020. 街道と、平原と、“イース市”
お待たせしました、更新です!
《クラン「とうとう○ベンジャーズ」と交戦中です》
《従者「とがの」が異人「ボス・ザ・グレート」を討伐しました》
《「とがの」が称号〈人間不信〉を獲得しました》
「は゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~ ッ ??? 」
これ、どないせえ……て…………?
「……あ゛ァ゛? ワレ何しょんどい !? 」
ボーゼの声がする。お怒りやな。
……ハッ !? アカンアカン、ボーッとしとった!
考え事は後や。まずは起きろ、ほんで現状見ろ!
牛・豚・鶏が点在する平原。その中の一段高いところを、石畳の街道が通っとる。
そのド真ん中で戦う、はた迷惑な一団。ボーゼ、えすとっきゅー、はったむさしさんの3人と、兎・小烏の4羽。
対する向こうは十数人の異人と、4頭の狼。
こっちが不利に見えるけど、ボーゼは……
「ほぉ、やるやん! これ止めるんコ !! 」
「ッチ、2人がかりでこれかよ……!」
めっちゃ楽しそう。余裕すら感じる……
あと、はったさんも生き生きしとる。2人の後ろでドン引きしとるえすとに、俺は同情したい。
「アッハハハハハ! 気晴らしに丁度いいぜェ~ !! 」
「うわー…………【光の魔球】……」
で、どうも向こうは混乱しとってらしい。
「……痛って !? テメェら何突っ立ってんだよ!」
「「すいやせん !! 」」
「は? じゃあ指示くれよサブさん! 俺らはどうすりゃいいんだ !? 」
「それはボスに聞けよ……そういやオチてたなクソったれ !! 」
「チッ、兎公どもがちょこまかと……ウゼぇ !! 」
あ゛? とがのが何やと ??
……いや待て、俺の割り込む所ないわ。相手はレベル15から19。
味方の20台かつ変態的に上手い2人と違て、俺は一桁の素人。
足引っ張るぐらいやったら、ここは1つ、昼n……逝んだフリしながら、隙を突こ……
「……ん !? ザコゴブまだ生きてね?」
「マジっすか !!? ……おいポチ、タロ! アイツをやれ !! 」
「「バウ !!」」
アカンばれた !!
しゃ~ないな、こんな時は……
逃 っ げ る ん だ よ ォ ~ ッ !!
……いや待て、何か忘せとぉぞ?
「¿Qué? ……コケッ、コケーッ!!」
反対側から声がして、ついそっち見た。
雄鶏が1羽、こっちに走ってきよる。
モヒカンみたいな、長~い鶏冠に、鮮やかな茶色と黒が混ざった毛並み。
君の名は。
《「ロックンロール・コッケ(♂)」1羽と交戦中です》
古い教科書か。
偏見が過ぎる、もうそんなバンドマンおれへんて。
……違う違う! しもた、挟まれた~ッ !!
「【風の魔球】!」
「うわっ !? 」
「コケーッ !! 」
狼らの主、「オオミワ」とかいう異人が放った魔法を……あれ? 避けれた ??
えっ、俺こんな早よ動けたん !? マジで ???
それって……あん時も避けとったら、“日焼け”で逝なんで済んだんか…… !!
「ケーッ、ケケェ゛ーッ !! キ゛エ゛ェ゛ーッ !!! 」
「「バウ !? 」」
エレキギターみたいに、じわじわ歪んでっとる鶏の声で、現実に引き戻された。
いや、ゲームん中やけど。
けたたましく鳴き喚きながら、鶏はオオミワくんに向こて駆けだした。
で、狼らは鶏に気ぃ取られとる。
「【風の魔球】!」
「ケ゛ェ゛ーッ !! 」
「クソッ、当たんねえ! ……って早くやれ !! 何してんだよポチ、タロ !? 」
「「バウ !? 」」
名前呼ばれるまで、主の指示に気ぃ付いてない。気ぃ付いても、中身忘れとる。
俺をすっぽかして、鶏を追っかけだした。
リアルで“動物相手に大声出したらアカン”けど、『ファンフリ』も一緒みたいやな。もうグダグダや。
「バウ!」
「バウバウ!」
「¿Qué? ケ゛ーッ !! 」
鶏が狼らの相手しだしたんを見て、オオミワくんがこっち向いた。
「ッチ、しょうがねぇ……【風の破魔矢】!」
「……っわ !? 」
「【風の破魔矢・3連】!! 」
「わっ、はっ、ひぃッ…… !! 」
変な声洩らしながら、ギリ避けるんで精一杯……
「おい早くしろ! ザコゴブ1匹に何してんだ !! 」
「違うんすよ、アイツ聞いてたより上手くて……」
「バカお前、半日もありゃレベル上がるだろ !! 代われ、俺がやる。【風の魔球】・5連 !! 」
オオミワくんの横から、なんか偉そうな兄ちゃんが出てった。 て多いな !?
「あっ、や、わっ、あ、ひぃ!」
「~ッチ! 【風の魔球】・3連 !! 」
「あっはっやんッ!」
「んがーッ! 誰がアホだ卑怯者 !? 俺と戦え !!! 」
知らん、アホとか言うてない !! 何なん気ぃ短いなチb……今ヤバいこと言うたぞ !? あの人、大声で !!
「……フ゛コ゛!? 」
「ン゛モ゛~?」
「「「『ケ゛ーッ !! 』」」」
あっちゅう間に、平原じゅうの空気が変わった。
鶏中心に、強そうな魔物が彼を睨んどる。
……あ~あ、やってもた。俺知~らね。
大声で要らんこと言うんが悪い……いや、とっとと逃げとこ。巻き添え食らう前に。
「「「『ケ゛ェ゛ーッ !! 』」」」
「「「は?」」」
「バカヤロー、何してんだテメェ !! 」
「すいません、すいません!」
ボーゼ、はったさんと、10羽ぐらいの雄鶏に襲われながら仲間割れ。
余裕やな。これが“数の暴力”か~。
で、通知が飛んでけえへんから、今んとこ鶏の敵はあっちだけみたい。
《「コッケ」3羽と交戦中です》
い や 、 来 ん の か い ……
◇
“交戦中”て通知来たけど、鶏も敵クランもこっちには来えへんな。
ありがたやありがたや~……あ、PTチャットが。
『先行っとけ。ここは俺に任せろ』
はい走る。えすとと合流しよか~。
……「やだイケメン!」とか言いたなるけど、違う。
ボーゼあるある“勢い余って敵を増やす”やでこれ。テストに出るど~。
あいつの事やからたぶん、多分やけどな。
向こうに通知来て、「は?」とか何とか騒いどるから、「隙あり!」て“サブさん”とやらに斬りかかったはず。
そん時に、鶏さんにぶつかるか何かして、めでたく敵認定されたんやろ。
アイツは変態的にゲーム上手いだけで、別に“孤高の俺強えー”さんやないからな。むしろ「やってもた!」て顔しとるし。
や~、速すぎるんも考え物やね。
いや基本ありがたいけどさ、俺「弱えーさん」やし……
「……ふす?」
……アカンアカン、要らんこと考えすぎや。
いつの間にか街道走っとる、えすと・ダイスくん、とがのと合流して。
「……あれ? はったさんとクロウくんは」
「あっち。『後腐れないように、責任持って殲滅しといてやる』やてー」
「りょ~か~い」
街道を東へ、ひた走る。
……いや怖! クランと鶏十数羽、全部倒すってか ??
2人と2羽でやるもん違うやろ !?
◇
2~3分ぐらい走ったとこで、またまた通知。
《戦闘が終わりました。以下の条件が……》
《〈従魔法〉〈体力強化〉〈敏捷強化〉以上3スキルのレベルが上がりました》
《従者「とがの」がLv.8になりました》
《「とがの」の〈回避〉〈下剋上〉〈体力強化〉以上3スキルのレベルが上がりました》
勝負あり、やて。またえらい静かになって……てことは、や。
まずは豚くんと鶏さんらに、手ぇ合わせて……なむなむ。
んで……とがのさんや、相変わらず足癖悪すぎん?
何がそんなにこの子を駆り立て……またチャット。
『vidi, veni, vici.』
『何それー???』
『“見た、来た、勝った。”』
『カ○サルかよ!』
『〽️禿~げ~ハ~ゲ~そんなの嫌~だ~』
『バ○ハに怒られろー!』
…………………
……………
……
ボケ倒すボーゼにツッコむ、えすととはったさん。思わず外部検索……ラテン語とか知るか、間抜け野郎 !!
……まあ無事、敵を殲滅したみたいで何より。無事とは?
とりあえず一言。
「おめでと~」
◇
鶏追っ払ったり、牛撫でたり、兎見つけたり……街道を楽しみながら。
さらに歩くこと、30分あまり。遠くに見えとった壁が、目の前に高く聳えとる。
石の城壁やない、茶色い土手や。
お~っ歩っ歩っ歩! ついに、ついに「イース市」に、着いた~ッ !!
「……街と街の間、近ない?」
「逆に聞くけど、お前ゲームで3日も4日も延々歩きたいか?」
「いや~、全然」
ボソッと言うたら、ボーゼが渋い顔で聞き返してきた。なんか嫌なこと思い出したんやろな~。
……うん、ゲームにリアルて、そこまで要らん。真っすぐ街道歩いたら、1時間半ぐらいで次の街。ありがたいよな~。
ほな検問か。また並んどんな~……あっ。
「ふす、ふすふす……!」
「大丈夫大丈夫、そんなに怖ないから~」
小刻みに震えとるとがのを抱えて、頭を撫でる。よしよし……落ち着いてったみたいやな~。
ほな冒険者組合員証出して……
「よし、次!」
「「「「お願いしまーす!」」」」
「……おお、珍道中だな」
なんか知らんけど、街の人に言われるな……
で、衛兵のおっちゃん、めっちゃとがの見とる。
「ふす……?」
「……もしかして、アインツで話題になってた牛柄の子?」
「えっ……あ~、多分そうです。連れてったらまずかったり?」
「いやぁ、大丈夫でしょ。結界通れてるし」
えらい信頼されとんな~、結界。判定基準とか、私、気になります。
「はい、ご協力ありがとうねぇ。 ……問題なし! 通ってヨシ !! 」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「気をつけてねぇ。 ……よし、次!」
てことで、アインツ公国東部、「イース市」に入ったで~。
土手の内側は、首都「アインツ市」よりちょっと広そう。奥に石の城壁が見えとるし、その向こうには、建物が仰山ある。
街はあっちなんやて。
……え? 「ほなワレどこ居んねん!」?
郊外の農地みたいやで~。畑がブワーッて広がっとる中に、作業小屋っぽい木造平屋がぽつぽつと~。
……ええ景色や。
街道の両脇は、太い用水路で固めてある。水路は石垣3面張り、てとこかな? コンクリやなさそう。
……異世界にもおってなんや、石垣職人さん。へぇ~……Unknown衆?
んで、その用水路をまたいで、街道から畑に下りれる畦道もある。畦道に沿って、水路が張り巡らされとる感じやな。
水は左から右へ、前から後ろへ流れとる。俺らは東へ進んどるから、どっか北東のほうに水源があるんやろな。
……まあ細かい話はええねん。それよりこの水の音!
細い水路のチョロチョロ……とか、合流点のダバ~……とか。風の音と行き交う人らの話し声に混じって聞こえる、この音がええ。
夏らしい、涼しげな音や。最高。
「最高……農家さんとか技師さんらに感謝y」
「みんな見てよ! 美しい自然だ~ !! 」
……うるさいな、前の配信者。
◇
イース市の街と農地を区切る、石の城壁まで来た。いよいよ門をくぐって、街に入る。
「「「「こんにちは~」」」」
「おう、ようこそイースへ! 楽しんでこいよ !! 」
「……ふす~?」
衛兵の兄ちゃん、元気! 寝とったとがのが起きるぐらいには。断じて、野球部のせいやない。断じて。
「くあ~……ふんす!」
……この子、何でボーゼのほう見て欠伸したんやろ?
まあええか、それより街の話や。
目の前には、石畳の大通り。その両側には石造りの建物が建ち並ぶ。
ここまではアインツと同し……と思わせて。
ちょこちょこ木組みの建物が混ざっとる。全体の1割ぐらいかな? 数字は知らんけど。
ほんで、イースも大通りがバーン! て街をぶち抜いとるみたい。すぐ後ろの城壁とは別に、遥か前方にも石の壁が見える。
街の反対側、東側の城壁やろな~。
で、そのちょうど中間点ぐらいに、女性的な人影が見えとる。けど人間にしてはデカすぎるし、全然動かへん。
……こ、これは! 女神像 !?
女神像を見たら~? さんはい、拝め~ッ !!
……なむなむ。
「何も起きんな~……」
「そりゃそうだ、遠すぎんだよ」
はったさんにツッコまれました。
……はい、ほな行きましょ~。
◇
皆さん、クエストは条件達成したら終わり、ではありません。
冒険者組合に報告するまでが、クエストですよ……
で、『ファンフリ』の場合、組合の建物は街の中心部にあるんやて。女神像やら教会やらと一緒に。
門から徒歩20分あまり、植え込み多めの広場。
つ ま り こ こ で す 。
ど~でもええけど、道中、えすとが一言。
「また呼び○み君……」
「「知らんがなお前」」
話を戻します。
女神像、もう1人立っとってや。南側から、向かって右に謎の女神様。小柄で眠そうな目つきしとってやな。
で、向かって左に変態女神:シトリー様……
『やめてください、世のベーシストに失礼ですよ~』
ゑ !? 急にテレパシー ??? いやサーセンした……
ほな改めて、手ぇ合わせて。
《アインツ公国東部の都市「イース市・中公園」の入口が開放されました。復活地点に設定できます》
あざ~っす。
ほな報告やな~、組合の建物は……
「わ~、また並んどる~……」
「「 そ ら せ や ろ 」」
……知ってた。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回が年内最後の更新です。が、まだまだ物語は続きます。
引き続き、よろしくお願いします! m(_ _)m
なお、次回更新は来年、1/11(土)頃の予定です。報告と、ついにスライムが……?
それでは皆様、よいお年を~!! (^o^)/~~
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/30)
――【おまけ】ジンジュくんの現状――
ジンジュ Lv.7
種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男
属性:土
職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―
所持金:385マニ
SP:5
HP:100%
MP:100%
状態:正常
スキル:8
〈鈍器 Lv.4〉〈防御 Lv.3〉〈受け流し Lv.4〉〈火魔法 Lv.2〉
〈生活魔法 Lv.2〉〈従魔法 Lv.2〉〈解体 Lv.3〉〈鑑定 Lv.1〉
(控え:5)
〈危機察知 Lv.2〉〈下剋上 Lv.3〉〈体力強化 Lv.4〉〈筋力強化 Lv.3〉
〈敏捷強化 Lv.3〉
(種族:2)
〈投石 Lv.3〉〈幼鬼〉
称号:5
〈駆けだしの冒険者〉
住民からの信頼度が微増する。
〈副神シトリーの祝福〉
幸運のステータス値が微増する。
また、知力と精神の取得経験値が微増する。
〈大物を喰らいし者〉
人類NPC、および同族NPCからの信頼度が少し上がる。
〈生還者〉
HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。
〈毛玉の主〉
物理攻撃の被ダメージが微減する。
(控え:2)
〈邪道〉
現在は無効。相手への急所・弱点攻撃の与ダメージが微増する。
〈処刑人〉
現在は無効。急所攻撃の命中率が微増する。
従者:1名(定数2/〈従魔法〉)
とがの Lv.8
ミニラビット(小兎/下位兎族) ♀
HP:100% MP:―