十話 特訓?
戦いばっかですいません。
――翌日――
木剣の打つかり合う音が響き、二人の少女の影が地面に投影される。しかし、その影は両方猛スピードで入り乱れ、重なり合う。重なり合う度に風が吹き、落ち葉を払い、大気を揺るがす。激しく戦う――特訓をしている少女は二人。緋月と葛葉だ。
「――っ⁉︎」
葛葉が上を見上げ、大剣型の木剣を大上段に掲げ振り下ろさんとする緋月を視認し、葛葉は持っている長剣型の木剣の剣の腹の面を縦にする。数秒もせずに緋月が大剣を振り下ろした。だが、葛葉には当たらず、木剣の腹に当たり大剣型の木剣は滑り落ちる。一瞬で目の前は――緋月の馬鹿力で降り下ろした大剣が地面の砂を巻き上げ――砂に覆われる。
(……ど、どこにっ!)
目線を巡らし、砂塵の中に居るであろう緋月を一生懸命に探すが、姿は何処にも無く影すら無い。
距離を取った? それとも油断を誘っている? 緋月は何を考えているのか、何処からやってくるのか。葛葉には、そんな考えが頭の中に浮かんでは消え失せ、構えながら待っていると。
「……――っ⁉︎」
気を抜いた一瞬。砂塵が消し飛び、晴れ渡った視界のど真ん中に緋月が現れ、瞬時に手に持っている大剣を横薙ぎに振るう。だが、葛葉は自慢の瞬発力を持って身体を後ろに倒す。大剣は葛葉の顎のスレスレを通り、葛葉は無茶な体勢をとったせいで臀部から地面に倒れ、木剣も手から落としてしまった。
「いっつ……――あわっ⁉︎」
地面に打つけた所を摩っていると、緋月よる次なる攻撃が繰り出される直前であった。間一髪、体を捻り、地面を転がって避ける。直後、先程までいた場所が爆ぜ、砂塵がまたしても舞い散る。
「――くっ!」
だが、緋月は先とは違い息吐く暇も無く畳み掛けてくる。一撃一撃が大地を断割するような圧倒的な攻撃力に、瞬きすることすら許されない敏捷。気を緩ませてはいけない攻撃頻度に、強者から放たれるプレッシャー。
脚が竦み、考えが纏まらず、葛葉の十八番である先読みも出来ない。むしろ、葛葉の行動が先読みされる。
「あ、ぐっ! うっ!?」
激しくなる攻撃。大剣のみならず、緋月は拳や脚を使った、殴りや蹴りをも混ぜてくる。もうフルボッコと言った方がいい。いつもの緋月とは思えない容赦の無さ、リンチにしか見えない特訓は、増えていく傷とは裏腹に葛葉の動きが良くなっていく。先程まで喰らっていた攻撃が、嘘のように空振りになり、逆に反撃の糸口が見えてくる。
(こ、この調子なら!)
遂に戦いは一進一退の攻防戦へと変化し、両者共に後一歩攻めれれば勝ちとなる。
大剣が、長剣が、緋月の技と駆け引きが、葛葉の未来視とも言える先読みが、それぞれが勝敗を決する。緋月の攻撃を木剣で防ぐが、衝撃は殺すことはできない。
吹き飛び、地面に何度か身体をぶつけ、ゴロゴロと転がるが直ぐに葛葉は飛び上がる。脚が地面に着くと同時。バンッ! と言う音と同時に砂塵が舞い、猛スピードで緋月に突っ込む葛葉。
その速さは尋常では無い。見る見る内に緋月との距離が無くなり、目と鼻の先になる。木剣を縦に一閃振るう、が緋月は飛んで回避する。
だがそれを読んでいた葛葉は、すぐさま宙に浮き何も出来ない緋月にトドメの一撃を繰り出そうと、飛び込んだ。次の瞬間、世界が反転し背中を強く強打。肺の中の空気が抜け、一時的に呼吸ができなくなる。
「――っ! ――っ! ――……はぁ……はぁ」
過呼吸になり、一度落ち着いてからゆっくりと深呼吸をし肺に空気を運び、へたり込む。葛葉は肩を大きく上下に動かし、片手を地面にもう片方を胸に当てる。そうしてると、歩いてくる音がし葛葉は頭だけを動かし、歩いてくる人物――緋月を見る。
「隙に飛びついたねー……もしかして結構焦ってた?」
「……そ、そうですよ。はぁ〜……やっぱり勝てないですよぉ」
「そりゃそうさ、ギルド長のボクが負けちゃったら面目が立たないだろう? 少しくらい本気になってもいいじゃないか」
緋月の手を借り、葛葉は立ち上がり呻くように緋月に嘆くが、緋月は最もな理由で本気で戦っていたことを告げる。
「まぁでも、日に日に動きは良くなってるからね。いつかは負けちゃうかも?」
「いつかっていつですか……?」
「……どのくらいだろうね」
葛葉の問いに顎に手を当て、真剣に悩み始める緋月。葛葉は期待した自分が馬鹿だったと、またため息を吐くのだった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
葛葉強くね? と書いている自分自身そう思っています。