二十話 何度でも何度でも足りないくらい
―――何度目かの覚醒に、今度はなんだと思いながら葛葉は起き上がると、覚醒直後の耳に轟音が飛び込んできた。
「―――さっさと往生しろなのじゃあ‼︎」
轟音の次には鬼丸の怒号が。
金棒が振り下ろされ大地が断割し石片が宙を舞う。
金棒から手を離し、鬼丸はくるりと身体を捻らせ地面に拳を叩きつけた。
断割していた大地が粉砕され大きな石片までもが宙に舞う。それらを蹴り付けて鬼丸はサラマンダーを蜂の巣にするのだった。
だがサラマンダーは死なず即再生、無傷の状態に戻ったサラマンダーは反撃する。撓る触手が音速を越え、鬼丸に迫ったが、ドゴっと言う鈍い音に阻まれた。
「鬼丸様!」
盾で攻撃を防ぎ受け止めた五十鈴が名を叫ぶと、鬼丸は飛び五十鈴の肩に足を掛け更に飛んだ。
「弾け飛ぶが良いッ‼︎」
拳に目一杯の力を込めて鬼丸は、重力に引っ張られながら拳を突き出した。
サラマンダーの胴体が湾曲し、拳が当たった箇所を起点に波紋が広がった。
瞬間、サラマンダーの身体が弾け飛んだ。
臓腑が、血が、肉片が、骨が、周囲一帯にぶちまけられた。
「……いつ見ても戦い方野蛮だな〜」
目覚めて一番最初に見る光景ではない目の前の出来事に葛葉は苦笑しつつ、立ち上がる。
振り返り氷の中にいる葉加瀬を見やり、葛葉は呟いた。
「信じてます!」
葛葉は走り出し戦いに参戦するのだった。
葛葉が居なくなった深層心理の世界の真ん中で、幼い姿の葉加瀬はポツンと立っていた。
立ち尽くしていた。
「……」
葛葉の言葉に思うことがないと言えば嘘になる。
でもこの過去を見てなかったことにするのは出来ない。
「どうしたら、いいのかな……」
たははっと笑い葉加瀬は天を仰いだ。
吹雪は止んだ。寒さも無くなった。
なら答えは出ているだろう。
たとえそれが間違った答えだったとしても、葉加瀬には挑戦せねばならない責務がある。
使えるかどうか確信していないにも関わらずだ。
「お姉ちゃん……っ」
ブワッとやってくる寂寥感に葉加瀬は蹲った。
小さかった身体が更に小さくなる。
堪えることの出来ないほどの寂寥感。葉加瀬は泣き出してしまいそうだった。
涙なんてとうに枯れたはずだったのに、と思いつつも密かに考えは出ていた。
葛葉と共に見た過去が葉加瀬の渇ききった目に潤いを蘇らせてくれたのだ、皮肉なことにも。
「私は……っ」
ふと顔を上げた時だった目の前で微細な光粒が葉加瀬の手元に纏わりつき始めたのだ。
葉加瀬が疑問符を浮かべると、その光は葉加瀬を連れ出そうとするように引っ張り始めたのだ。
その光景に目を見張り、言葉を失い、あんぐりと口を開けて驚く葉加瀬。
たった幼少の頃の葉加瀬の手を半分ほど包むだけの量の光粒でも、はっきりと伝わってくる温もり。
これは葉加瀬の深層心理が見せているものではない。
あの人物を知ってる葉加瀬にはそう理解できた。
「っ」
引っ張られるのが嬉しくて、光があることが嬉しくて、葉加瀬の歩みは進み始めた。
(あぁ……あと、何回だってされたかった)
葉加瀬の脳裏に浮かぶのはあの日々の中で、姉が自分の手を引き共に歩く光景。
それは日常で、それが無い日なんて考えられないと思ってしまうほどだった。
イタズラに笑うあなたが恋しい、と葉加瀬は天に投げ掛けた。
その言葉に返ってきた言葉は、
『葉加瀬、お姉ちゃんと一緒に行こ!!』
「―――っ、……うんっ」
とても優しくて残酷だった。
その手の温もりに涙が溢れ、葉加瀬の涙腺が決壊した。滂沱の涙を流しながら、葉加瀬は光の向こうへ行くのだった。
次第に意識がはっきりとしていく感覚に、眩しくも無いのになぜか咄嗟に目を手で覆ってしまった。
葉加瀬は覚醒する。
背後にあった偽物の―――否、あの日に縛られている自分の雪片の氷が日々入る音を聞きながら、振り替えらず葉加瀬は歩くのだった、光に手を引かれて。
「大好きだよ、ずっとね……お姉ちゃん」
深層心理が崩れ始め、意識の覚醒が来ることを察した葉加瀬は、この世界にさよならを告げ、思いを呟いた。
たとえ幻覚の、記憶の中の姉だったとしても、きっと伝わるからだ。
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