表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/46

009. 転移と、魔物と、東の森(前編)



 ◇


 光が消えたら、そこは噴水の前。

 活気あふれる石造りの街、その熱気が……


――そんなことより顔熱い !!



 ドーモ、皆=サン、ジンジュです。

 軽やかなネット民風に、現状をお伝えします。どうもこうらしい……


【速報】弱ゴブ、初日から死に戻り! 死因は日焼け!?

【朗報】復活転移(リスポーン)で全回復完了!!

【悲運】元いた場所


 さ~て……どないしよ?

 とりあえず、女神像(シトリーさま)(おが)んどこ。なむなむ……



 ……お待たせしました。

 まずは2人に連絡を……通知来た。


《異人「えすとっきゅー」からPT(パーティー)通話(チャット)に呼ばれています。通話に参加しますか?》


 “はい”一択やな。


「もしもし?」

『おうジンジュ、さっきはすまん』

「そらしゃ~ない。それより、後どないしよ?」

『ちょっと待っといてー、召喚するから』


 ……ん !?


「……はい?」

(ちゃ)うねん、人外やったら異人(プレーヤー)でも()べるみたいでさ』

「何その抜け道~?」

『知らーん。運営に聞いてー』


 ん~……まあええか。


『動くなよー? 【召喚(サモン)】、“ジンジュ”!』


 えすとが唱えてから5秒。俺の足元に、不気味な紋様(もんよう)が浮かび上がった。

 薄~い紫色に光る……魔法陣ってやつ?


《異人「えすとっきゅー」に召喚されました。【召喚】を受諾しますか?》


 ……また見慣れん光に包まれるんか~ !!

 まあ、今から()1時間歩くよりはマシか。“受諾する”で。


《【召喚】を受諾しました。転移を始めます》



 ◇


 光が消えたら、さっきの草原。ボーゼ、えすと、牛柄ちゃん(仮称)、もう1羽別の小兎(ミニラビット)、さっきの兄ちゃん2人組がおる。

 2人組は(なわ)(じょう)の物でふん(じば)られとる。


 ……何この混沌(カオス)


「何この……何?」

「「いや語彙(ごい)(りょく)」」


 とりあえず、2羽目の子は“▽ミニラビット(♂) Lv.5”やて。

 全身、絵の具をベタ塗りしたみたいな(オレンジ)色。


 そんなんおるんや……へぇ~。


「……ぷう」


 牛柄ちゃんよりも、さらにおとなしい。

 じーっ……と、こっちを見とる。正直気まずい。


「ふす、ふんす」


 その隣で、「私が姉です」とかいわんばかりの牛柄ちゃん。

 ……珍しく、鼻息荒いとこすまんけど。

 お前、草食って走っとるだけ(ちゃ)うん?


「ん゛ーっ、 ん゛ん゛ー !! 」

「ん゛ーん゛ー、 ん゛ん゛ー !! 」


 2人組のほうは、手足口を封じられとる。たしか“ハノレトマン”さんと“ゾルゲマニア”さん、やっけ?

 頭の上に出とるお名前が、橙色になっとる。それって、“要注意人物”ってコト……?

 で、レベル18と16か。勝ち目なさそ~。

 あと、とにかくうるさい。特に顔がうるさい。


「……何この人ら? 私刑(・・)執行中~ ?? 」

「いや、犯行動機とか聞くんかなー? と(おも)て」

「そらどうも……」


 なるほど、余計なお世話やな。魔法と呪文のある世界で、敵に喋らせろ……てか?

 アホやろ、死にたいんか~ ??


 あと俺、“動機聞くんほど不毛なことはない”、て思とる。

 理由? 手口聞くんと(ちご)て、「じゃあどうしろと ?? 」て話になるから。


 心当たりあるやろ?


「俺は“このまま放置”で行きたいけど……あとはお任せしま~す」

「何でや阪○?」


 えすとが引っかかったか~。簡単な説明……


「この人らさ~、まだMPあるやん? 動機なんか聞いて、素直に言うてくれると思う?」

「え……じゃあ何するん?」

「俺やったら、目の前のカスゴブリンに【風の癒し(ウインド・ヒール)】とかぶつけるかな~。“殺したいほど憎い”んやろ?」

「「んー !? んーんんんんんんんんんんんんーん !! 」」


 絶句するえすとと、黙って(うなず)くボーゼ。ほんで外野が(やかま)しい。

 “はぁー !? そこまでやるほど()ちてねーよ !! ”とか言うとんかな? 今更そんなん、誰が信用すると思とんねん。


 甘いわ。


「で~、俺に手ぇ下す力はないし、お前らが手ぇ下す価値もない。やったらこのまま()っといて、縄張り目当てのウサちゃん達にお任せしよかな~……て」

「「んー! んーんんー !! 」」

「「うわぁ……」」


 ちょお待てや、何でお前らが引いとんねん……。


「お前マジで……マジでえげつないな……」


 そう言えるえすとは、ホンマにええやつ。なぜか?


「何言うとんねんお前ら、ここは確実にトドメ刺しとかな」

「頭ゴル□゛かよ! お前マジで……」

「お前が一番ヤバいやんけ~」


 安定のボーゼさんがおるからdeath(デス) !!

 ……いや、俺が変な死に方したせいで、あの人ら“PKer(プレーヤー・キラー)”やないからな。あくまで要注意人物であって、犯罪者やないんや。

 迂闊(うかつ)に倒せば、逆にこっちがPKerになる。そらアカンやろ……。


「異人やろ? どうせ生き返るんやし、時間もったいないわ~。早よ次行こ?」

「まあ、お前がそれでええんやったら……」


てなわけで、森に入ろうとしたら、2羽の小兎が追いかけてきた。

 牛柄ちゃんとオレンジくん(仮称)や。どっちも草(くわ)えてはない……けど、まだモグモグしとんな牛柄ぁ~? 太るぞ~ ??


「……(さん)ッ!」

「「誰が忍者やねん」」


 えすとのボケは置いといて。

 またちょっとバラけてみる。牛柄ちゃんは俺、オレンジくんはえすとについてくる。


 森の手前で合流。


「何でや、何で俺にはついてけぇへんねん……」

「狼(づら)して狩りまくったからやろー?」


 ボーゼのぼやきに、えすとがド正論を返す。さらに付け足すなら……?


「しかも美味いからって、兎肉食いまくったか~?」

「チッ、バレた」


 やっぱりな~。

 ……とか言いながら森に入る。


 薄暗い。とにかく鬱蒼(うっそう)としとる。

 街路樹みたいな、まっすぐ上に伸びとる木は見当たらん。どれ見ても、根元から真っ二つ !? てぐらい、バンバン枝分かれしとる。


 まあ、地面から2mぐらいまでは枝切ってある。(たきぎ)とかに使うんかな?

 けどその上は、枝が密です。ちょっと薄日()しとる? てぐらい、光が届いてない。まだ晴れとるのにな~。


 そんな木々から延びる、立派な根っこがめっちゃ邪魔。平地のはずやのに、地面でこぼこで歩きにくい。

 あと、草も邪魔。さっきまでの草原とは別の、背ぇ高い草が、何種類もわさわさ生えとる。

 一番低いとこで、今の俺(ミニゴブリン)の腰ぐらい。狼とか隠れ放題や~ん……


「ぴすぴす」


 誰か鼻詰まった? て思たら、いつの間にか兎が増えとった。

 “▽ラビット Lv.12”やて。

 たしかに、牛柄ちゃん達より一回りデカい。体つきとか耳もガチの兎みたいや。

 強っ、進化形か……?


 で、なんか活発そうな子やな~。

 全身真っ黒……いや? よ~見たら、黒っぽい灰色や。で、黒い(しま)模様……虎柄やん!

 そんな柄の子までおるんや……


 で、分かれてみると、ボーゼについてった。よかったな~。


 また合流したら、えすとが小兎たちを指さして、


「阪○、巨○、オリッk……」

「「やめい !! 」」



 ……閑話休題。



「あ、せやジンジュ。〈挑戦者(チャレンジャー)〉ってスキル取れるやろ? 今取っとけ」

「アッはい」


 そんなに強い魔物(ヤツ)が出てくるんか~……


《〈挑戦者〉を取得しました。残りSP(スキル・ポイント):3》


「おっ、放りやすそうな石~!」

 武器集めです。ついでに【鑑定】


―――――

??石


 HP:―      MP:―

―――――


 説 明 が な い !!

 そんなパターンあるんや……


 まあええわ。大盾出して、ぼちぼち行きましょか~



 ◇


 森に入って、30秒ほど歩いた。この辺、草少ないな~。

 鬱蒼(うっそう)と生える木々の中に、ちょこちょこ花をつけとるやつがある。


「お2人さんお2人さん、薬草どこ~?」

「こんな入ってすぐのとこ、あると思うか?」

「……あ~、誰かに取られとるか~」


 ん? 今その辺“ガサガサ”て言うたな ?? この音は……3羽が逃げた。


《「ブラウンウルフ(♂)」1頭と交戦中です》


 はい出た~、一匹狼。レベル7。腹減っとんやろな~、やる気満々や。


「「お、頑張れよー」」


 1対1か、了解ッス。


 ファンフリの狼は力持ちですばしっこい。兎と比べたら、やけどな。

 反面、ガタイの割に体力がない、とのこと。やから“初心者向き”なんやて。

 つまり……


「バウ!」

「おら来いや! 【受け流し】、よっと~!」


 勢いよく飛び出した狼を、後ろへ受け流す。その先には木が1本……はい、ど~ん !! 見事に頭から突っ込んだな~。

 ここで一句。


  気をつけろ (ウルフ)は急に 止まれない


 あ~あ~、こんな狭いとこでそんな飛ばしたら……そら意識も飛ぶわ~。なぁ?

 で、大盾は鈍器です。駆け寄って、敵の首に叩きつけたれ。


「【叩きつけ】、うら~ッ!」


 ……背中か。外れた、もう1回。


「【叩きつけ】! だあ~ッ !! 」


 ……“CRITICAL!”、いただきました。


《「ブラウンウルフ(♂)」1頭を討伐しました。これにより、以下の条件が満たされています》

《〈受け流し〉がLv.3になりました》


 なむなむ。

 で、例のごとく解体して……


《以下のアイテムを入手しました。

 ・「ブラウンウルフの肉」

 ・「ブラウンウルフの毛皮」

 ・「ブラウンウルフの魔石」》


 見事に1個ずつや。


「これが普通」

「なるほど~……」


 複数出たんは初心者の幸運(ビギナーズ・ラック)やった……てことか。

 まあ、話はその辺にしといて。奥行こか~。



 狼倒してから、5分ほど歩いたか?

 兎3羽は、結局戻ってこんかった。まあそんなもんか~。

 (ひら)けとって、敵を見つけやすい草原のほうが、彼ら好みなんやろな~……知らんけど。


 で、目の前にヤバそうなキノコがある。

 高さ5cmぐらいで、傘が真っ赤っか。めっちゃ目立つのに、食われた跡が見当たらん。

 ……これ、毒あるな? 【鑑定】!


―――――

アカアカタケ

 日陰に自生するキノコ。有毒。


 HP:―    MP:―

―――――


 やっぱりな。てか名前、クセ強いな~。

 ちなみにキノコは菌類です。植物やない。覚えてね。テストに出るか知らんけど。



 もうちょい進んだら……茂みの奥に、何かおるな。茶色い毛玉? あれは……

 (シシ) の (ケツ) 。

 猪の尻ですぜ、兄貴~。結構デカそうやな。んで、レベル15か~。

 指差しながら、声を(ひそ)めて……


「お2人さんお2人さん、ご相談があります」

「「何でしょう?」」

「あの猪をね、1人で狩ってみたい」


 2人がニヤリと笑う。


「「いいじゃないですかー」」


 ……いや止めろや、10レベ上やぞ? ええねんな ?? ほなやろ。



 ◆


 うちの親父は、農家の次男坊や。

 やから俺は、祖父(じい)ちゃんや伯父(おっ)ちゃんに、こう教わってきた。


『農家にとって、守るべき環境は自然環境やない。人間の生活環境や。当然やな。(ワシ)らは人間のために食い(もん)作っとるんやから。ほな、田圃(たんぼ)や畑を荒らす動物は追っ払うか、捕まえて処分してもらうしかない。すまんけんどな~……。菜っぱを食う蝶々(チョウチョ)や鹿も、畑を掘り返す土竜(モグラ)(ネズミ)、それに猪も。例外はない。熊? 論外や、あいつら人食うやんけ……』


 “美しい田園風景”ってあるやん? あれはこうして()たせとるもんや。

 祖父ちゃんら農家の、努力の結晶や。断じて、美しい“自然”なんかやない。

 それを(けが)すんやったら、何であれ許さん。猪やろうが熊やろうがデカい巻き貝やろうが、関係ない。

 あ~あと、タバコとか菓子袋とか捨ててく人間もな。


 ……「いや、八つ当たりじゃん」? それはそう。

 俺は何も守らない。人として生きるだけだ――



 ◇


「……あ、ヤバかったら助けて」

「「そら当然な」」

「あざ~っす。ほな行ってくる」



 静かに素早く、バレる前にええとこ押さえな、な~。



 お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m

 次回更新は8/31(土)頃の予定です。


※「“美しい田園風景”って~」のくだりについて

???「“言葉は正しく使え” って書くのに この長さ?」



【追記】一部加筆/修正しました

(2025/06/20)



――【おまけ】ジンジュくんの現状――

ジンジュ Lv.4

 種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男

 属性:土

 職業:【正業】冒険者(闘士) 【副業】―

 所持金:470マニ

 SP:2

 HP:97%

 MP:99%

 状態:正常


 スキル:8

 〈鈍器 Lv.2〉〈防御 Lv.2〉〈受け流し Lv.3〉〈火魔法 Lv.1〉

 〈生活魔法 Lv.1〉〈従魔法 Lv.1〉〈解体 Lv.2〉〈鑑定 Lv.1〉

(控え:4)

 〈危機察知 Lv.1〉〈挑戦者 Lv.1〉〈体力強化 Lv.2〉〈筋力強化 Lv.2〉

(種族:2)

 〈投石 Lv.2〉〈幼鬼〉


 称号:4

 〈駆けだしの冒険者〉

  住民からの信頼度が微増する。

 〈副神シトリーの祝福〉

  幸運のステータス値が微増する。

  また、知力と精神の取得経験値が微増する。

 〈果敢な挑戦者〉

  レベル差が「10以上かつ倍以上」の、格上の相手と戦う際、全ステータス値が1%増加する。

 〈生還者〉

  HPが0になる攻撃を受けた際、HP残り1%で耐える確率を微増させる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ