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九話 トカゲちゃん

 空が茜色に染まり夜がやってくるまであと少し。

 葛葉と鬼丸の足取りは徐々に速くなっていた。


「機嫌は直ったようじゃな!」


 手を繋ぎ歩幅を合わせて歩く鬼丸が、葛葉のことを見上げてそう聞いてきた。

 つい先程まで葛葉は緋月のことで不満を口にしていたのだが、今は普段のような澄ました顔に戻っていた。


「うん。今度、緋月さんにエグい服着て貰って外で歩かせるから」

「……機嫌直っとるかの?」


 全然まだ機嫌が治っていなさそうな葛葉に、鬼丸は自然と冷や汗を流した。


「ん、なんだろ。ギルドの前に人が……」


 ギルドの入り口の隣に建てられている掲示板。普段なら人集りが出来る場所ではないのだが、今は人集りが出来ていた。


「む、クエスト(依頼書)が貼られておるな」

「んん? あ、そうだね」


 鬼丸の目でははっきりくっきり見えるクエストだが、葛葉は目を超極薄目にしなければ見えなかった。

 文字は読めなかったが通常のクエストとは様相が違っていた。


「……あ、あれって」


 人集りの中に葛葉は目を凝らさずとも見慣れた後ろ姿をみつけた。


「五十鈴だ」


 次第に大きくなっていくその後ろ姿に葛葉は確信した。

 麻の買い物カゴを持っていて、その中には今日の夕食より食材が入っている。

 そして葛葉達と五十鈴との距離が残り五メートルほどになって、葛葉は声を掛けた。


「五十鈴〜」

「っ、葛葉様?」


 葛葉の声に弾かれたように顔を上げた五十鈴の顔には冷や汗が浮かんでいた。


「五十鈴? どうしたの?」


 首を傾げ葛葉は冷や汗の理由を尋ねると、五十鈴は重苦しい顔で掲示板に顔を向けた。

 五十鈴の目線の先にあるのはクエスト。葛葉はそのクエストに書かれている内容を読んだ。


「『ゼノ・サラマンダー』討伐?」


 聞いたことのない名の魔獣に葛葉は疑問符を浮かべながらまた首を傾げた。すると、スタスタと葛葉の脇を通っていった鬼丸が首を傾げる葛葉に説明するのだった。


「サラマンダーは火の精霊じゃ。その異種、亜種とも言うのう。まぁその異種がこの地に向かってきている訳じゃ」

「へぇ……でも、なんでこんな人集りが出来てるの?」


 ゼノ・サラマンダーの説明を簡単にしてくれた鬼丸に、葛葉は次の疑問、なぜこうも人だかりが出来るのか尋ねると鬼丸は「簡単じゃ」と言い、人差し指を立てて言った。


「其奴は通常のサラマンダーと違っての、纏う炎の温度がのう、十兆なんじゃよ〜」

「はえ〜。……? ???」


 適当な返事だが鬼丸の話をちゃんと聞いていた葛葉は、鬼丸の言葉を理解しようと脳をフル稼働させたが、それでも理解出来なかった。

 十ちょう。十長? 十町? 十丁? 十帖? 葛葉の頭の中では幾億の「ちょう」という読みの漢字が浮かび上がっていた。


「……数じゃぞ、数。一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億、千億、一兆、十兆……ほれ」

「ほれじゃないよ⁉︎ 何十兆って!」


 やっと数を理解出来た葛葉は驚きに驚いた。

 かの有名なウル○ラマンに登場する宇宙恐竜ことゼットンですら一兆度だ。

 ゼットンの十倍の温度の炎を纏っている。

 その情報だけで絶望的なのだ。


「討伐出来なくない?」

「ふむ、確かにそうじゃがの、カラクリを理解すれば余裕で倒せる相手じゃよ」


 話だけ聞けば討伐することは出来ないどころか、人類―――否、ゼノ・サラマンダー以外の生命体全てが絶滅するだろう。

 地表が溶け、そのまま星の核まで融解してしまうだろう。がなっていないので、鬼丸の言うカラクリが余計気になってしまう葛葉だった。


「か、カラクリって?」

「纏う炎のことじゃ。あれは敵意を向けてくるものにしか反応はせん。敵意を抱いていなければ炎に触れても熱くも痒くもないのじゃよ」

「……敵意って、結局討伐出来ないじゃん」


 アニメや漫画で出て来る敵キャラみたいな設定に葛葉は顔を引き攣らせた。

 だが鬼丸はまだ話があるのか、チッチッチッと舌を鳴らしながら人差し指を左右に振っていた。


「この敵意というのは誤解でのう。反応するのは魔力じゃ」


 キメ顔で鬼丸は葛葉へ言った。

 敵意ではなく魔力に反応する。それを聞いた葛葉はもしやと閃いた。


「だいたい理解したようじゃな。反応する魔力、それは魔力の量によっても反応するかしないかは変わりおる。魔力量が多ければ多いほど、炎と共に奴はそっちに反応するのじゃ」


 鬼丸の説明と葛葉の頭の中に浮かんだ予想はバッチし当たっていた。


「先方も大体理解出来ておるじゃろう?」

「うん。大体は」


 葛葉の予想では魔法を得意とする『魔法使い』を囮に、魔力がミジンコ程度しかない剣士、戦士などのインファイター『剣士』『戦士』が攻撃を仕掛ける。

 だがよくよく考えれば危ないのではないかと葛葉は考えた。魔力皆無なんて人間、この世界では生まれてこないらしいので、多少なりとも魔力があってしまえば不味いのではと。


「ウヌの懸念も手に取るようにわかるのう」

「邪が安心せい、微々たる魔力には反応せん。これを理解すれば奴を倒すことができるのじゃ!」


 と自信満々に言う鬼丸だったがであれば、ここにいる殆どの人々が暗い顔をしてるわけがない。

 何か裏があるかもと思いつつも、葛葉は詮索はせず、とりあえずはその場を後にするのだった。

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