二十二話 諦めていない者
「ゆ、油断した……」
グテっと横になりつつ、葛葉は空を眺めるのだった。
そんな葛葉の下にスタッと誰かが駆け付けてきた。
サラマンダーの居る方向の地面に盾を突き刺し、姿を眩ませ急いでやってきたのは、
「葛葉様‼︎」
五十鈴だった。
「……ごめん、五十鈴。もう暫く待って……『想像』が」
痛みが強烈すぎるが為、想像が十二分に出来ない。故に、この状態はもう暫くは続いてしまう。
「……っ、首が」
五十鈴は葛葉の姿勢を楽な姿勢に変えた。
その時にチラッと見えたのが青黒く変色した首だった。
「あー、多分脊椎折れちゃってると思う……身体が動かせないから脊髄も逝ってるかも」
五十鈴の動揺に葛葉はなんてことないかのように宣った。が実際に痛みがないのだ。
怪我をしても普段から『想像』を使っていた葛葉の身体は色々とバグっていた。
傷ができた直後に傷がなかったことになる為、身体の認識と脳の認識に誤りが生じてしまう。
そうしてる内に、次第に脳は気のせいだと処理し始めたのか怪我をしても痛みが少ないことが多いのだ。
今回もその類だった。
「五十鈴、行ってお願い!」
葛葉は心配そうに見てくる五十鈴にそう言った。
「っ、ですが!」
「今、葉加瀬さんを守れるのは五十鈴だけっ。葉加瀬さんを失ったら、この戦い、私たちの負けになる!」
事実、サラマンダーは葉加瀬に狙いを定めていた。
それを鬼丸が全力で妨害することでどうにか耐えている状態だった。
五十鈴が葛葉と戦場を交互に見やった。
長い葛藤の末、五十鈴は辛そうな顔を浮かべつつ立ち上がり、盾を持って走り出した。
「ありがとう、五十鈴」
五十鈴の背を眺めながら微笑んで感謝の言葉を吐くのだった。
戦いが長くなればなるほど激化する、鬼丸が殺す度あのサラマンダーはパワーアップするがゆえに。
(とにかく葉加瀬さんに魔法を)
そうしなければ勝てない。
とそんな時だった、鬼丸の弾いた触手がクイッと狙いを定めた。葉加瀬達に。
ビュンッと音を立てて触手は迫った、五十鈴が葉加瀬の下に到着するよりも、速く。
そんな時だった、
「掛けまくも畏き、志那都比古神よ。吹き荒ぶ科戸の風よ、罪、穢れ、不浄を、風を以て禊ぎ祓うこと。罪禍の前に屈服せぬ不屈の精神、韋駄天、飛廉の如き豪速を我が卑小なる身に。白南風の梅雨明け、若葉の風運ぶ薫風、平穏の日々の風韻。我が身、我が前に、立ち塞がる愚か者に御身の神罰を。雄風の風―――『飛廉猛風―――ッ‼︎』」
長い長い詠唱の終わり、大地が揺れ、大気が薙ぎ、何か得体の知れないモノが、凄風と共に木々の間を通っていった。
木々が根こそぎ吹き上がる。森の一角を吹き飛ばしたそれが姿を現した。
飛び出して来たのは律だった。
腕の傷等で戦えるはずのない律が立っていることも驚きだったが、それを忘れまいそうな出来事もあった。
律自身の背丈よりもだいぶ巨大な、さまざまな獣が合体したような獣。
だがそれも次第にはっきりとなんなのか理解していった。風だった。
風なのだ、その獣の正体は律の纏う風だった。
雀のよう頭部に、鹿の胴体と豹の模様、蛇のような尾を持つ獣だった―――。
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