二十八話
「―――葛っちゃーーーーん‼︎」
ギルドの入り口を開けると、スタンバっていたのか、緋月が走ってきては葉加瀬を背負っている葛葉へと抱き着くのだった。
姿勢が崩れそうになるものの、葛葉はどうにか安定させ緋月に顔を向けた。
「ただいま帰りました……」
「っ、お疲れ様!」
葛葉の言葉に緋月は労いで返し満面の笑みを浮かべた。
「これこれ、わしの目の前で何をしとるか貴様」
そんな葛葉と緋月に鬼丸は不機嫌そうな顔で、緋月へ詰め寄った。
緋月は嫌な顔をしつつ鬼丸に向き直ると、
「ボ・ク・のっ‼︎ 葛っちゃんと何しようがボクの勝手だろう?」
「ほぉう?」
怒筋を浮かべピクピクと口角を痙攣させる鬼丸。
緋月は勝ち誇った顔をしていたが、葛葉から見れば今にも殺されそうになってるアホにしか映らなかった。
「では、怪我人はこちらに。他の冒険者様方はごゆるりとお休みください」
そんな二人のやり取りを見ていた葛葉達へ、スミノが近寄ってきて案内をしてくれた。
葛葉達は二人のやり取りを尻目に、そそくさと案内された場所へ向かうのだった。
ベッドに葉加瀬を寝かせた葛葉は一息吐いてから、その隣のベッドの上で眠っている律へ歩み寄った。
呼吸はしている、脈もある。意識だけがないのだ。
「……律」
律の手を握り締め葛葉は名を呟く。
「葛葉様……」
そんな葛葉を部屋の入り口で見守る五十鈴。
葛葉の不安は痛いほど分かるため心配で、心がはち切れそうだった。
「―――命に別状はない、らしいけどね。いつ目覚めるか分からないって」
「……」
そんな五十鈴に緋月が言葉を発しながら近寄ってきた。
五十鈴の横に立ち、五十鈴同様葛葉のことを優しく見やる。
「……どれほどでしょうか、律様が起きるのは」
「うーん、詳しい子でも最低でも一週間は掛かるって言ってたからね〜。でも一生な訳じゃないからさ、安心してね」
葛葉ちゃんも、と聞こえないくらいの声量で言い緋月は目を細める。
緋月も心配じゃないと言えばそれは嘘になる。
だが緋月は緋月でそれどころではないのだ。
(葉加瀬……)
眠る美女の横顔を眺めながら緋月は下唇を噛み締めた。
「ボクじゃ無理だったねっ」
たはっと諦念したような、嘲笑するような微笑みを浮かべて、笑い話をするように声に出した。
腕枕をしながら緋月は来た道を傘引き返す。
違えないと約束したはずだった、が緋月はすでに察していた。
葉加瀬の心の闇は緋月のような人間には払えない。
葛葉のような選ばれた者、相手の気持ちを痛いほど理解できる、そんな者にしか、救えなかったはずだからだ。
そんなことを考えながら歩いていると、鬼丸とばったりと鉢合わせた。当然と言っちゃ当然だが。
「む、何処へ行く。二人のそばにはおらんで良いのか?」
鬼丸の問い掛けに緋月は数瞬の間を開けて答えた。
「ボクは葉加瀬の代わりに仕事をしなくちゃだからね」
作り笑いを浮かべ誤魔化し、鬼丸の脇を通ってそそくさとギルド長室に戻りに行くのだった。
そんな不審な緋月に眉根を寄せる鬼丸だっだが、ハッと息を吐き歩き始めた。
「どいつもこいつも、暗いのう……」
そう口にして鬼丸は笑みを浮かべるのだった。
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七部はこれにて!
お次は八部になります、どうぞお楽しみに!
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