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十九話 主人公交代(魂のみ)

第二部一章の最終話です‼︎ ……タイトル詐欺になりません……よね?

すんなりと時間軸のズレを受け入れ、葛葉は座り込み腕枕をする。そんな葛葉を見ていた少女は、口元を手で押さえ笑いを堪えるように、肩を小刻みに震える。


「……あなたが私だなんて、やっぱり信じられませんね……!」


微笑み、涙目になり、少女は一区切り置き、そう葛葉へと言う。葛葉は少女に同調するように、吹き出し一緒に笑った。


「……信じる信じないじゃないんだよ。君は俺で、俺は君なんだから。幾つもある世界線の中の自分達なんだからさ」

「……かっこいいですね、男の私は」

「女の子にカッコいいなんて言われたの、妹を省けば片手で納まる程度だぜ?」


誇るようなことでもないが、葛葉は右手の指を一つ二つと折りながらそう言った。どうやら言われた数は三人のようだ。

……なんか目の奥が熱くなってきた。


「……さてと、そろそろ元の世界に帰りたいんだが?」

「あ、あーっとですね。それが……」

「ん?」


バツが悪そうに顔を逸らし、目を泳がせ手をモジモジとさせる少女に、葛葉怪訝な目でジーッと見つめる。それに気付いた少女は、一瞬怯えたが直ぐに気を取り直す。


「そ、それがですね……先の攻撃で、あなたの魂が傷付いたんです」

「魂?」

「はい。この世界は私やあなたの魂が眠る、世界から隔絶させられた空間なんです」


体が傷付いた、なら分かるが。魂?

何故魂が傷付くんだ? 刺されたの心臓だろ? と、うーんと唸りながら考えに耽る葛葉の顔を覗き込むみ、少女は葛葉は何を考えているのか察しがついた。


「……この世界は、本来はあなた達の、日本人の――現世の世界の住人の魂が帰る場所だった。でもいつしか、文明が築き上げられ多種多様な人や生物が誕生してしまったんです」

「……それとこれとは違う気が」

「んー説明が難しいんですよね。とりあえず、この世界での傷や怪我は魂と直結してるんですよ」


ブンブンと腕を振り、もどかしそうに荒ぶる少女はかなり端折って説明をする。


「……それで、葛葉さんはこの世界で一度死んでいます。つまり、魂が一時的に死んだんです」

「……まぁそうだな。説明通りなら」

 

少女の話に耳を傾けて、顎に手を当てながら考えていた葛葉相槌を打つ、と同時にハッ! 顔を上げた。


「まさか、俺の魂が一回死んでっから、元の世界に戻れねぇのか?」

「……いえ、戻れるは戻れるんですけど。今は戻れないんです」

「……どゆこと?」


ドンドン複雑になっていく話に、葛葉の脳は遂にパンクしてしまった。プシューと頭から煙が出て、目がぐるぐるになり、ほけー? と何も考えてなさそうな顔になる。


「あなたの魂はかなり消耗してしまい、元の世界での安定性も維持性もないんです。その状態で元の世界に戻ったら、直ぐにあの世に行っちゃうんです」

「……なん、だとっ⁉︎」


それは色々と困る。まぁ前世は何故か成仏はしなかったが、この世界で葛葉は生きていくと、成り上がると思い至ったのだ。本気も出すつもりだ。それなのに、天使に連れられるなんて、真平御免だ。


「そ、そんじゃあどうすんの!? てか、元の世界の俺はどうなんの!?」

「……ただの抜け殻になりますね」

「ま、マジか……てか、魂が傷付いたんだろ? 回復とかできんの?」


八方塞がりな状態で、ふと葛葉は思い至る。傷付いたのなら、回復魔法かポーションで治せばいいと。まぁポーションなんかは無いけど。この世界でも、スキルは使えるみたいだが。魂を元状態に戻す、なんてそんな想像しづらいことを想像できる訳もなく。


「回復魔法では完治しないんです。あの時は応急処置で使いましたけど……魂を完全に治すには、この世界に生えている、その巨大樹の生命力を分けて貰わないといけないんです」

「……ち、ちなみにどんくらい掛かるの?」

「だ、大体……この世界で十数年ほどですかね」

「……時間の流れが違うとはいえ、そんなに掛かるのか」


このままでは試したかったことも出来ず、二度と律や五十鈴、葉加瀬や千佳に会えなくなってしまう。緋月にもまだまだ、稽古してもらって強くさせてもらう筈だったのだが……。葛葉が思い詰めた顔で座る。そんな葛葉を見ていた少女は、心配そうに葛葉を眺めて一息ついてから、よしっと言った。


「わ、私が元の世界で、あなたがやりたかったことをしますから、あなたはここでゆっくり休んでくれませんか?」


不安そうに、声を震わせ、少女は葛葉の表情を窺いながらも言い切る。葛葉はその言葉に、発言に顔を上げ少女の目を見る。どうやら本気のようだ。


「……そ、そうは言っても。何で君がそんな事する必要が」

「私は、あなたです。だからするんです……」


今度は震えた声では無く、堂々と勇ましい声で少女は言った。そうだ、この子は『葛葉』なのだ。自分と同じ、アニメの主人公に憧れて心を折られて家族を失って、挫折したまんま何もかもがどうでも良くなって、次第に学校に行かなくなって。でも、それでも葛葉は再び歩き出したのだ。義母のために、妹のために、なのに死んで。二度と会えなくて、悲しい気持ちは心の奥底で隠してた。そんな葛葉なのだ。また、葛葉は歩き出そうとしてる。


「……俺は俺だな」


諦めが悪くて、惨めに這いつくばって、何度も立ち上がる。痛い痛い厨二病なのだ。


「じゃあ、頼む。あの世界で、どうにかこうにか成り上がってくれ……」

「はい! 任せて下さい!」


葛葉は頬を指でポリポリと掻きながら、少女に頭を下げ頼み込んだ。少女は満面の笑みで了承し、意気込みも熱意もヒシヒシと感じ取れるほどに、少女からは漏れていた。

「……って言いたいところなんですけど」

「?」


と、良い感じな雰囲気だったのが、少女の一言で無くなり、葛葉は首を傾ける。少女は言いずらそうに、頬を紅潮させる。そんな少女に葛葉は、あれ、さっきもあったなこんな展開、とデジャブを感じていた。


「私が体を動かすといっても、今までの――あなたが過ごしてきた記憶が無いといけませんよね……」

「……ん? まぁそうだよな」

「……――っ!」


確認ごとのように聞いてきた少女に、葛葉は返答するが直後に少女の顔が耳まで真っ赤に染まり、ただ一点。自分の足下を凝視するように俯くのだった。


「……で、そのですね……記憶を移す方法があるのですが……」

「へぇ〜」

「そ、その方法がですね……その……です」

「え?」


少女が更に顔を赤くし、ゴニョゴニョと口籠もりながら何かを呟いたが、葛葉聞き取れず。少女の近くにより、耳を澄ませてもう一度言ってもらうようにお願いした。


「方法は……キスなんです」

「……――はっ?」


葛葉は耳を疑った。記憶を移すのに何故キスするのか、何故女体化時の自分と接吻しなければならないのか。だが、そこは問題では無い……いや問題ではあるが。何故、女体化時の目の前の葛葉はそんなに恥ずかしがっているのか、何故そんなにも乙女みたいな反応をするのか……。今も目の前の葛葉は、口元を手で押さえ恥ずかしそうに顔を逸らす。


(な、何でお前はそんな反応できんだよ!?)


声を大にして言ってやりたいが、ここは我慢だ。


「……そうしないと記憶は……?」

「う、移せません……」

「それ以外に方法は……?」

「あ、ありません……」


若干あっちも申し訳なさそうなんだが。

沈黙が訪れ、葛葉腕を組みもうこのまま自分とキスするしか無いのかと、それ以外に道は無いのかと。そう悟る。というか、外見はただの美少女だ……自分で言うのも何だが。美少女とキス出来るならいいでは無いか? 葛葉はもう一度目の前の葛葉を見る。

――駄目だ、完全に自分って感覚が着いちまってる。


「んじゃ、パパッとすまそうぜ……」

「え、パパッ――っ!?」


葛葉が腕組みを解き、ため息と共に少女の手首を掴み引き寄せる。華奢な体は軽く、不意打ちのため楽に唇を奪えた。


「……ん⁉︎」


何が起こったのか、目を開けて認識した少女は林檎のような顔を更に赤くして、手に力を入れてしまう。


「――……これで良いだろ」

「……は、はい! い、良いと思います」


ぷはぁと二人して息を吸い込み、長いことキスをしていたことに葛葉は何故か悲しくなってきた。少女は口元を抑え、爆発しそうな心臓と爆音の鼓動を落ち着かせるために深呼吸を繰り返す。


「そ、それじゃあ、私は準備が出来たので……もう行きますね」

「おう。あとは任せた……!」

「では、行ってきます」

「あぁ! もう足は止めんなよ! 走り出したからには、最後まで走り抜けろよ‼︎」


徐々に消えていく少女の姿に、葛葉は大声で鼓舞してやる。少女は微笑み、この世界から姿を消した――。

読んで頂き、ありがとうございます‼︎

はい、交代です……本当にタイトル詐欺になってないか不安です。いや、もうタイトル詐欺じゃね?

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