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六話 美し寝顔

 肩を落とし葛葉は帰路についていた。

 あの後、眠っている律も含め全員分の採寸が終わると、好きな色や装飾等を参考にドレスを仕立て上げるとメイは言い、同時に料金と制作に掛かる日数も教えてくれた。


「四人分なんか無茶だって言ったのに……」

「彼奴の給料が一年と半年無くなると聞いた時の顔……ふっ。これ以上なく面白かったのう!」


 そう、ギルド長という役職についている人物の給料一年半が吹き飛ぶレベル。勿論葛葉には払えない。

 故にローンのように払って行くつもりだったのだが、強情な緋月は冷や汗をナイアガラの滝のように流しつつ、葛葉に笑顔を向けて「ボクが払うよ!」と言ったのだ。


「恋は盲目とはよく言ったものじゃなぁ」

「鬼丸も笑い過ぎだよ……」


 そう話しているうちに家この前までくると、葛葉は玄関前に人が居る事に気がついた。


「っ?」


 誰かと思い目を凝らし見てみれば、それは葉加瀬だった。それを見て、葛葉は少し歩く速度を上げた。

 だんだん短くなって行く間の距離、すると葉加瀬が顔を少し上げて振り返った。

 どうやら気が付いたらしい。

 葛葉が手を振ると、遠くの葉加瀬はほんの少しの躊躇いの後に小さく手を振るのだった―――。

 ―――敷地を隔てる門を通り、葛葉達は家へ帰ってきた。玄関前にいた葉加瀬も葛葉達の方へ少し寄って相対する。


「おかえり、待ってた」

「ただいまです。……あの、何かありました?」


 微笑みながら「おかえり」と言ってきた葉加瀬に、葛葉は返事をし、何用かを尋ねた。

 すると葉加瀬は、


「大事じゃない。あ、いや、一応大事か。律ちゃんの健診に来たんだ」

「あぁ、それで」


 ここに居ることと、麻の籠の中に入っている熟れた果実について、合点が言った。

 少し不安げに葉加瀬は葛葉のことを見て、


「迷惑……だったかな?」

「いえいえ、来てくれるだけでも嬉しいですよ。果物も、律のこともありがとうございます!」


 と葛葉は微笑んで返した。

 すると葉加瀬はほっと安堵の表情を浮かべ胸を撫で下ろす。良かったと、聞こえた気がしたが、葛葉は気にせず玄関の鍵を開けに行くのだった。

 その後ろでは五十鈴が葉加瀬の籠を受け取り、感謝を述べていた。


「さ、どうぞどうぞ〜」


 鍵を開けて扉を開いた葛葉が葉加瀬を先に中へ入れた。葉加瀬は葛葉へ一瞥すると、そのまま二階へ向かっていった。葛葉もその後に続いて向かい出そうとした瞬間、


「あ、五十鈴!」


 ふと思い付き葛葉は顔を振り向かせて、リビングに向かおうとする五十鈴を呼び止めた。


「はい」

「人数分、お皿用意しといて」

「かしこまりました」

「うん、ありがと」


 一礼し、五十鈴はそのままリビングへと入って行くのだった。

 そして葛葉は少し遅れて葉加瀬の後を追うのだった。


 階段を上り切り右へ身体の向きを向けると、部屋の前で立ち尽くし葛葉のことを待つ葉加瀬と目があった。

 今朝やってきた人とは偉い違いに葛葉は苦笑しか出なかった。


「先に入ってても良いんですよ?」


 立っている葉加瀬へ、「……どっかの誰かさんはそうしてましたと」も込みで葛葉が言うと、葉加瀬は苦笑いと共に言葉を返した。


「いや、流石にそれは礼節がなっていない。……それと、あの礼儀知らずな馬鹿と同じに慣れって、私に言ってるも同然だよ、それは」

「違げぇねぇ、ははは」

「……?」


 葉加瀬の言葉に笑いで返したが、葉加瀬にはどうやら伝わらず、小首を傾げられてしまい、葛葉は顔を真っ赤にするのだった。

 扉を開けて葉加瀬を中へ通す。葉加瀬は真っ直ぐと律のもとに歩み寄っては、律のことを見た。


「ふっ、気持ちよさそうに寝てますよね。私達の心配が、馬鹿みたいに思えちゃうくらい……」


 葉加瀬に椅子を用意しつつ、葉加瀬の見ている律の寝顔に対し、葛葉は抱いていた自身の思いを吐露した。


「……確かに」


 寝顔を見ていた葉加瀬は顔を縦に振り、葛葉の言葉に頷くのだった。


「じゃあ始めようか」


 葉加瀬は姿勢を正し、律の額の上に手を翳し魔法を練り始めた。

 白い光が放たれ部屋の中を明るく照らす。が決して光は強くなく、かと言って弱くもなく、心地よい値だった。

 この世界には魔法がある。そのため健診等も魔法が使われる。神聖魔法には、人の体内にある邪な物や怪我などを検知する、と言った物があるらしい。

 それを頼りに検診を行なうのだ。

 葉加瀬は今、それをしている。

 葛葉はそれをただ眺めることしか、出来なかった。

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