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二十六話 混乱する心

 全弾命中、サラマンダーの身体が雫となって地面に消えていく。

 徐々に死が近づく恐怖は計り知れない。

 不死者であり、何度も幾重にも凄惨な死を遂げたとしても、一歩また一歩とゆっくり、着実に歩みを進めてくる死は、恐怖を超越した何か。

 ショック死してしまいそうな恐怖だろう。


「だから楽にしてあげる‼︎」


 暴れ出すサラマンダーの攻撃を避け、避け、避け続け、時に反撃する。

 時間を稼ぐ。葉加瀬の魔法で雫になるまで。

 大体、身体の三分の一が雫となって消えたサラマンダー。まだまだ時間はかかりそうだった。

 それでも、やるしかないのだ。


「んぇ⁉︎ ナニコレ?」


 と走っている時だった、目の前に突如的して現れたレーザーみたいな光線。

 それが出てきている方向に顔を向けると、それは葉加瀬の手からだった。そしてその光線の正体は無数の魔法陣だった。

 極小の無数の魔法陣が円筒状に伸びて居たのだ。

 そしてその魔法陣から繰り出されるのは今までの魔法だ。

 無数にある魔法陣から魔法が放たれた。

 円筒状であるが故に今までの比にならない弾幕が展開された。

 一発一発が同じ効果を持っているためサラマンダーの溶け行く速度は速まるのだった。


「……っ」


 その光景はまるで夢のようでいて残酷なほどに美しく、絶望的だった。

 万華鏡のような弾幕を展開する六花。

 一粒一粒が凶悪にサラマンダーを溶かして行った。


「綺麗……」


 葛葉の口から吐いて出たのはそんな一言だった。

 だがそこでハッとし、葛葉は駆け出した。

 溶けていくのを待っているだけでは駄目だと。


「っ!」


 暴れるサラマンダーの身体が、触手が、辺り一帯に所構わず破壊し尽くした。

 木々が破裂し、大地が抉れ、大気が分断される。

 一発一発が即死級の触手の攻撃を、葛葉は全て切り落とし、軌道を変えていた。

 動けぬ冒険者、負傷者、非冒険者を守るためだ。

 だが暴れる振り回される触手の速度と、守るべき対象の多さに次第に葛葉は追いつけなくなってしまった。

 息が上がり、足が重くなる。

 足の筋肉がピクピクと痙攣し、動きが若干ズレる。

 守るべき者達がいるのに、葛葉の身体は限界だと叫んでいる。


(……っ) 


 歯を食いしばり踏ん張った。


(絶対にっ‼︎ 誰一人死なせない‼︎)


 葛葉にはその義務がある。【英雄】という責任に課されたものと、葉加瀬の頑張りを無碍にしないためのもの。

 足が千切れるほどに動かす。

 歯が砕けそうなほどに噛み締める。

 そうやって、葛葉は葉加瀬と肩を並べるのだ。


「―――」


 そんな時だった、魔法を使って居た葉加瀬が膝を地に着けた。

 魔法が途切れ溶け消える速度が下がる。

 魔力が切れたのだ。

 触手を切り落とした葛葉は葉加瀬の下へ。

 この場で動け無くなって仕舞えばそれは死を意味する。葛葉は猛スピードで葉加瀬へ駆け寄り、その身を抱き抱え避難した。

 その動きがサラマンダーには消えたように映った。


「葉加瀬さんっ、どうしたんですか⁉︎」


 近場の大木の裏に隠れた二人は声を潜めて会話をするのだった。


「すまない、ガス欠……。あと少しだったのに……」


 辛そうな顔で、荒い呼吸を堪えながら葉加瀬は謝罪してきた。

 事情を聞き葛葉は考えを巡らした。どうすればいいのか、そんな時、葉加瀬が葛葉の手を握った。


「……葉加瀬、さん?」

「一つだけ、無くなった魔力を即席で補充できる方法があるんだけど……」


 その葉加瀬の言葉に葛葉は食いついた。

 その時だった。

 葛葉は左頬に手を添えられ逃げられなくされ、ムグッと唇が柔らかい物と接触した。

 柔らかい物、それは葉加瀬の唇だった。

 それを認識した時ら葛葉の頭は沸騰したが、葛葉はなされるがままに受け入れるのだった。

 受け入れていると、葉加瀬が一度唇を離した。


「急にごめん。でも、これが一番手っ取り早いから」

「……は、え、ふぁあ」


 蕩けてしまった葛葉には葉加瀬の言葉は届きそうになかった。


「……もう一回、行くね」


 が葉加瀬はお構いなしに、今度は深い方のキスをするのだった。

 魔力供給ができる唯一の方法が接吻だった。

 普通の接吻ならまぁまぁな量だが、ディープキスだとかなりの量となる。

 葛葉は赤面したまま状況の理解に努めて居たが、結局理解はできて居なかった。

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