二十三話 苦戦
―――五十鈴は見ていた、正面から。
誰を、律を。
目から血を流し、鼻からも口からも。充血した目で睨んでいる相手は当然、サラマンダーだ。
刀が陽光を反射させた、次の瞬間。
息を呑むような暴風が吹き荒んだ。大地が捲れ上がるほどの威力、五十鈴は重い盾のおかげで難を逃れ、葉加瀬もLv.8の力量でどうにか耐えていた。
鬼丸はそのまま戦いを継続し、シスターは岩陰に隠れていた。
「……っ」
縦から顔を出すとそこには、宙に滞空してる律と、何枚にもおろされたサラマンダーが居た。
たった一撃のみで、サラマンダーを殺した。
五十鈴や鬼丸が苦戦していたサラマンダーを。
「まさか」
驚きに固まっている五十鈴の後ろで、葉加瀬が声を上げた。
「レベルアップしたのか……?」
葉加瀬の言葉に弾かれるように律を見やる。
レベルアップ、ならばあの姿は、
「あれが魔法?」
レベルアップと同時に獲得できるのが魔法。
そして魔法は個人個人で変わってくる。威力も、種類も、属性も。
唖然としている五十鈴の背中がバンッと叩かれた。
振り返ると鬼丸が険しい顔をして立っていた。
「ボケっとするな。奴、魔力を根こそぎ使いおった。あのままじゃと、戦いの最中に気絶しよる」
鬼丸の目に映るのは他の者が見ている光景と、爛々と輝き揺らめく魔力だった。
「セレニィ‼︎ お主も援護せぬか!!」
「ひ、ひぃ⁉︎ わ、私は戦力外じゃないんですかぁー⁉︎」
鬼丸に声を掛けられたシスター、セレニィは涙を浮かべながら岩から身体を出し、不満を声にした。
ガタガタと震える杖に、足。身体も震えており、まさに戦力外だった。
「聖職者じゃろうがあれが使えるのであろう⁉︎」
「あ、あれ!? そ、そんなぁ……わ、私の祈りをなんだと思ってるんですかぁ⁉︎」
鬼丸の無茶振りにまたも不満を声にして言うが、鬼丸は聞く耳を持たず走り出してしまった。
「っ」
五十鈴も続けて走り出す、サラマンダーの再生は終わりかけだった。
「ど、どうなっても知りませんですからねっ⁉︎ 正義の女神よ、どうか貴方様の御力を―――『正義の三槍‼︎』」
詠唱をすると、セレニィの頭上に三つの光の槍が顕現。
セレニィが杖をサラマンダーに向けると光の槍は真っ直ぐ飛んでいった。
元来この世界では神への祈りの強さによって、聖魔法の威力が上がる。攻撃のみではなく、浄化や治癒。
聖職者は主に浄化や治癒のために祈りを捧げるが、魔獣や悪魔に強い恨みを持つ者は攻撃に用いることが多い。がその分信心深いのだ。
「五十鈴よ! 鬼化じゃ!!」
三槍がサラマンダーを貫くと同時、鬼丸は五十鈴へ合図を送った。
躊躇いもなく五十鈴はすかさず角を顕現させた。
今ここに二体の鬼が降臨した。
昂る感情を抑えつつ五十鈴はサラマンダーへ肉迫した。鬼丸も同時に肉迫する。
律も刀を構え振り上げる。
セレニィが第二射の準備を始めた時だった。
サラマンダーの身体が、否、鱗の下で何かが身体中を蠢いた。
気色の悪いその光景に一瞬全員が固まった、その時だった。サラマンダーの鱗の下から鋭く尖った身体の一部が無数に飛び出してきたのは。
「っ」
内二本が五十鈴の腕と腹を貫通。
内三本が鬼丸の太腿と首、鳩尾を貫通。
内一本が律の肺を貫通。
内五本がセレニィの横を掠って行った。
五十鈴はともかく、鬼丸と律が重傷を負ってしまった。
律の魔法が解け、鬼丸が他に膝をついた。
サラマンダーはまだ動く。
絶体絶命の状況。だがそれこそ逆転の一手だった。
なぜならば、
「淡き焔よ、身を守る灼熱の大気を纏い」
足音共に銀鈴の声が聞こえてきた。
「敵を焼き尽くす」
キーンと振り払った長剣が音を鳴らす。
「日輪の冠を!! ―――『紅焔鎧―光冠』」
冠が葛葉の頭に顕現した。
ロングソードをサラマンダーに向け、葛葉はさらに、
「『紅焔鎧―彩層』」
詠唱を続け魔法を行使。
冠の次はマントが靡いた。
ステータスの爆上。
葛葉はトントンと爪先で地面を鳴らした、次の瞬間、サラマンダーの目には葛葉が消えたように映った。
の次にやってきたのは身体が芯から軋むような鈍痛だった。
「はぁ―――ッ‼︎」
葛葉の気迫にサラマンダーは押され身体がよろめいた。それを逃しはしないと、五十鈴が盾でサラマンダーの腹部を貫いた。
ズドンッッッとサラマンダーの巨大化が地面に倒れた。葛葉は五十鈴へ目配せし、大気を蹴ってサラマンダーの首をロングソードで切り落とした。
一方で、五十鈴は地に倒れている鬼丸を抱き上げ、次に律ものとに急いだ。
サラマンダーの再生が終わる前に二人を移動させるためだった。
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