〉〈従魔法〉両スキルがLv.3になりました》
《称号〈水玉の主〉を取得しました》
《MP不足により、状態異常【気絶】になりました。回復まで約55秒……》
《従者「はっさく」が、称号〈鬼族の従者〉を取得しました》
通知来たけど、な~んも出来ん……
「あーまたか……起きろジンジュー」
えすとに肩を揺すられて、秒数が減ってった。
「……ハッ !? おはようございました~ッ!」
「「おうお疲れー」」
飛び起きたら、2人ととがの、はっさくが見とった。
他の子は、それぞれで駄弁っとるみたい。楽しそうで何より。
「HAHAHA、ジンジュのここ、空いてますよ?」
「ふす……」
「きゅい……」
「「きっっしょ……」」
スベった! 第三部完 !!
……は置いといて、はっさくに一言。
「……グダグダやけどまぁ、よろしく~」
「きゅい~」
彼の頭上から、触手がニュッと伸びて、赤ちゃんの腕みたいな形をとる。見事な親指アップやな~。
……ん !?
「はっさく、お前……左利きやったんか !? 」
「きゅい?」
「「ツッコむとこそっち ??? 」」
お読みいただき、ありがとうございます。
あとブクマ・評価等も m(_ _)m
次回更新は2/10(月)頃の予定です。はっさくの秘めた能力とは……?
【追記】一部修正しました
(2025/06/29)
――【おまけ】ジンジュくんの現状――
ジンジュ Lv.7
種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男
属性:土
職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―
所持金:420マニ
SP:5
HP:100%
MP:100%
状態:正常
スキル:8
〈鈍器 Lv.4〉〈防御 Lv.3〉〈受け流し Lv.4〉〈火魔法 Lv.2〉
〈生活魔法 Lv.3〉〈従魔法 Lv.3〉〈解体 Lv.3〉〈鑑定 Lv.1〉
(控え:5)
〈危機察知 Lv.2〉〈下剋上 Lv.3〉〈体力強化 Lv.4〉〈筋力強化 Lv.3〉
〈敏捷強化 Lv.3〉
(種族:2)
〈投石 Lv.3〉〈幼鬼〉
称号:5
〈駆けだしの冒険者〉
住民からの信頼度が微増する。
〈副神シトリーの祝福〉
幸運のステータス値が微増する。
また、知力と精神の取得経験値が微増する。
〈大物を喰らいし者〉
人類NPC、および同族NPCからの信頼度が少し上がる。
〈生還者〉
HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。
〈毛玉の主〉
物理攻撃の被ダメージが微減する。
(控え:3)
〈邪道〉
現在は無効。相手への急所・弱点攻撃の与ダメージが微増する。
〈処刑人〉
現在は無効。急所攻撃の命中率が微増する。
〈水玉の主〉
現在は無効。物理攻撃、および水属性の被ダメージが微減する。
従者:2名(定数2/〈従魔法〉)
とがの Lv.8
ミニラビット(小兎/下位兎族) ♀
HP:100% MP:―
はっさく Lv.8
プチスライム(下位粘体族) ♂
HP:100% MP:100%