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五話 つよつよ鬼王と泣き虫シスター

 葛葉達よりも遥か後方にて戦闘は始まっていた。

 『ゼノ・サラマンダー』の群れが突如横からやってきたのだ。ギルドの予測では正面から来るはずだったのにだ。


「魔法使い! とにかく魔法を打ちまくれ!!」


 最初こそ優位に立てていた冒険者達も混乱と、焦りによって劣勢となっていた。

 怪我人の続出や、連携のなっていない攻撃。囮役の魔法使い達を狙う『ゼノ・サラマンダー』を食い止めるので必死だった。


(チッ、なんじゃこの有様は)


 そんな光景を宙に浮き見ていた鬼丸。

 金棒をどっしりと構え下で呑気に大口開かないアホトカゲに自由落下していく。


(目が覚めたと思ったら喰われそうじゃったわ!)


 その時の怒りを込めた振りを真下のトカゲへと打つけた。すると風船のようにトカゲの身体が弾け飛び、血や皮膚や内臓が木々にべっとりと付着した。


「せいせいするのう!」


 怒りを打つけた鬼丸は晴々とした顔でずかずかと歩いていると、後ろからタタタと追いかけてくる影があった。


「お、鬼丸ちゃ〜ん! 置いて行かないでぇ!」


 爆散したサラマンダーの血を浴び真っ赤に染まった際どいシスター服のデカ女が鬼丸へ抱き付いた。

 終始泣いており、先ほど助けたばかりだが物凄く信頼されてしまったのだ。


「鬱陶しい、離れんか! わしは早う葛葉の下に行きたいんじゃ!」

「む、無理無理! 無理ですぅ! わ、私、クソ雑魚なんですよぉ⁉︎ あ、頭からパクって食べられちゃいますぅ!」


 鬼丸に引き剥がされそうになり、シスター服の女性は抱きつく力を強めた。


「……全くどうなっておるのじゃ。五十鈴もおらんと言うのに」


 気が付けば鬼丸ただ一人になってしまっていた。

 律は先ほど上空で怪我人を運んでいる姿を見た。

 が葛葉と五十鈴が見当たらない、探したいもののシスターが邪魔で気楽に動くこともできない。

 ないない尽くしに鬼丸の額には再び怒筋が浮き上がってくるのだった。


「おい、うぬの名は?」

「へ、あ、私ですか⁉︎」

「お主しかおらんじゃろうが!」


 抱きつくシスターを引きずって歩いていたら鬼丸が、そのシスターの名を聞くのだった。

 当たりの強い鬼丸に涙を溜めながらシスターは答えた。


「せ、セレニィ……です!」

「ほう、してうぬは何ができる?」


 名前の次は出来ること、鬼丸は大体察してはいるが一応の確認として尋ねるのだった。


「わ、私は……えと、回復魔法と浄化魔法なら!」

「……なぜ後方支援に行っとらんのじゃ」


 本来ならこんな戦闘の起こっている前線にいていい人物ではないが、鬼丸はため息をついて、仕方なくセレニィと行動を共にするのだった。


「む、……これまた面倒じゃのう」

「へ?」


 苦戦している他の冒険者達の下へと行こうとして、ガサガサと周りの茂みが蠢いた。

 すぐにその茂みからは魔物や魔獣が顔を出してきた。

 ゴブリンにコボルト、フォレストウルフなどの上位種だ。


「血に釣られて来よったようじゃなぁ」


 金棒を担ぎ上げ鬼丸はどっしりと腰を落とした。

 そしてパッと消えると、森に地響きが轟き大地がかち割れた。たった一撃で結構いた魔物と魔獣達は全滅した。

 はぇ〜と目の前の光景に唖然としていたセレニィだったが、すぐに慌てて鬼丸の下へ駆け寄った。


「す、すごい……!」


 目の前に広がる光景に息を呑むのがやっとなセレニィとは違い、鬼丸はすぐに次の戦場へと向かおうとしていた。

 が、忘れていたのかセレニィのことを見て、行こうとして出していた足を引っ込めるのだった。


「難儀じゃ……」


 不満を吐露しつつセレニィを連れて、戦場へと向かうのだった。

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