013. 図書館と、広い世界
◇
ボーゼ、えすとっきゅーと3人、兎たちを抱えて、通りを歩く。
「目的地周辺です。案内を……」
「「その声やめい!」」
えすとと2人で、ボーゼにツッコミ。とがのさん達、兎3羽を刺激せんように、抑えた声で。
またまたアインツ、今度は中央広場の北。市庁舎の裏手に、それはある。
アインツ市立図書館。石造りの白い建物が、ど~ん !!
「うわぁ……重たそ~!」
「これで軽かったら怖いやろー」
「それはそう」
「ですね~」
適当に喋りながら、正門をくぐった。
さて、お遊びはこっからや……
◆
アインツの八百屋、“スーパー ヴェジタブル (マン!!)”を出て、大通りを西に向かう。
店から2つ目の交差点で、えすとが右の道を指差して、一言。
「ホンマはここ入ったら近道やねんけどー」
「……さよか。だが断る」
道沿いに、暗く薄汚れた裏路地がぽつぽつ見えとる。 ……このどれかに入れ、ってか?
あとここで、俺らの地元に伝わる、自動車社会の常識を1つ。
「初めての場所に行くときは、少々遠回りでも大通りを使え!」
不慣れな人が“近道や!” と思って細い道に入ると、かえって時間かかるからや。
たとえば工事中とか、一方通行で入れん道とか、側溝にハマるとかな。多様なトラブルが、あなたを待っている……かも。
考えすぎ? それはそう。半分ネタやし……
ま、無難に大通り通って行きましょ~。冒険は街出てからでええし。
中央広場に戻ってきたとこで、噴水中央の女神像に一礼。
で、北やから……右行ったらええんやな。
北の大通りに出て、すぐの交差点を左折する。
て言うても、左手に市庁舎、右手に教会――どっちもデカい――やから、2分ほど歩かされたかな?
曲がった先、そこそこ広いこの道の、左側が市庁舎の裏手、右側が市関係の施設……て配置らしい。
やからどっち見ても、重たそうな石造りの建物が、ど~んと聳えとる。
これがまた、石白いから、朝日を反射して眩しいDEATH! 目が~ !!
で、右手の手前から2番目。ここが……
「目的地周辺です。案内を……」
「「その声やめい!」」
アインツ市立図書館。この国で唯一の図書館らしい。
他は小っちゃいから、図書“館”というより“図書室”とか“貸本屋”て感じなんやて。
正門の中を見てみた。石造りの、いかにも重たそうな建物が、ど~ん !!
「うわぁ……重たそ~!」
「そらお前、これで軽かったら怖いやろー」
「それはそう」
「はい、ですね~」
適当に喋りながら、正門をくぐった。
で、建物の正面が、たぶん玄関。その両脇に、警備員さんとおぼしき男性が1人ずつ。ええガタイしとってやな~。
他の人はおる、けど少ない。この雰囲気、緊張するわ~。
「「「おはようございま~す」」」
「ようこそ……どのようなご用件でしょうか?」
向かって右側のおっちゃんが、何か丸い物持っとってや。
近くで見たら、見た目も声も渋い美形って感じ。
……で、妙に怪しまれとんな?
ま~、俺は人外種やからわかるけど。3人揃て……てか、異人全員怪しまれとるみたいや。
誰か何かやらかしたんか……?
とりあえず、冒険者組合員証と、さっきの紹介状出しといて……
「異人の冒険者です。この街と周辺の動植物について知りたいと思いまして」
「承知しました。それではまず、身分証をこちらに……」
魔水晶、再び。便利やな~。
ボーゼ、えすと、俺の順番で、組合員証を翳して……うわ眩し!
「……ご協力、感謝します。ご利用については、中の受付へ」
「「「ありがとうございます」」」
……兎らについては、特に何も言われんかったな?
「……ふす?」
◇
中入ったら、白い石壁に、煉瓦風のタイルが張られた床。奥に長椅子が並んどるんも見える。
……何かのMVで見たような玄関ホールやった。
……存在しない記憶?
で、入ってすぐ受付。
「……おはようございます」
「「「おはようございます」」」
受付の人がこっち見て、一瞬ギョッとしとった。でもすぐ笑顔で挨拶しとってや。プロやなぁ……
挨拶し返して、組合員証と紹介状を手渡しして。代わりに書類を渡される。読んで誓約書書け、てやつやな。
で、“ご利用上の注意点”について、説明してもろた。ざっとこんな感じ。
―――――
○原則、館内の本は館内か中庭で見ること。敷地内でも、外では読めない。
○貸出手続きをすれば外でも読めるが、オススメはしない。貴族向けの制度で、色々ややこしいから。
○一般の利用者は玄関ホール・閲覧室まで入れる。書庫等の利用には別途許可が要る。
○動物型、その他の魔物は閲覧室にも入れない。
○飲食は中庭のみOK。
―――――
書類書けたから、出した。
「……確かに。では、登録料として20マニ、頂戴しますね」
「はい」
《所持金残高:385マニ》
おぉ~、取るねぇ~!
……あ、月額です。ゲーム内30日。リアルやと10日か。
んでこれ、住民やったら半額で済むねんて。税金とか払とるからな。
ま、しゃ~ない。まだ住むと決めたわけやなし……。
「ありがとうございました~」
◇
ほな本見に行こか~! てとこやけど……ここの閲覧室、兎連れて入れん。
やから中庭に席取って、本取ってくることにした。その間、とがのさん達はボーゼに見といてもらう。
で、この中庭。芝生広場にテーブルやらベンチやらが並べてある。半分ぐらいは席埋まっとるか……
日当たりはええな。とがのさんが草食いながら、ウトウトしとるぐらいには。
「暇やな。何しとこ……」
「夏休みの宿題とかー?」
ボーゼのぼやきに、えすとが応える。
「えぇ……ゲームん中でまで勉強したない……」
「宿題はしゃ~ないやろ~。それとも何か読む?」
「嫌じゃ」
「「即答……」」
成績優秀やけどこれ。天才肌でゲーム命な山本洋希です。
まあただ、boo垂れようが後回しにしようが、期限守って、やることやっとるから成績ええわけで。
真に受けてはいけない。
「「ほな行ってきま~す」」
「行ってらっしゃい」
◇
2冊本取って戻ったら、とがのさん寝とる。草咥えたまんま。
「……ふす?」
……とか思とったら起きて、席ついた俺の膝に乗ってきた。
呼ぶより謗れ、てやつ?
まあええわ。まずは『アインツ公国動物図鑑』。
“まえがき”が短い。しかもルビ振ってある。小学生向けかな……ええやんコレ!
意外とさ、「頭良くなりたかったら、まずは小学生向け」やで? いきなり○辞苑とか、難しいの読もうとしても、脳ミソが受け付けへんし。
あと、学習マンガとかやと、“隅っこのコラムまで読み込んだら、大学入試にまで使える”てこともある。
むかし何かで読んでんけど、「なんとなくイメージでバカにするから、お前らはフ*ッキンバカなんだ !! 」なんて名言もあります。迷言ともいう。
俺も気ぃつけよ……
で、肝心の中身。
目次見たら、陸の草食獣、肉食獣、水辺の獣、鳥、蛇……みたいな順番になっとる。
蝶・蜘蛛みたいな虫とか、魚・蟹・貝なんかの魚介類は載ってない。
その代わりなんか、おまけ扱いで“スライム”“食尽樹”“土人形”が載っとるねんて。
すでに興味深いな。あと“食尽樹”て字面怖っ……
さて、栄えあるトップバッターは……「ミニラビット」! やったねとがのさん !!
「ふんす!」
なんか興味津々、て感じやな?
どれどれ……
まずページの上のほうに、挿絵がど~んと載っとる。斜め横から見た、小兎の全身図。
ぶち模様がとがのさんに似とるけど、色が違う。挿絵の子は白地に焦げ茶色。とがのさんは白地に薄い灰色。
で、挿絵の下に説明が……
―――――
ミニラビット Lv.1~
(分類)魔物/動物型
(分布)南北両大陸の平地・丘陵地
草原や森に棲む、小ぶりな魔物。大人でもこのサイズ。
オスは巣穴を掘って、その周りを縄張りとする。繁殖力が高いため、縄張り争いも激しい。
また、草を主食とするが、甘い青果も好きな個体が多い。
食用として、肉が重宝される。クセはなく美味しい。
HP:少 MP:―
属性:―(弱点:― 耐性:―)
―――――
おぉ~、詳しい……戦いながら読めんやろな~、てぐらいには。
んで、肉の話以外は「せやな」って文章。
……あと、意外とルビ少ない。中高生向けなんかな……?
まあええか、続き読も。次は「ラビット」。ミニラビットの進化形らしい。
……レティシアさん、やっぱ進化しとんねや。
レベル上がっとって、体も一回り大きなる。そのぶん能力も上がるけど、大した差はない。
進化したら狼噛みコ□せる……みたいな、都合ええ話はないんやて。
ふ~ん……ん !?
ほな、人間噛みコ□した小兎 is 何…… ???
◇
仔犬「パピー」のページを捲ったら、「ブラウンウルフ」でした。
「ふす、ふんふん!」
とがのさん、挿絵相手にめっちゃ威嚇しとる……
―――――
ブラウンウルフ Lv.1~
(分類)魔物/動物型
(分布)南北両大陸の森・周辺
森に棲む魔物。北の大陸で、最もよく見られる肉食獣である。
主食は草食獣の肉。獲物を求めて、森の周りの草原・水辺などにも現れる。
戦う術がないなら遠ざけよう。特に集団は危険。指示役のもと、巧みな連係で敵を追いつめる。
肉は食用に向いている。
HP:少 MP:―
属性:―(弱点:― 耐性:―)
―――――
へぇ~。
……いや、ちゃうねん。この図鑑、意外と情報多いからさ。途中からペラ読みいうか、まじめに読んでないんよな~。
“これ見た!”と同しノリで“へぇ~、おもろ”って言いまくるんも、限界はある……てことで。
あ、そうそう。現実のオオカミは、割と珍しいらしいで。野生やと、今の日本にはおれへんし。
昔は知らんけどな。
◇
いや~、おもr……
《「アインツ公国動物図鑑」を読破しました。以下の条件が満たされています》
《〈人類共通語〉〈動物知識〉が開放されました。それぞれSP:3で取得できます》
《日間クエスト「本を読もう!」をクリアしました》
図鑑見終わって、閉じた途端これ。余韻返せボケ。
……俺の感想は置いといて、おもろそうなスキルが。でも両方は無理、ポイントが足らん。
ん~……保留 !! 2冊目読も。
分厚うて古そうな、『基礎魔法学概説』。紙が茶色っぽいけど、カビ臭はない。
表紙にタイトルと、“マリオ・レオンハルト”、“ラ・ボ□ケ魔□国魔導局”って書いてある。「□」んとこだけ、ハゲとって読めん……。
たぶん、マリオさんが作者、魔導局が出版者なんやろな。
……ツッコまんとこ。
ほな、まずは“まえがき”……
―――――
(前略)
では、魔法とは何か。それを説明するために、少し人類の歴史を振り返ってみよう。
四柱の神々が宇宙を創造するうちに、この世界を動かす諸法則も整っていった。これが「神の法」だ。
といっても、我々素人にはよくわからない。それは言葉や数字といった“分かりやすいもの”ではないからだ。
そこで、偉大な先人たちは世界を観察し、数字や数式を使い、言葉を尽くして、神の法を解き明かそうとした。
これが「科学」の始まりである。
科学は少しずつ、しかし確実に成果を上げていく。やがて神の法の、いわば“人類語訳”ができてくる。
これに先人たちは「物理法則」という名前をつけた。
物理法則は数を増やし、力をつけていく。“いずれは全部これで説明できそうだ”といって、「宇宙の法則」なんて二つ名もついた。
その矢先、それは見つかった。根底から宇宙の法則を乱す、“魔の法則”。
――これが、「魔法」の始まりだ。
…………………
……………
……
―――――
長い。
あと、なんか詩的やね。でもおもろい。
魔法の説明文で、“科学”とか“物理法則”とかって単語を見るとは思わんかった。こう、何ていうか、世界が深すぎる……
「お? もう昼前やん」
「うわホンマや。ほな出よかー」
「あ゛~早っ、マジか~……」
残念、ええとこやったのに~……。
でも腹減ったし、(リアルの)飯は食わなアカンよな~。しゃ~ない。
ほな、この辺にしといたろか~……
◇
「「「ありがとうございました~」」」
元の棚に本を返して、図書館を出た。
受付の人と、表の警備員さんたちへの挨拶も忘れずに。
……ど~でもええけど、来た時と同し人らやった。
一旦ログアウト、んで昼飯やな~。
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
次回更新は10/10(木)頃の予定です。
……あれ書きたい、これも書かなきゃ! などとやってたら、随分ネットリした話になりました。
くっ、こんなはずでは……な~ぜ~?
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/27)