三話 空を舞ったパンツ
―――夕食を食べ終わった後も葛葉達は、一枚の手紙を囲み、それを眺めていた。
「……招待状、とな。ふむ、何を悩んでおるのだ?」
悩む葛葉と五十鈴に対して、鬼丸は小首を傾げながら尋ねてきた。
「悩むも何も、律のことだよ」
「あー、そうじゃったな」
悩んでいる内容を聞き、鬼丸はニ階の自室で眠っている律を思い浮かべる。
未だ目が覚める様子のない律。律を置いて王都に行くのは絶対にあってはならない。
故に葛葉達は悩んでいた。
「……ま、詳しいことは詳しく知ってる人に聞こうか」
パンっと手を合わせて葛葉は五十鈴へ目配せした。
すると五十鈴はおもむろに立ち上がり、スタスタとリビングを出て行ってしまった。
鬼丸がその一連の動きに疑問符を浮かべていると、
「―――だぁ〜‼︎ 酷いよ〜‼︎」
リビングの扉が開かれると、声がしてきた。その声はもちろん聞き覚えのある人物で。
なぜか竿を持った五十鈴がある人物を脇に抱えながら入ってきたのだ。
暴れるある人物、五十鈴が葛葉へと渡すとしゅん……と静かになった。
「お待たせしました、葛葉様」
「んや、早過ぎだね。でもいつもありがと」
渡されたある人物を膝の上に乗せ、葛葉は謙遜する五十鈴へ労いの言葉を言うのだった。
「ね、ボクは魚か何かなの?」
「まんまと引っ掛かった人が何言ってるんですか?」
そんな二人のやり取りを静観していたある人物が、不服そうな顔を浮かべ、不服そうに言葉を吐きつつ振り返った。
そんな不服そうな顔を見て、葛葉も不服そうな顔と声音で言い返した。
「仕方ないよ! 葛っちゃんの下着がヒラヒラ〜って宙を漂っていたら! 大切に保管しないとだもん‼︎」
「持ち主に返してください! もうっ、これだからこの人は……!」
ある人物、もとい変態こと―――緋月は満足げに葛葉の下着を手にしていた。
奪い返そうとするもヒョイっと交わされてしまう。
「……っ。はぁ……緋月さん。これなんですが」
イラっとくる葛葉だったがどうにか溜飲を飲み込み、招待状を手に取り緋月へと見せた。
「んあ〜届いたんだね」
緋月の反応から察するに、やはり詳しくこのことについては知っていた。
「……簡潔に言うよ。君は【英雄】だ」
それは今までも何度も言われ、これからも言われ続ける。そして、自分でも名乗っていく……いかなくちゃならない言葉。
「選ばれたんだ。世界に、ボク達に」
変わることない、変えることができない、葛葉の運命。
「拒否権はないよ。その招待状は君の明日、これからさ。明日を拒める訳無いだろう?」
酷い話だ。拒否権もない択を押し付けられるだなんて。
「責任、重大だねっ」
「はい!」
片目を閉じ笑いかけてくる緋月に、葛葉は意気のいい面で返事をした。
覚悟は出来ている【英雄】になると決めたあの日から。
救えなかった者達が見ている、憧憬に憧れている者達が見ている。自分自身が見ている。
「二週間後、君達には王都に行ってもらう。そして、君は」
【英雄】となる。緋月は最後まで口にしなかった。
しなくても葛葉には分かると、思ったのだろう。
「―――てなことで! 明日、ボクと一緒にドレスを買うために、アトリエに行こー!」
少し重苦しくなっな空気を穿つが如く緋月は元気よくそんなことを言った。
は? 拍子抜けな三人を置き去りに緋月はメジャーを取り出し、
「寝てるりっちゃんは、ボクが予め寸法しとこうか!」
そんなことまで言い出した。
葛葉がそれを聞いたコンマ数秒後、慌てて止めようと動き出したがそれよりも早く緋月は動いた。
リビングを飛び出し軽やかなステップで階段を駆け上がる、葛葉はその後を追った。
流石の緋月でも意識のない者には手を出さないだろうが、よくよく普段の行動を考えると不安しかなかった。
「何もしないでくださいよ⁉︎」
階段を駆け上がりながら叫ぶ葛葉。返事や言葉が返ってくることはなく、聞こえてきたのは部屋の扉の開閉音のみ。
急いで部屋の前まで行き、バッと中を見ると、
「……」
緋月はメジャーで律の全長と、その他足や腕、肩幅、腰周りを測っていた。
大人しく、邪な考えをせずに、粛々と。
「焦って損した……」
だが万が一もある。
葛葉は緋月の計測が終わるまで、部屋の入り口で眺めるのだった―――。
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