八話 鈍感系主人公ほど殺意が湧くキャラは居ない
葛葉は、スーパーハイパーウルトラ空気読める有能主人公になってもらいたいです!
「……葛葉様?」
「ん、どうかした?」
「あ、いえ……」
葛葉の様子に、纏う雰囲気に気付いた五十鈴が葛葉に声を掛けた。どこか哀愁が漂い、自分の事を達観したような目で、でもその奥には虚無があり、闇が広がっている。
荒み切った、砂漠のような葛葉の心が五十鈴には一瞬透けて見えた、気がしたのだ。
「あ、そういや……」
『……?』
ハッといつもの雰囲気に戻った葛葉が、手を叩き思い出したと言った表情を浮かべる。
そして直ぐに自分の懐を弄り、へんてこりんな物を取り出した。ように律と五十鈴には見えたろう。だが、葛葉が出したのはただの財布だ。
「よしっ!」
「あの、葛葉さん?」
「あぁめんごめんご。……五十鈴、今日は暇?」
平謝りし、財布を机に置いた葛葉は五十鈴に声を掛ける。お茶を啜っていた五十鈴は湯呑みを机に置き、はてな顔で頭を傾げる。
「暇なら、今日は五十鈴の武器を買いに行こうかと思ってるんだけど……」
「……行きますっ」
真顔で机に身を乗り出させ即断即決し、グイッと葛葉に顔を近付ける五十鈴。いつもの、感情なんて物を無くしたメイド、見たいな面影は微塵もなく……。
今目の前にいるのは、父親にプレゼント何にする? と聞かれた時の少女だ。
「よし、じゃあ朝ごはん食べたら行こっか!」
「はい!」
五十鈴は嬉しそうにしながら、乗り出して居た身体を引っ込め、コホンと咳払いをしてからお茶を啜る。
恥ずかしかったんだな、と葛葉は五十鈴を微笑ましそうに見ながら、さっきから音沙汰無い律の方を向くと……。
「な、何してんの?」
「別にです……!」
と皿に顔を半分隠させ、ジーッと見てくる律が言ってくるが、皿に隠れる意味が無い。
なんか怒ってるし……。
……あっ、そいうことか。と葛葉はアニメでよくある鈍感系主人公ムーブはせず、直ぐに律の怒っている理由に察しがついた。
「……怒ってるけど、もちろん律も一緒だからね?」
「……っ! 葛葉さんは察しがいいですね!」
「誰でも分かるでしょ、あれは」
奇抜も奇抜だろ。と内心ツッコミを入れながら、とうとう女の勘まで使えるレベルで、心も女体化したのかと危惧して居た。いや、もう順応してるし、まいっか。普通の性転換ってたら、主人公が戸惑ったりするだろうに、葛葉は一ミリも戸惑っていない。
何故だか……それは至極簡単。葛葉がTS系の漫画、アニメ、小説が好きだからだ……。
……と、ふふんと一人、誇らしげに鼻を鳴らす葛葉に、五十鈴と律が顔を見合わせるのだった――。
読んで頂き、ありがとうございます!
鈍感系主人公って殺意湧きますよね?
まぁでも、それでヒロインとかの可愛い反応見れるんでまだ良いですが。