015. 森と、お化けと、謎の異人(前編)
◆
始まりの街:アインツの東、「獣の森」の中。
ボーゼが奥の木の根元を指さす。
「おいジンジュ、あれ見てみ?」
「何や急に……」
「こら珍しい、ゴーストのご遺体や!」
「……日本語喋れや?」
たしかに、半透明の人が倒れとる。その上に“▽ゴースト Lv.8[討伐済]”て文字列も見えとる。
で、“ゴーストのご遺体”? もっと分かりやすく言うてもろて……
「おい幽霊が□んどぉぞ !! 」
「そうですがそうではない!」
◇
少々、話を戻します。
森の異常を調べよう! ……の前に、そこで崩れとる骨の兎を【鑑定】さしてもらいます。
あと、大きさが近い虎柄の兎さんも。
「……ぴすぴす」
興味なさそうに草食っとる。けど、本人(?)の許可は頂きました。ほな早速……
―――――
スケルトンラビット(♀) Lv.7[討伐済]
(分類)魔物/動物型
草原や森に現れる、白骨化した兎。彷徨う亡者の一種。
通常のラビットより身軽だが、物理的な衝撃に弱い。
HP:0% MP:9%
―――――
レティシア Lv.12
ミニラビット(♀)
(分類)魔物/動物型
草原や森に棲む、小型の魔物。草食。
ミニラビットから進化した個体がほとんどで、生態もほぼ同じ。
HP:100% MP:―
―――――
図鑑読んだからか、ちょっと仕様が変わっとる。
んで、色々違うんやな~。レベルとか属性とか。
衝撃に弱い……階段から落ちたら骨折れる、ってこと? ……アカン喩えでしたスンマセン !!
「……昔っから謎やねんけどさ~、結局この手のお化けて生きとるん? それとも逝んどるん? どっちなん ??? 」
「「俺らに聞かれてもなー……」」
「ぴすぴす」
「魔法生物の生き死にって、よく分かんねえよな……」
「カァ~」
何か味わい深いやり取りになったな~。烏くんの鳴き声のせいかな?
この世界は謎だらけ。実に興味深い……
ちなみに骨兎、はった・むさしさんが【自動解体】したら、そのまま「ラビットの骨」になった。
白く光るサイコロにはならんねんな~。
魔物から素材へ。無常やね。
なむなむ……
◇
森に入ったら、早速〈危機察知〉が反応した。斜め左から、ガサガサ草をかき分ける音がする。
出てきたんは、“▽スケルトンウルフ(♂) Lv.7”……だけやない !?
4体……さらに3体来た。合わせて7体、て多いよぉ !!
8対7て言うても、こっち半分兎と烏やからな ??
《「スケルトンウルフ」7体と交戦中です》
「ッチ、こんな狭いとこで……」
「ほんまそれ」
ボーゼが舌打ちして、えすとが同意する。そらせやわ、獣道やぞここ?
しゃ~ない、大盾構えて……
「【ガード】、【鑑定】、おら来いやぁ !! 」
「えーと、【三重詠唱】、【光属性付与】」
【鑑定】結果は後で見る。 ……癖になってんだ、目的外使用が。
で、えすとが魔法をおまけしてくれた。ありがとうねぇ。
そこに、カタカタカタ! て走ってきた3体が、次々当たる。
……速い、でも軽い。骨やな~、余裕で止めれた。
動きは“1.2倍速の狼”て感じやけど。大口開けて飛びかかってくる所とか。
あと、めっちゃHP減っとる。3体目なんか、一撃で0。
「ふんす!」
「ぷう!」
あとの2体も、小兎2羽に蹴られて、カラカラカラ……て崩れた。
マジで衝撃に弱いんやな~。
「「【光の魔球】」」
「【光の魔球】!」
えすと、はったさん、クロウがそれぞれ、白い光の玉を放る。
3つの玉が、後から来た骨犬3体を襲う。闇属性に〈光魔法〉、効果は抜群だ。こちらもカタカタ崩れ落ちた。
「やっぱ“弱点4倍”は頭おかしいぜ……」
「カァ……」
ほんで、最後の骨犬をほうを見たら……
「ぴすぴす!」
レティシアさんに蹴られて転けとった。哀れ、“▽スケルトンウルフ(♂) Lv.6 コマンダー”……
そこにボーゼが駆け寄る。
「フンッ!」
またや、また朱塗りの盾ほかしとる! 何しとんねん !!
《「スケルトンウルフ(♂)」2体を討伐しました。以下の条件が満たされています》
《〈体力強化〉がLv.3になりました》
《従者「とがの」の〈器用強化〉がLv.3になりました》
まずは手ぇ合わせて……なむなむ。
……あっさり勝ったな~。骨相手やからか、体格差とか関係なかった。
訂正。戦いは数だよ、兄貴。
ほな、後回しにした骨犬の【鑑定】結果を……
―――――
スケルトンウルフ(♂) Lv.7[討伐済]
(分類)魔物/動物型
草原や森に現れる、白骨化した狼。彷徨う亡者の一種。
通常のウルフより身軽だが、物理的な衝撃に弱い。
HP:0% MP:15%
―――――
目新しい情報はなさそう。ほな次行こか~。
◇
前来た時と同し所通っとるらしい。けど、何か雰囲気が違う……
ボーゼが奥の木の根元を指さす。
「おいジンジュ、あれ見てみ?」
「何や急に……」
「こら珍しい、ゴーストのご遺体や!」
「……日本語喋れや ?? 」
たしかに、半透明の人が倒れとる。その上に“▽ゴースト Lv.8[討伐済]”て文字列も見えとる。
で、“ゴーストのご遺体”? 何その……何 ?? もっと分かりやすく説明してもろて……
「おい幽霊が死んどぉぞ !! 」
「そうですがそうではない! ……端から死んどぉやろ幽霊は。“死人の死体”て何どい ?? 哲学か ??? 」
とか言うとったら、また茂みを掻き分ける音。現れたのは……半透明の牡鹿でした。
ま~、立派な角やね~……てこっち来る !? 【ガード】……はきついか。
《「ゴーストディア」1体と交戦中です》
《抵抗に成功しました》
《従者「とがの」が抵抗に成功しました》
幽霊鹿が悠然とこっちに歩いて……いや浮いとるな。悠然と飛んでくる。今にも
「お? ワシのシマで何しとん ?? 」
とか言いそう。
カッコええとこ、申し訳ないんやけど……
「【鑑定】、【火の魔球】!」
「キ゛ュ゛ー゛ン゛」
挑発して魔法ぶつけとく。【鑑定】結果はまた後で。
どうせアンタ、慈悲とかないんやろ? こっちが逃げたる義理もやられる必要もないし。
……後ろに吹っ飛んだ! 効いとるな~。幽霊、魔法には弱いんかな?
あと、鳴き声めっちゃ歪んどる。ギターか、いや知らんけど。
んで幽霊鹿、そもそも動き遅いだけか。ほな……
「とがのさん、【鑑定】お願い!」
「ふす! ……【鑑定】!」
「ありがと~!」
この手があった。何で気ぃつかんかったんやろ……?
「その手があったか……!」
「次から俺も使おー」
「次とか言わずに、今やろうぜ?」
後ろが賑やかやな。
「せやせや……【三重詠唱】、【光属性付与】!」
「お、ありがと~!」
「……えすとっきゅー様。属性付与とは何でしょうか?」
「幽霊をぶん殴れる魔法だよ」
後ろで、さらに気になるやり取りが……余裕やな !!
幽霊鹿放ったろか ??
「【受け流し】……っとい!」
斜め左後ろの木にぶつ……からんとすり抜けた。知ってた、幽霊やしな……。
《「ゴーストディア(♂)」1体を討伐しました。以下の条件が満たされています》
《Lv.6になりました》
《〈火魔法〉〈生活魔法〉以上のスキルがLv.2になりました》
「……し、ししししし死んでる ??? 嘘やん今の一撃で ?? てかどこ行ったぁ !? 」
「「「あっち」」」
とりあえず、手ぇ合わせとこ。
なむなむ……
◇
茂みを抜けて、さっきの木の裏に出た。前にも来た、開けたとこや。
幽霊鹿、見っけ!
……でもそれより、何か色んな物が散乱しとるん、気になるな。
それも、複数人の持ち物をぶち撒けたかのような、不自然な散らかり方や。
怪しい。どう見ても怪しい。
「……そこ隠れとけ」
「「「了解」」」
ボーゼに言われて、3人で引き返す。なるべく静かに。
ちょっと戻って、茂みに引っ込んだ。
10秒ほど遅れて、ボーゼも来た。
「誰か来る、静かにな」
3人揃て、無言で頷く。
……今のうちに、【鑑定】結果見とこ。
―――――
ゴーストディア(♂) Lv.15[討伐済]
(分類)魔物/動物型
森などに現れる、鹿の亡霊。彷徨う亡者の一種。
通常のディアより身軽だが、自属性以外の魔法に弱い。
HP:0% MP:25%
―――――
……ふんふん、やっぱ魔法に弱いんやな。
「お、来た来た」
「何や昨日のあいつらか」
どれどれ……
「何だここ、気持ち悪い……」
「しっ、後ろから誰か来るよ。さっさと行きましょう」
頭の上のお名前は、“ハノレトマン”と、“ゾルゲマニア”……爆ぜればよろしいかと。あとは何も言うまい。
◇
2人が足早に立ち去った後、喧しい野郎どもの声が近づいてくる。
……えらい喧しな。10人ぐらいおる?
「ヒヘヘ、運がいいですぜ兄貴ぃ! デスペナで誰かがぶち撒けたアイテムが、山のように……」
「おぉ、そうだな。たんまりかっぱらってヤれ !! 」
「「「『うおおおお !!! 』」」」
もしもしお巡りさん? ……さすがに居れへんか。ゲームやし。
まあネタはおいといて、あの“兄貴”て人だけ、名前出とるんよな。
……「わかもののほし」て。
「ふんす!」
「……アッしもた! 戻れとがの !! 」
駆けだしたとがのさんに、声をかけた……けど、多分聞こえてない。ひそひそ声のまんまやった……!
「兄貴、あれって昨日の」
「……またかよ畜生め!」
あぁ~見つかった……どないしょ~……
……しゃ~ないな、ここはアレで行くか。足軽装備を収納して……身体軽い~ !!
……おほん、失礼しました。ほな……
「とがの~! 返事してけろ、とがの~ !! どこ行っただぁ~?」
昔の時代劇とかに出てくる、関東の百姓風に。名付けて、“お代官さま、俺らひもじいだ……”作戦。
東北弁やない、アクセントが違うから。東北の人に怒られるで?
「あ、待ってけろ !! そん子はウチん子だ! お願えだ、返してけろ !! 」
「「「『……何だコイツ ??? 』」」」
沈黙が広がって、俺以外の時が止まって見えた――その時。
「……ごべぁッ !? 」
急に、後ろから衝撃が来た。で、首の左側に激痛が走る。
あと通知も来た。
《抵抗に失敗しました。状態異常【即死】が付与されます》
《行動不能になりました。蘇生が確認できない場合、復活転移を始めます》
何これ、力が入らん……あ、膝から崩れ落ちた。
首の切り傷から、ポリゴンをどくどく撒き散らしとる、小鬼の後ろ姿が見える。
……あ、これ幽体離脱しとるんか! 半透明になって、自分の分身を見下ろしとるわけや。
いや負けすぎやろ、可哀想に……
で、視界を黒い塊が飛び回っとる。あっ止まっ……女の人ぉ !?
とりあえず、小柄な女の人。今の俺より10cmぐらい高いけどな。黒いドレス、帽子、靴と、ベール……喪服か?
その左手には、ポリゴンが滴る短剣……ってなんか野郎どもが倒れた !?
何したんこの人 !??
《従者「とがの」が、異人「わかもののほし」を討伐しました》
《蘇生が確認できません。「アインツ・中央広場」への復活転移を始めます》
「な、ななな、何じゃこりゃ~~ !!? 」
叫びながら光に包まれた。
◇
……見慣れた噴水だ。
とりあえず、まずは女神像に礼。ありがとうございます!
……んで、今度は何なんや……?
「……クソッ! 何であんな所にキル数1位がいんだよ !? 」
「あ゛ーっ、アイテム全ロス !!? 」
「うわ最悪だよ……!」
…… う る っ っ さ !!
“わかもののほし”ご一行が、続々と転移してきよる。ブーブー文句垂れながら。
あんまり騒がしいもんやから、めっちゃ周りの視線集めとる。
ついで、で見られる俺の身にもなれ……
「あ゛? テメェ何見てんだよ !! やんのかコラ ?? 」
……とか思とったら、うっかり目ぇ合うた2人組が、こっちに歩いてくる。
距離取ろ、と思て、後ずさる。
視界の左端が光って、ドシッて誰かにぶつかった。
「すみません!」
「お? どこ見てんだ糞餓鬼 ?? 」
「へい、すいやせんでした !! 」
土下座したら、後ろから一言。
「あれ? ソイツさっきのヘボゴブじゃね ?? 」
……ヤバい、囲まれた !!
「あーっ! お前のせいで……お前のせいで、俺たちまで死んじまったじゃねえか !! どぉしてくれんだよ !? 」
「そうだそうだ !! 責任取れよ !!! 」
「おうおう誠意見せろよ。土下座じゃ済まねぇからな?」
唾飛ばすなや、汚いのぉ !!
あと声! そんな大声出さんでも聞こえとるわ !!
……これを柔らかい言い方で、
「……あ゛? ワレ何どい ?? しばき回すぞ ??? 」
…… あ゛~ ッ 、 や っ て も た ~ !!
お読みいただき、ありがとうございます。
次回更新は11/1(金)頃の予定です。
何この人たち……??
【追記】
・サブタイトルを変更し、本文末尾に加筆しました(2024/10/27)
・一部加筆/修正しました(2025/06/29)
――【おまけ】ジンジュくんの現状――
ジンジュ Lv.6
種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男
属性:土
職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―
所持金:385マニ
SP:4
HP:100%
MP:100%
状態:正常
スキル:8
〈鈍器 Lv.3〉〈防御 Lv.2〉〈受け流し Lv.3〉〈火魔法 Lv.2〉
〈生活魔法 Lv.2〉〈従魔法 Lv.1〉〈解体 Lv.2〉〈鑑定 Lv.1〉
(控え:4)
〈危機察知 Lv.1〉〈下剋上 Lv.2〉〈体力強化 Lv.3〉〈筋力強化 Lv.2〉
(種族:2)
〈投石 Lv.2〉〈幼鬼〉
称号:5
〈駆けだしの冒険者〉
住民からの信頼度が微増する。
〈副神シトリーの祝福〉
幸運のステータス値が微増する。
また、知力と精神の取得経験値が微増する。
〈大物を喰らいし者〉
人類NPC、および同族NPCからの信頼度が少し上がる。
〈生還者〉
HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。
〈毛玉の主〉
物理攻撃の被ダメージが微減する。
従者:1名(定数2/〈従魔法〉)
とがの Lv.6
ミニラビット(小兎/下位兎族) ♀
HP:98% MP:―