009. 転移と、魔物と、東の森(前編)
◇
光が消えたら、そこは噴水の前。
活気あふれる石造りの街、その熱気が……
――そんなことより顔熱い !!
ドーモ、皆=サン、ジンジュです。
軽やかなネット民風に、現状をお伝えします。どうもこうらしい……
【速報】弱ゴブ、初日から死に戻り! 死因は日焼け!?
【朗報】復活転移で全回復完了!!
【悲運】元いた場所
さ~て……どないしよ?
とりあえず、女神像拝んどこ。なむなむ……
……お待たせしました。
まずは2人に連絡を……通知来た。
《異人「えすとっきゅー」からPT通話に呼ばれています。通話に参加しますか?》
“はい”一択やな。
「もしもし?」
『おうジンジュ、さっきはすまん』
「そらしゃ~ない。それより、後どないしよ?」
『ちょっと待っといてー、召喚するから』
……ん !?
「……はい?」
『違うねん、人外やったら異人でも喚べるみたいでさ』
「何その抜け道~?」
『知らーん。運営に聞いてー』
ん~……まあええか。
『動くなよー? 【召喚】、“ジンジュ”!』
えすとが唱えてから5秒。俺の足元に、不気味な紋様が浮かび上がった。
薄~い紫色に光る……魔法陣ってやつ?
《異人「えすとっきゅー」に召喚されました。【召喚】を受諾しますか?》
……また見慣れん光に包まれるんか~ !!
まあ、今から小1時間歩くよりはマシか。“受諾する”で。
《【召喚】を受諾しました。転移を始めます》
◇
光が消えたら、さっきの草原。ボーゼ、えすと、牛柄ちゃん(仮称)、もう1羽別の小兎、さっきの兄ちゃん2人組がおる。
2人組は縄状の物でふん縛られとる。
……何この混沌?
「何この……何?」
「「いや語彙力」」
とりあえず、2羽目の子は“▽ミニラビット(♂) Lv.5”やて。
全身、絵の具をベタ塗りしたみたいな橙色。
そんなんおるんや……へぇ~。
「……ぷう」
牛柄ちゃんよりも、さらにおとなしい。
じーっ……と、こっちを見とる。正直気まずい。
「ふす、ふんす」
その隣で、「私が姉です」とかいわんばかりの牛柄ちゃん。
……珍しく、鼻息荒いとこすまんけど。
お前、草食って走っとるだけ違うん?
「ん゛ーっ、 ん゛ん゛ー !! 」
「ん゛ーん゛ー、 ん゛ん゛ー !! 」
2人組のほうは、手足口を封じられとる。たしか“ハノレトマン”さんと“ゾルゲマニア”さん、やっけ?
頭の上に出とるお名前が、橙色になっとる。それって、“要注意人物”ってコト……?
で、レベル18と16か。勝ち目なさそ~。
あと、とにかくうるさい。特に顔がうるさい。
「……何この人ら? 私刑執行中~ ?? 」
「いや、犯行動機とか聞くんかなー? と思て」
「そらどうも……」
なるほど、余計なお世話やな。魔法と呪文のある世界で、敵に喋らせろ……てか?
アホやろ、死にたいんか~ ??
あと俺、“動機聞くんほど不毛なことはない”、て思とる。
理由? 手口聞くんと違て、「じゃあどうしろと ?? 」て話になるから。
心当たりあるやろ?
「俺は“このまま放置”で行きたいけど……あとはお任せしま~す」
「何でや阪○?」
えすとが引っかかったか~。簡単な説明……
「この人らさ~、まだMPあるやん? 動機なんか聞いて、素直に言うてくれると思う?」
「え……じゃあ何するん?」
「俺やったら、目の前のカスゴブリンに【風の癒し】とかぶつけるかな~。“殺したいほど憎い”んやろ?」
「「んー !? んーんんんんんんんんんんんんーん !! 」」
絶句するえすとと、黙って頷くボーゼ。ほんで外野が喧しい。
“はぁー !? そこまでやるほど堕ちてねーよ !! ”とか言うとんかな? 今更そんなん、誰が信用すると思とんねん。
甘いわ。
「で~、俺に手ぇ下す力はないし、お前らが手ぇ下す価値もない。やったらこのまま放っといて、縄張り目当てのウサちゃん達にお任せしよかな~……て」
「「んー! んーんんー !! 」」
「「うわぁ……」」
ちょお待てや、何でお前らが引いとんねん……。
「お前マジで……マジでえげつないな……」
そう言えるえすとは、ホンマにええやつ。なぜか?
「何言うとんねんお前ら、ここは確実にトドメ刺しとかな」
「頭ゴル□゛かよ! お前マジで……」
「お前が一番ヤバいやんけ~」
安定のボーゼさんがおるからdeath !!
……いや、俺が変な死に方したせいで、あの人ら“PKer”やないからな。あくまで要注意人物であって、犯罪者やないんや。
迂闊に倒せば、逆にこっちがPKerになる。そらアカンやろ……。
「異人やろ? どうせ生き返るんやし、時間もったいないわ~。早よ次行こ?」
「まあ、お前がそれでええんやったら……」
てなわけで、森に入ろうとしたら、2羽の小兎が追いかけてきた。
牛柄ちゃんとオレンジくん(仮称)や。どっちも草咥えてはない……けど、まだモグモグしとんな牛柄ぁ~? 太るぞ~ ??
「……散ッ!」
「「誰が忍者やねん」」
えすとのボケは置いといて。
またちょっとバラけてみる。牛柄ちゃんは俺、オレンジくんはえすとについてくる。
森の手前で合流。
「何でや、何で俺にはついてけぇへんねん……」
「狼面して狩りまくったからやろー?」
ボーゼのぼやきに、えすとがド正論を返す。さらに付け足すなら……?
「しかも美味いからって、兎肉食いまくったか~?」
「チッ、バレた」
やっぱりな~。
……とか言いながら森に入る。
薄暗い。とにかく鬱蒼としとる。
街路樹みたいな、まっすぐ上に伸びとる木は見当たらん。どれ見ても、根元から真っ二つ !? てぐらい、バンバン枝分かれしとる。
まあ、地面から2mぐらいまでは枝切ってある。薪とかに使うんかな?
けどその上は、枝が密です。ちょっと薄日射しとる? てぐらい、光が届いてない。まだ晴れとるのにな~。
そんな木々から延びる、立派な根っこがめっちゃ邪魔。平地のはずやのに、地面でこぼこで歩きにくい。
あと、草も邪魔。さっきまでの草原とは別の、背ぇ高い草が、何種類もわさわさ生えとる。
一番低いとこで、今の俺の腰ぐらい。狼とか隠れ放題や~ん……
「ぴすぴす」
誰か鼻詰まった? て思たら、いつの間にか兎が増えとった。
“▽ラビット Lv.12”やて。
たしかに、牛柄ちゃん達より一回りデカい。体つきとか耳もガチの兎みたいや。
強っ、進化形か……?
で、なんか活発そうな子やな~。
全身真っ黒……いや? よ~見たら、黒っぽい灰色や。で、黒い縞模様……虎柄やん!
そんな柄の子までおるんや……
で、分かれてみると、ボーゼについてった。よかったな~。
また合流したら、えすとが小兎たちを指さして、
「阪○、巨○、オリッk……」
「「やめい !! 」」
……閑話休題。
「あ、せやジンジュ。〈挑戦者〉ってスキル取れるやろ? 今取っとけ」
「アッはい」
そんなに強い魔物が出てくるんか~……
《〈挑戦者〉を取得しました。残りSP:3》
「おっ、放りやすそうな石~!」
武器集めです。ついでに【鑑定】
―――――
??石
HP:― MP:―
―――――
説 明 が な い !!
そんなパターンあるんや……
まあええわ。大盾出して、ぼちぼち行きましょか~
◇
森に入って、30秒ほど歩いた。この辺、草少ないな~。
鬱蒼と生える木々の中に、ちょこちょこ花をつけとるやつがある。
「お2人さんお2人さん、薬草どこ~?」
「こんな入ってすぐのとこ、あると思うか?」
「……あ~、誰かに取られとるか~」
ん? 今その辺“ガサガサ”て言うたな ?? この音は……3羽が逃げた。
《「ブラウンウルフ(♂)」1頭と交戦中です》
はい出た~、一匹狼。レベル7。腹減っとんやろな~、やる気満々や。
「「お、頑張れよー」」
1対1か、了解ッス。
ファンフリの狼は力持ちですばしっこい。兎と比べたら、やけどな。
反面、ガタイの割に体力がない、とのこと。やから“初心者向き”なんやて。
つまり……
「バウ!」
「おら来いや! 【受け流し】、よっと~!」
勢いよく飛び出した狼を、後ろへ受け流す。その先には木が1本……はい、ど~ん !! 見事に頭から突っ込んだな~。
ここで一句。
気をつけろ 狼は急に 止まれない
あ~あ~、こんな狭いとこでそんな飛ばしたら……そら意識も飛ぶわ~。なぁ?
で、大盾は鈍器です。駆け寄って、敵の首に叩きつけたれ。
「【叩きつけ】、うら~ッ!」
……背中か。外れた、もう1回。
「【叩きつけ】! だあ~ッ !! 」
……“CRITICAL!”、いただきました。
《「ブラウンウルフ(♂)」1頭を討伐しました。これにより、以下の条件が満たされています》
《〈受け流し〉がLv.3になりました》
なむなむ。
で、例のごとく解体して……
《以下のアイテムを入手しました。
・「ブラウンウルフの肉」
・「ブラウンウルフの毛皮」
・「ブラウンウルフの魔石」》
見事に1個ずつや。
「これが普通」
「なるほど~……」
複数出たんは初心者の幸運やった……てことか。
まあ、話はその辺にしといて。奥行こか~。
狼倒してから、5分ほど歩いたか?
兎3羽は、結局戻ってこんかった。まあそんなもんか~。
開けとって、敵を見つけやすい草原のほうが、彼ら好みなんやろな~……知らんけど。
で、目の前にヤバそうなキノコがある。
高さ5cmぐらいで、傘が真っ赤っか。めっちゃ目立つのに、食われた跡が見当たらん。
……これ、毒あるな? 【鑑定】!
―――――
アカアカタケ
日陰に自生するキノコ。有毒。
HP:― MP:―
―――――
やっぱりな。てか名前、クセ強いな~。
ちなみにキノコは菌類です。植物やない。覚えてね。テストに出るか知らんけど。
もうちょい進んだら……茂みの奥に、何かおるな。茶色い毛玉? あれは……
猪 の 尻 。
猪の尻ですぜ、兄貴~。結構デカそうやな。んで、レベル15か~。
指差しながら、声を潜めて……
「お2人さんお2人さん、ご相談があります」
「「何でしょう?」」
「あの猪をね、1人で狩ってみたい」
2人がニヤリと笑う。
「「いいじゃないですかー」」
……いや止めろや、10レベ上やぞ? ええねんな ?? ほなやろ。
◆
うちの親父は、農家の次男坊や。
やから俺は、祖父ちゃんや伯父ちゃんに、こう教わってきた。
『農家にとって、守るべき環境は自然環境やない。人間の生活環境や。当然やな。儂らは人間のために食い物作っとるんやから。ほな、田圃や畑を荒らす動物は追っ払うか、捕まえて処分してもらうしかない。すまんけんどな~……。菜っぱを食う蝶々(チョウチョ)や鹿も、畑を掘り返す土竜、鼠、それに猪も。例外はない。熊? 論外や、あいつら人食うやんけ……』
“美しい田園風景”ってあるやん? あれはこうして保たせとるもんや。
祖父ちゃんら農家の、努力の結晶や。断じて、美しい“自然”なんかやない。
それを汚すんやったら、何であれ許さん。猪やろうが熊やろうがデカい巻き貝やろうが、関係ない。
あ~あと、タバコとか菓子袋とか捨ててく人間もな。
……「いや、八つ当たりじゃん」? それはそう。
俺は何も守らない。人として生きるだけだ――
◇
「……あ、ヤバかったら助けて」
「「そら当然な」」
「あざ~っす。ほな行ってくる」
静かに素早く、バレる前にええとこ押さえな、な~。
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
次回更新は8/31(土)頃の予定です。
※「“美しい田園風景”って~」のくだりについて
???「“言葉は正しく使え” って書くのに この長さ?」
【追記】一部加筆/修正しました
(2025/06/20)
――【おまけ】ジンジュくんの現状――
ジンジュ Lv.4
種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男
属性:土
職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―
所持金:470マニ
SP:2
HP:97%
MP:99%
状態:正常
スキル:8
〈鈍器 Lv.2〉〈防御 Lv.2〉〈受け流し Lv.3〉〈火魔法 Lv.1〉
〈生活魔法 Lv.1〉〈従魔法 Lv.1〉〈解体 Lv.2〉〈鑑定 Lv.1〉
(控え:4)
〈危機察知 Lv.1〉〈挑戦者 Lv.1〉〈体力強化 Lv.2〉〈筋力強化 Lv.2〉
(種族:2)
〈投石 Lv.2〉〈幼鬼〉
称号:4
〈駆けだしの冒険者〉
住民からの信頼度が微増する。
〈副神シトリーの祝福〉
幸運のステータス値が微増する。
また、知力と精神の取得経験値が微増する。
〈果敢な挑戦者〉
レベル差が「10以上かつ倍以上」の、格上の相手と戦う際、全ステータス値が1%増加する。
〈生還者〉
HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。