十四話 まろやかに溶かして
「葉加瀬さん……。私、見ました、葉加瀬さんの過去を」
「―――」
周囲の音が無くなった。そんな感覚に葉加瀬は陥った。
今まで生きてきて感じたことのない衝撃を味わった。
「それと、葉加瀬さんが魔法が……使えないことを」
その魔法はきっと氷結魔法のことを指している。
まだ驚きはしている葉加瀬は、しかし冷静に葛葉の言葉を聞いた。
彼女がどんな言葉を掛けてくれるのかと。
「過去に、葉加瀬はずっと居る……んだって、私は思います。酷いかも、しれません……。でもっ」
葛葉が更に歩みを進め葉加瀬の手を取った。ぐいっと顔を近づけ、顔を赤くしながら、想いを込めた言葉を吐いた。
「明日には、今日なんかより明るい日々があるって―――」
『―――葉加瀬〜、大丈夫だよ! 明日にはね、今日なんかより明るい日々があるんだから‼︎ 文字通りねっ!』
葛葉の言葉を聞いた瞬間、脳裏に溢れてきた亡き姉の言葉。
いつも明るく、元気で笑顔だった、温かい人の言葉。
(……なぜ、忘れていたんだろう)
―――あの日々を。
(大切なはずだったのに……)
―――辛いから。
(忘れて良いわけがないのに……)
―――忘れなくては心が壊れそうだったから。
どんなに言い訳を並べようと、許してはくれない。
許してくれなかったなら、どうすればいい。
怖い。そんな思いが葉加瀬をがんじがらめにした。
「っ!!」
葉加瀬の身体から光が発せられた。
光は葉加瀬の身体を覆い、次第にそれは氷になった。
パキパキと葉加瀬の身体は氷の中に閉じ込められていって。
葛葉は咄嗟に手を伸ばした。
今なら手の届くところに居る葉加瀬を救うことができる。葉加瀬も心も救って、葛葉の此度の戦いは本当の本当に終幕となる。
「……絶対に、助けますっ!!」
光に晒された左手から腕、肩と、それから全身に淡い光が広がって行き、葛葉の身体も飲み込まれた。
痛いほど凍てつく、淡い光に―――。
―――息を吐いて、緋月は窓の外を見た。
吉報を待つのみかまこれほどにむず痒いとは知らなかった。
「ギルド長! 大変です! 副ギルド長が‼︎」
駆け込んできた男性職員の言葉にバッと身体を向け立ち上がる。そして職員の持っていた紙を手に取った。
そして紙に書かれている内容を読み、静かに緋月は窓の下へ歩いていき、窓の外を見つめた。
「……行かれますか⁉︎」
そんな緋月に男性職員は汗を滲ませながら尋ねた。
が緋月は、静かに紙を机に置き首を振った。
「……ボクじゃ無理。葛っちゃんに任せるしかない」
緋月に心を救うことは不可能。
気の利いた言葉も、相手の気持ちを慮ることも得意としていないからだ。
だから緋月は英雄にはなれない。ただ守るために戦うだけの、そんか英雄にはなれるだけだ。
(葉加瀬の心を……、太陽ならゆっくり優しく溶かしてくれるよね)
葛葉の顔を思い浮かべながら、凍てつく葉加瀬の心を救ってくれるよう願うのだった。
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