十七話 純白の世界
急展開過ぎますかね?
「これは……それに、君は……」
聳え立つ巨大樹には人が――否、葛葉が鎖に両手首を繫がられ、拘束されていたのだ。長い髪に目元は隠され、服なんかも着ていない。女体化時の葛葉とはちょっと違う、葛葉がそこにいた。
『私はあなた。あなたは私。あなたは、数多ある世界線の中で、唯一男として産まれてきた』
「唯一? 世界線?」
『元来……鬼代家は女しか産めない一族。あなたも知ってるはず』
昔、葛葉が幼少の頃。祖母が言っていた、「お前は特別だ」と。「特別だからこそ、選ぶ義務がある」と。その時の葛葉には分からなかった、今も分かることはないと思っていた。
『あなたがこの世界に招かれた理由は、ただ一つ』
「……それは、何だ……?」
『――あなた自身が、あなたを殺すこと。終わらせること』
「……自分が自分を?」
言っている意味が分からなかった。何故自分自身を殺さなくてはならないのか。何故、そんな事をしなくてはならないのか。
『迷う必要は無いはず。全ての始まりはあの時、あの瞬間から始まった』
「あ、あの時?」
『あなたが、三來を……いや、女の子を救ったあの時から、全てが始まり終わりが始まった』
途中誰かの名を呟いた『葛葉』は、言い直し確かにこの世界に来たであろう原因を指摘する。でも、葛葉が死んだことで何が始まったと言うのか?
「その全てって」
『……全ては全て。この世界も前世も、数多ある世界線が、今もこの瞬間も滅んでる』
「滅ぶ?」
『全てが始まったことで、一つの世界線で間違いが生じた。あってはならない、間違いが』
立て続けに話す要領を得ない話。でも、要領を得ていなくても……。何処かで感じてしまう。何が起こってるのか、葛葉が自分を殺さなくてはならない理由が、その理由の意味にあと少しで手が届くと言うのに。
『あなたは見たはず。聞いたはず。打つけられたはず。感じたはず。理不尽に打ちのめされるのは、もう嫌なはず』
「そ、それはどう言う……?」
羅列される言葉。その一つ一つが核心をついているかのようで……。葛葉が説明を頼むように言おうとした瞬間。何かが飛んできたのだ。完全に誰かが投擲した出あろう、その投擲物は鎖で繫がられた『葛葉』へ突き刺さった。
『……来た』
「お、おい! それ大丈夫なのか⁉︎」
『葛葉』の肩に刺さった投擲物は槍だった。いや、槍と言って良いのか、歪過ぎる槍はかなり深く刺さっている。
「それ以上、そいつの話を聞かない方がいい。殺される羽目になるぞ」
またしても後ろから掛けられる声に、葛葉が振り返るとそこには狐の仮面と黒いローブに身を包む人物だった。背丈は女体化した時の葛葉と同等だ。だが、声は雑音や機械の声が混じったような声だ。
「だ、誰にだよ……」
「……んー、主に俺だな」
そう仮面が言い手を上げると、歪な槍が『葛葉』から抜け、血を大量に撒き散らしながら仮面の元に戻ってくる。
「そいつはここで殺しとか無いと駄目なんだ。そこを退け」
「……断る。と言ったら?」
「力ずくだな」
仮面は葛葉の問いに答えを返した瞬間に、前屈みになり地面を蹴り一瞬で最速へと成る。そんな物を見れるはずがなく、葛葉は一瞬に消えたようにしか見えなかった。消えた仮面に警戒し、周囲に視界を巡らせる。
「……遅ぇな。しかも、見得てねぇのか?」
突如した声に、葛葉は腕を振るうが空振りし、またしても一瞬で視界から消えた、仮面に槍で心の臓を突き抜かれた。歪な槍は刃までもが歪で、心臓をズタズタに斬り裂かれる。
「……がっ」
「はぁ、でかい口叩く癖してこんなのか」
「がっ……ぐっ!」
ため息と共に槍を抜いた仮面は、槍に付着した血を振り落とし、槍を自由自在に振り舞う。同時にガボンと言う音と共に現れた、幾つもの巨大な木の根のような物が仮面へと襲い掛かるが、全てを切り捨て『葛葉』の元へ歩いていく。
「死ね」
たった一言言い。仮面は『葛葉』の心臓も突き刺す。鎖が光となって消え、ガタンと地面に落ちた『葛葉』は血の海の中で倒れている葛葉を眺めるのだった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
急な展開に、意味深な言葉。伏線ですかね!