012. 悪意の跡と、俺らと、八百屋
2陣開放の翌日(現実世界)です。
……曜日とか決めたほうがいいですかね?
おはようございます、ジンジュです。
ログインしたら初期設定の部屋でした。ここで転移先を選んだり、天気見たりできるらしい。
まあ、今の俺はアインツ一択やけど。ほんで快晴やて。
……命日かな?
※昨日の死因:日焼け
日本時間の(午前)10時集合ってことで、ちょっと早めに行ってみる。向こうは夜明け前らしいから、日の出見れるかもな~。
ほな、お願いしま~す。
《「アインツ・中央広場」への転移を始めます》
◇
例のごとく……光が消えたら、石造りの街。薄明るいからか、なんか幻想的な雰囲気やな~。
そんな静まりかえった街では、噴水の音だけが響いとる……てわけやない。意外と人多いな~……
『“アインツ東郊・獣の森”のボス「レッサーファイティンボア」の最速討伐記録が更新されました』
《従者「とがの」が抵抗に失敗しました》
《「とがの」が抵抗に成功しました》
《「とがの」が行動不能になりました》《「とがの」が復活転移しました》
《「とがの」が行動不能に……》
:
:
:
《……復活転移しました》
《「とがの」の〈危機察知〉がLv.2になりました》
《「とがの」が、異人「わかもののほし」を討伐しました。以下の条件が満たされています》
《「とがの」がLv.6になりました》
《「とがの」の〈噛みつき〉〈器用強化〉両スキルのレベルが上がりました》
《「とがの」が称号〈大物を喰らいし者〉および〈食べ物の恨みを抱く者〉を獲得しました》
:
:
:
《異人「ボーゼ」からの伝言があります。伝言を見ますか?》
《抵抗に失敗しました》
《抵抗に成功しました》
「……はえ?」
ログイン早々、山のように通知が来た。何事~?
数が多いからか、切り替わるんが早かった。一部見落とした、ともいう。
しゃ~ない、履歴見よ……
え~と、まずは……ボスの最速討伐? 知らんわ~、勝手にせえ。
それから、とがのに【鑑定】かました奴がおる。
で、繰り返される“とがの 行動不能”。何これ……?
ん~……この「わかもののほし」て人が絡んどるみたいやけど。とがのに“討伐”されたて……アンタ何したんや ??
あと、何や物騒な称号貰とんな~、この子。
ホンマに何事…… ???
とか色々考えとったら、狼獣人と森人が歩いてきた。先にログインしとったらしい。
2人の足元には、黒い虎柄・全身橙色・薄い牛柄の兎3羽がついとる。
「お早うございます !! 」
「「おはよ~」……喧しいわ野球部ぅ」
勢い余って叫んだえすとに、ボーゼがツッコむ。挨拶ついでの高等技能、オレじゃなきゃ見逃しちゃう……わけないか。
ま~、ネタは置いといて……
「ふんす!」
「よっ、と~……」
とがのが飛び付いてったから、受け止めた。
「今、通知見とってんけどさ。何があったん?」
「あー、それがさ……」
ダイスくんに左足を蹴られながら、えすとが答える。
◇
RPGには“リポップ狩り”て物があるらしい。
予め分かっとる、敵の出現地点で待ち伏せしといて、出てった敵を倒すんやて。
効率よく魔物と戦いたい! て時に、よ~使われる作戦なんやとか。
「でー、どうも3羽がその餌食にされて、こうなったみたい」
「まじか~、難儀やな……」
同情しようと3羽を見たら……それぞれ自由すぎた。
えすとの左足を蹴り続けるダイスくん。さっきの大声が、よっっぽど堪えたらしい。
一方、ボーゼに抱えられて、熟睡中のレティシアさん。おぉう、お疲れさん……
ほんで、我らがとがのさんは……
「……んすんす」
「あっコラ! 何しょんじゃお前ェ !? 」
俺の収納袋に顔突っ込んで、中身を漁っとった。
慌てて引っ張り出したら、草食うとる。
……「ふんす」と違うわ、アホんだら!
で、話を戻します。3羽が“リポップ狩り”された、て話やな。
3羽の場合は、実は“リポップ狩り”やない。“リスポーンキル”ていう、よぉ似た別物らしい。略して“リスキル”。
別々の個体が出てくる“リポップ”に対して、“復活転移”は同一個体が出てくる。
ゲーム的には、いちいち新しいデータを作り直す“リポップ”より、転写で済む“リスポーン”のほうがお手軽らしい。
つまり現状、時間効率だけ見たら、“リポップ狩り”より“リスキル”がお得、て話なんやとか。
「周回するなら、野生の魔物より他人様の従者……やってさー」
「何それ~……人の心とかないんか ?? 」
「“大事な従者を放し飼いするヤツが悪い”て言われたわ。一理あるけどさー……」
たしかに一理ある。でもそれだけ。
「じゃあアンタら、保護施設とか作って預かってくれるの?」
て話や。
保護どころか、コ□して荒稼ぎしとるだけ。その口で一丁前に説教されても、なぁ ??
それとも、人間やめて、金の亡者にでもなったんか ???
ま~そら、えらい大出世やね~。
……とか思とったら、黙っとったボーゼが一言。
「そう言う奴ら、ほぼほぼPKerやからな。“文句言われたら○す!”て感じで、何言うても無駄」
うわぁ……気ぃつけとかな。
「今朝ログインしたら、そんな感じでさ。即、ボーゼと現場行ってん。ほなちょうど、とがのちゃんが主犯格の頸動脈噛み破ったとこでさ。この子勇敢よなー……」
「そらど~も……」
「勇気の問題かそれ……?」
うちの子褒められて嬉しい! はさておき。これ褒めてええんか……?
あと、ボーゼは訝しんだ。
……さっきの称号、2人にも見せとこ。
「あ、そうそう。こんなん見たんですけど~」
「「……は? 何これ ?? 」」
2人とも初めて見たんやて。
「はい。やから勇気どうこうやのうて、“食べ物の恨みは恐ろしな~!” ……て話ちゃうかと」
「まじかー、気ぃつけとこ……」
「せやな、よぉ覚えとくわ」
主犯格の「わかもののほし」さんがやられたん見て、あとの犯人グループは逃げたらしい。
引き際、ヨシ! 今日も1日、ご安全に !!
で~、当のとがのさんは、何食わぬ顔で口をもぐもぐさせとる。
ご機嫌取りには、その辺の草でも食わせておけ! ……ってか ??
「……ふす?」
◇
「で、今日はどないしよ?」
ボーゼに聞かれた。
ん~……大盾修理中やから、狩りには出れん。ほな……
「先生……読書が、したいです」
「「何や急に ?? 」」
ボーゼとえすとが、“うへぇ……”て顔でこっち見てくる。
「図鑑を見たい、魔物とか植物とか。あと余裕があったら“魔法の基礎”とか怪d……神話とかも押さえときたい」
「今“怪談”て言いかけたやろ」
「安定の趣味悪ぅー……」
「悪かったな~……」
閑話休題。
「ほな図書館、て言いたいとこやけど……あそこ“一見さんお断り”やねん」
「そーそー、街の人の紹介が要るねんて」
「まじか~……どないしよ?」
もちろん、街の人なら誰でもええ……わけがない。図書館使う人やないとな。
でもそんなん、どう見分けろと?
「……そこで、お困りのあなたに!」
「通販か、びっくりしたー」
「喧しな~、何なん急に……?」
ボーゼが急に大声出した。えすとと2人、ツッコミのお時間です……いや何でやねん、マジで……
「八百屋へ、行こうッ !! 」
「ほ~? この私に野菜を食えと」
「野菜は食えよー。何で喧嘩腰なんだ……」
野菜、そんなに好きやないから。ゲームん中でまで、食いたいとは思えん。
あと少食やから、ど~しても飯と肉優先になるし。
あ、そうそう。この体、なんか牛乳が欲しなるねん。ストレスか? それとも角のせい ??
……また話逸れたな。
「で、何で八百屋なん?」
「ここやと、野菜は基本“街の人が頼り”やからやな。農家も商人も、俺ら異人がホイホイできるわけやない。まず土地が足らん」
お、ボーゼが正気に返った。
……なるほど、たしかに。この“アインツ”の街、田畑はもちろん、店出せる所も限られとる。
土地足らんかったら、街広げたらええ……て単純な話でもない。
街の外には魔物がおるから、城壁と結界で守っとるらしい。街広げたら、その辺も作り直さなアカンわな。
そんなん、何年かかんねん? 誰が金出して、誰が作業すんねん……て話になる。
それでもゲームやから、リアルよりは楽やろうけど。Web小説ぐらい簡単……とはならんやろな~……。
いや、最強主人公さんとやらは楽しいんやろけどな~。そんなんされたら、外野で見とくしかない俺なんかは、おもろないんよな~。
……難しいね。
「あとあれやー。材料揃とるから、携帯食料が安い」
「ホンマか~、そら見とかな」
結局モノに釣られる、それが俺です。
ほな行きましょか~……
◇
中央広場から、大通りを東へ進む。
南の大通りに比べて、食べ物関係のお店が多い印象やな。肉屋とか八百屋とか食堂とか。ええ匂いしとる……
「ふす、ふす!」
「OK, とがのステ~イ、ステイステイ。まだやッ、まだ」
たぶん“OK, ゴー”とはならんけど。
2つ目の交差点をあっさり通り過ぎて、歩くこと、約20分。
何かノリノリな音楽が聞こえてきて、そっち見て、思わず一言。
「……アンプがある !? 」
「何で“○びこみ君”なんだよ……」
えすとは曲にツッコんどった。東京圏のスーパーやと、そんなんあるらしい。
「へぇ………」
珍しく、ボーゼがポカーンとしとるな~……とか思とったら、
「目的地周辺です。案内を終了します」
「お前その声どっから出した ?? 」
ボーゼの一言に、えすとが即ツッコんだ。
自動音声みたいな女声やった。ボーゼは器用すぎて、ちょくちょくこうなる。
「新鮮なホラーよ~!」
「失礼な……」
「勝手にドナドナすな、お前ー」
……おふざけはここからや。
後方の中央広場より、前に見えとる東大門のほうが近い……てとこに、目的のお店がある。
その名も、“スーパー ヴェジタブル(マン!!)”
「らっしゃいらっしゃい~、安いよ安いよ~! 今日はいいトメィトゥがある、お買い得だよ~ !! 」
店の前で、ガタイのええおっちゃんが呼び込みしとってや。見た目40代ぐらいやけど、ふっさふさの金髪が、そよ風に靡いとる。
ええなぁ~……押忍! 俺らハゲ一族 !!
さすがにまだ大丈夫やけど、20年後は分からん! ハハッ !!
……大丈夫やと信じたい。
で、このおっちゃんが店主さん……の、息子さんやて。
店主さんは、店の奥で椅子に掛けとる。目つきの鋭いお婆ちゃんや。
「……中世ヨーロッパ“風”て何やっけ~ ?? 」
「分かるわー、割と現代日本やんなこれ。いろいろ見覚えあるし」
「……たしかトマトてコロンブス以降よな?」
「せやったな~」
中世ヨーロッパにトマトはない。しかも、食い物として広まるんはもっと後らしいし。
魔導ベースといい、曇りガラスが普及した街並みといい……この“俺たちは雰囲気で中世ヨーロッパをやっている”感よ。
……最高やな !! ありがとうございます!
まあ、あんま店の前でダラダラすんのも良うない。そろそろお邪魔しよか。
「「「こんにちは~」」」
「へい、らっしゃい! お仲間増えたね~?」
「よく来たね。それに強烈な組み合わせだねぇ……」
「いやぁ、ハハハ……」
立ち話するぐらい、 親 し い 間 柄 !!
島育ちやからか、ボーゼの度胸と愛嬌はすごい。あと割り切りも、かな? 知らんけど。
別に俺、人見知りやないけどさ……ビビりで緊張しいやから、ちょっと羨ましい。
「……あ、そうそう。ウサちゃんが齧ったヤツは買い取ってね~」
「え? あっ待て !? 」
「おっと~?」
「ん? ……あ゛ーッ !! 」
おっちゃんの警告で、思わず兎らを見る俺ら。結果は三者三様。
「……セフ、セーフ!」
「ぴすぴす、ぴす!」
キャベツにかぶりつこうとしたレティシアさんを、止めれたボーゼ。
めっちゃ腕蹴られとるけど……
「……ぷう」
「お前マジか…… !! 」
一方、満足げなダイスくんと、頭を抱えるえすとっきゅー。ニンジン2本の買い取りが決まった。
ど、どんまい……
で、我らがとがのさんは……
「……ふす?」
リンゴが並ぶ台の前で、「そんなことしないよ?」とでも言わんばかりに、首を傾げとった。
……この子、妙に人間くさいというか、悪知恵まわるとこあるよな~?
え~、願いましては~……所持金、450マニ也~。
レーズン味の携帯食料、10食分。それとリンゴを1つ買うて、45マニ也~……
《所持金残高:405マニ》
いや通知早っ……
◇
ほんで、店主のおばちゃんに、図書館の紹介状を書いてもろた。
すんなり通った理由? “面白そうだから”……
「仲が悪いって有名な獣人と森人に加えて、鬼っ子まで仲間入り、ときた。そりゃ、行く末を見届けたくなるだろうよ?」
3人揃て、なんも言えねぇ……
まあ、次……図書館行こか~。
「「「ありがとうございました~!」」」
「はいはい」
「気をつけてな~!」
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
次回更新は10/1(火)頃の予定です。ウサちゃん達に荒らされなければ、ですけど……
ジンジュくん、“ペットは飼い主に似る”らしいよ……?
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/07/16)
――【おまけ】ジンジュくんの現状――
ジンジュ Lv.5
種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男
属性:土
職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―
所持金:405マニ
SP:3
HP:100%
MP:100%
状態:正常
スキル:8
〈鈍器 Lv.3〉〈防御 Lv.2〉〈受け流し Lv.3〉〈火魔法 Lv.1〉
〈生活魔法 Lv.1〉〈従魔法 Lv.1〉〈解体 Lv.2〉〈鑑定 Lv.1〉
(控え:4)
〈危機察知 Lv.1〉〈下剋上 Lv.2〉〈体力強化 Lv.2〉〈筋力強化 Lv.2〉
(種族:2)
〈投石 Lv.2〉〈幼鬼〉
称号:5
〈駆けだしの冒険者〉
住民からの信頼度が微増する。
〈副神シトリーの祝福〉
幸運のステータス値が微増する。
また、知力と精神の取得経験値が微増する。
〈大物を喰らいし者〉
人類NPC、および同族NPCからの信頼度が少し上がる。
〈生還者〉
HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。
〈毛玉の主〉
物理攻撃の被ダメージが微減する。
従者:1名(定数2/〈従魔法〉)
とがの Lv.6
ミニラビット(小兎/下位兎族) ♀
HP:100% MP:―