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十話 一緒に眠ろう

 組み立て作業をしていると、コンコンと控えめのノックがされた。

 葛葉は扉に目を向け背伸びをしながら返事をすると、ガチャっと扉が開けられる。


「く、葛葉さん」

「ん、律? どうしたの?」


 暗い顔で入ってきた律に多少なりとも驚きつつ、葛葉は作業を一時中断して椅子に座った。


「その、朝のことなんですが……」

「あ、あー朝のね」

「後から五十鈴さんから聞いたんですけど、寝てなかったみたいで……」


 そこまで聞いた葛葉は大体察せれた。

 ほんとにこの娘は義理堅いなーと苦笑しつつ律のことを眺めていると、


「その、五十鈴さんに……葛葉さんと一緒に寝る様言われたんですが……」


 暗いから一気に頬を赤くする律。

 徹夜だったのに無理させてすみません、と言う言葉を予想していた葛葉には青天の霹靂だった。


「一緒に⁉︎」


 そして霹靂は二度と落ちた。

 律の口にした言葉、一緒にと言う言葉に葛葉は驚いた。


「五十鈴さんが……『今日はきちんと寝てもらいたいのでお願いしますね』と」


 人差し指同士をツンツンさせ律は赤い顔を俯かせて話す。

 葛葉は「ん〜」と腕を組み悩みに悩んだ。

 緋月や鬼丸とは訳が違う。律と一緒に寝るのだ。

 別におんなじベッドに寝なくてもと思われるが、残念ながら他に寝っ転がれるような広さがないのだ、この部屋には。

 ベッドは一つ。床に寝っ転がることも可能だが、前にした時は体調を崩すと五十鈴にしかられた上、今は組み立て中のブツがある。


「一緒のベッド……」


 律と同衾。

 葛葉は「ははっ」と苦笑しカクッと肩を落とすのだった。


 ―――数時間後―――


 とうとう来てしまった就寝時間。

 パジャマ姿の葛葉と律はベッドの前に立ち尽くしていた。

 これから一緒に寝ると言うだけなのに、やけに意識してしまう。なぜなのか。

 同性同士なのだから問題はないはず。

 だが問題ないはずなのだが、あの日のことが脳裏にチラつく。

 律の一世一代の告白を。


「……と、とりあえず寝よ!」

「は、はいっ!」

(やめてー、そんな反応しないで〜‼︎)


 気を取り直し意を決した葛葉がそう口にすると、律はまるで初夜を迎える夫婦の妻のような反応をする。

 これからイケナイことでもするのかと錯覚してしまう葛葉は、頭をふってベッドの掛け布団の中に入るのだった。


「……ほら、律も」


 立ち尽くしたままの律に、掛け布団を退け空いている所をポンポンと叩く。

 律はおずおずとベッドに寝っ転がるのだった。

 掛け布団を二人は顎のすぐ下まで持ってきて仰向けになった。


「……」

「……」


 そんな二人の間にはなんとも言えぬ沈黙があった。

 まるで修学旅行で好きな人の話をしだす数秒前のようなこの空間に、葛葉は何か話そうと口を開いた。


「り―――」

「葛葉さん、これは何を作ってるんですか?」


 葛葉が話始める寸前、律がベッドの脇にバイポッドが展開され置かれている物を見ながら葛葉に訊いてきたのだ。

 葛葉は目を丸くしながらも一呼吸し答え始めた。


「それはねバレットm82対物ライフルっていう武器だよ」

「……これも、異世界の」


 律や五十鈴、鬼丸は勿論のこと、この世界の住人ほとんどが異世界というものが本当にあると知っている。

 実際、葛葉や緋月、葉加瀬などの異世界人と言う実例があるためだが。

 そして葛葉には見えないものの、律の狙撃銃を見る目は確かな恐れだった。


「異世界の武器は怖いよ。人をどれだけ殺せるか……それを追求してるからね」

「……」


 葛葉達の『世界』と律達の『世界』で決定的に違うのはそこだった。

 勿論この世界にも人を大量に殺す武器や魔法はある。が特化しているわけではない。

 だが銃というものは人を殺すのにはこれ以上ないものだ。


「私、撃ちました」


 それはあの襲撃の際に渡していたドラグノフを使ったことの話しだ。


「軽いんですね……普段はすごく重いのに」

「……もう、使いたくない?」

「……いいえ。この武器も、誰かを守りたい。だから生まれたんですよね!」


 クルッと身体を半回転させ律は葛葉と向き合った。

 先ほどまでの赤くなっていた顔は嘘のようで、今はキッとイけてる顔がそこにあった。


「う、うん、多分……そうなんじゃないかなー……?」


 その律の勢いに気圧される葛葉だったが、クスッと笑って気を取り直した。


「なら、私は誰かを守るために使います。人にも魔物にも」


 銃がどうして発明されたのか、どうして用いられたのか、見方はそれぞれ。捉え方もそれぞれ。何せ、銃を怖いと思う人間もいれば、無性にカッコいいと思ってしまう人間達もいるのだから。

 誰かを殺してやりたいという思いからか。戦争で敵軍を大量に討つためにという思いからか。それも時代と共に変化する。

 分からない。

 そらでいいのだ。

 葛葉が銃を使う理由が、目の前のくったくのない笑顔を浮かべる大切な人を守りたいから、のままならば。


「律に、あの銃を使ってもらいたいんだ」


 意を決して葛葉は律に伝えた。

 だが律は驚きも困惑もせず、待ってましたと言わんばかりの笑顔で「はい!」と元気よく返事をするのだった。


「任せて下さい‼︎」


 律の良い返事を聞き葛葉は安心して頷いた。

 が懸念はまだある。

 きちんと動作するか、初めて使うのが実践なのも。

 だが律から溢れ出してくる自信を考えれば全く、後者の方は問題なさそうに思えた。

 そして葛葉は明日のため、眠りつこうと、律と共に心地の良い眠りにつくのだった。

 その眠りにあの夢がまたやってきても、心地いいはずだと信じて。

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