十八話 切り替えが早いのが大事!
次の話で一章は終わりにするつもりです。
大きな血溜まりから、むくりと起き上がり辿々しく歩く少女の影が、真っ白な世界でポツンとあった。
『……あなたは、死なせないっ!』
とっくに事切れている葛葉に、少女は治癒の魔法を施す。がそんなのは死んでいる者に使ったとしても、意味を成さない。だが、目的は違う。魂を繋ぎ止めるためなのだ。
『まだ、時間はあるはず』
葛葉を担ぎ、巨大樹へと歩き出す。とうに冷たい葛葉の体は氷のよう思えた――。
「――ぁ。んぅ……お、れは? ――心臓っ⁉︎」
深い深い眠りから、徐々に目覚めていく葛葉は何があったのか思い出そうとして、心臓を穿たれたのを思い出した。
「――あ、起きました?」
「……あ、あぁ……って! 君も大丈夫かい!?」
「あ、はい。私は平気です、それよりもあなたは……?」
葛葉の顔を覗き込むように、視界に入ってきた少女の顔を見て、葛葉は少女も心臓を刺されていた事を思い出した。
「……いや、特には平気だけど。……ていうか、なんか服ないの?」
「……あっ!」
今まで無視していたが、先ほどからチラチラと視界に入ってくる小振りの双丘と、ブラなしなのでT○Bも丸見えだった。か〜っと顔を真っ赤にし、自身の体を抱き胸を隠す。
「な、なんか会った時と全然雰囲気が……」
「あ、あれは別の精神の私なので……。素はこんなのですよ」
「ま、俺は気にしねぇからよ。……ほら」
「……ぁ。ありがとうございます」
葛葉は着ていたジャージを脱ぎ、座り込んでいる少女へ被せる。少女は未だに耳を赤くしながら、感謝する。葛葉は辺りに視線を巡らせると、フワフワの葉っぱが辺り一面を覆っており、その遥か向こうで遥か下に地平線があった。
「てか、俺ってどんくらい寝てたん?」
「……確か三十時間ほどですよ」
「そっかぁ三十時間か〜……はっ?」
「どうしました?」
ジャージのチャックを閉めて、ブカブカのジャージをポンポンと叩きシワを無くしながら、固まって動かない葛葉に顔を上げて問いかける。
「三十時間って、マジで?」
「……? はい」
「本当の本当⁉︎」
「は、はい……本当の本当ですよ?」
葛葉は自分の耳がイカれたとかではなく、事実であったことを知り、また固まってしまう。でも確かに死んで、生き返るのに三十分とか一時間で起きてりゃ、それは死んだとかじゃねぇ。それは仮死だ。
「や、ヤバいんじゃないの⁉︎」
「な、何がですか?」
「何って、俺ここに三十時間も居たってことだよなっ!」
「は、はい」
肩を掴まれ困惑顔の少女に、葛葉は一ミリも配慮せずどんどん顔を近付ける。少女の顔は何故か徐々に赤くなっていく。少女と言っても、この少女は葛葉なのだ。自分と同じ葛葉なのだから、自分の顔が近くにある程度のことで何故頬を紅潮させる必要があるのか。
「あ、大丈夫ですよ。この世界の時間の流れは、元の世界の時間の百万分の一なので、そんなだってないと思いますよ」
「……そこだけは甘いんだな」
世知辛い世界のはずなのに、何故こう言うところはこんなにも緩いのか、甚だ疑問の余地はあるが。
「……なら、焦る必要もないか」
「き、切り替え早いですね……」
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
皆さんは急な展開に着いて行けてますか? 自分は流石に急展開にし過ぎてしまったと思います。