六話 鍛錬の成果
―――混戦する戦場を突っ切る律。
葛葉に頼まれた冒険者はすでに後方で待機している回復術師とギルド職員達へ任せて、今は全力で葛葉の下に向かっている最中だった。
周りで戦う冒険者達も劣勢ではあるものの、立ち回りが良いため均衡は崩れず、程よい感じで戦えていた。
自分の出る幕ではないと、律は少しでも葛葉の役に立てるよう顧みなかった。
(無事でしょうか……!)
葛葉のみを案じ、足が速まる。次の瞬間だった、視界の端に影がちらつき、律へと迫ってくる物。
それは冒険者の身体だった。
吹っ飛ばされたのか放物線を描き迫って来た冒険者に、律は咄嗟に受け流していた。
「っ……一体⁉︎」
何事かとその冒険者が飛ばされて来た方を見れば、そこには均衡が崩れてしまった、戦場があった。
「……」
サラマンダーに踏みつけられ身動きを封じられた戦士、尻尾で吹っ飛ばされたのか剣士と拳闘士、睨まられて怯えてしまい動けない魔法使いと聖職者。
バランスの取れている王道パーティーがピンチに陥っていた。
「つ!!」
周りを見て、今彼ら彼女らを救うことが出来る可能性があるのは律のみ。他の人々は自身の戦いで精一杯だっだ。
葛藤はあった、葛葉の下へ向かわなくてはいけないと言うのと、葛葉ならば迷うことすらせず飛び出すだろうと言うのが。
そして律の選んだ行動は、
「今行きます!!」
後者だった。
飛んできた冒険者を優しく地面に寝かせて、刀を抜き走り出す。
五十メートルほどあった距離は一瞬にして詰まって、律の眼前にはサラマンダーが居た。
刀を横に倒しスゥーっと息を整える。
「『城崩し』」
律が刀を振るう。するとサラマンダーの四脚全てが切断された。
ずぅっとサラマンダーの本体を支えるはずの脚が斬られてしまったがため、サラマンダーは地面に崩れた。
が律は流れるように次の行動に移った。
「『崩星斬首‼︎』」
刀を上段に高く構えて、ほんの少しの溜めから見るも不可能な瞬息の一刀が放たれた。
スパンッとそんな綺麗な音がしそうなほど、美しい切り口にえっへんと胸を張っていたとき、落ちた首から上の頭が最後の足掻きと言わんばかりに舌を使った攻撃を仕掛けて来たのだ。
常人ならば反応することは不可能な超速の攻撃。そのまま律の顔に当たりそうになって―――、
「っ!」
ガァンと金属が物に当たる音が鳴り響いたのだ。
律の前には盾を構えた背中があった。
「油断……大敵ですよ」
「実は油断してません!」
少し振り向きながらそう言うがムッと律が言い返すと同時、サラマンダーの舌が何十個にも切り分けられたのだ。
律を見てみれば手は刀の中に置かれていた。
「……上達しているのですね」
「はい!」
五十鈴の言葉に感涙を覚えつつも律は返事をした、今までの日々は決して無駄じゃないと、五十鈴が言ってくれたから。
二人はそのやりとりを経て、負傷したパーティーの冒険者を集めた。
二人気絶しており、一人は苦鳴を漏らしていた。
「律様、葛葉様はどちらに?」
聖職者が手当する後ろ姿を眺めしばしの休憩をしていた二人だったが、五十鈴が律にそう尋ねると、空気が一変した。
律は眉を下げて答えた。
「分かりません。今戦っているのか、それともまだ探しているのか……」
「……」
律が共にしていたのは負傷した冒険者を後方に連れていくまでだった。
その時はまだ確実に戦闘はしていなかった。
「律様、ここは私が担います。律様は葛葉様の下へ急いで下さい」
五十鈴の指示に律は目を丸くした。がすぐに理解を示した。律は最後まで葛葉といたのだから道を知っている、知らない五十鈴が行ってもしょうがない。
それに律の方が脚が速い。
それらの理由があるのだろうと律は察した。
「……分かりました! 私は葛葉さんのところへ!」
バッと走り出した律は見る見るうちに遠くなっていった。
残された五十鈴は聖職者達によっていき、気絶した二人の冒険者を抱えて、後方に連れていくのだった。
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