022. アインツ市と、見物人と、スライム来襲
今回短めです(当社比)
◆
丸い石造りの塔の中。時計回りに上へ延びる、薄暗い階段を上る。
幅あるから、ギリギリ3人横並びで歩けそう。けど、左に寄って縦1列や。
はい、こちらジンジュ。ログアウトする前に、ちょっと寄り道さして~。
◇
『ラ・ボスケ魔導国にて、スライムの大発生および大移動が確認されました』
そんな神のお告げから数週間。彼らの一部が、ついにこのアインツ市に来る。
「……へぇ~、そんなんあってんな~。知らんかった」
「「せやろな」」
リアル2日でこっちの1週間……らしいから、俺がゲーム始める前なんやわ。
で、スライムの大群を見ようと、眺めの良さそうな所に人が集まりよる。皆さん考えることは一緒か。
ここ「アインツ大聖堂」も、その1つや。
余程おもろいんやろな~。み~んな期待してるで~ !!
「ほな行くコ」
「「あーい」」
「ぴすぴす!」
友達のボーゼ・えすとっきゅーと3人で、大聖堂へ向かう。それぞれ、相方の小兎を抱えて。
噴水の広場からすぐ、建物に入る。3~4階分ぐらいの広い吹き抜けに、大量の椅子が並んどる。
礼拝堂や。
正面いちばん奥に、4人の女性の像。白い修道服に、その身長差は~……左から順にシトリー様、東の街の像の人、知らん人、知らん人。
要は女神像やな?
そんな礼拝堂に入ってすぐ、左に曲がって、突き当たりの階段に出る。
……あら~ッ、拝む暇ないやん !?
で、この階段室、もう鐘楼の一部なんやて。時間になったら鳴る鐘が最上階にある。
そのすぐ下の階が、展望室として一般開放されとるんやとか。
薄暗い塔の中は、床も壁も階段も石むき出し。殺風景な吹き抜けの上の方に、夕陽らしき光が射し込んどる。
その上に見えとる丸いんが、鐘か。
柱は見当たらん。地震とか来えへん感じかな?
時計回りに上へ延びる階段は、意外と幅がある。
壁と、反対側の手すりの間に3人横並びでも、ギリギリ通れそう。せえへんけど。
降りてくる人と余裕持ってすれ違うには、お互い縦1列が正解や。
違うか? 前の横1列さん ???
◇
階段7周したかな? 目的の階まで来た。
階段はもう1周ぶん続いとるけど、縄が張ってあって通れん。で、その縄の真ん中から、「STAFF ONLY」て書いた紙がぶら下がっとる。
関係者以外入んな、やて。
展望室への出口の脇に、修道服の男女が立っとってや。
「「「こんにちは~」」」
「こんにちは。展望室はこちらです」
「ごゆっくりどうぞ」
……おわ眩し! 夕陽が射し込んどる。
でも西側やからな、そっち見とかなアカン。
はい、ほなアインツ市の、高い所から失礼しま~す。
石造りの町並みで、白、黄色、灰色の建物が多いんやけど……
上から見たら印象変わる。意外と屋根が彩り豊かや。白、黄色、灰色以外に、橙色とか黒、茶色もある。
んで、中央広場から8方向に延びる大通りを軸にして、街が放射状に広がっとるんが分かる。
まっすぐな道が多いから、計画性の高さも感じる。
方向性は違うけど、なんか○都っぽい……○阪みたいにゴチャついた感じはない。
ところで、「アインツて何か変やな~」て思とってんけど、謎解けたわ。
どうもここ、“商業に特化した街”みたいや。大工場も、イースみたいな広い農地も見当たらん。
そら変やわ……
で、街の外ぐる~っと見渡して分かった。やっぱ川少ない。てか大きいの一本だけ。
「えらい所に街拵えたな~」
おっと~、独り言が洩れた……
街の周りをぐるっと囲む、石造りの城壁。その外側はまず草原、次に森、以上……て感じ。
例外的に、街の東西南北にまっすぐ延びる街道の石畳。
あと西側にだけ、謎の巨大建造物と、南北に流れる大きい川もある。まあでもそんなもん。
で、大きい川て言うても、幅とか知れとる。地元の○川のほうがデカそうや。そら水足らんわな。
……ん !?
「謎の巨大建造物について、もうちょい悔しく」
やて?
……チクショ~ッ、やりゃあいいんだろやりゃあ !?
街の西側、森に入る手前に、例の川が流れt……だぁクソッ、行き過ぎたッ !!
街の西側、門を出てすぐ。
街道の右手、つまり北側に面して、石造りっぽい平屋の巨大建造物がある。
……これ以上は俺にも分かんねぇんだよ!
だが俺には仲間が…… 仲゛間゛が゛い゛る゛よ゛…… !!
「お2人さんお2人さ~ん。あの門の外のバカデカいん、何~?」
「あれかー、初心者向けの即席ダンジョンやてー」
「へぇ~……情報源は?」
「○清」
「焼きそばの話違うね~ん……」
えすとに期待した、俺がアホでした……
交代で。
「運営の更新解説動画で、その話もしとったわ」
「ほな公式?」
「Yes. アインツ周辺混んどって狩りでけへん! ……て時に使え、ってよ」
「りょ~か~い」
……だそうです。
ボーゼ=サン、ドーモアリガトウナノダ!
◇
図鑑で読んだ話やと、“ファンフリ”のスライムは一種の究極生物らしい。
実際、こないして上から見とったら、その異質さがよ~分かる。
下手しい、俺ら異人より賢そうや。
時折、赤や青の光が漏れる西の森。そこから、半透明の水玉たちが姿を現す。
本日の主役、スライムや。暗いから、色までは分からん。
彼らはまず、川を渡る。この渡り方からして違う。
上空には鳥たち。水中には魚たち。そして街道沿いや対岸では異人たちが待ち構える。
それぞれ、腹なり経験値なりの足しにするつもりみたいや。
「ワカリヤス~イ!」
「……ふす?」
失礼、また独り言や。
川渡りたいけど、周り敵だらけなスライムたち。
ならどうするか?
幅の広いあの川でも、両岸が近づく所はある。ここから見える範囲内やと3ヶ所。そこに、スライムらが集まりよる。
それぞれに、鳥やら異人やらが攻撃しだした。
けどスライムらも負けてない。
お返しとばかりに触手伸ばして弾いたり、【火の魔球】撃ち込んだりしとる。
真ん中の地点で、1匹が青く輝く光の球を頭上に出した。〈水魔法〉の技、【水の魔球】やて。
で、その上に飛び乗って、魔球を動かした。鳥や異人らの集中攻撃をひょいひょいかわしながら、あっさり対岸に着いた。
そこに向かって、スライムの塔が倒れかかっていく。
……いつの間にやら、何十匹ものスライムらが、お互いを触手でがっちり固定しあって塔を建てとった。
「キマシタワー」
「節子、それなんか違う」
「スラの斜塔……いや何でもないで~す」
「「縁起悪い!」」
倒れる塔の先頭の子と、対岸一番乗りの子が、それぞれ触手を伸ばす。
無事キャッチ、軟着陸して、ここに「スライムの橋」が架かる。
「頭ええな~……」
「「せやなー……」」
素晴らしい連携。異人も鳥も見習うべきである。
……無理か。そら残念。
あとは残りの子が渡りきるんを待って、回収するだけ。
残りの2地点でも、ほぼ同しやり方で、スライムが川渡っとる。
ただ、先に渡る子が5匹に増えとって、鳥やら異人やらに反撃もしとった。
そんなスライムらが、西から平原を跳ね回りはじめる。大群がどんどんバラけてきて、3~6匹のグループが見えてきた。
街の西側の平原が、どんどんスライムのグループで埋まっていく。といっても、自分から「先客」に襲いかかる愚か者はおれへんかった。
縄張りを主張するオスの小兎は、触手ではたかれて追っ払われる。
それでもしつこく食い下がれば、ゴクンと丸飲みされた。
腹を空かせた茶狼の群れも、逆に飲み込まれていく。
ほんで焦った異人の皆さんも、魔法ばらまかれて返り討ちにされとる。わ、すごい……綺麗な十字砲火食ろとんのぉ~!
……やっぱ自称「賢い猿」は愚か。時代は亜人、かな?
「ん~……見るべきほどの物は見つ。今は帰宅せん」
「急に『平○物語』!」
「中身普通かー!」
「まあそらな~、普通科の高校生やし」
「「関係ないやろ」」
ツッコミありがと~。
◇
で、階段降りながら、ボーゼが訊いてきた。
「お前ら今日、夜の部パスやっけ?」
「すまんな~。明日の午前中、用事やからさ~」
「俺も部活やしー」
「OK. ほな動画でも作るか」
兎3羽をえすとの【送還】で帰して、本日終了です。
明日は昼からやて。
「「「ほなまた~」」」
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
次回更新は2/1(土)頃の予定です。
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/17)