六話 一筋の絶望の光
邪竜に鬼の王……大変ですね!
「――大手」
「――っぐ!」
場面は変わり、駒を動かし声を高らかにし宣言する緋月と盤上の緋月の布陣に目を磔にし、ぐぬぅと唸るのは玄武だった。あの後、玄武が攻勢に出たが、あっさりと防がれ、玄武の築いた布陣が逆手に取られ、そのまま緋月の勝利同然の状態となってしまった。
「もう諦めたら〜?」
「……――くっ。ま、参りました……」
悔しさが入り混じった声で、唸るように玄武は呟きながら頭を下げた。緋月はそれを見るとフフンと鼻を鳴らし、にははと笑みを作るのだった。
「……あ、そう言えば――」
「む? なんだ?」
ふと何かを思い出したような緋月に、玄武が下げていた頭を上げ、目線を同じ高さにする。一瞬の逡巡の後、緋月は先程の雰囲気を殺して、玄武の目を見て口を動かした。
「……君が封印をしていた、鬼王【鬼丸】は今どうなっている?」
「……――っ」
緋月の言葉に、玄武は声を詰まらせ息も自由に出来ない程に、衝撃を受けた。言葉という概念も忘れたかのように、当たり前のように出来ていたことが出来ない。
異様なまでの圧迫感。
「ボクが見に行った頃には……物抜けの殻だった。鬼丸が復活し、自由に外を出歩いているとなると……世界の均衡が崩れる」
「……ば、馬鹿な……あの拘束を解くなど、いくら何でもあの方さえも……」
「――だが、事実だ。現に、鬼巣山の一部が何者かによって破壊された」
「なっ――⁉︎」
――二日前、緋月と葉加瀬、数人のギルド職員達が鬼の里跡地を調べ、周辺も調べていた時だった。職員の一人が直径五十センチのクレーターと、木々が薙ぎ倒され魔物と思われる血痕が、クレーターの周りや遠い所にも点々と付着しており、ここで起こった事が鮮明に思い描けるほどだった。
「まぁその他にも、岩や岸壁、巨木に何かが叩きつけられた跡があった……状況証拠的に間違いないだろう」
「……本当に目覚めたのか? 話が本当なら、王国軍……いや! 周辺諸国に軍を要請し冒険者も募らなければならないぞ……⁉︎」
今から五百年前、鬼族の巫女『鬼丸』は史上最恐の巫女と呼ばれ、全世界から畏怖され恐怖された。王国軍や連合国軍、魔王軍が一時休戦し対処にあたり、ようやっと退けられる程だ。それもたった一人だ。たった一人で何個もの国を相手取れる化け物だ、今目覚めたとすれば最悪の事態だ。今、【英雄】はこの世界に存在しない。例え勇者が居たとしても、例え賢者が居たとしても、倒せる相手では無い。
「……――っ! 人族の巫女ならどうなんだ?」
「……ボクも考えたさ、だけどね、国が許可を出さないんだ」
「なんだと?」
頬をポリポリ掻きながら、緋月はあははーと諦めの入った笑顔で答えた。
「今、彼女は不安定なんだ……。最悪、この世界が消し飛びかねない」
「……ぐっ、タイミングが悪いな」
「ほんと、これも神の思し召かね〜」
「だとしたら、儂が死んだらぶん殴ってやる」
「出来たらいいね〜」
緋月は玄武の出来もしない妄言に、適当に棒読みで答え、部屋の天井に目を向けて寝っ転がる。
(唯一対抗できるとしたら……あの娘かな〜。ボクもサポートはするけど、メインは君だ)
緋月はそう心中で葛葉に言う。今も強くなるためにクエストに行っている、英雄の娘に――。
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可哀想は可愛いので絶望をもっと!