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八話 三人寄ればなんとやら!

 だが斬られた触手は再び生え始め、無数に枝分かれして襲い掛かってきた。


「おらぁ!!」


 律の文字通り眼前まで迫った触手だったが、大剣によって切り落とされた。

 そして切り開かれた道を躊躇いなく駆けていった。


「律」

「はい!」


 隣に並んだ葛葉に声をかけられた律だったが、葛葉の横顔をみて考えを理解し、刀を投げた。

 葛葉は投げられた刀を受け取り、葛葉はナイフを投げていた。

 律はナイフを二本受け取った。

 二人は武器を入れ替え、立ち位置も入れ替わった。そして阿吽の呼吸で技を繰り出す、目の前のサラマンダーの凶悪な面貌に。

 葛葉が刀を強く握り締め、律がナイフを確かめるように握り、目をかっぴらいた。


「『天突象牙交叉(あまつぞうげこうさ)』」


 触ってから一分と満たない短時間で律は、受け取ったナイフの100パーセントを理解していた。


(でもっ!)


 理解しただけでは意味がないのだ。

 サラマンーの舌が伸びるが、葛葉はそれを避け跳躍、一気にサラマンダーの頭の直上へと飛んだ。

 律は既のところでそれを避け、そのまま真っ直ぐ進んだ。


「律、行くよ!!」


 空中で数瞬の間滞空していた葛葉は、刀に全身を預け、自由落下を利用するのだった。

 そして律は技を繰り出す。

 天を突く勢いの鋭い刺突攻撃。サラマンダーの首にナイフの()まで刺さり、律は引き裂くように交差させていた手を広げるのだった。


「っ!」


 血が溢れ、体全体に掛かる。

 その一滴一滴が高温だった。

 皮膚が焼かれるのを感じつつ、それでもなお、律は引き裂くのをやめなかった。

 すると、スパッとサラマンダーの首が切れたのだ。

 それはなぜか、律が引き裂いた下部と、葛葉が自由落下で断ち切っていた二点が繋がったからだった。


「あ!」

「わっ」


 急に姿を現し飛び込んでくる葛葉に律は驚き、咄嗟に受け止めるのだった。


「ご、ごめん律……」


 お姫様抱っこの形になる二人はなんとも言えない空気を纏った。


「い、いえ! ……これで、終わりでしょうか……?」


 首を切断され生きていける生物はまず居ない。

 どこからどう見ても終わった。

 そう思われていた時だった、サラマンダーの血が浮き上がり、首と胴を繋いだのだ。


「やっぱりダメ……‼︎」

「え!」


 驚き固まっていた律の手から降り、葛葉は顔を顰めながら重苦しく唸った。

 合計十三回目の死。だったがなおもサラマンダーは蘇生する。


「律、これ」


 立ち尽くす律に葛葉はエリクサー(完全回復薬液)を渡した。

 律の酷い火傷を治すためだ。


「ねぇ律、もしかしてだけどさ?」

「う、は、はい!」


 エリクサーを傷口に掛けていた律に、葛葉は期待を抱きながら振り向いた。


「あれ、蘇生できないくらい斬り刻めれる?」


 葛葉が指で指す物、それは他の冒険者達が戦っていた個体よりも三倍は大きいサラマンダーだ。

 はい! などと安請け合いなどできやしない。

 だがそれも昔のこと、今の自分になら。


「やってみます!」

「……うん、お願い!」


 律の言葉を聞き入れ、葛葉はそれを信じた。

 今までの律の血の滲むような努力は葛葉も知っている。

 それが無駄だとは思わない。微力でも、結果に影響するはずだがらだ。

 そして葛葉は走り出した。

 律がなんの憂いもなく刀を振れるように。

 未だサラマンダーは蘇生の真っ只中。

 蘇生を遅らせるには絶好のチャンスだった。


(律には絶対に手出しさせない‼︎)


 その決意を胸に、葛葉は加速した。

 再生されつつある首は狙わず、両前足を深く抉った。

 身体を半回転させ地面を蹴ると、今度はサラマンダーの胴を噛みちぎるように抉った。

 そのまま尻尾の方へナイフを振ると裂傷が。

 サラマンダーの身体には痛々しい傷が出来るのだった。


「一人で頑張りすぎるなよ!!」


 そんな孤軍奮闘をしていた葛葉に掛けられた声。

 葛葉がその声の方向、空へ顔を向けると、飛んでやって来たドレイク。

 彼の大剣によってサラマンダーは首と胴、そして上半身と下半身までもが真っ二つに斬られてしまった。

 すると目に見えて首の再生は遅くなったのだった。

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