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一話 凄いでしょ?

 あの討伐作戦から早くも五日経っていた。

 それでもなお、律は一向に目を覚ます気配はなかった。


「うん、異常はないよ。いたって健康……」

「なのに、目を覚さないんです」


 いつも来てくれる医者の代わりに、律の身体を診に来てくれた葉加瀬はカルテを片手に、葛葉同様難しい顔を浮かべていた。


「魔力欠乏症……こんなに長い間眠るんですね」


 律が目を覚さない原因はすぐに分かっていた。

 律はあの戦いにて魔法を使った。だがその魔法の消費魔力は律の全魔力を注いだとしても賄えない規模の魔法だったのだ。

 魔力を根こそぎ奪われ、すっからかんになってしまった。それだけならばまだ、葉加瀬のように軽い症状になったが、律の場合は人の身でありながら、空気中に存在する魔力を吸い込んで使用してしまった。

 それは人体にとってとんでもない負担となる。


「……やっぱり私はどこまで行っても」


 誰かが傷付いてしまう。

 強くなった気でいたら。


「葉加瀬さんっ、緋月さんはどこに居ますか⁉︎」


 もっと強く、もっと高みを目指す、そのために葛葉は緋月に稽古を付けてもらおうと決意した。

 決意し、緋月の居場所を博士に尋ねるも、


「今、緋月は居ない。……王都に、居るよ」


 窓の外を見て、緋月のことを思い浮かべる葉加瀬。

 同様に葛葉も窓の外に目を向けて、何をしているのかさっぱり分からぬが、緋月のことを思い浮かべるのだった。




 ―――円卓の場に座す四人。

「大体は理解出来たかな、ボクの葛っちゃんの凄さ」

 一人は緋月で、他三人は、


「ああ十二分に。いやはや、会ってみたいものだ」


 優しそうな大きな老人、冒険者組合会長アストラス。


「口の聞き方がなってないぞ八重樫。アストラス様だけには敬語を使えと!」


 雑に椅子に座り、緋月の横柄な態度に叱責するのは、アストラスの会長補佐兼亜人領ギルド支部長を担う美丈夫―――エルリア・アストレアだ。

 緋月は顔を顰めてペイッペイッと、追い払うようにエルリアへ手を振った。

 その行いに対してエルリアはその美しい顔を歪めて拳を握り締め、今にも殴りかかりそうになっていた。


「ほんま仲がよろしゅうこって。妬けてまうやろ〜?」


 そんな一触即発の二人の間に入るのは、かつての邪竜騒動の際、都市一つを結界で覆い守護した極東ギルド支部長―――サワ。

 キセルから口を離しフーッと煙を上品に吐き、二人の顔を見やって微笑を湛える。

 金色の尾が揺れ、同色の狐耳がピクピクと動く。

 そんなサワに二人は顔を向けて、真顔で、


「いや、やめて?」「全くです、反吐が出そうだ」

「ふふふ、あんまり調子乗ってると、圧死させるでありんすよ〜?」


 二人の言葉に怒りのこもった笑みを浮かべる、サワ。

 三人のやり取りを見聞きしていたアストラスは咳払いをし、全員の意識を自分に向けさせた。


「とりあえず、英雄の活躍は理解した。この後、国王と話し決めようと思う。それで良いかな?」


 アストラスの結論に三人とも首を縦に振った。

 この瞬間から世界の歯車は動き出したと言える。

 救いの光か、絶望の光か。

 緋月は目を細め思い浮かべた、最愛の英雄の顔を―――。

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