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02話  通学路にて



目が覚めると朝だった。二日酔いの頭を冷たい水で無理やり起こして、時計を見る。


「もう行かないと」


 もう昨夜のように返事をくれる友達はいなかった。昨日のことは夢であったのではないかと思うほど、景色が違って見える。山田のような医学生ほどではないだろうが、僕も理系の大学生である。普通の理系の大学生はほどほどにいそがしい。特に成人の日のある1月の初旬には、多くの大学が冬季休業前の期末テストシーズンだ。僕もその例に漏れず、今日の2限にはテストがあり午後からは実験だった。何をしているかさっぱりな振り子の振幅を計測しているうちに1日が終わった。


(あの時どうしていれば)


 振り子の実験は単調でよくない。単純作業がこうも続くとくだらないことばかり考えてしまう。理系の大学生のほどほどの忙しさはこうした煩悶からは一時的に解放してくれる。しかし、完全には解放してくれない。昨夜からずっと、莉子のことばかり考えている。大学からの帰り道、いつもは通らない道を通ってみた。母校の小学校やその通学路をなるべく通って帰った。小学校の前には、老夫婦がやっていた文具屋があったが今はコンビニになっていた。莉子の家はこの文房具屋の裏にあった。今は引っ越しているのか表札が変わっている。できたばかりのコンビニのイートインでは、小学生三人組が駄菓子を食べながらスマホゲームをしていた。なるほど、建物や端末は変わってもいつの時代も小学生のやることは変わらないらしい。


「遙?遙じゃん!昨日ぶりだな」


 コンビニに入るとコーヒーマシンが清掃中だった。清掃していたのは昨日あったはずの小学校の同級生だった。


「こんなとこで何してんの?」

「大学の帰りだよ。ここでバイトしているのか?」

「そうそう。あ、莉子ちゃんもここでバイトしているよ。もうすぐインだと思う。昨日はなんで来なかったんだろうな」


 一瞬、心臓がドクンと波打った。言葉が出てこない。生返事だけ返して、飲み物の棚へ向かった。

 水だけ買って店外へ出るとあたりはもうすっかり暗くなっていた。来るときは感慨深く歩いてきた母校にわき目も降らずに帰った。家に着くと仕事で遅くなる母がオムライスをラップにかけておいてくれていた。けれど、食べる気になれずすぐに横になったが眠れず、ずっと同じことを考えていた。

 僕と莉子はきちんと別れたわけではない。僕らの中学校の卒業式、すでに卒業式を終えている莉子が僕らの中学までやってきて3人で写真を撮る約束をしていたが、莉子は卒業式に現れなかった。莉子からはLINEも返ってこず、心配した僕と山田は莉子の家まで行ったが誰もいなかった。お姉さんが亡くなったのはその日だった。春休みから高校1年生の夏まで、落ち込んだ莉子を励まそうと僕は莉子といろいろところへ連れて行った。当時の僕からは、少し背伸びしたような都心のおしゃれなカフェやライブハウス、彼女がいつか行ってみたいと言っていたことを必死に思い出して連れて行った。初めは楽しそうにしていた莉子だったが、僕にはすぐに嘘だとわかった。それを表すかのように徐々に彼女の表情は曇り始めた。


「僕の前では無理しなくていいんだよ」


 莉子にこう言ってしまったことがある。莉子は何も言わず、ただ泣いてしまった。泣き崩れる莉子を家まで送ってその日は帰った。その日の夜、莉子からただ一言


『ごめんね。』


 とだけLINEが来ていた。


『なんのこと?』


とだけ返したがそのLINEに既読が着くことはなかった。3日経っても返信がこないことに不安になった僕は莉子の家まで行ってみると引越し業者が荷物の運送をしていた。彼女はもうこの街にはいなかった。これが僕らの最後のデートだ。


読んでいただきありがとうございます。

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