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【偽典】関西人とツッコむ! VRMMO ~この辺、“鬼”がよぉ育つ~  作者: あいお明
[第2章]行動範囲(エリア) を 広げよう !
28/45

023. 水色の街と、水玉たちと、轟音と

 リアル3日目です



「きゅきゅ、きゅ~」

「きゅいきゅい」

「きゅう、きゅうきゅう」

「きゅえ? きゅえーい」


 …………………

 ……………

 ……



 街中を這いまわり跳ね回る、水色の半透明たち――マンガみたいな光景が、目の前にある。


 イースで見た「スライム」より、甲高(かんだか)い鳴き声が響いとる。

 少々うるさいけど、微笑(ほほえ)ましいな~。


「いや~、ファンタジーやな~」

「いや語彙(ごい)(りょく)

「“ファンタジー”で片付けんなー」



 ドーモ、ジンジュです。皆様いかがお過ごしでしょうか?

 こちらは平和なスライムたちに囲まれております……



 ◆


 少々、時を戻そう。


『スライムの大群が「アインツ市」に到達しました』

《従者「とがの」の〈採取〉がLv.3になりました》


 ログインして早々、通知が来ました。

 けど中身が平和や。ありがたいな~。

 ……あ、ドーモ、皆=サン。ジンジュです。足軽風の小鬼(ミニゴブリン)です。


 下ノ畑……やない。例のごとく、アインツ市の中央広場におります……友達より先に来たん、初めて。


 周りは十数人の街の人らに、その倍ぐらいの異人(プレーヤー)、さらにその倍ぐらいの水色のゼリー玉(スライム)で、混み()うとる。

 まあ初日(おととい)よりは、だいぶマシやけど……


 で、この異人の恰好(かっこ)が、ちょっと面白(おもろ)い。

 8割(がた)初心者ってとこに、ちょこちょこ強そうな人らが混ざっとるわけやけど、これがまあ、ファンタジーとかゲームとかって感じなんよな~。


 がっつり全身鎧(フルプレート)着込んどる人もおれば、魔法使いっぽいローブの人もおる。身軽そうなへそ出しの人に、半裸(はんら)覆面(ふくめん)も…… 半 裸 の 覆 面 ?


 ……いや大丈夫か、ボテッと腹出とるし。鳥のお面でもない。権利ヨシ!


 いやいや、そこはどうでもええわ。その人、古式ゆかしい強盗みたいな目出し帽に、何でか海パンでな。

 しかも出っ腹に、福笑いの顔描いとってやねん。



 何しに来たったん……?



 あとあれ、よそ様の持ち物もすごいのある。

 街中で武装てどうよ? て俺は思うから、大盾とか金棒なんかは収納(インベントリ)の中。

 やけど、よそ様も全員そう、てわけやない。むしろ普通に持ち歩いとる人がほとんどや。

 剣ていうより鉄塔? て感じの大剣とか、力士(おすもうさん)ひっくり返して持ち上げたみたいな大槌(ハンマー)とか。

 広○苑みたいな分厚い本も見える。魔導書てやつ?


 で、1人だけ気になるんが、噴水の向こう側で魔導(マナトリック)ギター抱えとる人。ギターはええねん、隣の箱が問題や。

 それ魔導アンプ(ちゃ)うん? 街中で使(つこ)てええん ??


「……オホオホンっ!」


 咳払(せきばら)い……?

 あ、ヤバい。始まる。耳(ふさ)いどこ……


「ギュワーンジャーンジャジャカジャンジャーンジャ……」


 (ひず)んだ電気(エレキ)ギター……(ちゃ)う違う、魔導ギターの轟音(ごうおん)が、(あた)りに響き渡る。

 知らん曲やけど、体を上下に揺らしたなる。格好(カッコ)ええ弾き語りになりそうやな~。


 ……とか言うとぉ場合ちゃうねん! 何で耳塞いどんのに轟音やねん !?

 音デカ過ぎじゃボケ !!

 街中の(スズメ)とか(ハト)とか(カラス)とか、一斉に飛び立って逃げ出したで~?


「ツッデーイワズ痛ててててごめんなさいごめんなさい許して……」

「きゅえー! 【叩きつけ(きゅえきゅえ)】!! 」

「【突進(きゅぴ)】ぃぃぃぃぃ !!! 」

「きゅ! 【水の魔球(きゅきゅきゅ)】~ !! 」


 案の定、歌い出してすぐ、周りのスライムにどつかれとる。

 渾身(こんしん)の体当たりとか、伸びてきた触手とか、【水の魔球(ワダー・ボール)】なんかで。


 あと、お行儀の悪い異人さんらが、石とか短剣とか紫色の液体とか、色々()っとる。

 危ないなぁ……特に紫色の。

 何か知らんけど、ヤバそうな液やな~。何やそれ……飛びついたスライムおる !?


 あ、舐めた。しかも3匹も。大丈夫かな…… 全 身 を (ひた) す な 。



 (ちゃな)い水浴びやのぉ……



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛BAN(バン)されたあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 」

「カバーなんか他所(よそ)でやれよ! 配信(ライブ)の邪魔だ !! 」

「うるせぇぞバカヤロー !! 」

「そうだそうだ~! 路上でアンプ使えんのは川○駅前だけだぞ !! 」

「いや○崎でもダメだろ !!! 」


 お行儀の悪い異人さんらが、罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)も放りよってや。



 ……ん !?



「フ●ッキンライヴ版で草」

「魔物がかわいそう……」

「人間の心配もしてやれよ。近所迷惑だろ」


 だぁ~、もう! ツッコミ追っつかん !!

 ……とか思とったら、急に後ろから話しかけられた。


()し、そこのお方」

「はい?」


 (しわが)れた高い声に振り向いたら、腰の曲がったお(ばあ)さんがおってや。

 日焼けのせいか肌が浅黒いし、(しわ)が目立つ顔しとってや。髪の毛は白い頭巾(ずきん)に隠れて見えん。


 で、赤紫色のワンピースの上に、黄色い打ち掛けを羽織(はお)っとる……?


逓信(ていしん)(きょく)はどこか、知りませんか?」

「いや~すいません、分かんないです。僕も来たばっかりなんで~……」

「あ、そうですか。ありがとうございます……」


 お互いに頭を下げた後、お婆さんは黒い杖つきながら歩いてった。

 見た目の割に、しっかりした足取りなんが引っ掛かるけど……気にしすぎか?



 てか“逓信局”て、郵便局の古い言い方やんな?

 このゲーム、郵便局まであるんや……



 ◇


 とか何とかやっとったら、路上の音楽家さん(ストリート・ミュージシャン)も野次馬の皆さんも、どっか行ったったらしい。

 いや待て、アンプ置きっぱやぞ? どないすんねん……


 まあ、そんなんど~でもええわ。

 何か()せとんな……て思たら、女神像(シトリーさま)拝んでなかった。


 今やっとこ。なむなむ……



 ほな、そろそろ周りを跳ね回る、スライムの話しよか。

 ……て言うても、7割ぐらいは幼体の「プチスライム」らしい。

 たしかに、東の街(イース)で見た「スライム」より、一回り小っちゃいんが多い。


 小っちゃいのに、饅頭(まんじゅう)型の下のほうが重力に負けとって、少々引きずってもうとる。

 そのまんま地べた這いずっとったら、時間かかりそう。やからか、ぴょこぴょこ飛び跳ねて移動するみたい。


 あ、そうそう。某魔王様とかと(ちご)て、まぶたはない。目ぇ“閉じる”て言うよりは“引っ込める”って感じやな。

 引っ込めたとこで、黒っぽい目玉が透けて見えとる。体が半透明やからかな~?


 で、今日来てからずっと、噴水で遊んどるプチスライムの一団がおる。さっきの轟音騒ぎもお構いなしや。


「きゅ、きゅきゅ」

「きゅい~?」

「きゅうきゅう、きゅう」

「……きゅお」

「「きゅえーい」」


 6匹おるんやけど、よぉ見たら微妙な個体差がある。体の大きさと、あと色味。遠目には半透明の水色やったけど、違う。


 透明な水色の体のど真ん中に、青黒い(かたまり)がある。あれ魔石らしい。

 あと、体のあちこちに、緑色の(ぶち)模様がある。

 1匹だけ、やたら器用そうな子以外は。

 その子だけ、緑色の部分が魔石の周りに固まっとる。やから表面がきれいで、一際(ひときわ)輝いて見える。


 でもリーダーやない。普通に一番大きい子がリーダーみたいやね……



 ◇


 おっ、10mぐらい離れたとこが光って~……友達1人来たわ。


「ぅおー、こら(おも)とったよりすげぇわ……」


 色白、耳長、高身長。でもガタイの良さを感じさせる金髪男子。森人(エルフ)のえすとっきゅー、略して“えすと”さんや。


 その目は、スライムまみれの噴水に向いとる。多分ウッキウキな顔しとる俺と(ちご)て、彼の顔は引きつっとる。


 えすと、ゼリー苦手なんやて。パッと見似とるスライムにも、ちょっと抵抗あるんやろな~……


「よぉ~、おっ(さき)~」

「よぉー、早いな今日。ボーゼは?」

「まだや。まぁそのうち来るやろ~」

「……お? “呼ぶより(そし)れ”やな」


 振り返れば奴がいる。青白い毛並みの狼獣人(ウルフ・ビースター)、ボーゼが。


「よぉお前ら、元気しとぉか?」

「見て分からん? 昨日の今日やぞ~ ?? 」

「せやせや、察せボケー」

辛辣(しんらつ)ぅ……」


 はい。お遊びはここからや~。

 ボーゼがえすとに一言。


「で、天然のゼリーはどない?」

「んー……寒天やったら平気やねんけどなー。あと葛餅(くずもち)とか」

「「知らんがなお前……」」



 ……とりあえず兎3羽を呼びます、えすとが。


「【召喚(サモン)】・ダイス!」


 いっつも通りの(レティシアさん)小っちゃい橙色(ダイスくん)小っちゃい牛柄(とがの)


「ぴすぴす!」

「……ぷう」

「ふんす」


 ……あれ、噴水のスライムらのほうへ飛んでったな?

 で、ダイスくんがお手しとる。小兎(ミニラビ)やのにお手しとる。器用やね、どこで勉強したん?


 んでそこに、さっきのピカピカスライムくんの触手が伸びて~……


「知リ合イー」

「「1段(ワンランク)下げ(ダウン) !! 」」


 えすとお前、そこは“ドモダチ~”やろ。

 やれやれ……名作映画も、俺らの手にかかればこんなもんや。

 ……アホ! んな話ど~でもええねん。


「きゅいきゅい~」

「……ぷう」


 種族を超えた友情か、それとも狡猾(こうかつ)な生存戦略か……どのみち、草原(まちのそと)で知り()うて、仲良うなったみたいやな。

 いつの間にか知らんけど。まぁ、そんなこともあるやろ~。

 ……お、連れてくんの? 「仲間にしますか?」てやつ ??


「ふす、ふんす」

「きゅいきゅい~」

「きゅえーい」


 俺の前に、牛柄の小兎(とがの)とスライム2匹。ピカピカくんともう1匹やな。


「ぴすぴす!」

「きゅきゅ、きゅ!」

「きゅえーい」


 ボーゼの前に、虎柄の黒兎(レティシアさん)とスライム4匹。リーダーくんはあっちか。

 ほんでえすとの前には、橙色の小兎(ダイスくん)


「……ぷう」

「ずるいぞお前ら! 何で俺ばっかりぃー !! 」

「「そういうとこやぞ」」


 動物は“鬱陶(うっとう)しいヤツ”を嫌がる、らしい。愛の重さゆえに、うるさくてベタベタするえすともそっち側や。


 ちなみに俺は普通。

 ボーゼはモテモテ。ちょっと怖いぐらいモテモテ。さすがイケメン。


 さらに要らんこと言うとくと、リアルではえすとにだけ、彼女がいます。 ……ど~でもええな?


 動物園とかでも、いっつもこんな感じや。



 ◇


 さて参った。スライム2匹も面倒見れん。どないしよ……?


「難儀やな。スライム4匹も面倒見れんど?」

「ボーゼ、お前もか……」

「……俺の時代来たー!」

「「()りろお前(ワレ)ェ……」」


 ……とか言いつつ。彼が3匹、ボーゼが2匹、俺が1匹、それぞれ見ることになった。

 ……え? 行けるんか、やて……?


「……きゅえー?」

「きゅえー?」

「「……きゅえーい!」」

「……きゅきゅ」


 ノリの軽い2匹と、リーダーくんが名乗り出たわ。ありがとうねぇ。

 ほな【テイム】……の前に、や。


「ちょ~っと失礼しまして。【鑑定】」


―――――

プチスライム(♂) Lv.8

(分類)魔物/??型

 まだ幼い、自然界の掃除屋。雑食。

 水と光を好み、明るい森林に()む。ただし、小さな体に無限の可能性を秘めている。その気になれば、どこへでも行けるだろう。


 HP:100%   MP:100%

―――――


 えらい意味深な説明やな~。

 ……いやいや、細かいとこは後でじっくり。


「ありがとうねぇ~。ほなお待たせしました、【テイム】」

「きゅい!」


《「プチスライム」1体の【テイム】に成功しました。名付けやステータス画面の閲覧ができます》


「名前か~……“はっさく”とかどう?」

「きゅい~」


 大丈夫みたいやn……いや俺がアカン !!


《名付けに成功しました。以下の条件が満たされています》

《〈生活魔法〉〈従魔法〉両スキルがLv.3になりました》

《称号〈水玉の主〉を取得しました》

《MP不足により、状態異常【気絶】になりました。回復まで約55秒……》

《従者「はっさく」が、称号〈鬼族の従者〉を取得しました》


 通知来たけど、な~んも出来ん……


「あーまたか……起きろジンジュー」


 えすとに肩を揺すられて、秒数が減ってった。


「……ハッ !? おはようございました~ッ!」

「「おうお疲れー」」


 飛び起きたら、2人ととがの、はっさくが見とった。

 他の子は、それぞれで駄弁(だべ)っとるみたい。楽しそうで何より。


「HAHAHA、ジンジュのここ、()いてますよ?」

「ふす……」

「きゅい……」

「「きっっしょ……」」


 スベった! 第三部完 !!

 ……は置いといて、はっさくに一言。


「……グダグダやけどまぁ、よろしく~」

「きゅい~」


 彼の頭上から、触手がニュッと伸びて、赤ちゃんの腕みたいな形をとる。見事な親指(サムズ)アップやな~。

 ……ん !?



「はっさく、お前……左利きやったんか !? 」

「きゅい?」

「「ツッコむとこそっち ??? 」」



 お読みいただき、ありがとうございます。

 あとブクマ・評価等も m(_ _)m


 次回更新は2/10(月)頃の予定です。はっさくの秘めた能力とは……?



【追記】一部修正しました

(2025/06/29)



――【おまけ】ジンジュくんの現状――

ジンジュ Lv.7

 種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男

 属性:土

 職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―

 所持金:420マニ

 SP:5

 HP:100%

 MP:100%

 状態:正常


 スキル:8

 〈鈍器 Lv.4〉〈防御 Lv.3〉〈受け流し Lv.4〉〈火魔法 Lv.2〉

 〈生活魔法 Lv.3〉〈従魔法 Lv.3〉〈解体 Lv.3〉〈鑑定 Lv.1〉

(控え:5)

 〈危機察知 Lv.2〉〈下剋上 Lv.3〉〈体力強化 Lv.4〉〈筋力強化 Lv.3〉

 〈敏捷強化 Lv.3〉

(種族:2)

 〈投石 Lv.3〉〈幼鬼〉


 称号:5

 〈駆けだしの冒険者〉

  住民からの信頼度が微増する。

 〈副神シトリーの祝福〉

  幸運のステータス値が微増する。

  また、知力と精神の取得経験値が微増する。

 〈大物を喰らいし者〉

  人類NPC、および同族NPCからの信頼度が少し上がる。

 〈生還者〉

  HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。

 〈毛玉の主〉

  物理攻撃の被ダメージが微減する。

(控え:3)

 〈邪道〉

  現在は無効。相手への急所・弱点攻撃の与ダメージが微増する。

 〈処刑人〉

  現在は無効。急所攻撃の命中率が微増する。

 〈水玉の主〉

  現在は無効。物理攻撃、および水属性の被ダメージが微減する。


 従者:2名(定数2/〈従魔法〉)

とがの Lv.8

 ミニラビット(小兎/下位兎族) ♀

 HP:100%   MP:―

はっさく Lv.8

 プチスライム(下位粘体族) ♂

 HP:100%   MP:100%



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